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認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)、介護費縮減効果を薬価に反映すべきか、投与患者大幅増の際にどう対応するか—中医協・薬価専門部会

2023.10.5.(木)

新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))について、年内(12月24日まで)に保険適用することが求められているが、市場規模が極めて巨大になる可能性があり、「当初の薬価を設定するにあたって、また薬価設定後の価格調整をするにあたって特別なルールを設けるべきか」を検討する必要がある—。

また、メーカーサイドは「介護費用の縮減」効果を薬価に反映することを求めているが、これをどう考えるか—。

10月4日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会・費用対効果評価専門部会で、こうした議論が始まりました。今後は両専門部会が合同でこの問題を検討していきます。

患者・国民の期待が大きく、投与患者数が想定よりも「大幅に増加する」可能性もある

9月25日に新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))が薬事承認され、遅くとも90日以内に保険適用することが求められています(12月24日までの保険適用)。

新たな認知症治療薬「レケンビ」が薬事承認され、今後、保険適用することになる(中医協総会(1)1 230927)



アルツハイマー型認知症の原因物質と考えられている脳内アミロイドβを減少する効果があり、臨床試験(本剤投与18か月時点)で▼臨床認知症尺度(CDR-SB)の悪化速度を、対照群(プラセボ群)に比べて27.1%抑制できる▼CDR-SBの悪化を、同じく約5.3か月抑制できる▼プラセボ群でのCDR-SBの悪化に至るまでの期間を約7.5か月遅延させられる—という有効性が示されました。

レケンビの有効性1(中医協・薬価専門部会1 231004)

レケンビの有効性2(中医協・薬価専門部会2 231004)



こうした点を踏まえて、米国FDAは既に本年(2023年)7月に本剤を承認しており、「年間2万6500ドル」(9月の為替レートで日本円にして年間366万円)の価格を設定。我が国において薬価を設定する際にも、一定の「高額な薬価」が設定される可能性があります(画期的な医薬品である、他の中枢神経系用薬(抗体医薬品)の薬価が比較的高額に設定されている)。



もっとも、同時に「アミロイド関連画像異常(ARIA:ARIA-E(浮腫等)、ARIA-H(微小出血等))の発現割合がプラセボ群に比べて高い」という安全性上の問題があることも確認されています。

レケンビの安全性上の問題点1(中医協・薬価専門部会3 231004)

レケンビの安全性上の問題点2(中医協・薬価専門部会4 231004)



本剤の対象となりうる患者数は542万人(アルツハイマー病による軽度認知症外(MCI):380万9000人、軽度のアルツハイマー型認知症:161万人)と推計されますが、上記の安全性上の問題に照らすと、「適切に画像診断でARIA等の重篤な副作用を確認しながら投与し、副作用が判明した時点で適切な対応が施せる医療機関」での投与可能とすることが考えられ、対象医療機関・対象患者は「相当程度限定される」と思われます。

ただし、仮に1%(5万人程度)に絞って本剤を投与することになったと仮定しても、米国と同程度の「年間366万円」となる薬価が我が国で設定された暁には、年間の医薬品市場規模は「1830億円」に膨らみ、市場拡大再算定の特例基準である「1500億円超」を突破する可能性があります。

中医協では「年間1500億円超の市場規模が見込まれる医薬品が承認された場合には、通常の薬価算定手続きに先立ち、直ちに中医協総会に報告し、当該品目の承認内容や試験成績などに留意しつつ、薬価算定方法を議論する」とのルールを設けており、レケンビについてもこの議論の対象となりました(関連記事はこちら)。

薬価専門部会でこれから「レケンビの薬価算定方法」を検討していきますが、10月4日の会合では厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官から次のような論点が示されました。

(1)本剤に関して通常の薬価算定ルール(類似薬効比較方式、原価計算方式)とは別の取り扱いを検討すべきか(新型コロナウイルス感染症治療薬のゾコーバでは「複数の類似薬」を用いるという特例ルールが設けられた、関連記事はこちらこちら

(2)投与対象患者数について「現時点では『施設を限定する』ために限定的になる」見込みだが、「今後、増加する可能性がある」点を踏まえ、薬価基準収載後の価格調整ルールも含めた特別の取り扱いを検討すべきか(ゾコーバでは「投与対象患者数を迅速の把握するためにNDB以外のデータを用いる」という特例ルールが設けられた、関連記事はこちらこちら

(3)メーカーサイドが「介護費用の縮減を薬価に反映してほしい」と要請している点をどう検討すべきか



このうち(1)に関しては、「通常のルールで当初薬価を設定すればよいのではないか」との考えが診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)や森昌平委員(日本薬剤師会副会長)、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)から示されました。ただし松本委員は「例えば類似薬効比較方式を採用する場合には『どのような根拠で設定したのか』などを合理的に説明する必要がある」と付言しています。

薬価専門部会・総会で「薬価算定方法」を決定し、それに沿って具体的な薬価案の算定は薬価専門組織で行われますが、松本委員はこの薬価算定組織に注文を付けた格好です。



一方、(2)については、「実際の投与患者数は予測しかできず、投与期間がどの程度になるのか、投与中止のタイミングをどう考えるかなどで『予想よりも増加する』ことも考えられる。今から価格調整ルールなどを検討する必要がある」(長島委員)、「投与対象は最適使用推進ガイドラインや留意事項通知等で明確化し、適切に管理することが求められる。しかし、本剤への国民・患者の期待は非常に大きく、対象となりうる患者数も極めて多いことから、実際の投与患者数が『予測よりも上振れする』可能性もある。その際の価格調整ルールを検討しておくべきであろう」(松本委員)、「対象医療機関・患者の要件を明確に設定しても、想像以上に医療機関の体制整備が早期に進み『患者数が予想よりも増加する』可能性がある。薬価収載後の価格調整ルールを別に考えておくべきである」(森委員)といった意見が出ています。

上述の通り、安全性上の問題を考慮して、▼最適使用推進ガイドラインで、例えば「投与後2か月、3か月、6か月、以降6か月に1回、MRI検査を実施しARIA発現の有無を確認できるような体制を整えた施設でのみ投与可能とする」などの縛りをかける▼保険診療の中で本剤を投与する際の留意事項通知で「最適使用推進ガイドラインを遵守する」ことを規定する—といった対応が図られる見込みですが、森委員の指摘するように「予想を超えるスピードで医療機関が体制整備を進め、結果、対象患者が増加する」ことも考えられます。また松本委員の指摘するように「患者から使用したいとの希望が殺到し、医療現場がこれに対応せざるを得ない状況が生まれる」ことも考えられます。

今後、薬価専門部会で「どういった価格調整ルールを設定すべき」を議論していくことになるでしょう。なお、ゾコーバでは「感染の急拡大→NDBで把握する前に投与患者数が爆発的に増加する」ことが考えられたため、「市場規模を迅速に把握するために、特別にNDB以外のデータを活用する」ルールが設けられましたが、本剤(レケンビ)ではこうした状況は想定しにくいでしょう。どのような特別ルールを設けるのか、今後の議論に注目する必要があります。



さらに(3)については、「薬事承認から90日以内に保険適用するというルールがあり、審議時間が非常に限られてる。その限られた時間の中で『介護費縮減の反映』という問題を十分に議論することはできない。薬価収載後の『費用対効果評価』の中で考えていくべき」との意見が長島委員や森委員から示されました。

また松本委員も「介護費縮減の効果を、医療保険財源を用いて評価することには疑問があり、90日以内に結論を出すことはできない。一方、本剤を心待ちに患者もおり、議論に時間をかけすぎることもできない。薬価収載時には介護費縮減効果は勘案せず(現行の補正加算には「介護費縮減」を評価する項目はない)、その後の費用対効果評価の中で検討を深めていくことが妥当」とコメントしています。

このため、今後、レケンビの薬価算定方式検討にあたっては薬価専門部会と費用対効果評価専門部会が合同審議を行うことが決まっています。



また、この点に関連して同日に開催された費用対効果評価専門部会では、「介護費縮減効果の薬価・材料価格への反映については研究を進めるべきである。これまでわが国では事例がなく、まず技術的な課題を整理すべき」(長島委員)、「介護費縮減効果の反映は極めて重要であり、その意味でもレケンビに注目が集まる。長期にわたって介護費の縮減効果が見られるのか追跡調査を行うことなどを研究すべきである」(診療側の池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)、「介護費縮減効果の薬価・材料価格への反映について、研究することに異論はない。ただしレケンビについて試行的な分析が仮に行われたとしても、それは個別事例にとどまり、一般ルール化には極めて慎重な議論が必要である」(松本委員)、「仮に介護費縮減効果が見られたとして、それが『個別薬剤の投与効果』なのか否かの切り分けは非常に難しいのではないか。またレケンビの投与対象である軽度認知症は、それほど介護保険サービスを利用しない」(診療側の江澤和彦委員:日本医師会常任理事)など多様な意見が出ています。

なお、「介護費縮減効果の薬価・材料価格への反映」方法の研究が進みますが、例えば「実際に介護費が縮減し、それがレケンビ投与の効果である」とのデータ提示は「企業の責任において行うべき」ものである点に留意が必要です(国が介護保険総合データベースなどを用いて「レケンビには介護費縮減効果がある」などの証明を行うことはない)。



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