「主任ケアマネ要件」猶予を2027年3月まで延長、中山間地域等では配置しないことも可能―社保審・介護給付費分科会
2020.1.27.(月)
2021年3月末時点で「主任ケアマネジャーでない者が管理者となっているケアマネ事業所(居宅介護支援事業所)」については、「管理者は主任ケアマネでなければならない」とする要件(主任ケアマネ要件)の適用を2027年3月31日まで猶予する―。
また中山間地等においては、ケアマネ事業所を確保するために主任ケアマネ要件を適用せず、さらに不測の事態で主任ケアマネ不在となった事業所では、主任ケアマネ要件の適用を1年間猶予し、保険者の判断でその猶予期間の延長も認める―。
1月24日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、加藤勝信厚生労働大臣からの諮問(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準等について)に対し、こういった内容の答申が行われました(正確には社会保障審議会が答申を行い、介護給付費分科会ではその内容を了承)。厚生労働省は今後、厚労省令(介護保険法施行規則)改正作業に入ります(関連記事はこちらとこちら)。
また2021年度の次期介護報酬改定に向けた、前回改定(2018年度改定)の効果検証調査の方向も固めています。
中山間地域の1人主任ケアマネ、法人内で他地域に移動させることは認められない
公的介護保険サービスを利用するにあたっては、ケアマネジャー(介護支援専門員)が利用者の心身状況や希望等を踏まえて「どういった介護サービスをどの程度提供するか」を選定し、ケアプラン(介護サービス計画書)を作成します。このためケアマネには、利用者の状態等を正確に把握する能力や、各介護サービスの特徴や効果に関する知識等が求められ、それを常に磨き続けることが求められます。
これを担保する仕組みとして2006年に「主任ケアマネ」制度が誕生。5年以上のケアマネ経験者が必要な研修を受け、都道府県から認定されることで「主任ケアマネ」資格が得られます。2018年度の介護報酬改定ではこうした点を重視し、「ケアマネ事業所の管理者は、必要な研修を受講している『主任ケアマネ』であること」との要件が設けられました。
ただし主任ケアマネ確保にはハードルもあることから、2018年の省令改正時には「2021年3月末までは主任ケアマネ配置要件の適用を猶予する」との3年間の経過措置が設けられました。3年の間に、自事業所のケアマネに必要な研修を受けさせるなどし、主任ケアマネ配置に努めることが求められたのです。
しかし、2018年度介護報酬改定の影響調査によれば、「2021年3月までに10.1%・3197か所のケアマネ事業所で主任ケアマネ配置が行えず、2024年3月までに1.6%・505か所で主任ケアマネ配置が行えない」などの状況が分かりました。主任ケアマネ資格取得の前提となる「5年以上のケアマネ経験」を、経験の浅いケアマネでは満たせないことなどがネックとなっているためです。
介護給付費分科会では、こうした点を踏まえて昨年11月から「主任ケアマネ要件の猶予期間延長」等について議論し、昨年12月17日に以下のような内容を決定。今般、正式に省令改正に向けた諮問を加藤厚労相から受け、その内容を答申(正確には了承)したものです。延長された猶予期間の間に、各都道府県・各事業者で「主任ケアマネ養成」に努めることが強く求められます。
(1)2021年3月31日時点で主任ケアマネでない者が管理者の事業所は、当該者が管理者である限り、主任ケアマネ要件の適用を2027年3月31日まで猶予する(2021年4月1日以降に新たに管理者となる者は、いずれの事業所でも主任ケアマネでなければならない)
(2)特別地域居宅介護支援加算または中山間地域等における小規模事業所加算を取得している事業所では、「管理者を主任ケアマネとしない」取扱いも可能とする
(3)2021年4月1日以降、不測の事態(主任ケアマネのヘッドハンティング等による退職や、主任ケアマネの死亡など、今後Q&A等で明確化)により、主任ケアマネを管理者とできなくなってしまった事業所について、「その理由」と「改善計画書」を保険者に届け出た場合は主任ケアマネ要件の適用を1年間猶予するとともに、保険者の判断で猶予期間の延長も認める
この点、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)は「中山間地域で主任ケアマネ資格を保有する者について、『中山間地域ではその資格は不要なので、別の地域で管理者として働いてほしい』という動きが出る」ことを懸念しています。
ケアマネにも当然、就業の自由が認められるため、他法人からのヘッドハンティングが生じることは避けられません。しかし、同一法人の中で「中山間地域から他地域で主任ケアマネを移動させる」ことは認められません。厚労省老健局振興課の尾崎守正課長は、後者について「主任ケアマネを配置できていた事業所であり、やむを得ない事情が認められないことから、主任ケアマネを配置しないことは認められない」との考えを明確に示しています。
2021年度の次期介護報酬改定に向けて、2018年度改定の効果を2020年度も検証
また1月24日の介護給付費分科会では、2018年度の前回介護報酬改定の効果検証調査(2020年調査)の方向性等を固めています。
介護報酬は3年に一度、大きな見直し(改定)が行われます。その目的の1つとして「介護、医療現場の課題を解決し、介護・医療の質を向上させる」ことがあります。このため、介護報酬等改定においては「前回改定で、課題解決に向けて行った見直しの効果・影響はどうであったか」を見極め、それをベースに考えていくことが必要となります。
もっとも改定の内容によって「効果・影響がすぐ現れる」ものもあれば、「効果・影響が現れるまでに時間がかかる」ものもあります。さらに重要項目について「継続的にウォッチしていく」ことが必要です。そこで、2018年度改定の効果・影響については、2018・19・20年度の3回に分けて調査していくこととされ、2020年度には次の5項目を調査することとなりました。
(1)介護保険制度におけるサービスの質の評価
(2)福祉用具貸与価格の適正化
(3)訪問介護における2018年度改定の影響
(4)医療提供を目的とした介護保険施設等のサービス提供実態および介護医療院等への移行
(5)認知症対応型共同生活介護等における2018年度改定の影響
このうち(1)では、科学的介護に関するデータベース「CHASE」(認知症や口腔、栄養に関する26項目のデータを格納)の2020年4月からの稼働を踏まえ、▼CHASE等により収集されたデータを分析したうえで事業所・施設へフィードバックを実施し、その効果が介護サービスの質の向上に資するかを検証する▼既存の加算について、算定要件を精査し、加算の効果として利用者の状態の維持・改善等を客観的なアウトカム指標で評価できるかなどを網羅的に検証する―内容となっています。より実践的に「サービスの質の評価」が行える調査へと進化を見せています。
また(3)は、2018年度改定に向けた議論で問題視された「生活援助の回数が極めて多いケアプラン」や「見守り的援助」などの状況を詳しく見ていきます。
さらに(4)は、介護療養などから介護医療院への移行状況等を詳しく調べます。
今後、調査項目を固め、今夏に調査を実施。9―10月には速報値が介護給付費分科会に報告され、2021年度の次期介護報酬改定(今春から議論スタート)につなげられます。
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