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0830CQI研究会GemMed塾

有料老人ホームの適切な開設・運営のため、民間の創意工夫を阻害しない形で「一定の規制強化」を検討してはどうか—有料老人ホーム検討会

2025.6.25.(水)

有料老人ホームは、都市部等では「介護保険施設に入所できない要介護高齢者」の受け皿として重要な役割を果たしているが、一部に、好ましくない形での運営も行われている—。

「民間の創意工夫」に水を差さない形で、一定の規制(事前の登録制、自治体(都道府県、市町村)の指導権限の強化など)を考えるべきではないか—。

また、実質的に「介護の場」となっていることを考慮し、事業者側の負担にも配慮しながら、例えば「重度者が恒常的に多く入居している」ホームなどについて、介護・医療の専門職配置の基準なども検討すべきではないか—。

6月20日に開催された「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こうした議論が行われました。駒村康平座長(慶應義塾大学経済学部教授)と厚生労働省で構成員意見を踏まえて修文し、「これまでの議論の整理」(言わば中間整理)を確定。その後、さらに議論を続け、今秋(2025年秋)に最終とりまとめを行い、社会保障審議会・介護保険部会等の介護保険制度改革論議につなげます(関連記事はこちら)。

過度な規制は好ましくないが、利用者等保護のための一定の基準・規制が必要では

高齢で要介護度が重くなった場合、「介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院)に入所し、施設の介護サービスを受ける」という選択肢がありますが、▼都市部では介護保険施設の整備が難しい(土地代が高いため、介護報酬では経営が難しい)▼比較的所得の高い層では「より良いサービス」を求める—などの理由から、「有料老人ホーム」のニーズが高まっています。

有料老人ホームは、大きく次の3タイプに分けられます。
(a)介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護の指定を受けた有料老人ホーム)
→介護が必要となった場合には、有料老人ホームが提供する介護サービス(特定施設入居者生活介護)を利用する(有料老人ホームが自らサービスを実施する場合と、提携外部事業者が実施する場合がある)

(b)住宅型有料老人ホーム
→介護が必要となった場合には、利用者が「外付けの訪問サービス等」を利用する

(c)健康型有料老人ホーム
→介護が必要となった場合には退去し、別の施設等に移る

有料老人ホーム、サ高住1(社保審・介護保険部会(2)2 250317)

有料老人ホーム、サ高住2(社保審・介護保険部会(2)3 250317)

有料老人ホームとサ高住(社保審・介護保険部会(2)4 250317)



しかし昨今、有料老人ホームなどをめぐり▼ホームの経営が破綻し入居者が行き場を失ってしまう▼ホーム側が病院や紹介会社に高額な紹介料を支払って重度の入居者の紹介を受ける▼一部の住宅型有料老人ホームで過剰な介護サービス提供(いわゆる囲い込み、例えば、有料老人ホームが入居者に「同一法人等の介護サービス」受給を義務付け、必要性にかかわらず区分支給限度基準額いっぱいまでサービスを提供するなど)が行われている▼要介護高齢者・家族の視点には「様々な高齢者向け住宅があるが、介護サービス利用の仕方も、費用等も大きく異なり、どこが自身に適しているのかが分かりにくい—といった問題点が指摘されています。

有料老人ホームでは過剰サービス提供が起こりやすい(社保審・介護保険部会(2)6 250317)



そこで検討会では、こうした問題の解決に向けて、▼適切な運営、適切なサービス提供のあり方▼行政による指導監督のあり方▼いわゆる「囲い込み」への対策—などを議論し、今般、これまでの構成員意見の整理を行いました。次のような点に注目が集まります。

●「これまでの議論の整理」(案)はこちらこちら(概要)

【ホームの運営、サービス提供のあり方】
(1)サービスの質の確保等

(有料老人ホームの役割)
◆ 入居者像の多様化が進むなか、その状況を踏まえた高齢者向け住まいに求められる役割を考えていく必要がある
◆ 高齢者向け住まいにおいても看取りの対応が進んでおり、人生の最期まで尊厳が保たれるサービスになっていくべき

(介護・医療サービスの質の確保)
◆ 医療処置が必要な入居者が一定数存在するなか、リハビリテーションや医療系サービスとの連携を通じた適切な支援が必要
◆ 入居者の介護・医療ニーズに応じたケアの提供が必要にも関わらず職員体制に関する明確な基準がないことが課題であり、最低限の基準が必要で、重度者が入居する場合には施設長や職員が、重度者への対応についての基本的な知識を有することが必要
◆ 利用者の生命、身体、人権に関わるサービスであるという視点が何よりも重要である

(安全性の確保)
◆ 入居者・家族が一体的にサービス提供を受けられると思って入居しても、高齢者施設・住まいの種類、類型が異なるだけで介護事故が起きた場合の結論に開きがある現状については検討すべき

(2)利用者による有料老人ホームやサービスの適切な選択
(入居契約の性質や契約規制の必要性)
◆ 住宅型は入居契約のみ締結されるが、実情として住まいとケアが一体的に提供されており、契約内容と実態との乖離がある
◆ 利用者の生命等に関わるサービス内容であり、サービス提供の中身や質が契約において何よりも重要な要素となる
◆ 情報や交渉力に格差がある中で契約締結されるため、利用者に不利な内容となる可能性があり、契約内容の不明確さや質の評価の困難性も課題である
◆ 契約締結前の情報提供のあり方や説明義務、広告表示の規制強化、公的関与の拡大も検討すべき

(望ましい情報提供のあり方)
◆ 利用者がサービス内容を適切に理解した上で選択できるよう、介護サービス事業者や協力医療機関の情報を公表するなど、情報の透明性を高めるべき
◆ 有料老人ホームで提供される介護サービスの「主たる介護サービス事業者の情報」を公表するべき

(入居契約時の説明・説明されるべき事項)
◆ 介護サービスの有無や費用の内訳を利用者が正確に理解した上で契約することが重要であり、例えば、独自サービスや家賃以外の費用の内容や、表示価格には介護サービスが含まれていないこと等を、契約書や重要事項説明書、ホームページなどに明記することが必要

(高齢者や家族等への意思決定支援の必要性)
◆ 本人が有料老人ホームに赴かず、入院しながらでも、自ら選択し納得のうえで入居することができる環境の整備が必要
◆ 本人が納得して選択できるよう、信頼性の高い情報提供が必要であり、医療機関と高齢者向け住まいとの連携や相談窓口の整備が必要

(入居者紹介事業の役割と課題)
◆ 高齢者向け住まいへの入居者紹介事業者は、高齢者やその家族の意思決定支援という役割も担い得ることを認識したうえで責任を持って事業を行う必要がある
◆ 高齢者自身の情報処理能力の低下(65歳を過ぎると、認知症でない者でも情報処理能力が毎年低下するとの研究結果あり)を踏まえ、入居者紹介事業者と利用者の間の環境整備や、入居者紹介事業者の役割についての啓発が必要。また、入居者紹介事業者と有料老人ホーム運営事業者との間の契約関係や、責任関係の明確化が必要
◆ 紹介手数料が本人の疾患や状態によって決まることは、社会保障の観点から問題があり、是正が必要
◆ 届出制や登録制の導入や、国が認める資格制度が検討されるべき

(3)有料老人ホームの定義
◆ 介護付き・住宅型・健康型の3類型の定義等は再考すべき

(4)地域毎のニーズや実態を踏まえた介護保険事業(支援)計画の作成に向けた対応
◆ 第8期介護保険事業(支援)計画以降、将来必要な介護施設等の整備量を定めるにあたって高齢者住宅の供給量を考慮することが求められているが、実際に対応している自治体は少なく、今後はその周知と対応の促進が必要ではないか

【有料老人ホームの指導監督のあり方】
(届出制や標準指導指針による現行制度の課題)
◆ 有料老人ホームの実態や入居者の多様化を踏まえ、高齢者福祉の視点に基づいた行政の関与や、私的自治への一定の修正が必要
◆ 囲い込みに関して、請求内容と実態に乖離があると疑われる場合でも、書類が整っていればそれ以上囲い込みの立証が困難であり、現在は自治体の指導権限に限界がある
◆ 入居者確保等において妥当性を担保できない事業計画であっても、届け出により開設が可能で、事業停止命令などの重大な処分を受けたとしても、無条件で新規の開設が可能で問題がある
◆ 民間事業者の参入意欲を損なわないよう、過度な規制は避けるべきであり、現行の標準指導指針の文言整理や修正を通じて、実効性を高める方法もある

(参入時の規制のあり方)
◆ 経営状況やコンプライアンスに関わる問題に関しては、届出制による事後チェックや、問題が生じたときに行政が介入する形ではなく、事前チェックがある程度機能しなければ、質の改善には向かわない
◆ 事業者の創意工夫を損なわない最低限の範囲で、妥当性が担保できない事業計画や重大な処分を受けた事業者に対する一定程度の規制の検討が必要
◆ 併設サービスを多く使えば、家賃を減免したり、家賃を無料に近い水準にしている契約書もある。まず契約書の適切性をチェックすることが重要

(行政処分の限界と対応の方策)
◆ 自治体において、悪質な事業者に対しては事業制限や停止命令を検討する場面もあるが、明確な処分基準が存在しないため、対応に苦慮しており、介護保険法のように老人福祉法においても統一的な基準を設けることが有効。連座制の導入も検討の余地あり
◆ サービスの選択や提供が適切に行われるようにするために、有料老人ホームやサービス事業所に対して実質的な指示・命令を行う経営者や法人についても届け出をさせ、それらへの指導、必要に応じた勧告や公表が可能となる体制整備が必要

【有料老人ホームにおけるいわゆる「囲い込み」対策のあり方】
(1)住宅型有料老人ホームにおける介護サービスの提供
(出来高報酬型の介護保険サービス等が一体的に提供されている事業経営モデルの問題点)
◆ 入居費用を抑える一方で、必要性に関わらず区分限度支給額の8~9割を利用するなど、「併設の介護サービス利用によって収益を補っている」事業者が存在し、過剰なサービスを前提としたケアプランが作成される状況が生じている
◆ ケアマネジャー自身は区分限度支給額まで使い切るケアプランを望んでいない場合であっても、そうしたプランを作らざるを得ない状況に追い込まれ、区分限度支給額いっぱいのケアプランの作成を拒否したことで離職を迫られる事例も報告されている
◆ ケアマネジャーがアセスメントを怠ったり、自分の意に反したケアプランを作らされることで、結果的に利用者の状態悪化を招いたり、十分な対応が取れずに結果的に事故が発生したり、虐待に移行しているといった課題もある
◆ 市町村が外付けサービスを含む高齢者住まいの実態把握に苦慮している

(当該事業経営モデルにおけるケアマネジャーの独立性・中立性の確保)
◆ 特定の事業所によって介護サービスが集中的に提供されることや、区分限度支給額の上限までサービスを利用すること自体は否定されるものではないが、利用者の選択の自由が保障され、適切なケアマネジメントが行われているかどうかが重要
◆ 入居者がかかりつけ医やケアマネジャーを変更したくないという意思を持っている場合には、その意思が尊重されるべきであり、ケアマネジャーの変更を入居条件としていることは是正すべき
◆ ケアマネジャーが自立支援を重視したケアマネジメントを行えるよう、これを阻害する圧力のかからない環境整備が必要。過剰なサービス利用の要請を行う事業者に対しては、指導が必要

(2)特定施設入居者生活介護への移行
(特定施設への移行に向けた総量規制のあり方)
◆ 有料老人ホームが、高齢者施設の中で箇所数、利用者数ともに最大となっているなか、特定施設への指定申請を勧奨するなどを検討すべき
◆ 自治体にとっては、特定施設への移行により指導監督がしやすくなる利点がある一方で、給付費の増加のおそれもある

(外部サービス利用型特定施設の活用促進)
◆ 特定施設は一定のニーズがあるものの、人手不足により人員配置基準を満たすことが困難であり、採用ができないために特定施設として運営することを断念する事業者も存在する。このため、一般型に必要な体制確保が難しい場合には、外部サービス利用型特定施設への指定申請を可能とする仕組みの導入を検討すべき
◆ 外部サービス利用型における訪問介護などの訪問系サービスについては、夜間・早朝・深夜の加算を算定できず、人件費を補う報酬が不十分と考えられる、住宅型有料老人ホームから特定施設への移行も視野に入れた基準や報酬体系の整備が必要



6月20日の会合では、これらの内容を確認するとともに、▼外部サービス利用であっても、施設内で介護が行われる以上、ホーム側にも一定の責任が求められる点を忘れてはならない。「判断能力が低下している者が利用する」点を重視した仕組みが必要である(井上由起子座長代理:日本社会事業大学専門職大学院教授)▼主治医・ケアマネジャーは「本人が選択・決定できる」ことが大前提である。情報公開、外部者の立ち入りなどによって「事業の透明化」などを進める必要がある。また有料老人ホームの需要などを精緻に推計し、介護保険事業(支援)計画などに反映させるべき(江澤和彦構成員:日本医師会常任理事)▼利用者が従前から使っていたケアマネジャー、介護サービス事業者を希望に応じて継続利用できる仕組みを確実に設けるべき(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)▼有料老人ホームも「実質的な介護の場」であり、必要な人員配置基準などを設定すべき。その際、事業者側の過度の負担を避けるため、まず「重度者の入居割合が恒常的に高い」施設などを対象に導入してはどうか(倉田賀世構成員:熊本大学法学部教授)▼事業者自らの情報公開、一定の事前チェックが必要である。ただし、一部の不適切事業者のために、真面目に適切に取り組んでいる事業者の事業が阻害されるような「過度の規制」は好ましくない(高野龍昭構成員:東洋大学福祉社会デザイン学部教授)▼地域の関係者が共同した「住宅型有料老人ホーム」の適正性チェックシステムが重要である(濵田和則構成員:日本介護支援専門員協会副会長)—などの補足意見が出ています。

駒村座長と厚労省で構成員意見を踏まえて修文し、「これまでの議論の整理」(言わば中間整理)を近く確定します。その後、さらに議論を続け、今秋(2025年秋)に最終とりまとめを行い、社会保障審議会・介護保険部会等の介護保険制度改革論議につなげます(関連記事はこちら)。



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