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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

介護費用の分担、現役世代の頭割りを維持すべきか、負担能力も勘案していくべきか―介護保険部会(2)

2016.8.22.(月)

 公的介護保険の費用は、現在、公費50%、40歳以上の現役世代と65歳以上の高齢者の保険料50%という形で分担している。現役世代の支援金について、被用者保険が負担する部分を「頭割り」とすべきか、それとも「負担能力も勘案」すべきか―。

 19日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会では、こうしたテーマについても議論が行われました(関連記事はこちら)。

8月19日に開催された、「第61回 社会保障審議会 介護保険部会」

8月19日に開催された、「第61回 社会保障審議会 介護保険部会」

現役世代は各医療保険の加入者数に応じて介護費用の一部を負担

 公的介護保険の費用は2014年度には9兆2445億円となり、ここから利用者の自己負担を除いた給付費は8兆3786億円となっています。2000年度の介護保険スタート時には、介護費は3兆6273億円でしたので、14年で2.55倍に増加している計算です。

 このように膨張を続ける介護費は、公費(国、都道府県、市町村)が50%、40-64歳の現役世代(第2号被保険者)・65歳以上の高齢者(第1号被保険者)の保険料50%という具合に分担して、いわば国民全体で負担しています。

 このうち「40-64歳の現役世代からの保険料」については、医療保険(健康保険組合や協会けんぽなどの被用者保険、国民健康保険)の保険料に上乗せされています。この上乗せの仕方について、現在は「各医療保険の加入者数」に応じてそれぞれの医療保険者に割り振られています。

負担能力の勘案は、「公平性」には資するが、介護保険の理念を変革する可能性も

 しかし、特に被用者保険の間で「割り振りの仕方に不公平があるのではないか」という指摘があります。

 被用者保険には、大きく分けて(1)公務員の加入する共済組合(2)主に大企業のサラリーマンとその家族が加入する健保組合(3)主に中小企業のサラリーマンとその家族が加入する協会けんぽ―があります。

 (1)~(3)の各被用者保険が負担する介護納付金(これを加入者それぞれに保険料として負担してもらっている)は、前述のように「各被用者保険の加入者数」に応じて割り振られます(加入者割)。しかし、(3)の協会けんぽでは、(1)の共済組合や(2)の健保組合の多くと比べて給与水準が低いため、結果として保険料の負担割合が高くなっているのです。また(2)の健保組合の中にも、給与水準の高い組合から低い組合までさまざまあり、後者の組合では同様に負担割合が高くなっています。こうしたことから、「加入者数に応じた割り振りの仕方」から「負担能力も加味した割り振りの仕方」(総報酬割)へと見直すべきではないかという議論が出ているのです。

 「負担能力も加味した割り振り」にした場合、給与水準の低い(3)の協会けんぽでは現在よりも負担が減り、給与水準の高い(1)の共済組合や(2)の健保組合の多くでは現在よりも負担が増加します。

 この議論は医療保険でも同様になされており、75歳以上の後期高齢者医療制度を支えるための支援金については、かつての加入者割(加入者数に応じた割り振り)から段階的に総報酬割(負担能力も加味した割り振り)に置き換えられています(関連記事はこちら)。

 この「負担能力も加味した割り振り」(総報酬割)の導入は、より公平な負担を図るものと言え、19日の介護保険部会でも鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)や栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)らは導入に賛成。また土居丈朗委員(應義塾大学経済学部教授)も「社会保険料負担では、消費税よりも強い逆進性(低所得者のほうが負担割合が相対的に重くなる)がある。その原因の1つに介護納付金などの『定額負担』があり、定率な負担となる総報酬割を導入し、逆進性を緩和する必要がある」旨を強調しています。

 一方、健保組合や経済団体は総報酬割の導入には反対しています。佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)らは、反対する理由について主に次の3点をあげています。

(a)健保組合などでは急激な負担増となる(全面総報酬割とすると健保組合全体では980億円、共済組合全体では390億円の負担増となる。1人当たりで見ると、健保組合では727円、共済組合では1972円、保険料が上がる計算)

(b)介護保険の理念を大きく変えることになる

(c)国庫補助を健保組合や共済組合が肩代わりすることになる

 このうち(b)は、「2号被保険者はほぼ給付を受ける立場にない」という介護保険の特性・理念を考慮したものです。介護保険創設時に「40歳以上になれば、『親の介護』が切実な問題として社会連帯・世代間扶養の意味合いを持つ負担にも納得してもらえる」として第2号被保険者にも負担を求めることになりましたが、「ほぼ給付を受けることはない」という点を考慮し、負担の仕組みを「加入者数に応じた負担」としたという経緯があります。総報酬割の導入は、この制度創設時の考え方を変更することになるため、より慎重な議論をする必要があると佐野委員・井上委員は指摘するのです。

 また現在、協会けんぽと健保組合などの給与水準の格差を考慮して、協会けんぽには国庫補助が行われていますが、総報酬割が導入されれば、給与水準の格差を考慮する必要が一部なくなるため、その分の国庫補助が廃止されるのです。この点、佐野委員や井上委員は「視点を変えれば、国庫補助を健保組合などに肩代わりさせるもの」と批判しているのです。

 ちなみに医療保険では、後期高齢者支援金への総報酬割導入で浮いた国庫負担分は、国保の財政安定化に充当されていますが、介護保険でどの部分に該当するのかについて厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は「まず総報酬割を導入すべきか否かという議論が先であろう。仮に導入が決まった後に、段階的に導入するのか(導入手法)や国庫補助分の使徒について議論していただく必要がある」旨を説明するに止めています。

 安倍晋三内閣が閣議決定した骨太方針2015などでは、介護納付金への総報酬導入について「審議会などで検討し、2016年末までに結論を出す」よう指示していますが、このように賛成派・反対派(慎重派)の間で意見には相当の隔たりがあり、今後の議論に注目が集まります。

後期高齢者の加入割合などによる格差を是正する調整交付金、見直しによって機能強化

 前述のように介護保険制度では、65歳以上の高齢者(第1号被保険者)自身も保険料を負担します。この保険料は市町村ごとに「介護費の高い地域では高い保険料」「介護費の少ない地域では低い保険料」という具合に設定されます。

 ところで介護の必要性は年齢に応じて高くなる(要介護認定率は、65-69歳では2.9%だが、75-79歳では13.7%、80-84歳では29.4%、85-89歳では50.9%、90-94歳では72.3%、95歳以上では85.6%と上昇する)ため、より高齢者の多い自治体では介護費が高くなりがちですが、これを「自治体の責任」として高い介護保険料を設定することは好ましくありません。

 そこで介護保険制度では、▽要介護リスクの高い後期高齢者の加入割合▽高齢者の所得段階別の加入割合―に着目して、格差の是正を行っています。具体的には、給付費全体の5%に相当する国庫負担金を活用して、上記のような「保険者の責めによらない」理由によって第1号保険料が高くなってしまう市町村に対する補助(調整交付金)を行っています。

 この点、厚労省の予測では「今後、高齢化進むにつれて、現在の調整交付金の枠組みでは、調整機能が低下してしまう」ことが分かっています。いずれの市町村でも後期高齢者が増加してしまうためです。

 そこで厚労省の竹林介護保険計画課長は、調整交付金について、例えば▽65-74歳▽75-84歳▽85歳以上―といった基準の区分を細分化して、調整機能を強化してはどうかとの提案を行っています。この提案に対して特段の反対意見は出ておらず、次期介護保険制度改正で見直されることになりそうです。

 
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