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介護保険の被保険者対象年齢、「40歳未満」への引き下げは時期尚早―介護保険部会

2016.9.1.(木)

 介護保険の被保険者は、現在「65歳以上の第1号被保険者」と「40歳以上の第2号被保険者」であるが、より低年齢(例えば30歳以上など)に被保険者対象を拡大し、負担を求めていくべきか―。

 8月31日に開催された社会保障審議会の介護保険部会では、こういったテーマについて議論を行いました(関連記事はこちらこちら)。

 「直ちに被保険者対象を拡大すべき」という意見は出ず、現在の「40歳以上」とされる被保険者の対象年齢引き下げは来年の制度改正では行われない見込みです。もっとも、「介護保険を高齢者介護に限定せず、給付対象を年齢や原因で限定しない普遍的な制度を目指すべき」とする意見も少なからず出されており、将来的にさらなる議論が必要でしょう。

8月31日に開催された、「第62回 社会保障審議会 介護保険部会」

8月31日に開催された、「第62回 社会保障審議会 介護保険部会」

2021年をピークに40歳以上の人口は減少、制度をどう維持するかも重要視点

 我が国の介護保険制度は、(1)65歳以上の高齢者(第1号被保険者)では、原因を問わず要介護・要支援状態であれば給付対象とする(2)40-64歳(第2号被保険者)では、末期がんなど16の特定疾病により要介護・要支援状態になった場合のみ給付対象とする―という仕組みになっています。

 制度創設の過程で「年齢・原因を問わず要介護状態であれば、障害者を含めて給付対象としてはどうか」といった議論もありましたが、目の前にあった「高齢者介護」問題(例えば家族介護や社会的入院など)を解決することが先決などと判断され、現在の形に落ち着きました。

 しかし制度創設後も、「高齢者の介護保険」を維持するべきか、「制度の普遍化」(年齢・原因を問わず介護ニーズに対応する)を図るべきか、といった「制度の理念」に関するテーマについて断続的に議論されています。

 このテーマは「被保険者対象の拡大(年齢引き下げ)」という問題とも関連します。「高齢者の介護保険」を維持する考え方によれば、若人が給付を受けられるケースは限定されるため、安易な対象拡大は困難です。一方「制度の普遍化」を目指すのであれば、若人も給付を受けられるケースが広がるので、理論的には対象拡大が比較的容易に行えます(もちろん負担を求められる若人の納得も必要ですが)。

 8月31日の介護保険部会でも、この問題について議論が行われました。その背景には、「制度の理念」はもちろん、「介護保険財政の維持」という重要な要素があります。

 介護保険を支える被保険者数の推移を見ると、次のように「今からわずか5年後である2021年をピークに減少していく」ことが分かっており、さらに被保険者に占める第2号(40-64歳)の割合が将来的に減少してしまうのです。これは介護保険制度の維持が難しくなることを意味し、制度の支え手である被保険者を拡大、つまり対象年齢を引き下げていくことが必要となるのです(2040年には30歳以上を第2号被保険者とすると、制度創設時と同程度の母数を確保できる)。

▽2000年の被保険者は6575万人(1号2204万人、2号4371万人)、2号の占める割合は66.5%

▽2010年の被保険者は7293万人(1号2948万人、2号4344万人)、2号の占める割合は59.6%

▽2020年の被保険者は7787万人(1号3612万人、2号4175万人)、2号の占める割合は53.6%

▽2030年の被保険者は7626万人(1号3685万人、2号3941万人)、2号の占める割合は51.7%

▽2040年の被保険者は7192万人(1号3868万人、2号3324万人)、2号の占める割合は46.2%

▽2050年の被保険者は6664万人(1号3768万人、2号2896万人)、2号の占める割合は43.5%

 部会の議論では、専ら費用を負担する立場にある岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)や佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)らが、「受益と負担の関係を考慮すると、被保険者年齢の引き下げは若者の納得を得られない。まず給付の効率化や重点化を進めるべきである」と述べ、被保険者対象の拡大に明確に反対しました。

 一方、齊藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会乗務理事)や岩村正彦部会長代理(東京大学大学院法学政治学研究科教授)らは、「介護ニーズは年齢・原因に関係なく発生し、第2号被保険者は給付が限定されているという問題があり、我が国でも将来的に『制度の普遍化』を目指すべきである」との考えを表明。ただし、直ちに「制度の普遍化」や「被保険者対象の拡大」を行うべきとは求めず、「第2号被保険者への給付の見直し」や「若い制度への理解を求めていく」ことをまず進めるべきとしています。

 また、医療提供者である鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)や武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)も、将来的には「被保険者対象の拡大」や「制度の一定程度の普遍化」はやむを得ないとの見解を披露しています。

 さらに部会には若年者の委員がいないことから、「(仮に拡大するとしても)若者を交えた議論をしなければ理解が得られない」として、別の検討組織が必要とする意見も佐野委員や東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)から出されました。

 こうした意見を踏まえると、来年に予定される介護保険制度改正において「被保険者対象の拡大(年齢引き下げ)」は行われない模様です。

 

 なお、介護保険制度の基本的な考え方について、2007年の「介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する有識者会議」では、▽「制度の普遍化」を目指すべきとの意見が多数▽直ちに被保険者を拡大することには慎重であるべきとの意見も強い―旨の中間報告を行っています。当時と現在の状況を比較して厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は、「あくまで個人的な見解である」との前提を置いた上で、「被保険者数の減少が5年後に迫っており、危機感が強くなっているのではないか」とコメントしています。

現金給付の導入には反対意見多数だが、「利用者の選択に任せては」との意見も

 8月31日の介護保険部会では、(a)リハビリ機能の強化(b)中重度者への在宅サービスの強化(c)安心して暮らすための環境整備(d)地域強制社会の実現(e)現金給付―といったテーマについても議論を行いました。

 (a)は通所リハビリ(デイケア)と通所介護(デイサービス)の役割をどう考えるかというテーマです。通所介護事業所の中にもリハビリを強化しているところがあり、「両者の違いが分かりにくくなっている」との指摘がありました。2015年度の介護報酬改定でも、この点が重視され、通所リハビリについて▽リハビリマネジメントの強化▽リハビリ機能の特性を生かしたプログラムの充実―を柱とする見直しが行われました(関連記事はこちらこちらこちら)。

 この点については、「通所リハと通所介護の一体化は難しいが、一定の指標をおいて質の評価をしていくことが重要である」(鈴木委員)、「介護保険サービスである以上、通所介護であっても機能維持・改善を目的とすべきであり、通所サービスを統合していくべきではないか」(齊藤秀樹委員)、「要介護状態である高齢者であっても、リハビリを通じて機能改善していくことが重要である。そのためにはリハ専門職の配置が重要で、配置人数に応じた報酬設定とすべきである」(武久委員)など、さまざまな意見が出ています。2018年度に予定される次期介護報酬改定に向けた議論似も、今後注目する必要があります。

 

 また(b)は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護や、看護小規模多機能型居宅介護などをより充実していくための方策が重要な論点となっています。この点については「人員配置基準や入所者定員などを緩和し、より使いやすくするべき」(鈴木委員)、「在宅サービスを利用していたときのケアマネジャーが、小規模多機能型居宅介護などを利用すると別にケアマネジャーに代わってしまう。マイケアマネジャー制度介護などを創設する必要がある」(武久委員)といった、やはり介護報酬に関連する意見が多く出されました。

 

 (e)の現金給付については、「利用者の選択に任せるべき」(栃本一三郎委員:上智大学総合人間科学部教授)といった意見も出ましたが、多くの委員は「家族介護を強いることにつながり、『介護の社会化』という介護保険の最大の理念に逆行する」と強く反対しています。ちなみにドイツでは、現物給付の半額程度の現金給付(要介護5では、すべて現物給付を使う場合には1か月当たり1995ユーロ分が給付されるが、すべて現金給付とした場合には901ユーロ)が制度に設けられており、利用者が両者を自由に組み合わせて使うことができます。

 我が国では、介護保険創設に当たって「家族介護からの脱却」を重要な視点の1つに据え、「制度創設当初はサービスが不足するので、現金給付を導入すれば家族が介護する現状を変えることはできない」との意見が強く、現金給付は導入されませんでした。また「現金給付は給付費増にも繋がる」という指摘もあります。

 現金給付をとりまく状況に大きな変化はないようですが、サービスが充実してきたことを踏まえ、バウチャー(介護サービス利用のみに使える利用券)などは将来的に重要な検討テーマになる可能性もあります。

 
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