利用者が「月50人以上」住む建物への訪問サービス、減算を厳しく―第155回介護給付費分科会(1)
2017.12.6.(水)
訪問系サービスの【集合住宅減算】について、「利用者が事業所と同一敷地内か隣接敷地内の集合住宅に住んでいて、その建物内の利用者数が月50人以上の場合」に、より厳しく報酬を引き下げる―。
厚生労働省は12月6日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした介護報酬の見直し案を示しました。訪問系サービスの【集合住宅減算】を適用する要件や減算幅について厚労省は、これまでに別の具体案を示していましたが、これが一部の事業所の経営に大きな打撃を与えかねないことが分かったため、対象を絞るなどして再提案しています。
また厚労省は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(定期巡回・随時対応サービス)の【集合住宅減算】に関しても、事業所の経営状況などを踏まえた見直し案を、改めて示しています。
訪問回数が「延べ2000回/月」の事業所をターゲットに
訪問介護や訪問看護、訪問リハビリテーションなどでは、「事業所に併設された建物に訪問する」場合や、「1つの建物に住む利用者に対して同一日に訪問する」場合には、効率的に訪問できる(訪問1件当たりの移動時間などが少なくて済む)ことから、【集合住宅減算】として、報酬が10%減額されます。
基本的に、(1)立地要件:事業所と同一敷地内または隣接する敷地内に所在する建物に住んでいる(2)利用者数要件:月20人以上の利用者が住む建物に住んでいる―のどちらかに当てはまる利用者への訪問が対象です。
ただし現在は、「養護老人ホーム」「軽費老人ホーム」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」に限定され、「事業所に隣接する一般住宅(団地など)」への訪問では減算されません。
【集合住宅減算】見直しの当初案は、一般住宅に住む利用者らを減算対象に加えた上で、(2)の利用者数要件の基準を、建物が有料老人ホームなどなら「月10人以上」、一般住宅なら「月20人以上」と設定し直すものでした。さらに、立地要件と利用者数要件の両方に当てはまる利用者への訪問には、「10%を超える厳しい減算」を適用するとしていました。
ただ、こうした減算で事業所の経営が成り立たなくなり、廃止を余儀なくされることは避けなければいけません。そこで厚労省は、今年度(2017年度)の介護事業経営実態調査のデータを基に、集合住宅への訪問が特に多い訪問介護事業所(訪問の5割以上が【集合住宅減算】の対象)の経営実態を分析。1か月当たりの訪問回数が「延べ2000回以下」の事業所の収支差率がおおむね低く、経営状態が悪いことを明らかにしました。
サービス付き高齢者向け住宅などに住む利用者は、月平均40回程度の訪問を受けています。これを踏まえると、1か月当たり「延べ2000回」の訪問を、1つの建物に住む利用者だけに提供する場合には、その建物に「50人」の利用者が住んでいる計算になります(「延べ2000回」÷「1人当たり40回」=「利用者50人」)。
そこで、厚労省は12月6日、「10%を超える厳しい減算」の対象を、「立地要件を満たす上、月50人以上の利用者が住んでいる建物」の居住者への訪問に限定してはどうかと提案しました。これは、1か月当たりの訪問回数が延べ2000回を超え、経営が安定しやすい事業所をターゲットにしたものです。
1か月当たりの利用者数の算出方法について、厚労省老健局振興課の込山愛郎課長は、「団地などでは棟ごとにカウントする」と説明しています。
気になるのは、「厳しい減算」で、具体的に何%減算されるかですが、今の段階では「10%を超えること」以外は決まっていません。来年度(2018年度)の介護報酬改定の改定率などが決まる年末以降に、介護給付費分科会で改めて検討することになります。
また厚労省は、10%減算を適用する場合の利用者数要件も、当初案から改め、建物が有料老人ホームなどか一般住宅かに関わらず「月20人以上」にする方針を示しています。
定期巡回随時対応サービスでも「月50人以上」を基準に厳しい減算
12月6日の介護給付費分科会で厚労省は、定期巡回随時対応サービスの【集合住宅減算】に関する追加の見直し案も示しています。
定期巡回随時対応サービスの【集合住宅減算】には、「立地要件:事業所と同一敷地内または隣接敷地内に所在する建物に住んでいる」だけが設定されています。また、訪問介護などと同じく、利用者が一般住宅に住んでいる場合は減算対象外です。厚労省はこれまでに、「立地要件を満たす一般住宅」に住む利用者にも減算を適用してはどうかと提案していました。
追加の見直し案は、定期巡回随時対応サービス事業所の経営状況を踏まえたもので、具体的には、1か月当たりの利用者数が「50人以上」の事業所で収支差率が高かったことから、厚労省は、現行の立地要件に加えて「居住する利用者の人数が月50人以上」に当てはまる建物に利用者が住んでいる場合に、通常(600単位/月)よりも厳しく減算する方針を示しています。
これらの厚労省の再提案に、委員から強い反対意見はありませんでした。ただし、「月50人以上」という利用者数要件の基準について、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)からは、今後も介護事業経営実態調査の結果を踏まえて見直すべきだとの注文が付いています。
また瀬戸雅嗣委員(全国老人福祉施設協議会理事・統括幹事)と齊藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会常務理事)は、【集合住宅減算】の厳格化を受けて、一部の事業所が“抜け道”を探して適用を免れる(例えば事業所を分割して、それぞれ「月50人未満」に納める)可能性もあることから、検証していくべきだと指摘しています。
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