新たな処遇改善加算、「技能・経験ある介護職」「他の介護職」「その他職種」で傾斜配分へ―介護給付費分科会
2018.11.1.(木)
来年(2019年)10月に予定される介護報酬の消費税対応改定に合わせて、「処遇改善」に向けた加算創設が検討されているが、その際には、まず「技能・経験のある介護職員の多い介護サービス」で加算率が高くなるように財源配分を行い、各事業所においては(1)技能・経験のある介護職員(2)他の介護職員(3)その他職種―という傾斜を付けて処遇改善を行うことを求めてはどうか―。
10月31日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、こういった提案を行いました。今般の処遇改善の趣旨が、まず「技能・経験のある介護職員への重点化」にあり、次いで「他職種への柔軟な運用」にある点を踏まえた内容で、委員も概ね了承しています。もっとも、詳細な仕組みについてはさらなる議論が必要です(関連記事はこちらとこちら)。
目次
サービスごとの「技能・経験のある介護職員」割合に応じ財源配分(加算率設定)
来年(2019年)10月の消費税率引き上げ(8% → 10%)に伴い、介護事業所・施設の控除対象外消費税負担を補填するため「特別の介護報酬プラス改定」(以下、消費税対応改定)が行われます。あわせて安倍晋三内閣では、▼介護人材の確保▼介護人材の定着—の重要性に鑑み、「消費税対応改定において、介護職員の更なる処遇改善を行う」方針を決めています。「勤続10年以上の介護福祉士(およそ20万人)の賃金水準を全産業平均程度にまで引き上げる(月額8万円程度の引き上げ)」ことを算定根拠に、1000億円の公費を確保(20万人×月額8万円→2000億円、これを保険料と公費で2分の1づつ負担するため、公費が1000億円確保されている)し(新しい経済政策パッケージ)、現在、介護給付費分科会で具体的な検討が進められています。
眞鍋老人保健課長は、「新しい経済政策パッケージ」の視点は、▼介護職員の更なる処遇改善▼とくに「技能・経験のある介護職員」に重点化した処遇改善―を主眼とし、この趣旨を損なわない範囲で「柔軟な運用(他職種への拡大)」が可能になっていると読み解き、これまでの介護給付費分科会の議論も踏まえて、次のような制度骨格案を提示しました。
まず、各サービスへの財源配分の考え方については、「経験・技能のある介護職員」が多い介護サービスが高く評価されるようにする考えが示されました。例えば、現在の【介護職員処遇改善加算】のように、「基本報酬に一定の加算率を乗じる仕組み」とした場合、「技能・経験のある介護職員」の割合に応じて加算率を設定する、ことなどが考えられます(現在の【介護職員処遇改善加算】に、新たな処遇改善加算を上乗せすることなどが考えられる)。
2017年介護サービス施設・事業所調査と2015年度社会福祉士・介護福祉士就労状況調査から、職員に占める「技能・経験のある介護職員」(同一法人内で10年以上勤続する介護福祉士)の割合を推計すると、▼訪問介護:17.3%▼老人保健施設:12.5%▼特別養護老人ホーム:12.3%▼地域密着型特養ホーム:11.1%▼夜間対応型訪問介護:9.1%―などで高くなっており、逆に、▼訪問看護▼福祉用具貸与▼居宅介護支援(ケアマネ)—では、「技能・経験のある介護職員」はゼロ%となっています。
この仕組みを検討するに当たっては、さらに次の2つの論点があると言えます。
▼論点1:「技能・経験のある介護職員」がゼロ%である訪問介護などを、新たな処遇改善の対象とするか
▼論点2:同じサービスでも、事業所・施設によって「技能・経験のある介護職員」の割合は大きく異なると考えられ、その点をどう考慮するか
前者の論点1「訪問看護」などの取扱いについては、「技能・経験のある介護職員の処遇改善という趣旨に照らせば、訪問介護などは対象から除外すべき」という意見(瀬戸正嗣委員:全国老人福祉施設協議会理事・統括幹事ら)、「他職種への柔軟な活用という点で多くの介護事業所・施設が期待しており、それを裏切るべきではない」という意見(伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)、「医療的ケアが必要な要介護者が増加しており、訪問看護の重要性は増している。訪問看護ステーションの運営安定に向け、マネジメント職員への処遇改善は認めてほしい」という意見(齋藤訓子委員:日本看護協会副会長)、「他産業と遜色ない給与水準となっている職種の処遇改善はおかしい」(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)など、さまざまです。各職能団体の思惑(自団体へより多くの財源を確保したい)も絡み、まだまだ議論・調整が必要な状況です。
なお、これは「どのサービスを対象とするべきか」という議論であり、「事業所内で、どの職種を対象とするか」とは別の論点であることに留意が必要です(前述のように、他職種への一定の柔軟な運用が可能とされている点は固まっている)。
また後者の論点2は、「同じサービスであっても、技能・経験のある介護職員の割合が多い事業所・施設では、財源を多く配分すべきではないか(例えば加算率を変えるなど)」という、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らの問題提起によるものです。確かに、同じ訪問介護でも、「勤続10年以上の介護福祉士が20%配置されている」A事業所と、「勤続10年以上の介護福祉士が1%しかいない」B事業所で、同じ加算率とするのは不公平ではないか、とも思えます。
この点、眞鍋老人保健課長は「現状では、事業所ごとに技能・経験のある介護職員の配置状況などを把握することは難しい」と技術的に大きな課題があることを説明。今後、どこまで工夫が可能なのか探っていくことになります。
キャリアパス、職場環境などの加算取得要件を設定
「新たな処遇改善加算」は、すべての事業所・施設で取得できるわけではなく、介護職員の確保・定着に向けた取り組みを行うなどの「要件」を満たさなければなりません。
眞鍋老人保健課長は、要件設定の考え方として、▼キャリアパスや研修体制の構築▼具体的な取り組みの見える化―などを検討してはどうかと提案しました。現在の【介護職員処遇改善加算】にもキャリアパス要件が組み込まれており、2017年度の臨時介護報酬改定で新設された【加算I】では、▼キャリアパス要件I:介護職員の任用要件や賃金体系を定め、すべての介護職員に周知するなど▼キャリアパス要件II:介護職員の資質向上計画を定め、また研修実施などを行うとともに、これらをすべての介護職員に周知するなど▼キャリアパス要件III:事業所内で「経験年数」「資格」「事業所内での評価」のいずれか(組み合わせも可能)に応じた昇給の仕組みを設け、すべての介護職員への周知する―といった内容となっています。これらを勘案しながら、要件を具体的に検討してくことになるでしょう。
この点、委員からは「介護職員の離職理由の上位は、人間関係や法人の運営理念、結婚・出産などであり、これらへの対応も要件化すべき」(東委員)との意見が複数でています。さらに江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、▼「職員の悩み相談」窓口の設置▼夜勤明けのインターバル確保▼女性職員への支援—などを具体的に検討すべきと提案しています。
処遇改善、経験や職種におうじた「傾斜」を設定、柔軟な運用も視野に
各事業所・施設が加算を取得するには「実際に処遇改善を行う」ことも、極めて重要な要件となります。
この点について眞鍋老人保健課長は、「(1)技能・経験のある介護職員(2)他の介護職員(3)その他職種―という傾斜を付けて処遇改善を行うことを求めてはどうか」との考えを示しました。重点化と柔軟化の双方を勘案した提案と言え、委員からも「傾斜」そのものへの特段の反対意見は出ていません。
今後、「傾斜」の付けたについて具体的に考えていくことになりますが、事業所・施設により「柔軟な対応」が一定程度可能となる見込みです。各事業所・施設それぞれで状況(人員配置など)が異なることから、一律の基準を適用することは、かえって人材確保・定着を難しくする可能性もあるためです。
例えば、(1)の「技能・経験のある介護職員」については、「同じ法人・事業所での勤続年数10年以上の介護福祉士」が基本となりますが、委員からは「『介護業界で10年も働いていただき、ありがとう』と考え、介護業界での経験をすべて踏まえるべき」(江澤委員、武久洋三委員:日本慢性期医療協会会長)、「新設の事業所が不利にならないように配慮すべき(同一事業所での10年以上勤務とすると、開設9年以下の事業所・施設は取得できなくなってしまう)」(瀬戸委員)、「利用者・入所者の微妙な変化に気づくなど、介護職員のスキルも併せて評価すべきではないか」(石田路子委員:高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)といった意見が出ています。
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