【18年度介護報酬改定答申・速報3】介護医療院への早期転換を「1日93単位の加算」で促進
2018.1.29.(月)
お伝えしているとおり、2018年度介護報酬改定の全容が明らかになりました(関連記事はこちらとこちら)。本稿では、介護医療院・介護療養型医療施設(介護療養病床)・介護療養型老人保健施設(転換老健)に焦点を当てます。
目次
介護療養病床の受け皿として新設、早期転換にインセンティブ付与
介護医療院は、「医療・介護の複合的ニーズを持つ要介護者を受け入れて、長期療養させ、看取りまで対応する」新たな施設系サービスです。医療・介護の複合的ニーズを持つ要介護者を、従来は医療機関の介護療養病床などで受け入れてきましたが、「生活施設としてふさわしい環境」(例えば、療養室などは広いが、医療専門職の配置は薄い)が病床よりも整った施設として、今年(2018年)4月に施行される改正介護保険法で創設されます。その一方で介護療養病床は廃止され、療養病床では、医療の必要度が高い患者の受け入れや、在宅復帰を目指した治療に専念することが求められます。
介護療養病床の設置期限は、この改正法で「2024年3月末」と定められ、介護療養病床を持つ医療機関には「2024年3月末までに介護療養病床を介護医療院などに転換させること」が求められます。介護療養病床のほか、▼医療の必要度が低い患者を入院させている医療療養病床▼介護療養病床から介護老人保健施設へと転換した転換老健―についても、介護医療院への転換が促進され、「入所者1人当たり床面積などの基準緩和」が行われます。さらに、「早期転換へのインセンティブ」として【移行定着支援加算】が設けられます。それぞれ、詳しくは後述します。
なお、一般病床を廃止して介護療養病床を新設することは、「地域の介護医療院の需要が、療養病床や転換老健からの転換分だけでは賄えない場合」に認められますが、あくまで「療養病床や転換老健からの転換」が優先されるため、病院の一般病床からの転換は、いわゆる「総量規制」によって自治体から認められない可能性もあります(関連記事はこちら)。また、病院一般病床からの転換が認められる場合であっても、床面積などの基準が緩和されず、【移行定着支援加算】も算定できない点に留意が必要です。
療養病床などから転換する場合、指定基準を一部緩和するが、その分報酬を減算
厚生労働省は、介護医療院の指定基準を定める告示「介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」を1月18日に公布しています(関連記事はこちら)。それによると、指定基準のうち医師などの基準は、入所者のベッド(療養床)を、▼重篤な身体疾患を有する要介護者らを入所させる「I型」(「療養機能強化型」介護療養病床に相当)▼容体が比較的安定した要介護者を入所させる「II型」(転換老健に相当)―に分けて設定されます。
例えば、医師の配置基準は、I型が「48対1以上(最低3人)」、II型が「100対1以上(最低1人)」です。看護配置はI型・II型にかかわらず「6対1以上」の配置が求められます。一方、介護配置はI型が「5対1以上」、II型が「6対1以上」と規定されますが、後述するとおり、「4対1以上」の場合に基本報酬が高く設定されます。
また、施設設備のうち「療養室の入所者1人当たり床面積」の基準は、療養病床(6.4平米以上)よりも広い「8.0平米以上」と設定されます。その一方で、「転換老健」では設置できない「エックス線装置」や「臨床検査施設」などの設置が求められます。
ただし、療養病床などからの転換を促すために、▼療養病床から転換する場合、全面的な改築などまでの間、1人当たり床面積が6.4平米以上でよい▼転換老健から転換する場合、近隣の医療機関で臨床検査やエックス線撮影が行えるのであれば、臨床検査のための設備やエックス線装置はなくてもよい―のように基準が緩和されます。
なお、「入所者1人当たり床面積が8.0平米に満たない場合」などには、後述する基本報酬から、【療養環境減算】として25単位が所定単位数から減算されます。
強化型の介護療養病床に相当する「I型」、4区分の報酬体系
介護医療院の報酬体系は、「I型」「II型」のそれぞれで4区分設定されます。まず「I型」の基本報酬と算定要件は、「どのような状態の入所者が多いか」と「介護職員の配置の厚さ」に応じて、次の4区分で整理されます。
▼サービス費(I):「療養機能強化型A」の介護療養病床の入所者要件などを満たす。報酬水準が最も高い
▼サービス費(II):「療養機能強化型B」の介護療養病床の入所者要件などを満たし、介護配置4対1以上。サービス費(I)に次いで報酬水準が高い
▼サービス費(III):「療養機能強化型B」の介護療養病床の入所者要件などを満たし、介護配置5対1以上。サービス費(II)に次いで報酬水準が高い
▼特別サービス費:「療養機能強化型」の介護療養病床の入所者要件を満たせず、介護配置5対1以上。報酬水準が最も低く、【移行定着支援加算】などを算定できない
具体的には、次のように算定要件と単位数(以下、単位数はすべて要介護3・多床室の場合)が設定されます。
▼I型介護医療院サービス費(I)(1144単位/日):▽看護配置6対1以上▽看護職員に占める看護師割合2割以上▽介護配置4対1以上▽「重篤な身体疾患を有する者および認知症と身体合併症を有する者」が入所者等に占める割合50%以上▽「喀痰吸引、経管栄養またはインスリン注射を実施した者」が入所者等に占める割合50%以上▽「回復の見込みがなく、ターミナルケアが必要な者」が入所者等に占める割合10%以上▽入所者の生活機能を維持・改善するためのリハビリテーションの実施▽地域に貢献する活動の実施
▼I型介護医療院サービス費(II)(1127単位/日):▽看護配置6対1以上▽看護職員に占める看護師割合2割以上▽介護配置4対1以上▽「重篤な身体疾患を有する者および認知症と身体合併症を有する者」が入所者等に占める割合50%以上もしくは「喀痰吸引、経管栄養またはインスリン注射を実施した者」が入所者等に占める割合30%以上▽「回復の見込みがなく、ターミナルケアが必要な者」が入所者等に占める割合5%以上▽入所者の生活機能を維持・改善するためのリハビリテーションの実施▽地域に貢献する活動の実施
▼I型介護医療院サービス費(III)(1111単位/日):▽看護配置6対1以上▽看護職員に占める看護師割合2割以上▽介護配置5対1以上▽「重篤な身体疾患を有する者および認知症と身体合併症を有する者」が入所者等に占める割合50%以上もしくは「喀痰吸引、経管栄養またはインスリン注射を実施した者」が入所者等に占める割合30%以上▽「回復の見込みがなく、ターミナルケアが必要な者」が入所者等に占める割合5%以上▽入所者の生活機能を維持・改善するためのリハビリテーションの実施▽地域に貢献する活動の実施
▼I型特別介護医療院サービス費(1055単位/日):▽看護配置6対1以上▽看護職員に占める看護師割合2割以上▽介護配置5対1以上
ところで介護医療院の基本報酬は、介護療養病床と比べ、どのような水準で設定されるのでしょうか。この点、介護療養病床の基本報酬は、後述するように2018年度診療報酬改定で据え置かれますが、例えば【I型介護医療院サービス費(I)】の算定要件を満たす場合、介護療養病床のままであれば基本報酬は1日1119単位で、介護医療院に転換する方が25単位・2.2%基本報酬が高くなります。また、【I型介護医療院サービス費(III)】の算定要件を満たす場合、介護療養病床のままであれば基本報酬は1日969単位で、介護医療院に転換する方が142単位・14.7%も基本報酬が高くなります。
転換老健相当の「II型」も報酬体系は4区分で
「II型」の介護医療院の基本報酬と算定要件も、「どのような状態の入所者が多いか」と「介護職員の配置の厚さ」に応じて次の4区分に整理されます。
▼サービス費(I):転換老健の入所者要件を満たし、介護配置4対1以上。報酬水準が最も高い
▼サービス費(II):転換老健の入所者要件を満たし、介護配置5対1以上。報酬水準が「サービス費(I)」に次いで高い
▼サービス費(III):転換老健の入所者要件を満たし、介護配置6対1以上。報酬水準が「サービス費(II)」に次いで高い
▼特別サービス費:転換老健の入所者要件を満たせず、介護配置6対1以上。報酬水準が最も低く、【移行定着支援加算】などを算定できない
具体的な算定要件と単位数は次のとおりです。
▼II型介護医療院サービス費(I)(1056単位/日):▽看護配置6対1以上▽介護配置4対1以上▽「喀痰吸引もしくは経管栄養を実施した者」が入所者等に占める割合15%以上もしくは「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがMの者」が入所者等に占める割合20%以上もしくは「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがIV以上の者」が入所者等に占める割合25%以上
▼II型介護医療院サービス費(II)(1040単位/日):▽看護配置6対1以上▽介護配置5対1以上▽「喀痰吸引もしくは経管栄養を実施した者」が入所者等に占める割合15%以上もしくは「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがMの者」が入所者等に占める割合20%以上もしくは「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがIV以上の者」が入所者等に占める割合25%以上
▼II型介護医療院サービス費(III)(1029単位/日):▽看護配置6対1以上▽介護配置6対1以上▽「喀痰吸引もしくは経管栄養を実施した者」が入所者等に占める割合15%以上もしくは「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがMの者」が入所者等に占める割合20%以上もしくは「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがIV以上の者」が入所者等に占める割合25%以上
▼II型特別介護医療院サービス費(978単位/日):▽看護配置6対1以上▽介護配置6対1以上
早期転換のインセンティブは「93単位/日」
介護療養病床などに早期転換のインセンティブを与えるため、【移行定着支援加算】(93単位/日)が設けられます。「介護医療院への転換を最初に届け出た日から1年間」に限り算定でき、算定要件は次のとおりです。
▼▽介護療養病床▽医療療養病床▽転換老健―のいずれかから転換した介護医療院である
▼介護医療院に転換した旨を入所者本人・家族に説明している
▼介護医療院に転換した旨を地域住民に知らせている
▼入所者本人・家族が地域住民と交流できるように、地域の行事などに積極的に参加している
なお、【移行定着支援加算】は2021年3月末で廃止されます。例えば、療養病床から介護療養病床に転換した時期が今年(2018年)6月の場合、来年(2019年)5月までの1年間、【移行定着支援加算】が加算されますが、2020年6月に転換した場合には、2021年3月までの10か月間しか加算されないことになります。
また、上述したとおり、入所者の状態が一定の基準に満たない場合に算定する【I型特別介護医療院サービス費】や【II型特別介護医療院サービス費】とは、【移行定着支援加算】を併算定できません。
介護療養病の基本報酬は現状維持だが、減算ルール新設
介護療養病床の基本報酬は、▼療養機能強化型A▼療養機能強化型B▼療養機能強化型以外―のすべてで単位数が維持されます。ただし、次の入所者要件をどちらも満たせない場合に、所定点数を5%減算する規定が新設されます。
▼「喀痰吸引もしくは経管栄養を実施した者」が入所者等に占める割合15%以上
▼「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクがMの者」が入所者等に占める割合20%以上
これらの要件を満たせず、減算が適用される場合には、【経口移行加算】(入所者の経管栄養法から経口栄養法への移行を目指して多職種で支援した場合に1日28単位算定)などの加算も算定できなくなるため、大幅な減収となる恐れがあります。現状では入所者要件を満たせない施設では、今からでも「認知症高齢者の日常生活自立度」のランクがMの要介護者らの受け入れに力を入れ、減算を避けるべきでしょう。
転換老健の基本報酬、「療養型」に一本化
転換老健の基本報酬は現在、▼療養型▼療養強化型―の2区分で設定されていますが、2018年度介護報酬改定で「療養型」に一本化されます(単位数は、現行の「療養型」のまま)。ただし、「療養強化型」の現行要件を満たす場合は、【療養体制維持特別加算(II)】(新設)として1日57単位を加算できます。具体的な算定要件は次の通りです。
【基本報酬の算定要件】(どちらかを満たす)
▼喀痰吸引か経管栄養を実施した利用者割合が15%以上である
▼「認知症高齢者の日常生活自立度」のランクがM以上の利用者割合が20%以上である
【療養体制維持特別加算(II)の算定要件】(すべて満たす)
▼喀痰吸引か経管栄養を実施した利用者割合が20%以上である
▼「認知症高齢者の日常生活自立度」のランクがIVまたはM以上の利用者割合が50%以上である
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