介護保険の訪問看護、医療保険の訪問看護と同様に「良質なサービス提供」を十分に評価せよ―介護給付費分科会
2020.8.6.(木)
介護保険の訪問看護では、医療ニーズの高い中重度者への良質なケア提供を行う事業所を評価する【看護体制強化加算】があるが、要件に「スタッフに占める看護職員の割合が6割以上」との項目を追加すべきである―。
また、介護保険の訪問看護でも、利用者が病院等に入院・入所した場合の情報提供を評価すべきである―。
8月3日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、2021年度の次期介護報酬改定に向けた事業者ヒアリングが行われ、こういった要望が示されました。
【看護体制強化加算】、スタッフの6割以上が看護職との要件を追加せよ
2021年度に予定される次期介護報酬改定(3年に一度)に向けて、介護給付費分科会では、横断的事項として▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保▼新型コロナウイルス感染症をはじめとする「感染症対策・災害対策」―が重要ポイントとなることを確認(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
さらに7月8日・20日には個別サービスに関する議論も行い、▼地域密着型サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護や小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護など、関連記事はこちらとこちら)▼通所系・短期入所系サービス(関連記事はこちらとこちら)―について現状と課題の整理などを行いました。
ところで介護保険サービスを提供する事業所・組織は極めて多様であり、改定論議においては「広く事業者サイドから意見・要望を募る」こととしています。8月3日の介護給付費分科会では、▼日本ホームヘルパー協会▼全国訪問看護事業協会▼全国介護事業者連盟▼24時間在宅ケア研究会▼全国社会福祉法人経営者協議会▼日本福祉用具・生活支援用具協会▼日本福祉用具供給協会▼全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会▼全国個室ユニット型施設推進協議会▼日本栄養士会▼日本リハビリテーション医学会▼日本リハビリテーション病院・施設協会▼日本訪問リハビリテーション協会▼全国デイ・ケア協会▼日本理学療法士協会▼日本作業療法士協会▼日本言語聴覚士協会▼全国ホームヘルパー協議会(書面提出のみの団体)―からヒアリングをし、委員との意見交換が行われました。
非常に膨大な要望項目が示されており、本稿では「訪問看護」に関する全国訪問看護事業協会からの要望に焦点を合わせてみます。全国訪問看護事業協会からは、(1)中重度者の在宅療養を支える訪問看護の提供体制の拡充(2)質の高い訪問看護の評価(診療報酬との齟齬の解消)―の2点の要望が出されました。
(1)は、訪問看護における【看護体制強化加算】について、「看護職がスタッフ全体の60%以上」との要件追加を求めるものです。
訪問看護ステーションに関しては、介護保険・医療保険の双方で「実質的な訪問リハビリステーションになっている事業所」の存在が問題視されています。
▼一部の訪問看護ステーションではスタッフの80%以上が理学療法士等(2015年調査では理学療法士などが80%以上のステーションは全体の0.2%、理学療法士などを10名以上配置するステーションは138か所)で、こうした事業所では緊急時訪問看護加算や特別管理加算の届け出はごくわずかで、24時間対応や重度者対応に極めて消極的である。また、理学療法士などの配置割合が大きくなるにつれ「要支援者に対するリハビリ」の割合が増え(重度者へのリハビリに消極的)、さらに「理学療法士のみで訪問し、看護師によるアセスメントのための訪問は基本的に行わない」というケースも少なくない(介護給付費分科会で議論、関連記事はこちらとこちら))
▼スタッフにおける理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーションが増加しており、理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーションでは24時間対応体制加算の届出割合が少ない(理学療法士等の割合が80%以上の訪問看護ステーションもわずかにあり、そこでは7割弱が24時間対応を行っていない)(中央社会保険医療協議会・総会における「医療保険の訪問看護療養費」議論、関連記事はこちらとこちら))
こうした「事実上の訪問リハビリテーション化」は決して好ましいことではないため、介護報酬改定(2018年度)、診療報酬改定(2018年度、20年度)において、例えば次のような対応が図られています。
(a)理学療法士等による介護保険の訪問看護について、単位数を引き下げる(従前1回につき302単位→改定後は1回につき296単位)とともに、「訪問看護計画書・訪問看護報告書について、看護職員と理学療法士等が連携し作成すること」などを求める【2018年度介護報酬改定】(関連記事はこちらとこちら)
(b)利用者の全体像を踏まえた効果的な医療保険の訪問看護の提供を推進するために、理学療法士等による訪問看護について、「看護職員と理学療法士等の連携が求められる」ことを明確化する【2018年度診療報酬改定】(関連記事はこちら)
(c)医療保険の訪問看護において、報酬の高い「機能強化型訪問看護ステーション」について、「看護職員が6割以上」という要件を設ける(上述した理学療法士等がスタッフの8割超となるステーションは機能強化型の訪問看護療養費を算定できなくなる)【2020年度診療報酬改定】(関連記事はこちらとこちら)
(d)理学療法士等による医療保険の訪問看護について、週4日目以降の評価を引き下げる(従前6550円→改定後は5550円)とともに、訪問看護計画書・訪問看護報告書について「訪問する職種・訪問した職種の記載」を要件化する【2020年度診療報酬改定】(関連記事はこちらとこちら)
さらに今般、全国訪問看護事業協会は、2021年度の次期介護報酬改定で、【看護体制強化加算】について「看護職がスタッフ全体の60%以上」との要件追加を求めています。(3)と同様の見直しで、医療保険における機能強化型訪問看護ステーションと、介護保険における【看護体制強化加算】算定ステーションとの足並みをそろえるものと言えるでしょう。
【看護体制強化加算】は、医療ニーズの高い中重度の要介護者に、適切な訪問看護が行われることを目指して2015年度介護報酬改定で創設され、2018年度介護報酬改定で上位区分が設けられました。
2021年度改定に向けて、どのような見直し論議が行われるのか注目が集まります。
介護保険の訪問看護でも、利用者が入院等した場合の情報提供を評価せよ
また、(2)の要望には2点が含まれ、1つは診療報酬と同様に「訪問看護ステーションが、主治医を通して『入院する利用者についての情報』を提供する」ことを介護報酬でも評価すべき、との内容です。
2018年度の診療報酬改定では、医療保険の訪問看護療養費に【訪問看護情報提供療養費3】(1500円)が新設されました。
訪問看護の利用者が病院等(Xとする)に入院・入所する場合、訪問看護ステーションが「当該利用者に実施している訪問看護の情報」提供を行う(当該患者の診療を行っている保険医療機関が、X病院等に診療情報提供・紹介を行う際に、併せて訪問看護に関する情報提供を行う)ことを評価するものです。病院等で「当該患者は、平素どのような状況で、どのような診療や訪問看護を受けていたのか」という情報が正確に把握できれば、病院等における診療やケアに適切に反映させることができ、入院生活の質が向上し、また早期退院が期待されます。
全国訪問看護事業協会では、介護保険の訪問看護利用者が、病院等に入院・入所する際にもこうした情報提供が重要であり、これを介護報酬で評価するよう求めています。医療保険の訪問看護は利用上の制限が多く(対象疾病等が定められており、利用期間も限定されている)、要介護高齢者の多くは「介護保険の訪問看護」を利用していることから、同協会の要望には説得力があると考えられます(現在では、介護保険の訪問看護を利用するが、医療保険の訪問看護を利用していない高齢者が入院した場合、情報提供を訪問看護ステーションが行っても報酬上の評価はなされない)。
また2つ目は、【緊急時訪問看護加算】(1回につき100単位)、診療報酬(医療保険の訪問看護)の【24時間対応体制加算】(6400円)と同額にすることを求めるものです。
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