要支援者のケアマネジメント、地域包括支援センターの業務から外すべきか―介護保険部会
2016.5.25.(水)
地域包括支援センターでは、業務量が課題なため、地域住民の健康保持・生活安定のために重要となる「総合相談支援業務」を十分に行えていない。このため、センターが担っている要支援者のケアプラン作成業務(介護予防ケアマネジメント)を、ケアマネジャーに移管するべきではないか―。
25日に開催された社会保障審議会の介護保険部会では、複数の委員からこのような指摘がなされています。
ただし介護予防ケアマネジメントを地域包括支援センターが行っている背景には「自立支援に向けた総合的な視点に立ったケアマネジメント」という側面があり、「多忙ゆえに業務を移管する」という単純な議論は難しいようです。
目次
地域包括支援センター、業務多忙で総合相談やケアマネ支援業務が不十分に
25日の介護保険部会では、介護保険制度改正に向けて(1)地域支援事業(2)介護予防(3)認知症対策―の3点が議題となりました。今回は(1)の地域支援事業と(2)の介護予防に焦点を合わせます。
(1)の地域支援事業は、被保険者が要介護状態になることを予防するとともに、要介護状態になった場合でも可能な限り地域で自立した日常生活を営めるように、市町村が総合的なサポートを行うことを目的としたもので、「地域包括ケアシステム」の中で極めて重要な役割を果たすことが期待されています。2014年の介護保険法改正によって、次のような枠組みとなっています。
(A)「介護予防・日常生活支援総合事業」:要支援者に対する訪問・通所介護や、一般介護予防事業など
(B)「包括的支援事業」:地域包括支援センターの運営や、在宅医療・介護連携推進事業、認知症総合支援事業、生活支援体制整備事業など
(C)「任意事業」:介護給付費適正化事業や家族介護支援事業など
(B)の包括的支援事業の中に位置付けられている「地域包括支援センター」には、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員などが配置され、住民の健康保持・生活安定を図るために次の4つの業務を行うことが求められています。
(i)住民の各種相談を幅広く受け付けて、制度横断的な支援を行う「総合相談支援業務」
(ii)判断能力などの衰えた高齢者の権利を守る「権利擁護業務」
(iii)困難事例に直面したケアマネの支援などを行う「包括的・継続的ケアマネジメント支援業務
(iv)要支援者などのケアプラン作成などを行う「介護予防ケアマネジメント」(第1号介護予防支援事業)
しかし、現状を見ると「地域包括支援センターが、期待されている(i)の総合相談支援業務や(ii)の包括的・継続的マネジメント支援業務を十分に行えていないのではないか」という指摘があります。この点、地域包括支援センターを対象に行った調査からは、▽業務量が課題である(81.6%)▽力量が不足している(53.7%)―といった実情が浮上してきました。前者の業務量については、▽総合相談支援業務の量が課題▽要支援者に対するケアマネジメント業務の量が課題―という声がそれぞれ7割弱に上っています。
こうした状況を踏まえて東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、「要支援者に対するケアマネジメントを地域包括支援センターの業務から除外し、センターは(iii)のケアマネジメント支援や(i)の総合相談支援業務に力を注ぐべきではないか」と指摘。馬袋秀男委員(民間介護事業推進委員会代表委員)や鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)も同旨の見解を述べています。
一方、栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)は「理由は後日述べる」とした上で、「要支援者に対するケアマネジメントを地域包括支援センターの業務から除外する」考えに明確に反対しています。
厚労省老健局振興課の辺見聡課長は、今後の論点の1つとして「要支援者に対するケアマネジメント(介護予防支援と介護予防ケアマネジメント)のあり方」を掲げましたが、「地域包括支援センターは、要支援者への給付を含めて、総合的に『自立支援』を行う観点でケアマネジメント業務を担っている。こうした点を合わせて、要支援者へのケアマネジメント業務を考えていく必要がある」旨を説明。『業務が忙しいから移管する』という単純な議論は難しいことが分かります。
また、「力量不足」という声について鈴木委員は、地域包括支援センターの専門職配置について「保健師や社会福祉士といった資格の保有状況だけではなく、『経験』を考慮すべきではないか」とも提案しています。
地域ケア会議、都道府県別に見ると開催状況・開催頻度に大きなバラつき
(B)の包括的支援事業の中には、「地域ケア会議」の開催も重要業務の1つとして位置づけられています。会議には医師、看護師、リハビリ専門職(理学療法士や作業療法士)、管理栄養士、ケアマネジャー、介護サービス事業者などの多職種が集い、「個別ケースの支援内容」策定を通じて、▽地域支援ネットワークの構築▽高齢者の自立支援に資するケアマネジメント支援▽地域課題の把握(地域にはどのような医療・介護資源が不足し、どう補うべきかなど)―などにつなげていくことが期待されています。
しかし会議の開催状況を見ると、都道府県によって大きなバラつき(滋賀県や大分県では100%の保険者で開催しているが、福井県では56%、茨城県では59%に止まる)があります。また開催頻度を見ても、「年1回の開催」に止まるところ(15.8%)から「年に16回以上開催している」ところまでさまざまです。
こうした状況を踏まえ辺見振興課長は、次期介護保険制度改革に向けて「地域包括支援センターや地域ケア会議を有効活用するための方策」も論点の1つに掲げています。
このほか地域支援事業の効果的実施に向けて、今後、▽各種の事業を全体として適切に実施するための仕組み(現在は(A)と(B)(C)では財源や体制が異なっている)▽取り組みの進捗状況を測る指標▽適正なケアマネジメント支援―についても議論していくことになります。なお、「財源」についての記述があることから、支払側の代表である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「(B)の包括的支援事業などに40-64歳の2号保険料を充当することは認められない」と牽制しています。
介護予防、「要介護認定率」などを指標として成果を判定
(2)の介護予防に関しては、厚労省老健局老人保健課の佐原康之課長から、▽介護予防・自立支援の取り組みの成果を図る指標▽保険者(市町村)へのインセンティブ▽都道府県による市町村支援▽高齢者自身が積極的に介護予防に取り組むための環境整備・気運醸成―といった論点が提示されました。
論点からは、(A)の「介護予防・日常生活支援総合事業」を一層推進するための方策を検討することが分かります。このうち「成果の指標」について、土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は「要介護認定率」の重要性を指摘。例えば要支援2と判定された高齢者が、1年後に要支援1あるいは自立に該当する割合などを、保険者別に把握することで、介護予防事業の効果を相対的に把握することが可能です。ただし土居委員は「要介護認定の客観性を担保することが条件になる」とも付言しています。
この点、齊藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会常務理事)は、「別の論点として掲げられている『インセンティブ』と結び付けて、要介護認定率を成果指標とすると、恣意的に認定率を下げる保険者が出る可能性がある」とも指摘しています。
4月22日に開催された前回会合でも、保険者の努力に対するインセンティブが論点に挙げられました。「調整交付金」を活用したインセンティブが思いつきますが、藤原忠彦委員(全国町村会、長野県川上尊重)から「調整交付金は保険者の責に帰せない災害などの事情に配慮する仕組みである」ことを強調し、仮にインセンティブを付与する場合には「別の仕組み」とするよう求めました。
なお、介護予防施策について、「フレイル(虚弱)施策との連携を重視すべき」との指摘が齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)や鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年額研究科教授)から指摘されています(関連記事はこちらとこちら)。
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