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軽度者への生活援助サービス、総合事業への移行は時期尚早―社保審・介護保険部会(2)

2016.11.28.(月)

 2017年に予定される次期介護保険制度改革に向けた議論が大詰めを迎えています。25日の社会保障審議会・介護保険部会では、厚生労働省から、これまでの議論を整理した「介護保険制度の見直しに関する意見」(素案)が提示されました(関連記事はこちら)(意見書素案はこちら)。

 素案では、(1)地域包括ケアシステムの深化・推進(2)介護保険制度の持続可能性の確保―の大きく2つのテーマについて、どの部分で部会の意見が一致し、どの部分で意見が乖離しており、さらなる検討が必要かどうかを整理しています。

 例えば「「軽度者に対する生活援助サービスの総合事業への移行」については、すでに移行が進められている「要支援者に対する訪問・通所介護」の状況を把握・検証した上で検討すべきとの考えを明確にしたほか、福祉用具貸与について全国平均価格を公表した上で、適切な貸与価格を確保するために「貸与価格の上限」を設定することが適当としています。

11月25日に開催された、「第69回 社会保障審議会 介護保険部会」

11月25日に開催された、「第69回 社会保障審議会 介護保険部会」

市町村が国値などの支援受けてPDCAサイクルを回し、地域包括ケアシステムを推進

 ここでは素案を眺めるとともに、25日の部会で委員から出された意見を、ポイントを絞って紹介しましょう。

次期介護保険制度改革に向けた意見素案(その1)

次期介護保険制度改革に向けた意見素案(その1)

 まず(1)の「地域包括ケアシステムの深化・推進」に関しては、(a)自立支援・介護予防(b)医療・介護連携(c)地域包括ケアシステム推進のための基盤整備―の3項目について改革の方向性を探っています。

 (a)自立支援・介護予防は「介護保険法」の理念に基づく重要なテーマです。今後、高齢化が進行する中では、後述する介護保険制度の維持のためにも、また高齢者自身のQOLを高めるためにも自立支援・介護予防をさらに推進する必要があります。

 こうした状況を踏まえ部会では、次のようなPDCAサイクルを保険者(市町村)自身が回していくことが適当と提言しています(関連記事はこちら)。

▼保険者(市町村)において各地域の実態把握・課題分析を行う

  ↓

▼実態把握・課題分析を踏まえ、地域の共通目標を設定・共有するとともに、達成に向けた具体的な計画を作成する

  ↓

▼計画に基づき、地域の介護資源の発掘や基盤整備、多職種連携の推進、効率的なサービス提供も含め、自立支援・介護予防に向けたさまざまな取り組みを推進

  ↓

▼取り組みの実績を評価した上で、計画の見直しを行う

 ここで重要なのが、最初のステップである「実態把握・課題分析」でしょう。部会では「データに基づく地域課題の分析」の重要性を指摘し、▼市町村から国へ介護給付費や要介護認定などのデータ提出義務付け▼国がこれらのデータに基づいて地域包括ケア「見える化」システムを通じて、市町村・都道府県の地域分析に資するデータの提供―などを行うことを提言。さらに公益性の高い場合には、「第三者へのデータ提供」を可能とするよう求めています。

 また実績の評価においては、市町村・都道府県が「自己評価」と合わせて「国への報告」を行うことで客観性を担保することが求められます。その際の評価指標に関して部会では「要介護状態などの維持・改善の度合い」「健康な高齢者の増加」「地域包括ケア見える化システムの活用状況も含む地域分析の実施状況」「地域ケア会議の実施状況」「生活支援コーディネーターの活動状況」「地域包括支援センターにおけるケアマネジメント支援などの実施状況」「介護予防・自立支援の取り組み状況」など、適正なサービス利用を阻害せず、保険者の取り組みの成果を反映するものが適当としています。

 なお、こうした実績に基づく財政面での支援(インセンティブ)を行うか否かについては、将来の検討課題に位置づけるに止めています(関連記事はこちら)。なお、この「インセンティブ」について部会では、自治体サイドの委員から「財政中立のためマイナス評価も行うとなれば、財政調整交付金(高齢化や災害などによる保険料高騰を調整するための仕組み)と変わらない。プラス評価のみとすべき」との要望が改めて出されています。

 このほか、▼地域包括支援センターの機能強化▼介護予防推進に向けたインセンティブ付与を既存事業で行えることの明確化▼新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)の基本的な考え方の介護保険法への反映▼適切なケアマネジメント推進に向けた「ケアマネジメント手法の標準化」に向けた取り組みの推進▼―なども提言されています。

 また2018年度の介護報酬改定において、▼居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)の運営基準見直し▼通所リハビリと通所介護の役割分担と機能強化▼特別養護老人ホームでの医療ニーズや看取りに適切に対応できるような仕組み―などを検討するよう求めています。

 (b)の医療・介護連携については、「在宅医療・介護連携推進事業」の全市町村での完全実施(2018年度まで)に向けて、▼医療介護連携の実態把握→課題の検討→課題に応じた施策立案、に至る方法を国が具体化し、市町村にその実施を求める▼都道府県の定める介護保険事業支援計画に、在宅医療・介護連携推進事業に対する医療部局との連携を含め、より実効的な市町村支援を盛り込み、都道府県の介護部局及び医療部局の双方が市町村支援に取り組むこと―などが必要としています(関連記事はこちら)。

 この点について土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は、「医療と介護のデータの連結」の重要を指摘します。現在、「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」などでこうしたテーマについて検討が進められており、介護保険部会でのこの点について言及すべきと土居委員は求めています。

 さらに(c)の基盤整備に関しては、▼介護保険サービスの1類型に「共生型サービス」を位置づけ、障害福祉サービス事業所が介護保険の指定を受けやすくする▼人材確保の一環として「ロボット・ICTなどを活用する事業所」における、介護報酬や人員・設備基準の見直しショートステイへの市町村協議制(都道府県による居宅サービス事業者指定に市町村が関与する仕組み)の拡大▼地域密着型通所介護における市町村が指定拒否を可能とする仕組みの導入▼都道府県による居宅サービス指定に対する市町村の関与強化▼有料老人ホームにおける前払金保全措置の対象拡大―などを行うよう提言しています。

 このうち「ロボット」などを活用する事業所の人員配置基準については、齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)や陶山浩三委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン政策顧問)らは慎重な検討を求めています。しかし、介護人材が圧倒的に不足し、将来的にも確保が難しい状況に鑑みたとき、ロボットやICTの活用は積極的に推進すべきであり、前向きな議論を期待したいところです。

福祉用具、国が全国平均貸与価格を公表し、貸与価格に上限を設定

 (2)の介護保険の持続可能性確保については、まず「軽度者の生活援助サービスの総合事業への移行」について、時期尚早との見解が大多数を占めたことを紹介。2014年の介護保険制度改正で「総合事業への移行」が先んじて進められている要支援者への訪問・通所介護の状況や、「多様な主体」による「多様なサービス」展開が進んでいるか否かなどを把握し、検証した上で検討することが適当としています。なお、生活援助中心の訪問介護の報酬については、「制度の持続可能性」「サービスの質の確保」「事業者の確保」などといった点を考慮して、2018年度の介護報酬改定に向けて検討するよう要望しています(関連記事はこちらこちら)。

次期介護保険制度改革に向けた意見素案(その2)

次期介護保険制度改革に向けた意見素案(その2)

 また福祉用具貸与については、▼全ての全国平均貸与価格を公表する▼福祉用具専門相談員に、貸与しようとする商品の全国平均貸与価格等を説明すること、機能や価格帯の異なる複数商品を提示することを義務付ける▼適切な貸与価格を確保するため、一定の上限を設定する―という具体的な提言を行っています。厚労省は「著しく高額な貸与価格を設定する場合には保険者の了承を得る」仕組みを導入してはどうかとの提案も行っていましたが、小規模な保険者(市町村)では負担が大きいとの指摘も踏まえ、今回の提言につなげています(関連記事はこちら)。

 また住宅改修については、▼住宅改修の見積書類の様式(改修内容、材料費、施工費などの内訳が明確に把握できるもの)を国が示す▼住宅改修に関する知見を備えた者が適切に関与している事例など、保険者による好事例を拡大する―ことを提言しました。この点、「住宅改修業者の登録制度」を求める意見も強く、将来的な検討課題となっています。

 このほか、▼要介護認定の有効期間上限を36か月まで延長することを可能とする▼長期間状態が安定している利用者における二次判定手続きの簡素化―によって保険者の事務負担を軽減することも提言されています。

 一方、▼補足給付における不動産資産の勘案▼被保険者範囲の拡大▼現金給付の導入―などについては、さまざまな課題があり「引き続きの検討課題」とするにとどめています。「負担の公平性の確保」や「介護保険制度の持続可能性」などを考えたとき、これらのテーマについても今後、積極的な議論が必要でしょう。さらに、給付範囲の適正化・重点化なども避けて通れるテーマではありません。

 なお、「利用者負担」(一部高所得世帯への3割負担導入)や「費用負担」(被用者保険の負担する介護納付金への総報酬割導入)については、25日の議論を踏まえて次回以降に、素案に追記されることになります。

 

 介護保険部会では年内に意見を取りまとめ、厚労省がこの意見をベースに年明けから具体的な制度改革案(介護保険法改正案など)を策定することになります。

  
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