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【ADL維持等加算】を他サービスにも拡大し、重度者への効果的な取り組みをより手厚く評価してはどうか―社保審・介護給付費分科会(1)

2020.11.6.(金)

「要介護度改善のインセンティブ」として2018年度の前回介護報酬改定で導入された【ADL維持等加算】について、他のサービスへの拡大、要件の見直し、より優れた取り組みを行う事業所のさらなる評価などを検討してはどうか―。

こういった議論が11月5日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で行われました。

要介護改善のインセンティブとなる画期的なアウトカム評価

来年度(2021年度)に予定される介護報酬改定に向けた議論が大詰めを迎えようとしています。11月5日の会合では、各サービスの共通・関連する「横断的事項」のうち▼地域包括ケアシステムの推進▼自立支援・重度化防止の推進―について、具体的な見直し方向を探りました。極めて膨大な論点が提示されているため、本稿では【ADL維持等加算】の見直し方向に焦点を合わせます。このほか「認知症対策」「看取り対策」「リハビリテーションの推進」などの見直し方向も示されており、別稿で報じます。

●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】

▽横断的事項▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)介護老人保健施設(老健)介護医療院・介護療養型医療施設—)

【第2ラウンド】
▽横断的事項
(▼人材確保、制度の持続可能性自立支援・重度化防止地域包括ケアシステムの推進―)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修短期入所生活介護、短期入所療養介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護、訪問入浴介護訪問リハビリ、居宅療養管理指導居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護医療院・介護療養型医療施設介護老人保健施設、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)短期入所生活介護、短期入所療養介護―)

▽実態調査(▼介護事業経営処遇改善―)



多くの介護報酬は利用者の要介護度別に設定されており、利用者の要介護度が改善すると報酬が低くなってしまいます。要介護度の高い人は、すなわち介護者の手間が増えるために、当然の報酬体系と言えます。

しかし、例えば質の高い介護サービスを提供することによって利用者の要介護度が改善した場合、介護報酬が減ってしまいます。すなわち「より良いサービスを提供し結果を出してしまうと、介護サービス事業所・施設の収益が減ってしまう」のです。

そこで、かねてから「要介護度の改善」に向けたインセンティブの設定が検討され、2018年度の前回介護報酬改定でついに【ADL維持等加算】が通所介護・地域密着型通所介護に導入されました。

加算の仕組みは非常に複雑ですが、「要介護度の改善が見込まれる軽度者のみを選別する」(クリームスキミング)ことが生じないように配慮した上で、利用者のADL維持・改善実績に応じた加算の算定を可能とする「アウトカム評価」です。特別に定められた実績要件を満たした場合には【ADL維持等加算1】(月3単位)を、さらに実績要件を満たした後も、Barthel Index(BI)を用いて利用者のADLを測定し、その結果を保険者に報告した場合には【ADL維持等加算2】(月6単位)を算定できます(関連記事はこちら)。

ADL維持等加算の概要(その1)(介護給付費分科会6 200914)

ADL維持等加算の概要(その2)(介護給付費分科会7 200914)



加算の内容が複雑なこと、要件が比較的厳しいこと(診療報酬・介護報酬でも基本的に「新設の加算」は要件を厳しめに設定し、その後、現場の状況を踏まえながら要件の調整をしていく)などから算定状況は芳しくありません(今年(2020年)4月時点で2.38%)が、骨太方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)などでも「アウトカム評価の導入等を引き続き進めていく」方向が明示されています。要介護高齢者にとっても、家族にとっても、介護関係者にとっても「優れたサービスにより、状態が改善する」ことは本来的に好ましいはずだからです。

ADL維持等加算の算定率は今年(2020年)4月時点で2.38%にとどまる(介護給付費分科会(1)1 201105)



そこで、厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、この【ADL維持等加算】について来年度(2021年度)改定で次のような見直しを行ってはどうかとの提案を行っています。

(1)通所介護事業所に限らず、同様の取り組みを行いADLの維持等を目的とするようなサービスにも拡大してはどうか
(2)▼算定要件が複雑である▼評価開始時点のADLにより「ADL変化の傾向」が異なる―点を踏まえて、「算定要件の簡素化」「評価開始時点のADLを考慮できる仕組み」などを検討してはどうか
(3)「居宅系サービス」と「通所・訪問リハビリテーション」を併用する利用者では、している場合、「居宅系サービスにおける機能訓練の効果」と「リハビリの効果」とが相乗してADLの維持・改善が高まる点を考慮してはどうか
(4)より自立支援等に効果的な取り組みを行い、利用者のADLを良好に維持・改善する事業所をより高く評価してはどうか



まず(1)は通所介護・地域密着型通所介護以外の介護サービスにも【ADL維持等加算】を設定してはどうか、との提案です。「より良いサービスを提供し結果を出してしまうと、介護サービス事業所・施設の収益が減ってしまう」という構造は、どの介護サービスにも共通していることから、当然の提案と言えます。

安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事)や今井準幸委員(民間介護事業推進委員会代表委員)らは「対象サービスの拡大」を歓迎していますが、小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会理事)は「要件緩和、単位数引き上げを行うことで通所介護での加算浸透を図る、その状況を踏まえて他サービスにも拡大すべきではないか」、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「新設したばかりの加算で有用性の検証なども行われていない。他サービスへの拡大は時期尚早である」との慎重論もあります。



なお、この問題は(3)とも関連します。要介護度が高くなるほど、複数種類のサービスを併用する機会が多くなります。その場合、各種のサービスの効果が複合してADL維持・改善につながっている可能性があります。しかし現在では、通所介護事業所のみが【ADL維持等加算】で評価され、他のサービスはその努力が評価されていません(加算がないため、利用者の要介護度が改善すれば基本報酬が下がるだけである)。

これはサービス間の「不公平」にもつながりかねず、【ADL維持等加算】の拡大は、こうした不公平の解消にもつながる点も考慮する必要があります。

もっとも、このように複数のサービスについて【ADL維持等加算】での評価が行われることになれば、「加算財源の分配」が必要となってきます。ADLの維持・改善効果が「10」であったとして、今はその「10」の効果を通所介護の【ADL維持等加算】で評価しています。複数のサービスで「10」の効果が出ている場合に、複数のサービスにを「10」の効果分の評価(ADL維持等加算)を行えば、重複評価になってしまいます。この場合、サービスの貢献度合いによって「5対5」や「3対3対4」などに分配した評価を行うことが妥当でしょう。やや仕組みが複雑になってしまうことも考えられ、どのような仕組みとするのか、今後の議論を待つ必要があります。

「重度者のADL改善度合い」を重視し、クリームスキミングを防止してはどうか

また(2)前段の「算定要件の簡素化」は、多くの委員、介護現場もこれを望んでいます。ただし、上述したように「アウトカム評価」にはクリームスキミングの危険が常に付きまといます。「成果・実績」を要件とした場合、「成果・実績が出にくい利用者を排除し、成果・実績や出やすい利用者の実を囲い込む」事業者が現れることが懸念されることから、【ADL維持等加算】では、例えば▼評価対象利用期間中の最初の月において要介護度3・4・5の利用者が15%以上(一般的に効果の出にくい重度者を排除しないように)▼初回の要介護・要支援認定があった月から起算して12月か以内であった者が15%以下(一般的に効果の出やすい早期の利用者のみを対象としないように)―などの要件が設けられているのです。

ここも含めた簡素化を行ってしまえば、算定率は上がるかもしれません、「クリームスキミングの防止」という重要な鍵が外れてしまい本末転倒となってしまいます。眞鍋老人保健課長も「クリームスキミングの防止」を簡素化の視点に置いている点に留意が必要です。



(2)後段は、「利用初月のBI(Barthel Index、利用者のADL測定指標)が低い(ADLに課題がある)ほど、6か月目のBI改善度合いが大きくなる(ADLが改善する)。逆に初月のBIが高い(ADLの課題が小さい)ほど、6か月目のBI改善度合いが小さくなる(ADL改善度合いが芳しくない)」という調査結果を踏まえたものです。

初月のADLが低い利用者ほど6か月目のADL改善度合いが大きく(左側のグラフ)、逆に初月のADLが高い利用者ほどADL改善度合いは小さくなる(右側のグラフ)(介護給付費分科会(1)2 201105)



詳細は今後詰めることになりますが、例えば『初月のBI』に着目した傾斜配分をしてADLの維持・改善実績を図る、ことなどが考えられそうです。ADL改善効果が出にくい「初月のBIが高い」利用者のADL改善度合いを1.5を乗じて評価する、などの傾斜配分をつけることで、「重度者のADL維持・改善により力を入れている」事業所の取り組みをより高く評価することが可能になります。

なお、このような仕組みを導入すれば、必然的に「重度者のADL維持・改善により力を入れている」事業所が有利となり、多くの事業所が「重度者対応に力を入れる。重度者を受け入れる」ことにつながるでしょう。これは、上述の「クリームスキミング防止」にも結び付くことから、「要件を簡素化できる」余地が出てくることになります。

今後の詳細な制度見直し案に注目が集まります。

「ADLの維持・改善」効果をより高く示す事業所を、経済的にもより高く評価

また(4)は、加算の構造に関する論点です。上述のように、【ADL維持等加算】は▼実績要件を満たした場合には加算1(月3単位)▼実績要件を満たした後も、BIを用いて利用者のADLを測定し、その結果を保険者に報告した場合には加算2(月6単位)―を算定できます。

この点、眞鍋老人保健課長は「より自立支援等に効果的な取り組みを行い、利用者のADLを良好に維持・改善する事業所」をより高く評価する方向を示しています。優れた取り組みを行い、実績も上げている事業所にとって、朗報と言える方向です。

例えば、現在の仕組み・基準では、「ADL利得(初月のADLと6か月目のADLとの差)上位85%の利用者についてADLの維持・改善度合いを見る」こととなっており、9割近い事業所で「ADLの維持・改善が確認できる」状況です。

これを「全利用者のADL利得を対象に、ADLの維持・改善度合いを見る」こととした場合には、「ADLの維持・改善が確認できる」事業所は6割に減少します。

例えば、現在の仕組み・基準では、「ADL利得上位85%」についてADLの維持・改善度合い」をており、9割近い事業所で「ADLの維持・改善が確認できる」。しかし「全利用者のADL利得」を見ることとすれば、「ADLの維持・改善が確認できる」事業所は6割に減少する(介護給付費分科会(1)3 201105)



このデータに沿った見直しを行った場合、「算定要件を厳格化する」ものと捉えることもできますが、「ADLの維持・改善に向けた取り組みをより積極的に行っている事業所をピックアップする」と捉えることも可能です。「優れた取り組みを行い、実績も上げている」事業所を選定する一つの切り口と言え、安藤委員も、こうした切り口による評価のメリハリづけに賛同しています。

具体的な内容は今後の検討を待つ必要があり、こちらにも注目が集まります。



なお、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「介護現場ではBIが活用されておらず、それが【ADL維持等加算】のハードルにもなっている。BIには認知症の評価も含まれていない。BI評価というベースを見直してはどうか」とも提案しています。



【ADL維持等加算】は、2000年度の介護保険制度スタート当初からの「要介護度が改善した場合に報酬が下がってしまう」という課題の解決に向けた画期的な仕組みです。段階的に拡充・改善を行い、すべての介護事業所・施設が「積極的なケアを行い、利用者・入所者の要介護度改善を目指す」方向に動くことに期待が集まります。

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