2018年度改定でも「訪問看護の大規模化」や「他職種との連携」が重要論点—介護給付費分科会(1)
2017.7.5.(水)
2018年度の介護報酬改定でも、訪問看護ステーションの大規模化などを促し、安定的な訪問看護の供給を確保してはどうか。また、医療ニーズのある利用者への対応や重度化予防などを図るために、「訪問看護と他の介護保険サービスとの連携」を進めていくためにはどのような方策が考えられるか—。
5日に開催された社会保障審議会の介護給付費分科会では、このようなテーマについて議論しました。なお、一部の訪問看護ステーションでは理学療法士などの比率を高め、要支援者を中心に「看護師のアセスメントなしにリハビリテーションを提供している」ことが分かっていますが、その理由・背景などは不明です。今後、具体的な対応について検討が行われますが、「看護師と理学療法士などとの連携」確保を求めることになるでしょう。
目次
訪問看護ステーションだけでなく、医療機関からの訪問看護も重要
介護給付費分科会では、2018年度の介護報酬改定に向けて第1ラウンドの総論的議論を続けており(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)、5日には▼訪問介護▼訪問看護▼居宅介護支援▼共生型サービス—が検討対象となりました。今回は、訪問看護に関する議論を紹介します。
訪問看護は、居宅において看護師などが「療養上の世話」や「必要な診療の補助」を行うもので、医療ニーズのある要介護者・要支援者が在宅生活を継続する上で、極めて重要な介護保険サービスです。訪問看護ステーション、利用者数とも上昇傾向にあり、比較的順調に成長していることが伺えます。
もっとも訪問看護については、▼医療保険と介護保険の双方に位置付けられており、分かりにくく、使用しにくい▼訪問介護に比べて報酬水準が高く、区分支給限度基準額がある中でケアプランに位置付けにくい▼24時間・365日の対応が必ずしも行われていない(事業所で異なる)▼他職種・他サービスとの連携が必ずしも十分とは言えない—などの課題も指摘されています(関連記事はこちら)。5日の分科会では、厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は、後者2つの課題を論点として提示しました。
まず24時間・365日対応については、訪問看護ステーションの規模と関係していることが分かっています。例えば、24時間対応を評価する緊急時訪問看護加算の届け出は、常勤換算3名未満のステーションでは80%だが、7名以上のステーションでは95%に、重症者への積極的対応を評価する特別管理加算の届け出は、3名未満のステーションでは84%だが、7名以上のステーションでは94%という状況です。
これらの加算を初めとして、介護報酬改定や診療報酬改定でも大規模化を促してきており(直接的には24時間対応などを促す加算などを創設)、常勤換算の従業員数が5名以上の比較的規模の大きな訪問看護ステーションが増えてきています(2009年には5名以上のステーション割合が45%、10名以上の割合が8%だったが、2015年にはそれぞれ54%、16%に増加)。しかし、鈴木老人保健課長は「46%が5名未満の小規模ステーションである」点を重視し、「訪問看護ステーションの大規模化など、安定的な提供体制確保」を2018年度改定においても重要論点とする考えを示しています。
この点について齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)は、「24時間・365日対応を行う、あるいは重度者に積極的に対応する機能の高い訪問看護ステーションを報酬上も評価すべき」と強く訴えています。もっとも、小規模ステーションにも高い存在意義がある(看護師が不足する地域では、大規模化は困難)ため、「訪問業務以外の、例えば書類作成などの業務負担を軽減する必要がある。ICTなどを活用した業務負担軽減を行う事業所を報酬面でも評価すべき」と提案しました。齋藤委員は併せて「非がんの利用者に対する介護保険の訪問看護について、ターミナル期における柔軟な対応を可能とすべき」とも求めています。
また鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、看護師確保の困難性に鑑みて「訪問看護が必ずしも必要でない利用者は、訪問介護を利用する」といった役割分担などが必要との見解を示しています。
なお武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「機動力の高い『医療機関からの訪問看護』の充実も勘案すべき」と要望。この点、2015年度の前回介護報酬改定や、2016年度の前回診療報酬改定では「医療機関からの訪問看護」の報酬がわずかながら引き上げられており、その効果に関する調査結果が待たれます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。引き上げの背景には「訪問看護に従事する看護師の多くは、医療機関で訪問看護を学ぶ」という訪問看護従事者育成の視点があります。鈴木老人保健課長は「ステーションからの訪問看護も、医療機関からの訪問看護も、いずれも重要」と述べており、改定の効果如何によっては2018年度の同時改定でのさらなる引き上げも検討対象に入ってくる可能性があります。
電子カルテの失敗を踏まえ、ICT活用した連携に向けた事前準備を
もう一つの論点である「連携」は、例えば医療ニーズの高い利用者への対応や、在宅での看取りなど「医療的な知識や技術」が必要な場面において、医療専門職である訪問看護従事者から、必ずしも医療的な知識が十分ではない訪問介護や通所介護・福祉用具貸与・ケアマネジャーに十分な情報提供がなされれば、より円滑なサービス提供が可能になるというところに結びつきます。
在宅での看取りにおいては、訪問介護やケアマネジャーは「訪問看護師との連携のための十分な時間がとれない」といった課題があると感じ、訪問看護師は「訪問介護員などに専門的知識や経験が十分でない」といった課題があると感じており、まさに上記の論点を裏付けるデータと言えます。
この点、齋藤訓子委員を初め、多くの委員が「多忙」による連携の困難さを指摘し、「ICTを活用した情報連携」を認めてほしいと要望しています。中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会との意見交換でも同様の要望が出ており、次期改定に向けて具体的な検討が行われそうです(関連記事はこちら)。
ただし松田晋哉委員(産業医科大学教授)は、「電子カルテでは、仕様がバラバラであり、個々の病院ではよいが、医療界全体では連携が全くできていない。この点を反省し、各介護保険サービスで連携に必要なコア情報を先に決めておくことなどが必要」と強調しました。電子カルテは、異なるメーカー間では情報の互換性がなく、連携が極めて困難となり地域包括ケアシステムにおける情報連携の足かせとなっていると指摘されます。介護保険ではより先を見据えた対応が求められます。
従事者の8割がPTという訪問看護もある、看護師との連携確保が重要
ところで、介護保険の訪問看護では「理学療法士などが訪問し、リハビリを行う」ことが可能ですが、一部の訪問看護ステーションでは従事者の80%以上が理学療法士などという事態があります。たとえば、看護師を基準ギリギリの2.5名配置にとどめ、10名の理学療法士を配置する、といったステーションがあるのです(2015年には理学療法士などが80%以上のステーションは全体の0.2%、理学療法士などを10名以上配置するステーションは138か所)。
この配置自体には何ら問題がありませんが、理学療法士などが80%以上を占めるステーションでは緊急時訪問看護加算や特別管理加算の届け出はごくわずかで、24時間対応や重度者対応に極めて消極的です。また、理学療法士などの配置割合が大きくなるにつれ「要支援者に対するリハビリ」の割合が増え、さらに「理学療法士のみで訪問し、看護師によるアセスメントのための訪問は基本的に行わない」というケースも少なくないことが分かっています。訪問看護は医師の指示で行いますが、訪問看護計画の策定にあたり「看護師のアセスメントがなく、連携もしてない」ことは問題でしょう。
これらの背景に何があるのかは不明ですが(実質的な訪問リハビリだが、基本報酬は同水準に設定されている)、最後に述べた「看護師によるアセスメント」「理学療法士と看護師との連携」は、訪問看護を行う基本となるものゆえ、今後「連携の確保」に向けた方策などを検討していくことになるでしょう。齋藤訓子委員も「看護師と理学療法士などが共同してリハビリ計画を作成することや、リハビリ主体の利用者でも月に1回は看護師が訪問してアセスメントを行うことなどを運営基準に盛り込むべき」と提案しています。
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