介護情報を関係者間で共有し、質の高い効率的な介護サービスを実現する【介護情報基盤】を2026年4月から全国展開—社保審・介護保険部会
2024.7.8.(月)
介護情報を利用者・ケアマネ・介護事業者・市町村・医療機関で共有する【介護情報基盤】を構築し、共有された情報をもとに「より質の高い、効率的な介護サービス提供」などにつなげていく—。
こうした仕組みについて2026年4月からの全国展開を目指すが、認知機能が低下した高齢者などで「情報共有にかかる同意」をどのように取得すればよいか、システム導入や運用にかかるコストなどをどう支援していくか、重要な個人情報に関するセキュリティ対策をどう確保するか、といった課題もあり、対応策などをしっかり検討していく必要がある—。
こうした議論が7月8日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で始まりました。年内(2024年内)に意見をまとめ、それを踏まえて市町村(介護保険の保険者)のシステムを標準化も踏まえて2025年度中に改修。希望する市町村等で2025年度中に介護情報基盤の運用をはじめ、2026年4月から本格運用(全国展開)するというスケジュールが立てられています。
目次
市町村、事業所、医療機関等に散在する介護情報共有し、効率的で良質なサービス目指す
医療分野と同様に、介護分野においても「利用者の同意の下、過去の介護情報を介護事業者、市町村、ケアマネ、利用者、医療機関間で共有し、質の高い、効率的な介護サービスを提供する」ことが重視されます。例えば、要介護認定時に主治医から「●●の点に留意すべし」との意見が示されていた場合、その情報は市町村内にとどめず、ケアマネジャーにも共有することで、より安全・有効なケアプラン作成が実現できます(もちろん介護サービスにも活かされる)。また、要介護高齢者の多くは何らかの医療ニーズ(生活習慣病や整形外科疾患など)を抱えるケースが多く、ケアプラン(現在、どういった介護サービスをどの程度利用しているのか)やLIFE(利用者の状態やケア提供内容、効果などのデータ)情報を、かかりつけの医療機関に共有することでより適切な医療サービスにもつながると期待できます。
このため、政府は、新たに介護情報を多くの介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で共有する仕組み【介護情報基盤】を構築します(医療・介護・健康等の情報を一元的に管理する全国医療情報プラットフォームの1要素となる)。
これまでに健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」で、【介護情報基盤】において、「どういった情報を」「どういった関係者の間で」「どのように共有」するか、といった点が例えば次のように整理されました(中間とりまとめ、関連記事はこちら)。
【共有する情報】
▽まず(1)要介護認定情報(2)請求・給付情報(レセプト)(3)LIFEデータ(4)ケアプラン—の4情報から共有を進める
→他の情報も引き続き共有の可否などを検討していく
【情報共有の関係者・対象者】
(1)要介護認定情報
▽認定調査票:現在、市町村が作成・保有しているが、新たに「ケアマネジャー」にも共有する
▽主治医意見書:現在、主治医が作成し、市町村が保有しているが、新たに「ケアマネジャー」にも共有する
▽介護保険被保険者証(要介護度等を含む):現在、市町村が作成し、利用者、介護事業所、ケアマネジャーが共有しているが、新たに「医療機関」にも共有する
▽要介護認定申請書:現行(利用者が作成し、市町村が保有)どおり
(2)請求・給付情報(レセプト)
▽給付管理票、居宅介護支援介護給付費明細書:現行(ケアマネジャーが作成し、利用者、市町村が共有)どおり
▽介護給付費請求書、介護予防・日常生活支援総合事業費請求書、居宅サービス・地域密着型サービス給付費明細書、介護予防サービス・地域密着型介護予防サービス介護給付費明細書、介護予防・日常生活支援総合事業費明細書、施設サービス等介護給付費明細書:現行(介護事業者が作成し、利用者、市町村が共有)どおり
→当面、新たな「介護情報基盤」(新たに構築する介護情報共有の仕組み)では情報共有せず、現行どおりとする
(3)LIFEデータ
▽科学的介護推進体制加算、利用者フィードバック票:現在、介護事業者が作成し共有はなされていないが、新たに「利用者」「市町村」「他介護事業所」「ケアマネジャー」「医療機関」に共有する
(4)ケアプラン
▽現在、ケアマネジャーが作成し、利用者、介護事業者に共有しているが、新たに「市町村」「医療機関」にも共有する
利用者の同意、情報セキュリティ確保、保険証ペーパーレス化などの課題をどう考えるか
【介護情報基盤】は上述のように2026年4月からの本格運用(全国展開)が予定されていますが、「共有する内容」を固めただけでは運用できません。そこで介護保険部会では【介護情報基盤】の仕組みを構築し、運用するにあたって、例えば(1)介護情報基盤を活用した介護保険被保険者証のペーパーレス化(介護保険制度でもマイナンバーカードを保険証として活用する)(2)情報利活用にあたっての本人同意(3)情報セキュリティ対策—などの詳細を詰めていくこととなりました。
例えば、現在の紙保険証については、▼65歳に到達した際に市町村から被保険者に交付されるが、認定申請まで保険証を利用しないので紛失しやすい▼要介護状態等になった場合に利用者から市町村へ保険証を提出、認定結果とともに市町村から利用者へ返却、ケアプラン作成にあたって利用者-ケアマネ事業者間を保険証が行き来、サービス利用にあたって利用者-サービス間用者を保険証が行き来する、といった具合に煩雑な事務手続きが必要となっている—などの問題点があります。
この点、利用者の情報(介護保険の被保険者資格、要介護認定の有無、ケアプラン、レセプトなど)を【介護情報基盤】で各関係者が把握可能となれば、紙保険証をペーパーレス化し、各種の事務手続きを効率化できると考えられるのです。ただし、後述のようにペーパーレス化には課題も残されています。
また、利用者の情報(例えば要介護度、認知症など)は非常に機微性が高い個人情報であるため、そうした情報を介護関係者(ケアマネ、サービス事業所など)が利活用するために「本人の同意」が必要となります。ただし、介護保険利用者の中には認知機能が低下し「本人が適切に同意できない」ケースもあり、その場合「誰が本人に代わって同意するのか、またそれを認めるのか」という問題が出てきます。また、どの段階で同意を得るのか、都度都度同意を得るのか、などの問題も出てきます。
この点についてワーキングでは、「利用者の介護情報を共有することについて、原則として『利用者の同意』が必要となるが、そのタイミング等は次のとおりとする」との考えをまとめていますが、「さらに慎重な検討が必要」との声も少なくありません(関連記事はこちら)。
▽各介護事業所が「利用者の資格確認を行う契約時」に行う(「●●さんの介護情報を見て、うちの介護サービスに活かしたいのですが、良いですか?」と同意を得るイメージ)
▽すべての情報について一括して同意を取得する
▽原則として、当該介護事業所等を利用している期間は「同意を有効」なものとする
▽「同意の撤回」、「各情報のオプトアウト(ここでは個別に情報共有不許可)」等についても、他分野の状況も踏まえて検討する
▽同意に係る利用者への説明は各介護事業所等において実施する
▽説明にあたっては、「通常業務で用いる」こと、「介護情報の電子的な共有でメリットがある」ことも伝達する
▽本人からの同意の取得が困難な場合は、他分野での対応を踏まえつつ「同意の法的な位置づけ」などについて論点を整理した上で、引き続き検討する
▽「法定代理人が同意をする」場合を想定し、本人以外が情報共有の同意をする場合についても、なりすまし対 策等の観点からマイナンバーカードを用いる等の方法も含め対応する
また、情報セキュリティ確保の重要性は述べるまでもありません。ワーキングでは▼介護情報も医療情報と同様に、介護サービス利用者の要配慮個人情報を含む情報であることから、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガ イドラインを踏まえて取り扱う(関連記事はこちら)▼介護情報基盤を活用する介護事業所において、情報セキュリティが担保できるような手引きの作成等を検討する▼介護事業所における導入負担を考慮し、介護事業所と介護情報基盤間の情報連携はインターネット回線を用いて行う方式についても検討する—などの方針が取りまとめられていますが、「小規模事業所が多く、スタッフも高齢である介護事業所で、どのように情報セキュリティ対策を実行性あるものとして確保するか」については、さらなる検討が必要となります(関連記事はこちら)。
介護DXの推進に異論はないが、利用者・事業所・市町村支援などの課題もある
厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、こうした点についての議論を介護保険部会に要請しました。
委員の意見は、「効率的なサービス提供、質の高いサービス提供のために、介護分野でも情報化、ICT化、DXを早急に推進していくべき」という点で一致していますが、介護保険制度特有の懸念事項も少なくありません。
例えば、利用者である要介護・要支援高齢者が「情報化、ICT化に対応可能か」という問題があります。粟田主一委員(東京都健康長寿医療センター認知症未来社会創造センター センター長)は「地域で認知症を抱えながら生活を続けている要介護高齢者も少なくないが、生活上の工夫をしている。その1つとして「保険証に記載された要介護度などを自ら確認する」ことなどもあるが、ペーパーレス化でそうした工夫が難しくなる点をどう考えるかが非常に重要となろう」とコメント。江澤和彦委員(日本医師会常任理事)も「認知症高齢者への十分な配慮、対応」が極めて重要との考えを強調しています。認知症高齢者に限らず、高齢者の多くは「新たな技術等への対応」が難しくなります。「利用者を置いてけぼりにしない」ような配慮に期待が集まります。
また、利用者の個人情報保護に関連して、▼本人が認知機能低下などで同意できない場合が想定される点、都度都度の同意は現実的でない点などを細かく詰めておく必要がある(佐藤主光委員:一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)▼包括的同意については、ワーキングでも異論が数多く出ており、「同意の在り方」についてはさらに慎重な検討が必要である(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)—と角度の異なる複数意見が出ており、今後の最重要論点の1つとなりそうです。
あわせて、座小田孝安委員(民間介護事業推進委員会代表委員)や染川朗委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)らは、「昨今、サイバー攻撃による情報漏洩事案が数多く発生している」点に触れ、【介護情報基盤】における情報セキュリティ確保に万全を期す必要があると訴えています。この点、上述のように「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン遵守がベースになりますが、江澤委員は「介護事業所向けの分かりやすいガイドライン整備」なども視野に入れた対応が必要ではないかとの考えを示しています。
また、上述したように、小規模でスタッフにも高齢者が多い介護事業所やケアマネ事業所が「情報化、ICT化に対応可能か」という問題もあります。この点については、「物価・人件費の上昇が続く中で、介護事業所・ケアマネ事業所の経営は厳しさを増している。【介護情報基盤】への参加・運用について財政的・技術的・人的なサポートが不可欠である」旨が小林広美委員(日本介護支援専門員協会副会長)や東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)、橋本康子委員(日本慢性期医療協会会長)らから強く指摘されています。
さらに、市町村(保険者)でのシステム改修対応について、▼市町村(保険者)が1年半でシステム改修に対応しなければならなくなるが、間に合わないところが出てくると想定される。その場合にどう対応のかを検討しておく必要がある。さらに財政的・技術的な支援を十分に行ってもらう必要もある。また、【介護情報基盤】は市町村による地域支援事業の中で運用することとなっているが、同事業の予算には上限があり、既存の地域支援事業項目である介護予防や重度化防止に支障が出ないよう、予算引き上げなどの配慮も必要となる(大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)▼国が主導して情報化を進めるのであるから、市町村のシステム改修費については国が責任をもって予算を確保する必要がある(佐藤委員)▼マイナンバーカードを保有しない国民も25%おり、介護事業者側の体制も整っていない。慎重に進める必要がある(小泉立志委員:全国老人福祉施設協議会副会長)—などの要望が出ています。
このほか、▼情報化のメリットを、一般論ではなく、具体的に提示し、関係者の理解を得ることが何よりも重要である(佐藤委員、小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)▼「介護情報の利活用」が目的化してはいけない。あくまで効率的で質の高いサービス確保のために【介護情報基盤】を構築・運用することを関係者全員が認識する必要がある(及川ゆりこ委員:日本介護福祉士会会長)—などの指摘もなされています。
介護保険部会では、こうした論点についてさらに議論を深め「年内の意見とりまとめ」を目指します。その後、市町村(介護保険の保険者)のシステムを標準化も踏まえて2025年度中に改修。希望する市町村等で2025年度中に介護情報基盤の運用をはじめ、2026年4月から本格運用(全国展開)するというスケジュール案を古元老人保健課長は提示しています。
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