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訪問介護利用者の負担増を考慮し、「敢えて加算を取得しない」事業所が少なくない—社保審・介護給付費分科会(2)

2020.10.26.(月)

訪問介護について、サービスの質向上を目指す【特定事業所加算】が設けられているが、利用者の負担増を抑えるために「加算の要件をクリアしているが、敢えて算定しない、あるいは下位区分の加算算定しかしない」ケースが少なくない。当該加算を区分支給限度基準額の対象とすることで、こうした問題を解消してはどうか―。

訪問介護員が在宅看取りに参画し、利用者・家族と医療職との橋渡しをするケースが増えていることを踏まえ、【看取り加算】などの評価新設を行ってはどうか―。

訪問入浴介護にについて、部分浴等の場合の減算幅を緩和し、また新規利用者への初回・初期加算を新設してはどうか―。

10月22日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こういった議論も行われています。

訪問介護の【特定事業所加算】、利用者負担抑えるために敢えて算定しないケースも

来年度(2021年度)の介護報酬改定に向け、介護給付費分科会では個別サービスの具体的な見直し論議に入っており、10月22日の会合では、訪問系サービス(▼訪問介護・訪問入浴介護▼訪問看護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導―)を議題としました。本稿では「訪問介護・訪問入浴介護」に焦点を合わせます(「訪問看護」についてはお伝え済で、他サービスは別稿で報じます)。

●2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事●
【第1ラウンド】

▽横断的事項▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)介護老人保健施設(老健)介護医療院・介護療養型医療施設—)

【第2ラウンド】
▽横断的事項
(▼人材確保、制度の持続可能性自立支援・重度化防止地域包括ケアシステムの推進―)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護・認知症対応型通所介護、療養通所介護通所リハビリテーション、福祉用具・住宅改修短期入所生活介護、短期入所療養介護―)



訪問看護は、在宅の要介護者・要支援者に対して、▼身体介護(利用者の身体に直接接触して行うサービス、排せつ介助や食事介助など)▼生活援助(身体介護以外で、利用者の日常生活を支援するサービス、調理や洗濯、掃除など)▼通院等乗降介助(医療機関通院等のための乗車・降車の介助(乗車前・降車後の移動介助等の一連のサービス行為を含む)―を提供するものです。独居の要介護者等、家族が高齢などの理由で家族介護が難しい要介護者等にとって、在宅生活の継続を可能とするための基本的かつ重要な介護保険サービスの1つと言えます。

厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課の笹子宗一郎課長は、来年度(2021年度)の次期改定に向けて次のような見直し提案を行いました。

(1)【特定事業所加算】について、「重度者対応の評価」は維持しつつ、報酬体系の見直しを行うとともに、区分支給限度基準額の対象外としてはどうか

(2)【生活機能向上連携加算】について、ICTの活用や、連携先を見つけやすくする方策を検討してはどうか(通所介護(デイサービス)短期入所生活介護(生活ショート)と同じ見直し方向)

(3)【通院等乗降介助】について、居宅が始点・終点になる場合には、「病院間の移送」や「通所系・短期入所系サービス事業所から病院等への移送」も報酬算定を可能としてはどうか

(4)「看取り期の評価」を行ってはどうか



まず(1)の【特定事業所加算】は、サービスの質向上を目指し、▼訪問介護員への個別研修や緊急時対応方法の明示などの「体制要件」▼介護福祉士割合(スタッフの3割以上)などの「人材要件」▼要介護4・5の利用者や喀痰吸引等が必要な利用者の割合である「重度者対応要件」―を組み合わせて介護報酬の上乗せを認めるものです(5-20%)。

特定事業所加算の評価方法(介護給付費分科会(2)1 201022)



各種要件を組み合わせることで「丁寧な評価」が可能となっていますが、その分「複雑な加算となっている」ことは否めません。また、介護現場には深刻な「人材不足」が指摘されています(8割の事業所で訪問介護員不足を感じ、サービス提供責任者(サ責)が直接ケア提供等を行わざるを得ない状況に陥っている)。

今後、こうした課題を踏まえた「報酬体系の見直し」を詰めていくことになります。



ところで、従前から介護現場の多くで「より良いサービスを提供し、経営を安定化させるために加算を取得したいが、利用者の負担増になってしまうために躊躇している」というジレンマに陥っていることが指摘されています。「良質なサービスには相応のコストがかかり、相当の負担が必要となる」点を利用者・国民に理解してもらうことは非常に難しいのです。

この点、【特定事業所加算】についても「要件をクリアしているにもかかわらず加算を算定しない、あるいは下位区分の加算しか算定しない」事業所が相当程度存在することが2018年度介護報酬改定の結果検証調査から明らかになりました。加算Iでは41.1%、加算IIでは36.1%、加算IIIでは54.8%にものぼります。その理由を尋ねると、やはり▼利用者の負担増を避けるため▼利用者の区分支給限度基準額超過を回避するため—というものでした。

利用者負担増を考慮し、特定事業所加算を敢えて算定しない事業所も少なくない(介護給付費分科会(2)2 201022)



しかし、これでは事業所が投下しているコストを十分に解消できず、長期的に見れば「事業所の疲弊によりサービスが悪化してしまう」ことにつながるでしょう。また、【特定事業所加算】は、【特定処遇改善加算】の要件にもなっており、算定を控えれば「介護スタッフのモチベーション低下」「離職」等につながり、結果としてやはりサービスの低下も生じえます。笹子認知症施策・地域介護推進課長は、こうした課題を解消するために、【特定事業所加算】と類似する【サービス提供体制強化加算】と同じように「区分支給限度基準額の対象外としてはどうか」との考えも提示しています。

介護保険の居宅サービスについては、要支援・要介護状態でない人でも「利用したい」と考えがちなものがあり、モラルハザードが生じやすいという特徴があることから、要支援・要介護度別に「1か月に利用可能な介護保険サービス量の上限」(区分支給限度基準額)が定められています。この限度基準額を超過するサービスを利用することも可能ですが、超過部分は「全額自己負担」となります。

この点、上記の課題を回避するために、「区分支給限度額の対象外」(超過した場合であっても1-3割の負担で利用可能)となっている加算・サービスもあり、【特定事業所加算】も同様の取扱いが検討されるのです。この方向には、多くの委員が「歓迎」の意を示しています。

サービス提供体制強化加算などは、区分支給限度基準額の対象外に置かれている(介護給付費分科会(2)3 201022)

【生活機能向上連携加算】、サービス担当者会議をカンファレンス代替と考えてはどうか

(2)は、デイサービス・生活ショートなどと同様に、【生活機能向上連携加算】算定のハードルを下げるために、▼ICTを活用した連携を可能とする▼連携先のリハビリ事業所や医療機関を見つけやすくする方策を設ける—ものです。

この点、笹子認知症施策・地域介護推進課長は「【生活機能向上連携加算】で求められている『サ責とリハビリ専門職等が利用者宅を訪問したうえでのカンファレンス』について、『サービス担当者会議』についてもリハビリ専門職の参加・出席など条件に認めていく」考えを示しています。事業所サイドの負担が大きく減殺されることが期待され、多くの委員から「歓迎」の声が出ていますが、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「サービス担当者会議へのリハビリ専門職参加率は決して高くない。リハビリ専門職は少なくとも初回は『対面』での評価を行わなければ、適切なリハビリは行えない。リハビリ専門職がリハビリを提供した(少なくとも初回の対面評価が前提となる)後に算定できる加算へと位置づけを見直すべき」と提案している点にも留意すべきでしょう。

訪問介護でも【看取り加算】を新設へ、ただし適切な研修等の要件化を検討

また(4)は、在宅での看取りを希望する者が増えており、そこでは「訪問介護員が立ち会い、利用者・利用者家族と医療職(医師・看護し)との橋渡しを行っている」状況があることを踏まえた「新たな評価」の創設を検討するものです(【看取り加算】などを新設するイメージ)。

訪問介護員が在宅看取りに参加するケースもある(介護給付費分科会(2)6 201022)



利用者や家族の「意向」(どういった医療・介護を受けたいか、逆にどういった医療・介護を受けたくないか、など)を踏まえた看取りの重要性が指摘されています(いわゆるACP(Advanced Care Planning))。利用者の生活を長きにわたって支えてきた訪問介護員が看取りに参画することで、利用者や家族の意向が医療専門職に伝わりやすくなるなどの効果が期待でき、この見直し方向にも多くの委員が「歓迎」の意を示しています。

ただし、看取りに携わる訪問介護員には「心理的な負担」が大きくなり、また通常時の介護時とは異なるケア・配慮が訪問介護員に求められます。このため、「心理面への配慮」や「適切な研修の受講」を要件化すべきとの意見も多数でています。

看取りを評価する各種加算(介護給付費分科会(2)5 201022)



また(3)は、現在認められていない「病院-病院」間、および「通所・短期入所事業所-病院」間の移送介助を、一定の要件下で可能とするものです。ただし後者について江澤委員は「これは体調が悪化するケースだが、わざわざ訪問介護員の到着を待って医療機関に行くことになるのだろうか。通常は事業所のスタッフが付き添っているはずである」とし、適切な要件設定を求めています。

通院等乗降介助の見直し方向(介護給付費分科会(2)4 201022)

訪問入浴介護、部分浴等の場合の減算を緩和し、初回・初期加算を新設へ

訪問入浴介護は、名称どおり在宅の要介護者宅を訪問し、入浴の介助を行うものです。主に「自分1人では、あるいは家族の介助では入浴が困難」な重度者が対象となり、実際の利用者の状況を見ても「平均要介護度は4.1、要介護3以上の重度者が9割」となっています。

入浴により身体の清潔を保つことは、疾病の発生予防はもちろん、利用者・家族の心理的平穏を確保するためにも非常に重要なサービスですが、事業所の経営状況は厳しく、約半数(45.5%)が赤字となっています。

笹子認知症施策・地域介護推進課長は、訪問入浴介護について次の2つの見直しを行うことを提案しています。

(1)清拭・部分浴を実施した場合の減算(30%減算)について、投下コストの実態を踏まえ、また事業所の経営安定化のために見直し(減算幅の緩和)を行ってはどうか

(2)新規利用者について「初回・初期の加算」を設けてはどうか



前述のとおり、利用者の多くが重度であるために、体調が悪化するなどし「今日は全身入浴を避け、部分浴や清拭にしよう」と判断するケースが少なくありません。この場合、介護報酬上は「人手も少なく済み、介護時間も短くなるために介護報酬を30%減算する」こととなっています(減算は、回数ベースでは1%程度にとどまるが、事業所ベースでは6割にのぼる)。

しかし、投下コストの実態を見ると、▼当然、3人1組分の人件費は生じる▼全身入浴の平均時間は60分であるのに対し、部分浴・清拭の平均時間は平均53分である(約12%短く、30%も短いわけではない)―ことが分かっています。つまり減算された場合、「投下コストの減少幅よりも、報酬の減少幅が大きい」のです。

部分浴でも全身浴と同程度の時間がかかる(介護給付費分科会(2)7 201022)



減少幅の緩和(例えば10%減算、15%減算にとどめるなど)が検討されますが、今井準幸委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は「廃止も検討してほしい」と要望しています。



また(2)は、利用者宅の浴室の状況や利用者の状況は千差万別であるために、新規の利用者については「利用者宅を訪問して状況確認を行っている」(看護師を含めて3名で訪問)ことを初回加算・初期加算といった形で評価してはどうか、というものです。他サービスでも同様の加算が設けられており、多くの委員も「初回加算・初期加算】創設の必要性を強調しています。

各種の初回・初期加算(介護給付費分科会(2)8 201022)

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