病院の定員1人当たり建設費は23年度から24年度にかけて7.5%増、首都圏の特養ホームでは同じく50%超の急騰―福祉医療機構
2025.7.25.(金)
病院を建設する際の「定員1人当たり建設費」は、昨年度(2024年度)には前年度から7.5%上昇し、2565万6000円となった。建設費が低下する兆しはなく、病院経営が悪化する中で、ますます「新築や大規模改築が難しくなる」と見られる—。
また特別養護老人ホームの定員1人当たり建設費を見ると、全国でも2023年度から23年度にかけて29.7%、東京などの首都圏では50%超の急騰となった—。
このような状況が、福祉医療機構(WAM)が7月22日に公表したリサーチレポート「2024年度福祉・医療施設の建設費について」から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前年度(2023年度)の記事はこちら、2022年度の記事はこちら、2021年度の記事はこちら、2020年度の記事はこちら、2019度の記事はこちら、2018年度の記事はこちら)。
こうした厳しい状況の中で2026年度診療報酬改定での対応をはじめ、どういった病院経営支援が行われるのか、注目度が増しています(関連記事はこちら)。
病院の1人当たり建設単価は2023年度から24年度にかけて7.5%の上昇
昨年度(2024年度)における病院の建設費を見てみると、全体の平米単価は全国平均で44万2000円となりました。前年度から3万1000円・7.0%も上昇しました。2021→22年度にかけていったん下落しましたが、再び「単価増」に転じ、2024年度は過去最高を更新しています(2015年度に比べて1.5倍)。

2024年度における病院の建設費平米単価
また病院の「定員1人当たり建設費」を見ると、昨年度(2024年度)は2565万6000円で、前年度に比べて178万4000円・7.5%の急増となりました。平米単価と同じく「過去最高」を更新しています。

2024年度における病院の定員1人当たり建設費
なお機構では「建設費の高騰等を理由として、事業計画を進める過程で計画を再検討・中断・断念した案件は含まれておらず、直近の見積等では『さらに高騰している可能性』を考慮する必要がある」とコメントしています。
病院の1人当たり建設費は2011年度に底(1130万8000円)を打ってから上昇傾向にあります。例えば東京五輪・パラリンピックの開催に伴う建設資材の高騰に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響(資材納期の遅延や工事の延期・中断など)、さらに現下の物価・人件費・光熱費高騰、歴史的円安などがその背景にあります。
機構では、▼建設工事費が低下に転じる兆しは見えていない▼2024年度から建設業へも働き方改革が適用され、1日当たり実質作業時間の減少→工事期間の延長→建設費の増加につながっていると考えられる▼福祉・医療業界では「施設の老朽化への対応」が喫緊の課題であるが、福祉・医療事業者経営が悪化する中では、上昇を続ける建設コストを賄うことは容易ではない—とし、「建設コストや経営環境の変化を見据えた中長期的な資金計画の策定」「行政や同種施設をはじめとする関係機関との連携の在り方」を検討することが重要とコメントしています。

建設工事費デフレーターの推移
このように、病院の新築・改築にあたっては「どのようにコストを抑えるか」という視点が必要不可欠となりますが、そこでは「適切な病床数」の設定も非常に重要な要素となってきます。病床整備が過剰になれば、「空床の発生」→「空床を埋めるための、不適切な入院の発生(在院日数延伸など)」につながり、患者のADL・QOL低下や感染リスクの上昇、医療費の上昇などを招いてしまいます。「病院の規模は適切なのか?病院の機能は適切なのか?」などを、地域の医療ニーズ(中心となるニーズが急性期から回復期・慢性期ニーズに移行していないか)、近隣病院の動向、自院のリソース(医療資源)などを正確に分析し、「自院の適正な機能と規模」を探ることも必要不可欠です。
特養ホームの定員1人当たり建築費、2023年度から24年度にかけて50%超の急騰
また特別養護老人ホーム(ユニット型)について、(1)首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)(2)全国―別に建設費を見てみると、次のような状況で。驚くほどの建設単価増となっています。
(1)首都圏
【平米単価】2010年度:21万7000円 → 2022年度:34万2000円 → 2023年度:32万6000円 → 2024年度:39万6000円(前年度から7万円・21.5%増)
【定員1人当たり建設単価】2010年度:869万8000円 →→ 2022年度:1781万9000円 → 2023年度:1377万1000円 → 2024年度:2069万5000円(同692万4000円・50.3%増)
(2)全国
【平米単価】2010年度:19万9000円 → 2022年度:32万7000円 → 2022年度:34万2000円 → 2024年度:38万7000円(前年度から4万5000円・13.2%増)
【定員1人当たり建設単価】2010年度:1003万5000円 → 2022年度:1612万1000円 → 2023年度:1508万円 → 2024年度:1955万6000円(同447万6000円・29.7%増)

2024年度におけるユニット型特養ホームの建設費平米単価

2024年度におけるユニット型特養ホームの定員1人当たり建設費
従前より「介護報酬に比べて都市部では建設費があまりに高額であり経営が難しい」と指摘されます。今後も特別養護老人ホーム等の建設費は上昇すると見られ「建て替え」や「新設」はもちろん、「維持」が難しくなる可能性もあります。一方、都市部では今後、要介護高齢者が急増すると見られ、「増大する都市部の介護ニーズにどう対応するのか」がこれまで以上に大きな問題となってきそうです。
介護分野のニーズは、ある地域では、今後も増加し続けるが、別の地域では、今後しばらくすると減少に転じるなど、非常に複雑です。地域の介護ニーズを詳しく精査した上で、施設の新設・改築計画を組んでいくことが必要です(関連記事はこちら)。
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