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2024年度介護報酬改定後に介護職員の給与は平均で4.6%上昇、看護師やリハ職、ケアマネ、事務職員などの給与も上昇―介護事業経営調査委員会

2025.3.19.(水)

2024年度介護報酬改定で「処遇改善に係る加算の拡充」(新たな介護職員等処遇改善加算への改組)が行われた。これにより介護職員の給与は平均で4.6%上昇したほか、看護師やリハ職、ケアマネ、事務職員などの給与も上昇しており、加算拡充の効果が伺える―。

ただし、他産業では「より高い賃上げ」も行われており、この点を十分に踏まえた施策を講じなければ「給与格差の拡大→介護人材の流出」につながってしまう点などにも留意する必要もある—。

3月18日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」で、こういった状況確認・議論が行われました。

処遇状況等調査結果の全体像(介護事業経営調査委員会1 250318)

処遇改善等加算を原資に「全職員の給与増」を行う介護事業所が8割超にのぼる

Gem Medで報じているとおり、2024年年度介護報酬改定では、これまでに設けられた3つの「介護職員等の処遇改善に向けた加算」(介護職員処遇改善加算、特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算)を一本化・充実した【介護職員等処遇改善加算】が新設されました。

【新加算I】(例えば訪問介護では加算率24.5%(現在の3加算合計22.4%よりも2.1ポイントの加算率アップ)、1か月の総請求単位数に上乗せする(以下同))
→下記の(新加算II-IV)の要件に加えて、「経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合(例えば訪問介護では介護福祉士30%以上)以上配置する」ことを求める

【新加算II】(同じく訪問介護では22.4%加算率(現在の3加算合計20.3%よりも2.1ポイントの加算率アップ))
→下記の(新加算III、IV)の要件に加えて、「改善後の賃金年額440万円以上であるスタッフが1人以上」「職場環境の更なる改善、見える化」を求める

【新加算III】(同じく訪問介護では加算率18.2%(現在の3加算合計16.1%よりも2.1ポイントの加算率アップ))
→下記の(新加算IV)の要件に加えて、「資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みの整備」を求める

【新加算IV】(同じく訪問介護では加算率14.5%(現在の3加算合計12.4%よりも2.1ポイントの加算率アップ))
→「新加算IVとして得た収益の2分の1(1か月の総請求単位数×6.2%)を月額賃金で配分する」「職場環境を改善する(職場環境等要件)」「賃金体系等の整備、研修の実施」などを求める

処遇改善加算見直し概要1(社保審・介護給付費分科会(3)3 240122)

処遇改善加算見直し概要2(社保審・介護給付費分科会(3)4 240122)



この加算見直しによって介護従事者やその他スタッフの給与がどう改善しているのかを見るために「介護従事者処遇状況等調査」が行われ、3月18日の介護事業経営調査委員会に次のような結果報告が行われました。

【加算の取得状況】
▽全体では95.5%の事業所等が新加算(介護職員等処遇改善加算)を取得しており、区分別の取得率内訳は新加算I:45.7%、新加算II:32.2%、新加算III:11.8%、新加算IV:2.6%、新加算V:3.2%
→介護レセプト(介護給付費実態統計)でも同様の状況である

▽サービス種類別に見ると、▼通所リハビリ(78.7%)▼介護医療院(91.5%)—で取得率が低い
→医療職種(看護師等)が多く在籍し、賃金バランスが崩れることを懸念して加算取得をしない事業所が多いと考えられる

▽多くのサービスでは「加算I・加算IIの取得が9割程度」だが、▼訪問看護(加算III以下が19.4%)▼通所介護(同22.4%)—では「加算I・加算IIの取得率」がやや低い

加算取得状況(介護事業経営調査委員会2 250318)



【加算を取得しない、上位加算へ移行しない理由】
▽「加算III→加算IIの移行をしない」理由としては、▼改善後の年額賃金要件(「改善後の賃金年額440万円以上となるスタッフ1人以上」の実現)を定めることで、職種間・事業所間の賃金のバランスがとれなくなる▼改善後の年額賃金要件をどう定めたらよいか分からない—などが多い

▽「加算IV→加算IIIの移行をしない」理由としては、▼昇給の仕組みを設けることにより職種間・事業所間の賃金のバランスがとれなくなる▼昇給の仕組みを設けるための事務作業が煩雑である—などが多い(とりわけ老健施設・介護医療院・通所リハビリなど医療職種が多く在籍するサービスで「賃金バランス」が上位移行のネックとなっている)

▽「加算を取得しない」理由としては、▼事務作業が煩雑▼利用者負担が発生してしまう▼要件を満たせない—などが多い
→このうち「煩雑な事務作業」としては、▼処遇改善計画書の作成▼処遇改善実績報告書の作成—などを挙げる声が多い

※事業者の状況(どの加算を取得しているかなど)により上位移行等のネックが異なるため、きめ細かな支援が求められる

事務作業が煩雑で加算が取得できないとする「事務作業」の内容(介護事業経営調査委員会3 250318)



【給与引き上げの対象者】
▽「施設・事業所の職員【全員】について給与等を引き上げる(予定含む)」事業所が58.2%を占めている

給与増引き上げの対象者(介護事業経営調査委員会4 250318)



▽看護職員、生活相談員・支援相談員への配分(=給与増に対象への組み入れ)割合が2022年度調査に比べて高くなっている
→2024年度改定で「加算を原資にした給与引き上げ対象者」の柔軟化を行った効果が現れている

加算配分をした(=給与増を行った)職員の範囲(介護事業経営調査委員会5 250318)


介護職員は平均4.6%、看護職員は2.5%、リハ職は3.3%、ケアマネは3.9%の賃上げ

【賃金改善の実施方法】
▽▼ベースアップ等による対応(59.8%、複数回答)▼定期昇給による対応(43.6%、同)—が多い(訪問介護・通所介護では若干「賞与による対応」が多くなっている)
→複数の手法を組み合わせて賃金改善(2024年度に+2.5%、2025年度に+2.0%)を実現している事業所が多い

賃金改善の実施方法況(介護事業経営調査委員会6 250318)



▽全体では「8割超」の事業所が「加算の全額を2024年度の賃金改善に充てた(充てる予定)」

加算額の「2025年度への繰り越し」状況(介護事業経営調査委員会7 250318)



【賃金改善状況】(加算取得事業所の月給・常勤職員)
(基本給)
▽介護職員:24万2680円(2023年9月、以下同)→25万3810円(2024年9月)で、1万1130円・4.6%の上昇
▽看護職員:28万3450円→29万590円で7140円・2.5%の上昇
▽生活相談員・支援相談員:26万7120円→27万7800円で1万680円・4.0%の上昇
▽リハビリ専門職(PT、OT、ST)等:27万7770円→28万6820円で9050円・3.3%の上昇
▽介護支援専門員(ケアマネジャー):27万9500円→29万340円で1万840円・3.9%の上昇
▽事務職員:23万9550円→ 24万8410円で8860円・3.7%の上昇

(給与:基本給(月額)+手当+一時金(4-9月支給金額の1分の1)
▽介護職員:32万4240円→33万8200円で1万3960円・4.3%の上昇
▽看護職員:37万5260円→38万4620円で9360円・2.5%の上昇
▽生活相談員・支援相談員:34万150円→35万3950円で1万3800円・4.1%の上昇
▽リハビリ専門職等:35万190円→36万2800円で1万2610円・3.6%の上昇
▽介護支援専門員:36万3760円→37万5410円で1万1650円・3.2%の上昇
▽事務職員:30万5960円→31万7620円で1万1660円・3.8%の上昇

(サービス種類別の介護職員給与)
▽特別養護老人ホーム:34万6970円→36万1860円で1万4890円・4.3%の上昇
▽老健施設:33万8510円→35万2900円で1万4390円・4.3%の上昇
▽介護医療院: 31万4320円→33万30円で1万5710円・5.0%の上昇
▽訪問介護:33万2810円→34万9740円で1万6930円・5.1%の上昇
▽通所介護:28万3570円→29万4440円で1万870円・3.8%の上昇
▽通所リハビリ:30万7830円→31万9310円で1万1480円・3.7%の上昇
▽特定施設入居者生活介護:34万5700円→36万1000円で1万5300円・4.4%の上昇
▽小規模多機能型居宅介護:29万4750円→30万5220円で1万470円・3.6%の上昇
▽認知症対応型共同生活介護:29万190円→30万2010円で1万1820円・4.1%の上昇

(勤続年数別の介護職員給与)
▽1年(平均年齢40.4歳):26万5970円→29万8760円で3万2790円・12.3%の上昇(入職初年は賞与が満額支払われず、ベースが低くなるため、上昇額・率が大きくなる点に留意)
▽2年(同40.5歳):29万6920円→30万9630円で1万2710円・4.3%の上昇
▽3年(同42.2歳):29万7880円→31万6080円で1万8200円・6.1%の上昇
▽4年(同42.7歳):30万8120円→32万2370円で1万4250円・4.6%の上昇
▽5-9年(同45.3歳):32万2240円→33万5640円で1万3400円・4.2%の上昇
▽10年以上(同48.9歳):34万7640円→35万9040円で1万1400円・3.3%の上昇

(保有資格別の介護職員給与)
▽保有資格あり(平均勤続9.6年):32万6670円→33万9960円で1万3290円・4.1%の上昇
▼うち介護福祉士(同10.4年):33万7160円→35万50円で1万2890円・3.8%の上昇
▼うち社会福祉士(同9.3年):37万7210円→39万7620円で2万410円・5.4%の上昇
▼うち介護支援専門員(同14.0年):37万7600円→38万8080円で1万480円・2.8%の上昇
▼うち実務者研修(同6.9年):31万3490円→32万7260円で1万3770円・4.4%の上昇
▼うち介護職員初任者研修(同8.8年):31万1290円→32万4830円で1万3540円・4.3%の上昇
▽保有資格なし(同5.8年):27万1080円→→29万620円で1万9540円・7.2%の上昇



【給与など以外の処遇改善】
▽職場環境等要件の各区分別に実施率が高いものは以下のとおり(7-8割で実施)
・入職促進に向けた取り組みでは「法人事業所の経営理念やケア方針などの明確化」
・資質向上やキャリアアップに向けた支援では「研修の受講支援等」
・両立支援・多様な働き方の推進では「有給休暇を取得しやすい環境の整備」
・腰痛を含む心身の健康管理では「事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等」
・生産性向上のための業務改善の取り組みでは「業務手順書の作成等」
・やりがい・働きがいの醸成では「職員の気づきを踏まえたケア内容等の改善」

給与増以外の処遇改善状況(介護事業経営調査委員会8 250318)



こうした状況について田辺国昭委員長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、▼上位区分の加算取得が増えている▼幅広い職種が賃金改善の対象になっている—点に注目し「2024年度介護報酬改定の効果が出ている」と高く評価。

ただし、▼職種間バランスに経営陣が気を使っている状況が伺え、今後もその状況は続くであろう▼平均給与上昇率4.3%は良い数字と思うが、他産業がこれを上回る賃上げを行っている。そこに留意しなければ給与格差は広がってしまう▼8割の事業所が加算財源をすべて2024年度の賃上げに充当しており、2025年度の賃上げが難しい状況にある。2024年度は給与増となったが、2025年度はそうでもないとなれば人材不足解消にはつながらず、今後の動きを見る必要がある—との懸念も示しています。

この「8割の事業所が加算財源をすべて2024年度の賃上げに充当しており、2025年度の賃上げが難しい状況にある」点は松本庄平委員(福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループグループリーダー)も指摘していますが、厚生労働省老健局老人保健課の堀裕行課長は「社会保障審議会・介護給付費分科会で『加算取得の弾力化』を決定しており、現在よりも上位の加算取得が期待できる(つまり更なる賃上げの原資獲得ができる介護事業所が現われると期待できる)。また2024年度補正予算による加算取得促進に向けた補助も動き出す」ことに鑑みれば、「2025年度にも賃上げの余地が一定程度ある」との考えを示しています。2025年度の処遇状況にも注目が集まります。

ほか、▼上位加算取得は社会福祉法人に多く、医療法人ではそれほどでもない。各事業所で上位加算取得に向けて努力してほしい。また加算を取得していなければ2024年度補正予算による補助対象にもならない。さらなる加算取得推進が望まれる(松本委員)▼賃上げの状況が伺え、加算が浸透してきていることを確認できる。今後、ロボットやAIなどの導入が介護現場の生産性向上に向けて重要となる。「ロボットやAIなどの導入の有無」と「処遇改善」や「人材確保効果」との関係なども今後探ってほしい(野口晴子委員:早稲田大学政治経済学術院教授)—などの意見が出ています。

調査結果は、近く開かれる介護給付費分科会に報告されます。こうした意見も参考に「今後の介護従事者等の処遇改善方策」を検討していくことになります。



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介護保険リハビリのアウトカム評価をどう考えていくか、高齢者は「リハビリ効果出にくい」点考慮を—社保審・介護給付費分科会(2)
通所サービスの介護報酬大規模減算は「事業所等の大規模化」方針に逆行、一般通所介護でも認知症対応力向上—社保審・介護給付費分科会(1)
認知症グループホームでの「医療ニーズ対応」力強化をどう図るか、定期巡回と夜間訪問との統合は2027年度目指す—社保審・介護給付費分科会
2024年度介護報酬改定論議スタート、地域包括ケアシステム深化・介護人材確保などがサービス共通の重要論点—社保審・介護給付費分科会
介護ロボット・助手等導入で「質を下げずに介護従事者の負担軽減」が可能、人員配置基準緩和は慎重に—社保審・介護給付費分科会(2)

日常診療・介護の中で「人生の最終段階に受けたい・受けたくない医療・介護」の意思決定支援進めよ!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
訪問看護の24時間対応推進には「負担軽減」策が必須!「頻回な訪問看護」提供への工夫を!—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換