要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは—中医協・介護給付費分科会の意見交換
2023.3.15.(水)
2024年度には診療報酬・介護報酬の同時改定(さらに障害福祉サービス等報酬の改定も加わり、トリプル改定となる)が行われることから、医療・介護等のいずれにもまたがる課題について解決していくことが求められます。
このため「中央社会保険医療協議会における診療報酬改定論議」と「社会保障審議会介護給付費分科会における介護報酬改定論議」を始めるまえに、両会議体の委員が「医療・介護等のいずれにもまたがる課題」を整理し、共通認識を持っておく必要があります。
3月15日には、中医協と介護給付費分科会の主要メンバーが参画する「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」が開催され、共通認識醸成論議が始まりました。診療報酬・介護報酬論議は「春から夏までの総論的な第1ラウンド」「秋以降の具体的な第2ラウンド」という形で進められますが、6年に一度の同時改定においては、言わばラウンド「ゼロ」として意見交換会が行われていると考えられるでしょう。
意見交換会は3回(3月・4月・5月)開かれる予定で、(1)地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携(2)リハビリテーション・口腔・栄養 (3)要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療(4)高齢者施設・障害者施設等における医療(5)認知症(6)人生の最終段階における医療・介護(7)訪問看護(8)薬剤管理(9)その他—の9項目を議題とします。
3月15日の第1回意見交換会では、このうち(1)(2)(3)の3項目について現状・課題・今後の検討の視点について議論を行いました。
医療・介護の複合ニーズ抱える患者が増加する中、医療・介護サービスや情報の連携を推進
まず(1)「医療・介護・障害サービスの連携」および(2)「リハビリ・口腔・栄養の一体的推進」の重要性については述べる必要もないでしょう。「より充実していく」方向で委員間の意見は一致しています。
もっとも、高齢化の進展により「医療・介護の複合的ニーズを抱える高齢者」が増加する一方で、支え手となる「現役世代」人口が急速に減少していくことが分かっています。このため「効果的で良質な医療・介護サービス」を効率的に提供していくことが強く求められています。
このためには「多職種の連携」「情報の連携」を強化していくことが不可欠です。また、「効果的な『リハビリ』を行うためには患者の『栄養状態』改善が必要不可欠であり、栄養改善のためには『口腔機能』の維持・向上が最重要要素の1つとなる」ことも従前から強く認識されています。こうした点を踏まえ、厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長は、例えば▼切れ目のない(シームレスな)医療・介護サービスの連携(とりわけ在宅・医療介護連携)を強化する▼医療情報・介護情報の連携を強化し、サービスの効果・効率性を高めるために医療DX(例えば「患者の過去の診療情報・介護情報を共有しサービスの向上を目指す」など)を推進する▼医療提供の中心となる「主治医」と、介護サービスをコーディネートする「ケアマネジャー」(介護支援専門員)との連携を強化する(もちろん、双方における情報共有が大前提となり、退院時における情報共有などがシームレスな医療・介護連携で必須となる)▼リハビリ・口腔・栄養の一体的推進をさらに強化する(日頃からの担当者連携強化、口腔うケアや栄養管理が必要な要介護高齢者のスクリーニングなど)—ことが、2024年度改定における重要視点となる考えを明らかにしました。
委員から異論は出ていませんが、例えば「情報共有を進めるための項目・様式の統一・標準化を進めるべき」「主治医・ケアマネ連携では、ケアマネ側が『主治医から医療情報を得る』だけでなく、主治医側が『ケアマネから介護・生活に関わる情報を得て、より効果的な医療提供につなげる』ことも重要である」「DXは医療分野で先行することになるが、今から『介護分野との連携』を視野にいれておくべき」などの前向きな提案が多数でています。
また、中医協・介護給付費分科会双方の委員である江澤和彦委員(日本医師会常任理事)や介護給付費分科会委員である東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「介護報酬における【リハビリテーションマネジメント加算】は、介護保険リハビリ実施において多職種がカンファレンス等で情報共有し、より質の高いリハビリを計画的に実施していくことを目指すもので、2014年度介護報酬改定での創設からノウハウ等が相当程度蓄積されてきている。リハビリ・口腔・栄養の一体的推進に向け、このカンファレンスに歯科衛生士や管理栄養士の参画を求めることなどが考えられる」と具体的な提案を行っています。今後、介護給付費分科会で議論していくことになるでしょう。
ところで、リハビリについては「急性期から回復期までは医療が担い、生活期を介護が担う」という大きな切り分けがなされていますが、「医療におけるリハビリ実施計画書が、介護分野に引き継がれるケースが少ない」ことが明らかにされました(▼介護保険のリハビリ実施者が医療における疾患別リハビリ実施計画書を入手していたのは44%の利用者に留まる▼とりわけ同一法人・関連医療機関からの紹介「以外」のケースでは、計画書入手は26.8%にとどまる▼28%の事例では介護リハビリ提供者が移行前の疾患別リハビリ分類を把握していない—)。
こうしたデータから、中医協・支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会)は「非常に驚いている。リハビリ情報提供は診療報酬で評価されている(H003-3【リハビリテーション計画提供料】(提供料1:275点、提供料2:100点))が、単純な情報提供を評価することは適切でない。情報提供の内容・効果を検証し、要件などの厳格化なども検討していく必要がある」と指摘しました。また松本委員は「さまざまな連携」について、報酬での評価にあたっては「効果に着目すべき」とも強く指摘しています。
要介護高齢者の入院は誤嚥性肺炎や尿路感染症が多いが、急性期病棟で対応すべきか
他方、高齢化が進展し「急性期病棟に高齢患者が数多く入院する」中で、例えば次のような課題が浮上してきています。とりわけ新型コロナウイルス感染症対応を行う中で、この問題が大きくクローズアップされています(関連記事はこちら)。
▽介護施設等入所者(高齢者)では「誤嚥性肺炎」や「尿路感染症」などでの急性期一般病棟入院が多い(急性期病棟に75%が入院するが、最も多いのが誤嚥性肺炎で14.2%、次に多いのが尿路感染症で5.1%)。しかし、急性期病棟に期待される医療提供内(重篤な疾患への対応が強く求められ、必ずしも介護・リハビリ体制が十分ではない)と、要介護高齢者等に求める医療内容(治療に加えて介護・リハビリ提供も必要となる)に乖離がある
▽高齢者は一般に「多疾患併存」「ADL、認知機能、視力、 聴力、排泄機能等の低下」があり、急性疾患や治療に伴う安静臥床等の影響により、これらの機能等が「容易に更なる低下」を来してしまう(つまり、短期間に「寝たきり」になりやすい、関連記事はこちら)
▽高齢入院患者では、上述したリハビリ・口腔・栄養の一体的提供がとりわけ重要になるが、急性期一般病棟でのリハビリ提供状況にはバラつきがあり、またリハビリ専門職配置は、地 域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟を有する医療機関と比べて少ない
こうした状況を改善し「高齢の急性期入院患者に、原因疾患治療はもちろん、機能維持等を目的とする介護・リハビリ提供を十分に行う」体制を構築するために、委員からは▼急性期病棟においても十分な介護・リハビリを行う▼高齢の急性期患者では、疾患の状態にもよるが「介護・リハビリ体制が整った病棟」等(例えば地域包括ケア病棟や老人保健施設の医療ショートなど)への入院・入所を促す—という2つの方策案が提示されました。
前者の「急性期病棟における介護・リハビリ対応強化」については、例えば「急性期病棟に介護福祉士やリハビリ専門職を多く配置する」ことなどが考えられるでしょう(専門職配置に対する診療報酬上の評価なども必要となる)。しかし、介護人材が不足し、介護現場でもスタッフ確保が極めて困難とされる中で、こうした取り組みを強力に推進すれば「介護福祉士などの奪い合い」が生じ、結果「医療分野、介護分野のいずれにおいても介護福祉士等の確保が困難になり、手薄な状態に陥ってしまう」危険性もあります。
そこで後者のように「地域包括ケア病棟などにおける高齢者の入院受け入れを強力に促していく」ことに注目が集まります。この点についても、▼急性期病棟での治療をより短縮し、早期に地域包括ケア病棟等への転院・転床を促す▼ダイレクトな地域包括ケア病棟への入院を促す—という2つの方策が考えられます。
2022年度診療報酬改定では、とりわけ後者に注目した見直しが行われています。支払側の松本委員は「一般病棟からの転院・転棟患者受け入れに偏らないようなルールの厳格化を行うべき」として後者の対応に力を入れるべきとの考えを示しました。
他方、円滑な救急搬送を確保するために(救急隊に「この患者は高齢者なので、急性期病院でなく、介護力の強い病院に搬送すべきか」などの考慮を求めれば、円滑搬送に支障が出かねない)、前者の「急性期病棟への入院→早期の地域包括ケア病棟等への転院・転床」の流れを強化していくべきとの指摘も、介護給付費分科会の古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)から出ています。この点については、第8次医療計画論議の中で「高機能救急から一般救急への下り搬送」推進なども指摘されており、医療計画を診療報酬でどうサポートするかという視点に立った議論が進められるでしょう。
救急医療現場の実態を詳細に見て、「いずれかに特化した対策をとる」のか「両者をセットで推進していく」のかなどを中医協で議論していくことになるでしょう。
ところで松本委員は「急性期病棟における重症度、医療・看護必要度について、B項目では状態と介助の実施だけでなく、今後は『早期離床』に関する成果・効果を評価軸に据えるべき」とも指摘しています。
次回、4月開催の意見交換会では(4)高齢者施設・障害者施設等における医療(5)認知症—の2項目を議題とする予定です。
なお、診療報酬・介護報酬改定は「様々な医療・介護施策を報酬面でサポート・推進していく」ことも重要な検討要素の1つとなります。例えば、上述のように救急に関しては 「医療計画」論議と密接に関連します。また医療DXに関しては 「電子カルテ情報交換サービスを含めた全国医療情報プラットフォーム」論議が前提となります。こうした諸施策も頭に置きながら同時改定論議を眺める必要があります。
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