ケアプラン作成費に利用者負担を導入すべきか―介護保険部会
2016.9.26.(月)
介護支援専門員(ケアマネジャー)によるケアプラン作成などのケアマネジメント費用に利用者負担を導入すべきか―。
23日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会では、この点について激論が交わされました。
「利用者負担の導入で、家族の意向によるプラン変更が助長されてしまう」「介護保険利用を阻害する」として慎重な検討を求める意見と、「専門的な視点で家族を説得するのが専門家の役割である」「ケアマネジメントの費用が保険から支払われていることを利用者・家族にも知ってもらう必要がある」として導入を求める意見とが拮抗している状況です。来年(2017年)に予定される介護保険制度改正に向けて、今後も議論が重ねられる見込みです。
目次
制度発足当初から「ケアマネジメントの自己負担」は設定されず
我が国の介護保険制度では、介護保険サービスを利用した場合、利用者の所得に応じて1割あるいは2割の自己負担が発生します。ただし、制度発足当初よりケアマネジメント費用については「無料」とされてきました。
「無料」の理由については必ずしも明確になっていませんが、介護保険の制度設計に向けて議論していた厚生労働省の老人保健福祉審議会(当時)では「高齢者がケアマネジメントサービスを積極的に利用できるよう、利用者負担について十分配慮する必要がある」との見解が示されました。「ケアマネジメント」は、利用者の状態などを把握し、適切な介護サービスを組み合わせるという、いわば介護保険制度の「入り口」とも言え、ここに利用者負担を設定することは「ハードルを上げてしまう」という意見が多かったようです。ここには「無形のサービスに費用を支払うことには抵抗が強い」という我が国の国民性も関係してくるでしょう。
しかし制度発足から時間が経過し、ケアマネジメントの概念が広く浸透してくる中で「ケアマネジメントにも保険財源が使われており、利用者負担を求めるべきではないか」という議論がなされてきましたが、賛否両論あり、結論は出ていません。23日の介護保険では、このテーマについて改めて議論を行いました(関連記事はこちらとこちら)。
「家族の意向によるプラン変更が助長されてしまう」との反対意見
まず、介護現場に携わる立場の委員は、比較的自己負担導入に慎重なようです。
▽介護保険の入り口を狭める自己負担導入には反対である(鷲見よしみ委員:日本介護支援専門員協会会長、伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)
▽所得に応じた自己負担割合の引き上げや補足給付の見直しなど、「自己負担増」が議論されている。そうした中で、今、ケアマネジメントの自己負担導入を議論するべきではない(陶山浩三委員:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長、石本淳也委員:日本介護福祉士会会長)
▽現在でもケアマネジャーが作成したケアプランについて、家族の意向による「変更」が少なからずある。利用者負担を導入すればこれが促進・助長されてしまい、ケアマネジメントの質が下がる危険がある(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)
「利用者・家族を専門性のある視点で説得する」こともケアマネの役割
これに対し学識者や費用負担者側は、次のような理由を上げて導入に積極的な立場を明確にしています。
▽小規模多機能型居宅介護などではケアマネジメント費用も介護報酬に含まれ、自己負担も発生している。利用者や家族は「ケアマネジメント費用を誰が負担しているのか」を知らない。ケアマネジメントの質を担保するためにも利用者負担を導入すべきである(栃本一三郎委員:上智大学総合人間科学部教授)
▽公平・中立なケアマネジメントを確保するためには利用者負担を導入すべき。その際、セルフプラン(ケアマネによらず利用者・家族が作成するケアプラン)は廃止する方向で検討すべきである(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)
▽自己負担の導入によりケアマネジメントをよりよくしていくべきである。まず「要支援者は400円、要介護者は1000円」といった定額負担から導入してみてはどうか。その際、「自己負担を支払っているので言うことを聞け」と言ってくる利用者への対策も考える必要がある(桝田和平委員:全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)
▽ケアプランの標準化を進め、公平・中立を確保するなど、よりケアマネジメントの質を上げる必要があるが、不十分なままである。これを打開するためにも自己負担を導入すべきである。「言うことを聞け」という利用者・家族の声を断れるケアマネジャーが必要である(土居丈朗委員:慶應義塾大学経済学部教授)
▽利用者・家族が不当な要望をしてきた場合、弁護士のように、専門的な視点で説得するのがげプロフェッショナルであるケアマネジャーには求められる(岩村正彦部会長代理:東京大学大学院法学政治学研究科教授)
このように現時点でも「ケアマネジメントへの自己負担導入」には賛否両論があります。厚労省老健局振興課の三浦明課長は、「賛否が同数であったのではないか。両者の意見をしっかり分析して、対応を検討したい」と述べるにとどめています。来年(2017年)に予定される介護保険制度改正に向け、引き続きこのテーマが議題に登るのかも含めて、今後の介護保険部会の議論に注目する必要があります。
特定事業所集中減算、介護給付費分科会で見直すべきかを検討
23日の介護保険部会では、ケアマネジメントについて次のような論点も厚労省から示されました。
(1)ケアマネジメント手法の標準化に向けた取り組みを順次進めていく
(2)特定事業所集中減算の見直しも含めた公正中立なケアマネジメントの確保、入退院時における医療・介護連携の強化という観点から、居宅介護支援事業所の運営基準などを介護報酬改定にあわせて見直しを検討する
(3)市町村の事務負担面に配慮した上で、ケアマネジャー業務の適正な遂行確保策を考える
(4)市町村や地域包括支援センターによる適切なケアマネジメント推進に向けた支援を充実する
このうち(2)の特定事業所集中減算は、例えば「特定の事業所の意向を受けたケアマネジャーが、その事業所や関連法人事業所のサービスに偏ったケアプランを作成する」といった不適切な事例を防止するための仕組みです。
しかし、多くの委員からは「良質なサービスを提供する事業所のサービスを多くケアプランに組み込むことは当然であるのに、減算によってやむなく別のサービスを組み込まざるを得ないという不合理が生じている」といった指摘が出されています。
もっとも上記の「減算の目的」を一定程度評価する意見(桝田委員など)もあり、今後、社会保障審議会・介護給付費分科会に場を移して具体的かつ総合的な議論が行われることになります(関連記事はこちら)。
また(1)の標準化について栃本委員は、現在の介護保険制度では「状態像の把握」(要介護認定として市町村が実施)と、「サービスの選択と組み合わせ」(ケアマネジャーが実施)が分断されている点を問題視し、「出発点に戻って、状態像把握からサービス選択につながるロジックの構築をすべき」と提案しています。この点について厚労省の三浦振興課長は「ケアマネジメントの標準化に向けた研究班を立ち上げており、『見落としの防止』や『禁忌のサービスを選択しない』といったできるところから着手してはどうかと考えている」と説明しています。
さらに(3)は、居宅介護支援事業所の指定権限(現在は都道府県にあるが、遅くとも2018年度までに市町村に移管)と指導権限(都道府県にある)が、分断してしまうという課題にどう対応すべきかという論点です。市町村の事務処理能力を考えると、単純に「指導権限も市町村に移管すればよい」ということにはならず、今後「地方公共団体から意見を聴取した上で検討する」こととされています。この点について自治体の首町でもある藤原忠彦委員(全国町村会長、長野県川上村長)と大西秀人委員(全国試聴会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)は「まず手上げ方式(指導権限を持ちたい自治体には持たせ、そうでないところは都道府県のままとする)としてはどうか」と提案しています。
介護の重度化防止に向け、市町村・都道府県のインセンティブ付与も検討
このほか23日の介護保険部会では、次のような論点が示され、概ね方向が了承されています。
▽市町村や都道府県による「地域の課題分析」について、国がガイドラインを策定するなどして支援する
▽介護保険事業計画に「高齢者の自立支援」「介護の重度化防止」に向けた具体的な取り組み内容と目標を記載する。アウトカム指標としては、例えば「要介護状態などの維持・改善の度合い」「健康な高齢者の増加」など、保健者の取り組みの成果を反映させるものを設定する(関連記事はこちら)
▽都道府県・市町村に対する取り組みのインセンティブ(財源も含めた)付与を検討する
▽都道府県が行う居宅サービス事業者の指定について、市町村が意見できるようにし、指定に当たって条件を付すことを可能とする
▽地域密着型通所介護について、小規模多機能型居宅介護などの普及のために必要がある場合には、市町村が「指定をしない」ことができる仕組みを導入する
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