中山間地等では「人員配置基準緩和」等による介護サービス確保が必要だが、「質の低下、スタッフの負担増」にも留意を—社保審・介護保険部会(1)
2025.4.22.(火)
地域によって人口動態が大きく異なる中、中山間地・人口減少地域では「介護事業所の人員配置基準緩和やインセンティブ付与」などによって介護サービス提供体制を維持・確保することが必要不可欠となる。ただし、その場合「サービスの質低下」や「スタッフの負担増」につながる可能性もある点に十分留意する必要がある—。
また、少子高齢化が進む中では「介護保険制度の維持」「現役世代の負担軽減」などの視点も欠かせない—。
4月21日に開催された社会保障審議会・介護保険部会に「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」(以下、検討会)の中間とりまとめが報告され、委員間でこうした議論が行われました。今後も「地域ごとの介護サービス確保」「介護事業所の経営支援」「介護予防」などのテーマごとに介護保険部会で議論が深められます。
なお、同日には、介護情報を電子的に関係者間で共有し、効率的かつ質の高い介護サービス提供を目指す【介護情報基盤】について、「情報共有に当たっての利用者同意の在り方」も議論されており、別稿で報じます。

4月21日に開催された「第119回 社会保障審議会 介護保険部会」
中山間地域等、そもそも有資格者の確保が難しい
今年度(2025年度)までに、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達します。その後、高齢者人口そのものは大きく増えないものの(高止まりしたまま)、▼85歳以上高齢者の比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、医療・介護の複合ニーズを持つ高齢者、認知症高齢者などの比率が高まっていく)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療・介護提供体制」の構築がますます重要になってきます。
また、このような人口構造の変化は地域によって大きく異なります。中山間地域などでは「高齢者も、若者も減少していく」、大都市では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに一般市では「高齢者が今後増加するが、そう遠くない将来に減少していく」など区々です。
こうした状況下でも高齢者向けサービス等を確保できる方策を検討会で議論し、▼中山間・人口減少地域でのサービス確保に向け、人員配置基準の緩和・インセンティブの付与・新たな包括評価などを検討する▼都市部でのサービス確保に向け、ICT・AI等を活用した新たな包括サービス創設などを検討する▼介護職員等の継続的処遇改善を進める▼雇用管理等による介護人材定着に向けた取り組み(介護事業者の適切な雇用管理、介護人材の多様なキャリアモデルの見える化・キャリアアップの仕組みなど)を進める▼他事業者との協働化、事業者間の連携、大規模化を進める▼介護予防・認知症対策などを総合的に進める—方向を提言しています。
4月21日の介護保険部会では、厚生労働省老健局総務課の江口満課長から中間とりまとめ内容の報告を受け、総論的な議論を行いました。
委員の意見は多岐にわたりますが、例えば「中山間・人口減少地域でのサービス確保に向けた、人員配置基準の緩和等」に関しては、▼中山間地域等の介護事業維持・介護人材確保は、医療・介護連携と並ぶ喫緊の課題である。まず、この点を優先的に議論すべき(山田淳子委員:全国老人福祉施設協議会副会長)▼「市町村による直接のサービス提供」案も出ているが、行きつくところは「介護人材の確保」であり、市町村であっても民間事業者等であっても課題は同様である点に留意すべき(大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長・香川県高松市長、中島栄委員:全国町村会行政委員・茨城県美浦村長)▼そもそも有資格者確保が困難であり、事業者や自治体に任せるのではなく、国による十分な支援が必要である(山際淳委員:民間介護事業推進委員会代表委員)—などの考えが示されました。
また都道府県サイドからは、「都市部で一定の利益を上げている介護事業所には、中山間地でのサービス提供を一定程度義務付けるなどの方策も検討すべき」との提案も出されました。
さらに、「人員配置基準の緩和は、サービスの質の低下、スタッフの負担増につながる可能性がある」と指摘する委員も少なくありません(橋本康子委員:日本慢性期医療協会会長、石田路子委員:高齢社会をよくする女性の会副理事長・名古屋学芸大学看護学部客員教授、大西委員)。例えば基準上は「10の仕事を4名の介護スタッフで担う」ことになっているとして、これを「3人でも可とする」と緩和した場合、1人当たりスタッフの負担は単純計算で「1.3倍」に増加してしまいます。その場合「安全面などの面」で不安も生じてくるためです。
このように、単純に「人員配置を緩和すれば、少ない介護人材でもサービス提供を維持できる」わけではないことを確認できます。非常に難しいテーマであり、さらに知恵を絞る必要があります。
このほか▼介護スタッフ以外のケアマネジャー、訪問看護ステーション等の看護師の賃金アップ策も検討すべき(小林広美委員:日本介護支援専門員協会副会長、山本則子委員:日本看護協会副会長)▼2040年を考える前提として「地域包括ケアシステムの構築が、2025年時点でどうなっているのか」の検証をまずすべき(染川朗委員:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長、山際委員)▼介護事業所の経営状況の「見える化」をまず行い、競争を促していくべき(幸本智彦委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)—などの提案もなされました。
介護保険制度の維持、現役世代の負担増抑制などの視点も欠かせない
ところで、上述のように少子高齢化が進む中では「介護保険財政の逼迫」「介護保険を支える現役世代の負担増」が生じます。この点、「現役世代の負担はすでに限界を迎えている」との指摘もあり、「介護保険制度の持続性確保、現役世代の保険料負担抑制の視点も忘れてはならない。『給付と負担の見直し』論議を、これまで以上に深めるべき」と費用負担者代表の1人である伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は強調。また同じく費用負担者代表の1人である鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)も「財源・人材には限りがあることを念頭に置いて議論を進めるべき」とコメントしています。非常に重要な視点です。
介護保険部会では、今後も中間とりまとめの内容を踏まえて「地域ごとの介護サービス確保」「介護事業所の経営支援」「介護予防」などのテーマごとに議論を深めていきます。
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