介護職員処遇改善に向けた補助金(2-9月)やベースアップ等支援加算(10月-)の効果など調査―介護事業経営調査委員会
2022.7.14.(木)
本年(2022年)2―9月を対象とする「介護職員の処遇改善に向けた補助金」、さらに同じく10月以降を対象とする新たな加算(介護職員等ベースアップ等支援加算)について、取得状況や配分方法(どの職員に、どの程度の処遇改善を行ったかなど)、処遇改善方法(基本給アップをどの程度行い、一時金アップをどの程度行ったかなど)、さらに「取得しなかった理由はなにか」などを詳しく調査する—。
7月14日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」で、こういった調査内容が固められました。近く開催される親組織「介護給付費分科会」での審議を経て、本年(2022年)12月に調査を実施。来春(2023年春)の介護給付費分科会に結果が報告され、2024年度の次期介護報酬改定論議につなげられます。
2021年12月・22年9月・同12月の3時点の給与等を把握し、補助金等の効果を測定
昨年(2021年)11月19日に閣議決定された新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」、12月20日に成立した2021年度補正予算を踏まえ、介護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%程度(月額9000円)引き上げるための措置(補助金交付)が今年2月(2022年2月)から9月まで実施」されています(関連記事はこちら)。
あわせて12月22日の後藤茂之厚生労働大臣・鈴木俊一財務大臣合意で「10月以降は介護報酬で同様の処遇改善(介護職員の収入を3%程度改善できる処遇改善)を行う」方針が決定され、介護給付費分科会で「補助金を引き継ぐ、新加算【介護職員等ベースアップ等支援加算】が創設されています(関連記事はこちら)。
7月14日に開催された介護事業経営調査委員会では、2022年度の「介護従事者処遇状況等調査」の中で、これら「補助金」と「ベースアップ等支援加算」の取得状況などを詳しく調査することを決定しました。
介護従事者処遇状況等調査は、「介護従事者の処遇がどのように改善されているのか、加算(介護職員処遇改善加算、特定処遇改善加算)の取得状況はどうなのか、加算を取得しない事業所等は何をハードルに感じているのか」などを詳しく調べるもので、▼介護報酬改定年度に実施する定期調査▼改定年度以外の臨時調査—の大きく2種類があります。処遇改善に向けた仕組み(加算など)の効果を検証し、「改善の必要はないか」を議論する際の重要な基礎資料となります。
今回の2022年度調査は、後者の「臨時調査」に該当し、「補助金」と「ベースアップ等支援加算」の取得状況などを把握することを主な目的として、次のような仕組みで行われます。
(1)調査対象
▽介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院、訪問介護事業所、通所介護事業所(地域密着型含む)、通所リハビリテーション事業所、特定施設入居者生活介護事業所、小規模多機能型居宅介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所
▽当該施設・事業所に在籍する介護従事者等—
→補助金・ベースアップ等支援加算の対象とならない「ケアマネ事業所」(居宅介護支援事業所)は除外する
(2)調査項目
▽施設・事業所調査
▼新型コロナウイルス感染症の影響(関連記事はこちら)
▼給与等の状況
▼介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算の届け出状況(今回は補助金・ベースアップ等支援加算をメインターゲットに据えるため、処遇改善加算・特定処遇改善加算については「届け出状況」のみを調査)
▼介護職員処遇改善支援補助金・介護職員等ベースアップ等支援加算の届け出状況等(届け出をしているか、配分の対象職種、賃金改善の方法(ベースアップのみ?ベースアップ+一時金等?)、ベースアップの方法(賃金テーブルの見直し?定期昇給など)、処遇改善を行ったスタッフの割合、ベースアップ以外の賃金改善方法、届け出をしなかった理由)
など
▽従事者調査(事業所・施設が職員の中から抽出して調査対象とする)
▼性別
▼年齢
▼職種(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
▼勤務形態(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
▼労働時間(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
▼資格(介護福祉士など)の取得状況(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
▼基本給の額(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
▼手当の額(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
▼一時金の額(2021年12月、2022年9月、2022年12月の3時点)
など
▼補助金の導入前の給与等(2021年12月時点)→▼補助金導入後の給与等(2022年9月時点)→▼ベースアップ等支援加算導入後の給与等(2022年12月)—を把握し、それぞれを比較することで「補助金の効果」「ベースアップ等支援加算の効果」を把握することが可能となります。
ただし、この3時点に当該施設・事業所に在籍していた介護職員等が調査対象となるため、野口晴子委員(早稲田大学政治経済学術院教授)や堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)は「結果の上振れ(長期在籍職員のみが抽出され、給与水準などが実際よりも高く見えてしまう)などが生じる可能性もある」ことを指摘。事業所による従事者選択時にバイアスができるだけ生じないような工夫、結果解釈時の留意などを厚生労働省に求めています。
また、補助金については「全体の3分の2以上をベースアップに充てる」ことが求められていますが、2月・3月時点では「給与規定の見直しが間に合わない」事業所・施設が出ることを踏まえ、厚労省は「2月・3月分の賃金改善を一時金で行うとしても、一定の要件を満たせば、その一部を『ベースアップによる賃金改善』と見做す」などの特例も設けています(関連記事はこちら)。こうした特例の状況も把握するため「全体の給与アップ」にとどまらず、「基本給のアップ」「一時金のアップ」のそれぞれも併せて把握します。結果解析時に詳細な分析が行われることでしょう。
ところで、事業所や施設の中には「処遇改善に向けた補助金・ベースアップ等支援加算を取得しない」ところも出てきます。当然、スタッフの給与アップなどが行われませんので、こうした事業所・施設が多ければ「処遇改善による人材確保・人材定着」という目的が達成されなくなってしまいます。
そこで、「処遇改善に向けた補助金・ベースアップ等支援加算を取得しない」事業所・施設には、上述の事業所・施設調査にあるように「なぜ取得しないのか」を詳しく調べることになります。
例えば、「スタッフ間の賃金バランスが崩れる」(ある職種の給与のみを上げれば、他職種とのバランスが崩れる。これを改善するための「自前の財源確保」が難しい場合には、補助金・加算を取得しないという選択肢がありうる)という意見が多い場合には「対象職種を拡大すべきではないか」という議論が行われることになるでしょう。また「事務手続きが煩雑である」という意見が多い場合には、「事務の簡素化」や「手続きの支援策」を考えていくことになるでしょう。
今回の調査では、▼賃金改善の仕組みをどのようにして定め たらよいかわからない▼賃金改善の仕組みを設けるための事務作 業が煩雑である▼賃金改善の仕組みを設けることにより、賃金管理を行うことが今後難しくなる▼職種間の賃金のバランスがとれなくなる▼事業所間の賃金のバランスがとれなくなる▼法人・施設・事業所内で合意形成することが難しい▼賃金改善の必要性がない▼3分の2以上をベースアップ等に充てることが困難▼コロナ感染症の影響—などの選択肢が並んでいますが、泉千夏委員(EY新日本有限責任監査法人FAAS事業部シニアマネージャー)は「回答内容の統一・標準化が図られるよう、記載要領(回答のガイドライン)の中で解説を少し詳しく行うべき」との考えを述べています。
こうした建設的な提案こそあるものの、調査内容に異論は出ていません(了承された)。今後、田中滋委員長(埼玉県立大学理事長)が近く開かれる親会議「介護給付費分科会」に調査内容を報告。そこでの議論を経て、▼本年(2022年)12月に調査実施→▼来春(2023年春)の介護給付費分科会に結果報告→▼2024年度の次期介護報酬改定に向けた論議を行う—という流れとなります。
介護職員の処遇改善に関しては、▼介護職員処遇改善加算(2012年度-)▼特定処遇改善加算(2019年度-)▼介護職員処遇改善支援補助金(2022年2-9月)▼介護職員等ベースアップ等支援加算(2022年度-)—という「重層的で手厚い」一方で、「非常に複雑」など仕組みとなっており、「簡素化、整理が必要」との声が介護給付費分科会でも数多く出ています。今般の調査結果を踏まえて、2024年度介護報酬改定に向けた積極的な議論が行われることになるでしょう。
なお、堀田委員は「訪問看護事業所の管理者の多くは『5年後に、自分の事業所が存続しているか分からない』と考えている。将来の事業継続を介護現場がどう考えているのかについても、別途の調査が必要である」と強調しています。「処遇」はもちろん、スタッフの高齢化が進んでいる事業所も少なくなく、「今後の介護サービス提供体制の確保」に向けて極めて重要な視点と言えるでしょう。
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