認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)の薬価算定ルール議論続く、介護費縮減効果の分析には多くの課題あり—中医協
2023.10.20.(金)
新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))について、年内(12月24日まで)に保険適用することが求められているが、市場規模が極めて巨大になる可能性があるため、なんらかの「保険適用後の価格調整の仕組み」が必要と考えられる。ただし、現時点では不確定要素が多いため、保険適用後に一定の時期に「改めての検討」を行ってはどうか—。
認知症治療薬ゆえ「介護費用の縮減」効果が期待されるが、それを分析し、薬価に反映するためには技術的・学術的な課題が多数ある。研究の継続が必要ではないか—。
10月18日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会・費用対効果評価専門部会(合同部会)で、こうした議論が行われました。さらに議論が継続されます。
患者数が想定よりも増加する可能性あり、何らかの「保険適用後の薬価調整ルール」が必要
9月25日に新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))が薬事承認されました。12月24日までに保険適用されますが、市場規模が極めて巨大になる可能性があるため、「特別ルールを設けるべきか否か」という議論が中医協で進められています(関連記事はこちらとこちら)。
保険適用にあたって、(1)薬価算定時(当初の薬価設定)に特別ルールを設けるべきか(2)薬価算定に用いるデータをどう考えるか(3)薬価基準収載後の価格調整ルールも含めた特別の取り扱いを検討すべきか(4)介護費用縮減効果を薬価に反映させるべきか—という4つの論点が浮上しています。
厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、これまでの議論を踏まえて(1)(2)について次のような対応案を提示しています。この案はほぼ固まったと言えます。
(1)薬価算定時(当初の薬価設定)に特別ルールを設けるべきか
→通常どおりの算定方法(類似薬効比較方式又は原価計算方式)を薬価算定組織で判断する
(2)薬価算定に用いるデータをどう考えるか
→メーカーから提出された資料に基づき「既存のルール」に従って有用性等の評価を行う(既存の補正加算では「介護費縮減効果」を評価するものはない)
また(3)の「薬価基準収載後の価格調整ルールも含めた特別の取り扱いを検討すべきか」については、▼今後、簡便な適応・副作用等判定の件さなどが登場し、患者が想定よりも増加する可能性がある▼投与期間が長期に及ぶ可能性もある—ことから、「何らかの特別ルールが必要と考えられるが、不確定要素の多い現時点では具体的な特別ルールの検討は困難である。保険適用後の状況も見ながら、一定期間後に改めて検討してはどうか」との見解が長島公之委員(日本医師会常任理事)、森昌平委員(日本薬剤師会副会長)、松本真人委員(健康保険組合連合会理事)らから揃って出されました。今後「どの時点で再度の検討を行うべきか」などを検討していくことになります。
介護費縮減効果の分析、技術的にも学術的にも「多くの課題」がある
また(4)の介護費縮減効果の反映に関しては、保険適用(薬価基準収載)後の費用対効果評価の中で実施すべきか否かを検討することになっています。
この点については、我が国における費用対効果評価研究の第1人者である福田敬参考人(国立保健医療科学院医療保健医療経済評価研究センター長)から、▼公的分析においては、「公的介護費用」を取り扱った経験が乏しく、また現行の介護保険総合データベースからは「健康状態と介護費との関係」を把握することができないなど「技術的な課題」がある▼我が国の費用対効果評価制度では「医療費」を分析対象にしており、どこまで分析対象を広げるのか(医療的ケア児への介護費などにも広げるべきか)という「学術的な課題」がある—ことなどが報告されました。またカナダでは「医療費の分析」と「より幅広い範囲の分析」とを行う方向を模索していますが、試行では「両者の分析結果に大きな違いはない」と想定されていることも紹介されています(仮に両者に乖離がある場合には、双方の結果を用いた価格調整を検討することになる)。
こうした課題が存在する中で「介護費縮減効果をどう考えるべきか」を検討してほしいと、厚労省保険局医療課医療技術評価推進室の木下栄作室長は改めて中医協に要請。委員からは「技術的・学術的課題が多くある状況から、引き続き研究を進めていただく必要がある。介護費縮減効果の薬価等への反映については、現時点では慎重に検討するべきである」(長島委員)、「医療保険制度の中で介護費縮減を勘案するか否かという制度的問題を置いたとしても、技術的にも現状では課題が多いようだ。仮に分析を進めるとしても、体制を含めた慎重な検討が必要である」(松本委員)といった慎重意見が出されています。また池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「技術的・学術的課題が多いことは理解できた。ただし、我が国には諸外国にはない『公的介護保険』制度があり、様々なデータ収集が行われている。レカネマブの登場で介護費が縮減するのか否かは非常に重要な点であり、可能性を確認するためにも研究を継続してほしい」と要望しています。
さらに薬価専門部会・費用対効果評価専門部会で議論を重ねていきますが、「12月24日までに薬価基準収載をする」という一応の期限があり、また「両部会の意見を踏まえて中医協総会で『レカネマブの薬価算定ルール』を決定→そのルールに沿って薬価算定組織で具体的な薬価案を作成→中医協総会で薬価等を承認→保険適用」という手続きを踏まなければならないことを考慮すれば、近く大枠が決定されると考えられます。
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