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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

能力に応じた利用者負担を求めるべきだが、具体的な手法をどう考えるべきか―介護保険部会(1)

2016.10.19.(水)

 介護保険の利用者負担について、「能力(例えば経済力)に応じた負担」という方向を目指すことには一致しているが、具体的な制度設計の議論になると、意見はさまざま―。

 19日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会では、利用者負担のあり方について事実上のフリートークを行いましたが、上記のような状況が続いており、意見集約にはまだ時間がかかりそうです(関連記事はこちら)。

10月19日に開催された、「第67回 社会保障審議会 介護保険部会」

10月19日に開催された、「第67回 社会保障審議会 介護保険部会」

「能力に応じた負担」という総論では、部会の意見は概ね一致か

 介護保険制度では、制度創設(2000年度)から経済力にかかわらず「1割」の利用者負担が課せられていましたが、2014年の制度改正で「一定所得以上(年金収入のみの場合は280万円以上)の利用者」には「2割」の負担を求めています。この背景には、▽保険料の過度な上昇を抑える(特に、事実上、ほとんど給付を受けられない40-64歳の第2号被保険者への配慮が必要)▽高齢者間の実質的公平性を確保する―ことなどがあり、また「利用者の能力に応じた負担」(応能負担)を一部導入するものでもあります。

介護保険では創設から1割負担であったが、2014年の制度改正で、一定所得以上の人に2割負担を課した。一方、医療保険では年齢・所得に応じてきめ細かな患者負担が課されている

介護保険では創設から1割負担であったが、2014年の制度改正で、一定所得以上の人に2割負担を課した。一方、医療保険では年齢・所得に応じてきめ細かな患者負担が課されている

介護保険で2割負担を求められるのは、「合計所得金額」と呼ばれる指標が160万円以上、単身で年金収入のみの人で考えると、280万円以上の人である

介護保険で2割負担を求められるのは、「合計所得金額」と呼ばれる指標が160万円以上、単身で年金収入のみの人で考えると、280万円以上の人である

 来年(2017年)に予定される介護保険制度改正でも、この「応能負担」の考えを広げていくべきかが、まず大きな論点となります。

 この点、「応能負担」の考え方に真っ向から反対する委員はごく少数派でした。明確に反対したのは伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)。伊藤委員は「保険料はもともと応能負担であり、利用者負担も応能とすれば、経済力によって負担に二重の差をつけることになる。さらに2割負担者の拡大、3割負担の創設などにつながっていき、介護離職をなくしていこうという政府の姿勢にも逆行する(利用料が過重で負担できなければ、家族介護に頼らざるを得ない)」と強調します。

 一方、利用者代表も含めて多くの委員からは、「介護保険制度の持続可能性、負担の公平性などを考慮すれば、応能負担の拡大はやむを得ない」という意見が出ています。

 こう見ると、次期制度改正での方向が固まったようにも思えますが、介護保険部会では「多数決で意見をまとめる」わけではありません。さらに次のように各論については意見が多数であり、いわば「総論賛成、各論反対」という状況なため、「応能負担の拡大が固まった」は言いにくい状況です。

高額介護サービス費の上限を、医療保険に揃えるべきかでは、賛否両論

 応能の利用者負担を拡大する手法として、例えば(1)医療保険における患者負担割合を踏まえる(2)軽度者では負担割合を高く設定する(3)高額介護サービス費について、医療保険の高額療養費との整合性を図る―ことなどが考えられます。

 これらについて介護保険部会委員の意見はまちまちです。

 (3)の高額介護サービス費(介護保険)と高額療養費(医療保険)では、▼介護保険の課税世帯(現役並み所得者を除く)の自己負担上限額が3万7200円▼医療保険の一般所得者(介護保険の課税世帯に相当)の自己負担上限額が4万4400円―という部分で差異があります。

医療保険と介護保険では、高額な自己負担を補填するための仕組みがあるが、細かい部分で両者には違いがある

医療保険と介護保険では、高額な自己負担を補填するための仕組みがあるが、細かい部分で両者には違いがある

 一定の高所得者には相応の負担を求める(応能負担)との考えに沿うと、高額介護サービス費を高額療養費に合わせて見直すことが必要とも思えます。この点について費用負担者である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)らはもちろん、学識者の立場で参加している土居丈朗委員(慶應義塾大学経済学部教授)や、サービス提供者である東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らも高額介護サービス費と高額療養費の整合性確保(上限額の引き上げ)に賛成しています。井上委員らは「現在、社会保障審議会・医療保険部会で高額療養費の上限引き上げなども議論しており、それが決定した場合には、高額介護サービス費についても同時に引き上げるべき」との見解も示しています。

 しかし、利用者の立場で参加している委員は、この点について「慎重な検討」を求めています。花俣ふみ代委員(認知症の人と家族の会常任理事)は、「要介護認定を受けている人の多くは、医療と介護の双方が必要で、保険外の食費・居住費負担もある。高額介護サービス費の上限引き上げに当たっては、慎重な検討が必要」と指摘。齊藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会常務理事)や井上由美子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は、「介護は長期にわたるため、医療よりも上限額が低く設定されるようになった。それを、整合性を取るという理由で、引き上げるのはおかしい」と述べています。

 また、伊藤委員や陶山浩三委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)も、「医療は治癒を目的とした短期的な給付だが、介護は長期にわたる給付という特徴がある。給付の性格が異なるので、整合性を図るという検討そのものがおかしい」と指摘していますが、岩村正彦部会長代理は、「医療と介護の性格は異なるが、上限額が異なるという点は説明しにくい。整合性は図るべき」と反論しています。

軽度者の利用者負担割合を高めることには一致して反対しているが・・・

 (2)は、財政制度等審議会・財政制度分科会で財務省から提案されている考え方です。財務省は、「軽度者(要介護2以下)では、中重度者(要介護3以上)に比べて介護費用額の伸び率が高い。これを揃えるために、軽度者の負担割合を引き上げるべき」と主張しています。

財務省は、軽度者の利用者負担割合を引き上げることなどを求めている

財務省は、軽度者の利用者負担割合を引き上げることなどを求めている

 この提案には、ほとんどの委員が反対しており、その根拠として多くの委員は「軽度になると負担割合が高くなるのであれば、自立支援に向けた意欲を削いでしまう。自立支援という介護保険制度の目的に反する」と指摘しています。

 また、鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年学研究科教授)は、「例えば女性では、後期高齢(75歳以上)になると運動器が弱り、軽度の要介護者となるケースが多い。一方、重度の要介護者では、その背景に脳卒中などの疾病があり、軽度者と重度者で大きく異なっている。財務省は軽度者の利用が重度者に比べて大きいと指摘するが、高齢化の進行で軽度者が増えるのは当然である。一方、疾病の発症率は十数年で大きく変化しないために重度者の伸び率は安定している。軽度者の負担割合を求めることは全く理解できない」と述べました。

 この点、土居委員や桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)は、「区分支給限度基準額」による対応を提案しました。例えば、ケアマネジメントの標準化を進め、▼標準プランまでは1割負担▼標準プランを超過し、区分支給限度基準額までは2割負担▼区分支給限度基準額超過分は10割(全額自己)負担―といった仕組みなどが考えられそうです。

 このように委員のほとんどが反対しているため、(2)案については「却下」になるとも思えます。しかし厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は、「介護保険部会だけで議論しているテーマであればともかかく、別に財政制度等審議会などでも議論が進められており、介護保険部会の意見の一致すなわち『却下』とはならない」と慎重な見方をしています。

補足給付で不動産の資産価値を考慮すべきか

 利用者の負担については「公平性の確保」という視点も極めて重要です。

 介護保険制度では、施設入所者に対して食費や居住費の負担を求めており、これは「在宅生活の要介護者との公平性」を考えたものです。

 しかし、低所得者に食費・居住費負担を求めることが厳しいケースもあり、「補足給付」として一部補填しています。ただし公平性を考慮し、2014年の介護保険制度改正では▼金融資産の考慮▼配偶者資産の考慮▼非課税年金の考慮―という見直しが行われました。今般、厚労省は、さらなる公平性を確保するために「保有不動産についても考慮するべきか」という論点を示しています。

 例えば外国では、「居住している土地を担保に、介護サービス費を賄う。利用者の死亡後に土地を売却して、介護サービス費と精算する」という仕組み(リバース・モーゲージなど)が構築されています。この仕組みについて、厚労省が外部研究機関に調査を依頼したところ「高額な宅地、つまり都市部でなければ土地を資産として捉えることが難しい」「推定相続人(子や孫など)全員に了承を得なければならない」など、我が国での導入は容易くない旨の報告書が作成されています。

 この点、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)らは、「都市部で高齢者が増加するため、将来的に必ず必要になる。全国一律でなくとも、大都市を中心とした仕組みについて早急に検討・構築する必要がある」旨を強調しています。

 なお岩村部会長代理は、「不動産を勘案するのであれば、もはや補足給付は保険制度の外の仕組みとするべき」とも指摘しています。ただし、竹林介護保険計画課長は「一般論」と強調した上で、「福祉制度の中で補足給付を受け継ぐ仕組みがないままに、介護保険制度の外に出すことはできないであろう」と述べており、当面は、「介護保険制度における補足給付」をどう見直していくべきかという点について検討が進むことになるでしょう。

 
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