介護施設や通所サービス等、入所者等全員のデータ提出→サービス改善を評価する【科学的介護推進体制加算】—社保審・介護給付費分科会(5)
2021.1.21.(木)
お伝えしているとおり、1月18日の社会保障審議会・介護給付費分科会で2021年度介護報酬改定の内容(単位数等改定)が了承されました(通所介護に関する記事はこちら、訪問看護に関する記事はこちら、介護医療院・介護療養に関する記事はこちら、ケアマネジメントに関する記事はこちら)。
本稿では「科学的介護の推進」に焦点を合わせてみます。すべての介護サービス事業所・施設に関連するテーマです(関連記事はこちら)。
目次
利用者・入所者全員のデータ提出・サービス改善を評価する新加算を創設
介護分野でも「エビデンスに基づき、効果的・効率的なサービスを提供する」ことが重要です。2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、2025年度にはすべてが後期高齢者になります。その後、高齢者「数」の急増はないものの、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。このように、少なくなる一方の現役世代で、増加する一方の高齢者を支えることとなり、「効果的・効率的なサービス提供」が必須の要素となるのです。
エビデンスの構築に向けて、厚生労働省は主に(1)介護DB(要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納)(2)VISIT(通所・訪問リハビリにおけるリハビリ計画書等の情報を格納)(3)CHASE(利用者の状態や提供したケアに関する情報、具体的には認知症・口腔・栄養のデータを格納)―という3つのデータベースを運用。「事業所・施設がデータの提出する → データベースからのフィードバックを受ける → フィードバック情報を踏まえて事業所・施設のサービス・ケアを改善」するというPDCAサイクルを回していくことで、「エビデンスに基づいた質の高い介護サービス」が確立していくと期待されるのです。
2021年度改定では、こうした「科学的介護の推進」に向けてさまざまな報酬見直しが行われます。
まず、事業所・施設において「利用者・入所者すべて」についてデータ収集を行い、それを活用した介護サービス提供を行うことを評価する、新たな加算が創設されます。これまでの「個々の利用者についてデータ収集を行い、それを活用した介護サービスを行う」ことを評価する加算等(下図の青色部分)に加え、「すべての利用者についてデータ収集を行い、それを活用した介護サービスを行う」ことを評価する加算(下図の緑色部分)を設けるものです。
●介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院
▽科学的介護推進体制加算(I):利用者1人につき、1月あたり40単位
▽科学的介護推進体制加算(II):利用者1人につき、1月あたり60単位(ただし介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護では50単位)
●通所介護、(介護予防)通所リハビリ、(介護予防)認知症対応型通所介護、地域密着型通所介護、(介護予防)特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、(介護予防)認知症対応型共同生活介護、(介護予防)小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護
▽科学的介護推進体制加算:利用者1人につき、1月あたり40単位
上述のとおり「すべての利用者についてデータ収集を行い、それを活用した介護サービスを行う」ことを評価する加算で、算定するためには次のような要件を満たすことが必要です。
▽入所者・利用者ごとの、▼ADL値▼栄養状態▼口腔機能▼認知症の状況―その他の入所者の心身の状況等に係る基本的な情報を厚労省に提出する
▽必要に応じてサービス計画を見直すなど、サービス提供に当たって、上記の情報、その他サービスを適切かつ有効に提供するために必要な情報を活用する
また、施設サービスで算定可能な【科学的介護推進体制加算(II)】では、上記に加えて「疾病の状況」や「服薬情報」などの情報を厚労省に提出することが必要です。ただし、特養ホーム等では「服薬情報」提出が求められず、その分、単位数が低くなっています。
認知症デイサービス、データ提出等を要件とする【個別機能訓練加算(II)】創設
また認知症対応型通所介護(認デイ)においては、新たに【個別機能訓練加算(II)】(1月当たり20単位)が設けられます。
認デイには、機能訓練指導員を配置し、利用者ごとの「個別機能訓練計画書」に基づいて機能訓練を実施して、効果や実施方法を評価する(つまりPDCAサイクルを回す)ことを【個別機能訓練加算】(1日につき27単位)として評価しています。
この加算を【加算(I)】(単位数は据え置き)に名称変更したうえで、「個別機能訓練計画の内容等の情報を厚労省に提出する」「機能訓練の実施に当たり、当該情報、その他機能訓練の適切かつ有効な実施のために必要な情報を活用する」場合に、上乗せ加算として【加算(II)】を算定できることとするものです。
データ提出を行い、より客観的な視点で機能訓練を実施し、PDCAサイクルを回す場合に、【加算(I)】【加算(II)】の双方算定が可能となります。後述するように、他サービスの【個別機能訓練加算(II)】においてもデータ提出等が要件化されます。
各種の加算等でLIFE(CHASE・VISITの統一名称)へのデータ提出を要件化
さらに、データ提出等の取り組みを推進するために、次のような加算の要件に「データ提出・フィードバック情報に基づくサービスの改善」といった事項が追加されます(従前からのものも含む)。より多くのデータが集積されることでデータベースの信頼性が高まり、フィードバック情報の質向上→介護サービス・ケアの質向上につながると期待されるためです。
▽介護医療院における【薬剤管理指導】の上乗せ加算
▽訪問リハビリ・通所リハビリにおける【リハビリテーションマネジメント加算(A)(B)】(リハビリテーションマネジメント加算については組み換え等が行われており、詳細は別途報じます)
▽介護老人保健施設における【リハビリテーションマネジメント計画書情報加算】
▽介護医療院における【理学療法、作業療法又は言語聴覚療法に係る加算】
▽通所介護、地域密着型通所介護における【個別機能訓練加算(II)】
▽特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護における【個別機能訓練加算(II)】
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護における【個別機能訓練加算(II)】
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院における【口腔衛生管理加算(II)】
▽通所介護、地域密着型通所介護、療養通所介護、認知症対応型通所介護、通所リハビリ、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護における【口腔機能向上加算(II)】
▽通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護における【ADL維持等加算】
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院における【自立支援促進加算】
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院、看護小規模多機能型居宅介護における【褥瘡マネジメント加算】【褥瘡対策指導管理】
▽介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院、看護小規模多機能型居宅介護における【排せつ支援加算】
また、2021年度からCHASE(状態・ケアに関するデータベース)とVISIT(リハビリに関するデータベース)の一体的運用が始まります。これを受け、さらなる科学的介護の理解と浸透を図るために、統一名称が設けられます。
●科学的介護情報システム (Long-term care Information system For Evidence ; LIFE(ライフ))
今後は「CHASEやVISITへのデータ提出」でなく「LIFEへのデータ提出」と呼ぶことになります。
なお、介護現場からは「データベースからのフィードバックというが、誰がどのような方法で、どのようなタイミングで、どのような内容をフィードバックしてくれるのか分からない」という声が出ています。今後の通知や事務連絡(Q&A)などで明確にされることが期待されます。
●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】
▽横断的事項(▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護▼小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション▼短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設(老健)▼介護医療院・介護療養型医療施設—)
【第2ラウンド】
▽横断的事項(▼人材確保、制度の持続可能性▼自立支援・重度化防止▼地域包括ケアシステムの推進―)
▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)▼認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)
▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護▼通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修▼短期入所生活介護、短期入所療養介護―)
▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護、訪問入浴介護▼訪問リハビリ、居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)
▽施設サービス(▼介護医療院・介護療養型医療施設▼介護老人保健施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼短期入所生活介護、短期入所療養介護―)
▽横断的事項(その2)(▼地域包括ケアシステムの推進▼自立支援・重度化防止の推進(関連記事はこちら(ADL維持等加算)とこちら(認知症対策、看取り対応、科学的介護など)、▼処遇改善、▼人材確保、制度の安定性・持続可能性の確保など―)
▽詰めの議論(▼多機能型サービス▼短期入所系サービス▼通所系サービス▼訪問看護▼「介護医療院・介護療養型医療施設」▼科学的介護の推進(データ提出)▼ADL維持等加算▼ケアマネジメント―)
▽最終調整の議論(▼運営基準見直し、▼GHの夜勤配置・個室ユニット定員の緩和、▼ICT活用した場合の夜勤スタッフ配置緩和等、▼訪問看護―)
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