来年度(2017年度)から、介護職員処遇改善加算に上位区分設けることを了承―社保審・介護給付費分科会
2016.12.9.(金)
介護職員について、「▼経験年数▼資格▼事業所内での評価―のいずれかに応じて定期的に昇給する」という新たなキャリアパス要件を満たし、月額3万7000円相当の処遇改善を行うことを要件とする、新たな介護職員処遇改善加算の区分を設ける―。
9日に開催された社会保障審議会の介護給付費分科会で、こういった点が了承されました。
今後は、年末の予算編成過程で「必要な財源」を確保し(分科会では保険料負担増にならないよう、別途の税財源確保を求める強い意見があった)、年明けの諮問・答申を経て、改正内容の告示、関連通知などの発出が行われます。鈴木老人保健課長は「前回(2015年度)改定と同じようなスケジュールになるのではないか」と見通しており、それに習えば「年明け2月上旬に答申」「3月初めに告示、関連通知の発出」といったスケジュールが予想されます。
経験年数・資格・評価などに応じた「定期的な昇給」体制を新要件に
介護人材の確保・定着に向けて、今年(2016年)6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」などでは、「介護人材の処遇について、2017年度からキャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当の改善を行う」との方針が打ち出されました(関連記事はこちら)。
厚生労働省はこの方針に沿って、「2017年度に介護職員の処遇改善に向けた臨時の介護報酬改定を行う」ことを決定。9日の分科会で、現行の介護職員処遇改善加算(I、II、III、IV)の上に、新たな区分を設ける(新区分が加算Iとなり、他の区分は準備I→II、II→III、III→IV、IV→Vとなる見込み)ことが了承されました。改めて内容を振り返ってみましょう。基本的には、11月16日の前回会合で示されたものと変わりませんが、若干、詳しくなった部分もあります。
【新たな介護職員処遇改善加算Iの要件】
▼月額3万7000円相当の処遇改善を行う
▼現在の加算I(2015年度の介護報酬改定で新設、17年度から加算IIとなる見込み)の要件である、▽キャリアパス要件I(介護職員の任用要件や賃金体系を定め、すべての介護職員に周知するなど)▽キャリアパス要件II(介護職員の資質向上計画を定め、また研修実施などを行うとともに、これらをすべての介護職員に周知するなど)▽職場環境要件(2015年4月以降の賃金改善実績の職員への周知)―のすべてを満たす
▼新たに、事業所内で(1)経験年数(2)資格(3)事業所内での評価―のいずれか(組み合わせも可能)に応じた昇給(基本給、手当、賞与などを問わない)の仕組みを設け、これを就業規則等の明確な根拠規定の書面での整備・全ての介護職員への周知している(キャリアパス要件III)
キャリアパス要件IIIについては、9日に概ね了承された「審議報告」案において、次のように詳説されました。ただし、後述するように、これらはあくまで「例示」です。
(1)経験に応じて昇給する仕組み:勤続年数、経験年数などに応じて昇給する仕組みを想定している
(2)資格などに応じて昇給する仕組み:介護福祉士、実務者研修修了者などの資格に応じて昇給する仕組みを想定(ただし、介護福祉士資格を有して、当該事業所や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みでなければならない)
(3)一定の基準に基づき、定期的に昇給を判定する仕組み:実技試験、人事評価などの結果に基づき昇給する仕組みを想定(ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていなければならない)
このうち(2)の「ただし書き」について、厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は、「今後、養成施設ルートなどを通って、介護福祉士資格を有する新人職員が介護事業所などに入職するケースが増えてくると考えられる。その際、介護福祉士がキャリアパスの最終段階であれば、その新人職員はキャリアを積むことができない。それは困るので、(2)の仕組みを構築するのであれば、介護福祉士資格の上に『別の資格』を設けたり、(1)や(3)と組み合わせるなどして、さらにキャリアを詰める仕組みとすることを求めたものである」と説明しています。したがって、単純な「介護福祉士取得手当」にとどまるものであれば、キャリアパス要件IIIを満たしているとは言えないと考えられます。
前述のように(1)から(3)は、いずれか1つの仕組みであっても、複数を組み合わせてもよいとされており、介護事業所の実情(例えば小規模事業所では、勤続年数などに応じる仕組みが設けやすいなど)に合わせた柔軟な仕組みを設定できることになります。詳細は、年明けに告示(介護報酬)や通知、Q&Aなどで順次示されることになります。
こうした新加算区分を設けることに対し反論は出ませんでしたが、「今後、処遇改善加算そのものをどう考えるか」という点については、委員それぞれがさまざまな見解を持っています。
伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)らは、介護職の魅力を増すために、「さらなる処遇改善(全産業平均並み)」を行うよう要望。また、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、「加算を始めとする処遇改善と、人材確保のための医療介護総合確保基金とが別個に議論されている。分科会でセットで議論すべき」と提案しました。
一方、費用負担者である本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は、「そもそも加算とはサービス向上の対価である」とし、介護職員の処遇改善に保険料財源を充てる考え方を批判しました。
いずれの委員も「介護職員処遇改善加算の在り方」について、引き続き検討していくという点では共通しており、2018年度の介護報酬・診療報酬同時改定に向けて、基本的な部分からの議論が行われる見込みです。
また、合わせて加算の対象(介護職員以外も含めるべきか)や加算の方法(教育、研修、職場環境改善などへの活用)についても、実態調査結果を踏まえて、2018年度同時改定に向けた議論が行われます。
地域区分、2018年度同時改定に向けて一部見直し
9日の分科会では、「地域区分の見直し」についても了承されました。
これも11月16日の前回会合で示されたもので、現行の仕組みでは「隣接地域すべての地域区分が、自地域より高くなる」地域、逆に「隣接地域すべての地域区分が、自地域より低くなる」地域においては、地域区分を一定の範囲から選択できるとする特例を創設するものです(当該地域の地域区分の設定値から、隣接地域のうち一番低い、あるいは高い区分までの範囲で選択)【完全囲まれルール】。
また、経過措置(2015年度改定前の設定値と新たな設定値の範囲内で選択し、激変を避ける)についても、地方自治体の要望を踏まえて2020年度末まで延長することが了承されています。
これらは2018年度の同時改定で実施されることになりますが、現場(市町村)の意向を十分に汲むために、早期の方針決定となったものです。
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