全国平均より著しく高額な「福祉用具の貸与価格」を設定するには保険者の了承が必要に―介護保険部会(2)
2016.10.13.(木)
福祉用具貸与の価格透明化を目指して全国レベルの価格情報を公表するほか、不合理に極端に高額な貸与価格が発生しないよう、保険者の了解制度を創設する―。
こういった方針が12日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会で固まりました(関連記事はこちらとこちら)。
福祉用具の貸与・販売価格の「透明化」を推進
介護保険制度では、福祉用具貸与・販売や住宅改修が保険給付対象となっています。これらは、要介護者の残存能力を引き出し(例えば杖を使うことで歩行が可能であれば、脚部の筋力が一定程度鍛えられ寝たきりを防止できる)、自立支援に資する、極めて重要なサービスと言えます。
しかし、貸与価格や工事価格が「事業者の裁量」に任せられているため、▼同一製品の貸与であるにも関わらず、大きな価格差が生じている▼工事費にバラつきがあるほか、施行水準にも差がある―などの課題が指摘されています。
そこで厚労省は、まず福祉用具貸与・特定福祉用具販売について、「事業者に介護給付費請求書の適切な記載を徹底する」ことを実施。その上で、価格の透明化を図るために、次のような方策を提案しました。
(1)給付費請求データに基づいて全福祉用具の貸与価格情報を把握し、全国レベルで、ホームページで公表する仕組みをつくる
(2)利用者の適切な福祉用具選択を目指し、福祉用具専門相談員に「製品の価格・特徴を利用者に説明すること」「複数の製品を提示すること」を義務づける
(3)福祉用具専門相談員が利用者に交付する「福祉用具貸与計画書」について、ケアマネジャーへの交付も義務づける
(4)極端に高い貸与価格を設定する場合には、予め保険者の了解を必要とする仕組みを設ける
このうち(4)は、「事業者が個々の製品について貸与価格を設定する際に、全国平均と比較して極端に高額な価格である場合には、事業者側が保険者にその理由を説明して了承を得なければならない」といった仕組みが想定されています。
また(2)と(3)は、福祉用具専門相談員に新たな義務を課すものであり、今まで以上に相談員の資質向上が望まれます。
こうした厚労省提案に対して特段の反論は出ておらず、来年に予定される介護保険制度改正に向けた方針は固まったと言えるでしょう。将来的には価格情報をベースに「公定価格」(例えば薬価基準のような)設定が検討される可能性も否定できません。
なお、財政制度等審議会・財政制度分科会では「希望小売価格や、耐用年数などを考慮した合理的な貸与価格」と「搬出入や保守点検などの附帯サービス価格」を明確に区分することを義務づけるべきと提言していますが、今回の見直し案には含まれていません。
厚労省老健局高齢者支援課の佐藤守孝課長は、「個別ケースで搬出入や保守点検の費用は異なっており、個々の製品で明確な価格切り分けを行うことは現時点では難しい、現在、取引価格を把握し、実態把握・調査研究をしている最中である」と説明しました。例えば、「山奥に1軒だけ」という家へ搬入する場合、搬送費は一般とは比べられないほど高額になるでしょう。さらに、要介護度が変化するなどして機器の変更が必要になる場合などもあります。これらを予め想定して価格を設定することは「現時点では困難」なようです。
この点について馬袋秀男委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は、「あまりに細密な価格情報を出すにはコストがかかる。これが貸与価格などに乗るのでは本末転倒である」と述べ、厚労省の見送り方針に賛同しています。
住宅改修でも透明化を推進、「登録制」は現時点では困難
住宅改修についても、工事の内容や価格が明確になることが重要です。佐藤高齢者支援課長は、次のような提案を行っています。
▼事前に利用者が保険者に提出する見積書の様式(改修内容、材料費、施工費の内訳を明確化)を国が示す
▼複数の事業者から見積もりをとるよう、ケアマネが利用者に説明する
▼建築の専門家、PT、OT、福祉住環境コーディネーター・その他住宅改修に関する知見を備えた者が適切に関与している事例、住宅改修事業者への研修会を行っている事例などを広く紹介する
これらの提案には多数の委員が賛同を示しましたが、「ケアマネには住宅改修の適正価格は分からないのではないか」(鈴木邦彦委員:日本医師会常任理事、馬袋委員ら)といった指摘も出ており、今後、具体的な運用を検討する際に考慮する必要があります。
また土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)は、「住宅改修については、資産を勘案するなど、所得制限を設けてもよいのではないか」との見解を示しています。住宅改修は「持ち家」のある利用者が対象となるケースが少なくないでしょうから、もっともな提案と言えそうです。
なお、住宅改修について、これまでに「登録制」を導入すべきではないかとの指摘があります。例えば不適切な事業者があったとして、登録制になっていれば市町村が指導をしやすくなります。また登録に当たって、一定の品質(研修受講など)が要件となっていれば、利用者も安心して工事を頼むことができます。12日の介護保険部会でも複数の委員から「登録制度の導入を検討すべき」との指摘がなされました。
しかし、佐藤高齢者支援課長は、「小規模な市町村などではマンパワー(自治体職員はもちろん、研修を実施する専門家なども含めて)が限られており、登録制度の現時点での制度化は難しい」としました。桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)も、「相見積もりをとることすら難しい地方もある」として、佐藤高齢者支援課長の説明に理解を示しています。
ただし佐藤高齢者支援課長は、「受領委任払い」(利用者は1割の自己負担のみを事業者に支払い、9割は保険者である市町村が事業者に支払う仕組み)が行われている市町村が全体の55%(2015年4月時点)に増えており、そこでは事実上の登録制度(保険者が専門家の関与のもとで、研修を受けた事業所を把握している)が進んでいる状況も説明。こうした取り組みが拡大していくことで、利用者が良質な事業者を適切に選択できる環境が整うことが期待されます。
ところで、骨太方針2015では「軽度者の福祉用具について、保険給付から市町村の地域支援事業に移行するよう検討すべき」と指示しており、財政審では「軽度者への保険給付割合の大幅引き下げ」「軽度者における保険給付対象品目の制限」などを提案しています。この点について、費用負担者の代表である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)らは理解を示しましたが、大勢は「反対」姿勢を明確にしています。
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