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介護ロボット・助手等導入で「質を下げずに介護従事者の負担軽減」が可能、人員配置基準緩和は慎重に—社保審・介護給付費分科会(2)

2023.4.28.(金)

介護ロボットやICT機器、介護助手などの導入で「介護サービスの質を下げずに、介護従事者の負担を軽減できる」可能性が実証研究から示された—。

ただし、すぐさま「人員配置基準の緩和」につなげることには問題もあり、慎重に検討する必要がある—。

4月27日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論も行われました(同日のコロナ介護報酬臨時特例見直しに関する記事はこちら)。

介護ロボットやICT機器、介護助手など、スタッフの負担軽減効果が期待でき積極導入を

昨年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。このため介護ニーズは今後急速に増大していきます。

その後2040年度にかけては、高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。少なくなる一方の支え手(サービス提供者)で、増大する一方の高齢者(サービス利用者)を支えなければならず、「人手不足」が今以上に深刻化していきます。

このため「ロボットやICTを活用し、介護従事者の負担軽減、生産性向上を図る」ことが求められていますが、一方で「サービスの質は低下しないのか」「ロボット等導入で例えば人員配置が緩和された場合、返って1人1人の介護従事者負担が重くなったりしないのか」という不安・疑問もあります。

そこで、介護給付費分科会では昨年(2022年)7月に、「ロボットやICT導入の効果・課題」を明らかにするために(1)見守り機器等を活用した夜間見守り(2)介護ロボットの活用(3)介護助手の活用(4)介護事業者等からの提案―という4つの調査研究を行うことを決定。今般、厚生労働省老健局高齢者支援課の須藤明彦課長から調査結果が報告されました。

まず(1)では、介護保険施設(約40施設)へ「見守り機器」を導入することで、職員の夜間業務負担(身体的・精神的)がどう変わるか、入所者へのサービス・ケアの質・量がどう変化するかを調査。

見守り機器導入により▼「直接介護他+巡回・移動」時間が減少する(業務負担が軽減される可能性)▼「利用者の状況が可視化できる」、「より適切なタイミングでケアが提供できる」と考える介護スタッフが多い▼入所者のQOLが向上する—との結果が示されました。

見守り支援機器導入の効果(社保審・介護給付費分科会(2)1 230427)



また(2)は、介護保険施設・居住系サービス(約40施設)において、介護ロボット(移譲支援、排泄予測、介護業務支援)を導入することで、「スタッフの腰痛予防効果があるか」「業務の効率化が可能になるか」「利用者のケガなどが減少するか」「利用者に関する記録の正確性が向上するか」などを調べるものです。

ロボット導入により▼移乗支援ではロボット装着等のために業務時間が増えるが、スタッフの腰痛をはじめとする身体的負担が軽減できる▼排泄支援機器導入で、排泄タイミングに合わせて介助が可能になり、入所者等の皮膚トラブルが減少し、表情も豊かになる▼ICT活用による介護業務支援で、昼・夜ともに「記録・文書作成・ 連絡調整等」の業務時間が効率化でき、その時間を「入所者等のコミュニケーション」に充てられる—などの結果が示されました。

排泄支援機器導入の効果(社保審・介護給付費分科会(2)2 230427)



他方、(3)では介護保険施設等(約20施設)において、いわゆる「介護助手」を導入して「間接業務を介護助手が担い、介護福祉士などは直接業務に専念する」という役割分担を進めることにより、「サービス・ケアの質が向上するのか」「スタッフの負担軽減が図れるのか」などを検証。

▼介護助手が間接業務を担う時間が長いほど、介護職員の間接業務時間が削減する▼介護職員が利用者のケアに注力することで介護職員に余裕ができ、結果、利用者の発語量や笑顔になる頻度等が増加する▼介護助手の業務内容で最も多かったのは「食事・おやつに関連する準備・片付け」であった▼介護助手導入で、介護スタッフの1人当たり担当者数が2.49人から3.23人に増加できる—などの結果が示されています。

介護助手導入の効果1(社保審・介護給付費分科会(2)3 230427)

介護助手導入の効果2(社保審・介護給付費分科会(2)4 230427)



こうした結果を眺めると「見守り支援機器や介護ロボット、ICT機器、介護助手の導入」により、「ケアの質を下げずに(かえって向上する面もある)、介護従事者の負担を軽減させる」ことができると伺えます。分科会委員も大きな期待を寄せ、「積極的に推進していく」方向を支持する声が多数出ています。

ただし、匿名調査の中で、例えば「見守りセンサーがなった後に止める作業が増えた」「介護業務支援アプリについて、音声を文字にうまく変換できない、文章を正しく入力できない」「介護助手の希望と、施設側のニーズとの間に乖離がある」などの否定的・消極的意見も出ている点に留意すべきとの声も多数出ています。

また、必ずしも「効果が出ている」施設ばかりではない点、効果に大きなバラつきがある点から「効果等について額面通りに受け取るべきではない」との声が小林司委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)や濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らから出ています。

さらに、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)や田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)、堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)らは「調査の設計に問題がある」と指摘します。江澤委員は「介護助手については、単純に『頭数を増やせば、1人1人の負担が減る』という当たり前のことを言っているだけである。アウトカム設定などが不適切である」と、田中委員は「調査客体数が少なすぎる」と批判します。頷ける部分もあるコメントですが、「昨年(2022年)7月の調査設計の段階で指摘すべきではなかったか。結果が出てから『設計がおかしい』と指摘するのはいかがなものか」とも考えられます。



もちろん、多くの委員が「さらに適切な調査を積み重ね、ロボットやICT導入による効果」のエビデンスを構築すべきと厚労省にエールを送っています。また、機器等導入当初は「不慣れ」であるために、「効果が出ない」「かえって不便になる」ことが多々ありますが、時間とともに「効果を実感できる」ようになってくる点にも留意が必要です。

さらに、ロボット・ICT等導入推進に向けて、「コスト面(導入費・維持費)での支援が必要である」(東委員、奥塚正典委員:大分県国民健康保険団体連合会副理事長・大分県中津市長)、「機器等の『操作』支援も重要になってくる」(伊藤悦郎委員:健康保険組合連合会常務理事)などの要望も出ています。

人員配置基準緩和は慎重に検討していくべきとの意見多数

一方、「ロボットなどの導入で介護スタッフの業務負担が可能なので、その分、人員配置基準を緩和しよう」という議論に結びつけることには「慎重であるべき」との意見が圧倒的多数を占めました。上述のように「さらなる調査が必要であり、拙速な人員配置基準緩和は危険である」という考えが背景にあります。

また、小規模事業所では「人員配置基準を緩和しても効果が出にくい」という点もあります。

2021年度改定では、次のように、見守り機器などを活用した場合の人員配置基準緩和を拡充しています(関連記事はこちら)。

▽特養ホーム等の【夜勤直院配置加算】について「見守り機器導入が100%の場合には、40%の人員基準緩和を認める」(通常1名分多くの人員配置が求められるところ、0.6人分多く配置すればよい)区分を設けるなどの拡充を図る

2021年度介護報酬改定(見守り機器などを導入する特養ホームで、夜勤直院配置加算の人員配置基準をさらに緩和する)



▽特養ホームなどにおいて、全床に見守り機器を導入し、夜勤職員全員がインカムなどを使用する場合、夜間の人員配置について、通常の80%(20%緩和、例えば利用者数が26-60人の特養では夜間に2人以上のスタッフ配置が求められるが、1.6人以上で可とするなど)に緩和する

2021年度介護報酬改定(見守り機器などを導入する特養ホームで、夜間人員配置基準を緩和する)



大規模な施設等では、こうした「人員の削減」効果が現れやすい(実際に人員を減らすことができる)と言えますが、小規模で人員配置が少ない事業所では「『1人未満の人員削減』はできない。結果、従前と同様の人員配置をせざるを得ない」事態が生じやすいのです。

もっとも、「介護人材不足は深刻」で、効果的な人材確保策も見出されていません。そうした中では「人手をどうすれば薄くできるか」の選択肢に制限を設けるべきではないでしょう。ロボット・ICT技術は「人間にとって代わるもの」ではありませんが、短所にばかり目を向けるのではなく、「どうすれば使いこなせるか」「どういった場面・対象者に効果的か」などを考えながら導入し、「介護従事者の負担軽減を図っていく」ことが必要でしょう。



今後、2024年度介護報酬改定に向けた議論の中で、他の調査(2021年度前回改定の結果検証調査も含めて)も参考にしながら、「介護ロボットやICTの導入推進策」や「人員配置基準緩和の是非」などを探っていくことになります。



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