医療・介護へのICT導入で「寝たきり防止→医療・介護費の縮減」効果、縮減分の一部でICT運用費を補助せよ—日慢協・橋本会長
2025.7.28.(月)
医療機関における看護補助者業務の重要性が再確認されているが、成り手が不足している。この背景には、例えば介護福祉士が「介護現場で働く」場合と、「医療機関で看護補助者として働く」場合とで、給与水準が異なる(前者の方が高い)ことがあげられる。同一職種(労働)であれば同一処遇となるような仕組みが必要である—。
日本慢性期医療協会が7月24日に定例記者会見を開き、橋本康子会長がこうした提言を行いました。また、同日の会見では日本介護医療院協会の鈴木龍太会長・猿原大和副会長から「要介護認定の問題点」に関する状況報告も行われています。
「寝たきり防止→医療・介護費縮減」のためにICTの導入補助を行うべき
医療・介護分野でもICTの導入が進んでいます。例えば医療分野では、▼患者の診療情報などを管理するための電子カルテ/オーダリングシステム/検査結果/処方データ/レセプト情報など▼スタッフ間での情報共有などのためのナースコール/PHSやスマートフォン/インカム/離床センサー/ウェアラブルデバイスなど▼病院経営を支えるための医事会計システム/シフト管理システム/人事・労務、経理・財務、物品発注など—が導入されています。
これらによって「情報の共有」が一定程度進んでいるものの、橋本会長は次のような大きな問題点があると指摘します。
▽人は減らない
→診療報酬や医療法上の「人員配置基準」があるため、人員を減らすことはできない
→実際のケアには、どうしても人手が必要である
▽現時点では、それほど効率的でない
→例えばオンライン資格確認等システムを用いて、過去の患者のレセプト情報を確認することができるが「情報量が膨大」で「整理されていない」ために、例えば「直近、どのような医薬品を他院で処方されているのか」といった情報を簡便・迅速に見つけることが難しい
→このため、現場では「診療情報提供書をFAXでやりとりする」ケースがまだまだ多い
→セキュリティ確保のため、病院の情報システムをインターネットにつなぐことや、生成AIを活用することは、現時点では難しい
→またレセプト情報の共有にはタイムラグがあるため「直近の情報、リアルタイムの情報共有」はできない(今後、電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋で迅速な情報連携が可能になると期待される、関連記事はこちら)
→さらに現時点では「医療⇔介護」間の情報連携を行うためのシステムが十分に構築されていない(今後、介護情報基盤によって医療・介護間の情報連携が進むと期待される、関連記事はこちら)
▽高額な費用がかかる
→病院において、オーダリングや電子カルテの導入費用は数千万円超(億の単位となること)となり、また月々のランニングコスト、診療報酬改定時の対応コスト、システム更新の際のコストなども莫大である
この点に関連して橋本会長は「ICT導入で人手を減らせる」という考えは誤りであると強調したうえで、▼ICTで事務作業(情報共有など)を効率化する→▼生まれた時間を看護師や介護福祉士などの専門職でなければできない直接ケア業務などに充てる→▼患者や入所者のADL等向上→▼寝たきりの防止→▼社会保障費の縮減—という流れを生むためにICT導入を医療・介護現場で進めるべきと訴えました。
日慢協では「寝たきり防止」の重要性をかねてより強調しており、橋本会長は「要介護2・3から重度化する人が現在2割弱いるが、それを「半減」することで1か月当たり100億円程度の介護費が削減でき、これを新加算の財源に充てるべき」と提言しています。
今般の考えに沿えば、ICTを用いて「寝たきり防止→社会保障費(医療・介護費)の縮減」ができるのであるから、縮減費の一部を「病院や介護施設等におけるICT導入補助」に充てることにも十分な合理性があります。橋本会長は「現在、国はICTの『導入』に関する費用の一部を補助しているが、ランニングコスト等についても適切な補助を行ってほしい」と訴えています。
介護医療院の入所者、「実際の状態」と「認定結果」にギャップあるまま死亡するケースも
「高齢者が傷病にかかって急性期病院で治療を受ける」→「急性期治療を終えた後にも医療・介護の複合ニーズを抱えているため介護医療院に入所する」等のケースがありますが、その際、「適切に要介護認定、変更認定」が行われないままに介護医療院に入所し、短期間で死亡してしまうことが指摘されています。
例えば、急性期病院に入院した際には「要介護1」であったが、急性期治療を受ける間に「ADLが悪化」してしまうことがあります。その際、要介護度の変更が行われず、「実際には要介護4・5の状態であるが、介護保険の区分上は要介護1のまま」介護医療院に入所するイメージです。
介護報酬は「要介護度」によって設定され、例えば要介護1と要介護4では、次のように大きな違いがあり、1か月(30日)当たり「13万円強」の報酬差が生じます(1単位10円の場合)。
▽機能強化型介護療養並みの人員配置等が求められる【介護医療院I型】の従来型個室(サービス費(I)の場合)
要介護1:721単位(1日、以下同じ)
要介護2:832単位
要介護3:1070単位
要介護4:1172単位
要介護5:1263単位
鈴木会長・猿原会長は「介護医療院では、入所者の実際の状態に応じて介護・ケア・日常的な医療を提供する」と強調しており、「実際には要介護4」相当の入所者が、「要介護1」として認定された場合、投下コスト(介護・ケア・日常的な医療)に照らして、得られる報酬があまりに小さくなります(上記例では入所者1人当たり13万円強の赤字となるイメージ)。
今般、介護医療院協会がこうした点について緊急アンケートを行ったところ(62施設・6243床が回答)、次のような状況が明らかになりました。
▽入所時に「認定されている要介護度」と「実際の利用者の状態」にギャップがあった入所者は65.3%(83名)
↓
▽このうち48.2%(40名)で、入所前に要介護度変更申請が行われていた
↓
▽また21.7%(18名)は、入所から30日以内に死亡退所している
入所期間が長期にわたれば、その間に「要介護認定結果の引き上げ」が行われて「実態に見合った介護報酬」請求を行えるので、上記の「ギャップによる赤字」を一定程度吸収することも可能ですが、入所から短期間で死亡退所となれば「赤字のまま」になってしまいます。
物価・人件費の急騰により介護医療院の経営も厳しく、こうした問題点への対応を検討する必要がありそうです。
なお、厚生労働省は「要介護認定に係る期間の短縮」に向けた取り組みなどを進めています(関連記事はこちら)が、より根本的な対応にも期待が集まります。
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