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40-64歳が負担する介護保険の保険料、どこまで公平性を求めるべきか―介護保険部会(2)

2016.10.20.(木)

 介護保険の第2号被保険者(40-64歳)の保険料は、現在、加入する医療保険の人数に応じて設定されているが、そこに負担能力も勘案するべきか―。

 19日に開かれた社会保障審議会の介護保険部会では、こういった点も議題となりました(関連記事はこちらこちら)。

10月19日に開催された、「第67回 社会保障審議会 介護保険部会」

10月19日に開催された、「第67回 社会保障審議会 介護保険部会」

現在の保険料設定方法には、低所得者で重くなる「逆進性」などの問題点

 介護保険の費用は、公費50%(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)と保険料50%(65歳以上の1号保険料22%、40-64歳の2号保険料28%)で賄っています。1号保険料と2号保険料は、両者の「1人あたり負担額」が同水準となるように按分されます。

介護保険の財源構成

介護保険の財源構成

 ところで2号保険料のうち、被用者保険加入者(健康保険組合や協会けんぽ、共済組合などの公的医療保険)の負担額については、現在、各医療保険の加入者数に応じて設定されています【加入者割】。この現在の仕組みによると、どの医療保険においても「1人当たり負担額」は5125円と同一金額に設定されます。各医療保険者は、介護保険制度に「5125円×加入者数」で計算される金額の納付金を支払うことになります。

現在、各保険者の「1人当たり負担額」(個々の加入者の負担額ではなく、その保険者の加入者平均)は同じだが、総報酬割では、どの保険者であっても「負担割合」は同じになる

現在、各保険者の「1人当たり負担額」(個々の加入者の負担額ではなく、その保険者の加入者平均)は同じだが、総報酬割では、どの保険者であっても「負担割合」は同じになる

 一見、公平な仕組みですが、個々の医療保険加入者が負担する金額を見ると問題が生じるのです。上記の「5125円」は平均負担額であり、個々の医療保険加入者が実際に負担する「保険料」は所得に応じて異なってきます。すると、同じ年収456万円の人であっても加入者数の多いA医療保険に加入する人では9880円、加入者数の少ないE医療保険に加入する人では2660円と、保険料が異なってしまうのです。

現行の加入者割では、同じ456万円の所得であっても、A保険者の加入者では月額9880円、E保険者の加入者では月額2660円という具合に介護保険料に格差が生じてしまう

現行の加入者割では、同じ456万円の所得であっても、A保険者の加入者では月額9880円、E保険者の加入者では月額2660円という具合に介護保険料に格差が生じてしまう

 また、所得水準は高いが加入者数は少ない保険者では保険料は低く設定され、逆に所得水準は低いが加入者数が多い保険者では保険料は高く設定されるという矛盾もあります。

所得水準が上位・下位10%の保険者を外れ値と考えて除くと、8割の保険者の介護保険料負担の格差は1.6倍にとどまるとも言える

所得水準が上位・下位10%の保険者を外れ値と考えて除くと、8割の保険者の介護保険料負担の格差は1.6倍にとどまるとも言える

 この点、土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は「強い逆進性」「現役世代における不公平」があると指摘しています。

 

 医療における「後期高齢者医療」でも同様の問題が生じていたため、2015年の医療保険制度改革で、「加入者数だけではなく、負担能力(所得水準)も勘案して保険料を設定する【総報酬割】を段階的に導入していく」ことになりました。今般、厚生労働省は「介護保険でもこの【総報酬割】を導入することが適当か」という論点を提示しているのです。

 総報酬割を全面的に導入した場合、どの医療保険に加入しても(つまりどの企業に務めても)同じ所得であれば、同一の保険料となります。上記の例であれば、A医療保険の加入者もE医療保険医療保険の加入者も同じ5700円の保険料を負担することになります。

 19日の議論では、土居委員や鈴木邦彦委員(日本医師会副会長)、岩村正彦部会長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)らは「公平性の確保」が必要として、この総報酬割を導入していくべきと述べました。また馬袋秀男委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は、「介護事業者は給与水準が低いところが多く、労働集約型産業であり保険料を含めた人件費負担が大きい」ことを説明し、介護事業を維持するためにも総報酬割の導入が必要と訴えています。

 ただし、主に大企業の従業員らが加入する健保組合では、介護保険料が引き上げられることが予想されます。厚労省は7割超の健保組合(加入者数で考えると8割超)で負担増になると粗く資産しています。

 このため、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)は、「不公平があるというが、『外れ値』と言える上位・下位10%の保険者を除外した、8割の保険者では、保険料水準の格差は1.6倍に収まっている。これは今すぐに是正しなければいけない幅であろうか」「後期高齢者支援金について、来年度(2017年度)から全面総報酬割となる(関連記事はこちらこちら)が、介護保険料にも総報酬割が導入されれば、二重の負担増となってしまう。国会では『後期高齢者支援金における全面総報酬割の影響を検証するべき』との附帯決議をしている」ことなどを訴え、総報酬割の検討は時期尚早であると反対しています。

 また伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は、「介護保険の2号保険料は、▼特定疾病の場合の直接給付(40-64歳でも一定の場合には介護サービスを受けられる)▼自分の親の扶養責任▼世代間連帯―などを根拠に導入されており、丁寧に議論していく必要がある」と指摘し、やはり「時期尚早」と述べています。

 

 なお、総報酬割の導入に賛同する委員も、「段階的な導入」や「負担増となる健保組合への支援」などを行う必要があると指摘しています。

総報酬割の導入で浮く「国費」の使途は

 ところで総報酬割を導入した場合、「協会けんぽに投入されている国庫負担」が減少することになります。

 協会けんぽは主に中小企業の従業員などが介入する医療保険で、健保組合と比べて所得水準が低いため、財政を安定させるために国庫補助が投入されています。言わば「負担能力の差を国が補填する」ものです。ここで総報酬割が導入され、「負担能力に応じた負担」が実現すると、介護保険分について「負担能力の差を補填する」必要がなくなるため、国庫補助も不要となるのです。全面総報酬割とした場合、2014年度ベースで1450億円の国庫補助が不要となる格好です。佐野委員らは「現在、国が負担しているものを、健保組合に付け替えるもの」と批判しています。

全面総報酬割を導入すると、国費は1450億円程度浮く計算になる

全面総報酬割を導入すると、国費は1450億円程度浮く計算になる

 この点、19日の介護保険部会では、言わば「総報酬割導入で浮いた国庫補助」の使途についても、いくつか意見が出ています。

 鈴木邦彦委員や岩村部会長代理は「介護保険の中で有効に使う必要があり、一部は負担増となる健保組合への支援にも回してはどうか」と提案。また桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)は「介護人材確保や処遇改善に使用すべきではないか」と踏み込んだ提案を行っています。

 ただし、厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は、「今後もさまざまな議論をお願いすることになるが、予算の使い道の話であり、介護保険部会のみで決定できるテーマではない」と慎重な姿勢を崩していません。

 
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