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生活援助中心の訪問介護、給付切り下げに賛否両論—介護給付費分科会(2)

2017.7.6.(木)

 「生活援助中心の訪問介護」について、介護保険制度の持続可能性を考慮して「人員基準緩和や報酬水準の引き下げ」などを行うべきか、単身の認知症高齢者や老老介護世帯の在宅継続を支えるものとして「現行水準を維持」すべきか—。

5日に開催された社会保障審議会の介護給付費分科会では、2018年度の介護報酬におけるこの重要論点について賛否両論が相次ぎました(関連記事はこちら)。なお財務省は「生活援助のみ(中心)のサービスを1か月に101回受給しているケースもある」点を重視していますが、厚労省老健局振興課の三浦明課長は「服薬支援のために1日3回の訪問を行っているとの事情がある」ことを説明しており、「頻回な訪問=不適切なサービス」という単純な構図ではないようです。

7月5日に開催された、「第142回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

7月5日に開催された、「第142回 社会保障審議会 介護給付費分科会」

月100回超の生活援助利用があるものの、単純に「頻回ゆえ不適切」とはいえない

訪問介護には、「身体介護(入浴・排泄・食事などの介護)中心のサービス」と「生活援助(調理・選択・掃除などの家事)中心のサービス」があります。在宅介護サービスのベースとなるものと言え、2016年4月審査分のレセプトを見ると、利用者数は98万2200人、請求事業数は3万3762か所に達しています。

訪問介護には、「身体介護中心サービス」と「生活援助中心サービス」がある

訪問介護には、「身体介護中心サービス」と「生活援助中心サービス」がある

 
このうち後者の「生活援助中心サービス」については、「そもそも家事などに公的保険財源を投入すべきだろうか」との指摘が古くからあり、昨今では財政当局を中心に厳しい意見が相次いで出されています。経済・財政再生計画改革工程表2016改定版では「生活援助中心サービスの人員基準緩和や、それに応じた報酬設定(つまり引き下げ)を検討し、2018年度介護報酬で対応する」との計画を提示。また財務省は「生活援助のみ(中心)サービスは、平均では1人当たり月9程度の需給だが、月31回以上の利用者が6626人に上り、月101回利用しているケースもあった」との調査結果を示し、▼一定回数を超える生活援助中心サービスを行う場合には、地域ケア会議などでのケアプラン検証を要件とする▼1日に算定可能な報酬の上限設定など、「身体介護」も含めて訪問介護の報酬の在り方を見直す―ことを提言しています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。
財務省は「生活援助のみ(中心)の訪問介護サービスを月に101回利用している」との頻回事例を紹介するが、「毎食後の服薬支援が必要な高齢者」であり、詳細な実態把握が必要である

財務省は「生活援助のみ(中心)の訪問介護サービスを月に101回利用している」との頻回事例を紹介するが、「毎食後の服薬支援が必要な高齢者」であり、詳細な実態把握が必要である

 
こうした指摘を受け、5日の分科会では複数の委員から「生活援助中心サービスについて厳しい見直しを行うべき」との意見が出されています。鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は「頻回訪問には『1日当たりの利用回数上限』設定や『1か月当たりの定額制』導入などで対応すべき」と提案。本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は「過剰なサービス提供は自立支援を阻害する。介護人材不足への対応や介護保険制度の持続可能性を確保するために、人員基準緩和・報酬の引き下げ、要介護度別の『1日当たり利用可能回数上限』の設定などを行うべき」と訴えました。井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)や東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らも、同旨の関係を述べています。

しかし、こうした「生活援助中心サービスの見直し」論に反意を唱える委員も少なくありません。田部井康夫委員(認知症の人と家族会理事)は「月31回は1日当たり1回、月101回でも1日当たり3回の利用である。単身の認知症高齢者や、老老介護世帯では、これでも在宅生活継続が難しい状況である。また利用者の費用負担を考慮して『生活援助中心』でケアプランを作成し、報酬請求しながら、実際には『身体介護中心』のサービスを行っているケースもある。人員基準や報酬水準の引き下げは納得できない」と強く反論。また齊藤秀樹(全国老人クラブ連合会常務理事)は「月31回や101回のサービス利用が妥当性を欠くのか検証してから、議論すべきではないか」と冷静に指摘しました。

また齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)や堀田聰子委員(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)は「掃除1つをとっても『広い居室は無理だが、トイレ掃除なら可能』という利用者に、利用者も参加してもらいながら実施するものと、単なるヘルパーによる代行とは、分けて考えるべき」とし、「丁寧な議論が必要」との考えを強調しました。

 
このように「生活援助中心サービスの報酬水準見直し」などには、賛否両論が出ており、今後も活発な意見交換が行われることになります。なお、三浦振興課長は「月101回の生活援助中心サービス利用について自治体に確認したところ、認知症高齢者などで服薬支援(確実に服薬したかの確認が必要)を毎食後(1日3回)に行う必要があるという状況が分かった」と説明した上で、さらなる実態把握の必要性を述べています。「頻回なサービス利用=不適切なサービス利用」という単純な構図ではないことから、データを基にした、改めての議論が必要でしょう。

集合住宅へ訪問介護を行った場合の減算、委員からは「厳格化」を求める声多数

 三浦振興課長は、訪問介護に関して(1)集合住宅におけるサービスの適正化(2)サービス提供責任者の役割や任用要件(3)身体介護における自立支援のための見守り的援助(4)リハビリ専門職の意見を踏まえた訪問介護の実施—などをどう考えるとの論点も示しました。

 このうち(1)は、財政制度等審議会から「大阪府では、サービス付き高齢者向けた住宅や住宅型有料老人ホームにおいて、訪問介護などの在宅サービス利用が非常に多くなっている。必要以上のサービス提供が行われていないか実態を調べ、給付適正化などの対応を行うべき」との指摘を受けた論点です。

財政制度等審議会は、「集合住宅居住者に対して、不必要な訪問介護が行われている」可能性があるとし、実態把握と適正化を求めている

財政制度等審議会は、「集合住宅居住者に対して、不必要な訪問介護が行われている」可能性があるとし、実態把握と適正化を求めている

 
委員からは、「頻回訪問に対する事前のアセスメントや保険者によるケアプラン点検を行うとともに、住所地特例の適用されたサービス付き高齢者向け住宅の状況を保険者が確認できるような情報共有を進めるべき」(鈴木委員)、「隣接する集合住宅などに訪問介護を行う場合の減算規定の強化を行うべき」(本多委員や東委員)、といった意見が出されています。ただし「大阪府の状況を全国ベースに敷衍して考えることが適切なのか。大阪府が特殊なのかもしれず、実態を分析する必要がある」との指摘も出ています。

訪問介護事業所からと一体的な集合住宅(同一建物)に居住する利用者に訪問を行う場合には、移動コストが極めて小さいことから、訪問介護費が10%減算されます。2015年度の前回介護報酬改定では、この減算対象となる集合住宅に「隣接する敷地内に所在する建物」を追加するなどの減算規定強化を行いました。2018年度の次期改定でも、さらなる減算規定の強化が予想されます。もっとも「訪問介護事業所が近隣にあるので安心」と考えて集合住宅を選択する利用者も少なくないため、この期待を裏切るようなことがないよう、バランスをとった見直しを行う必要があります。

同一敷地内の集合住宅などに居住する者に介護保険サービスを提供する場合には、移動コストの小ささなどを考慮し、報酬が減算される(2015年度改定後)

同一敷地内の集合住宅などに居住する者に介護保険サービスを提供する場合には、移動コストの小ささなどを考慮し、報酬が減算される(2015年度改定後)

障害者が高齢になっても、使い慣れた障害福祉事業所で介護保険サービスを受給可能に

 5日の分科会では、介護保険法改正によって創設された「共生型サービス」も議題となりました。障害者が65歳以上になっても、使い慣れた障害福祉サービス事業所から介護保険給付を受けられるようすることなどが狙いです。

 分科会では、介護保険の基準(人員配置や構造設備)を満たしていない障害福祉サービス事業所が共生型サービスを提供するに当たり、どのような基準を満たすべきか。具体的には、▼障害福祉サービスの居宅介護・重度訪問介護が「訪問介護」を行う▼同じく生活介護・自立訓練・児童発達支援・放課後等デイサービスが「通所介護」を行う▼同じく生活介護・児童発達支援・放課後等デイサービスが「療養通所介護」を行う▼同じく短期入所が「短期入所生活介護」を行う—場合に、満たすべき人員配置や構造設備の新基準と報酬水準を議論してくことになります。

 委員からは共生型サービス創設の趣旨は理解するものの、対象者が大きく異なるため「スタッフの教育・研修、それに伴って必要となる代替職員の確保」なども考慮すべきとの意見も出ています。

共生型サービスについて、介護給付費分科会で議論する対象は「障害福祉サービス事業所が介護保険サービスを行う場合に満たすべき新基準と報酬水準」となる(その1)

共生型サービスについて、介護給付費分科会で議論する対象は「障害福祉サービス事業所が介護保険サービスを行う場合に満たすべき新基準と報酬水準」となる(その1)

共生型サービスについて、介護給付費分科会で議論する対象は「障害福祉サービス事業所が介護保険サービスを行う場合に満たすべき新基準と報酬水準」となる(その2)

共生型サービスについて、介護給付費分科会で議論する対象は「障害福祉サービス事業所が介護保険サービスを行う場合に満たすべき新基準と報酬水準」となる(その2)

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