診療報酬の審査基準を公開、医療機関自らレセプト請求前にコンピュータチェックを―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
2016.11.21.(月)
診療報酬の審査支払基準の統一化について、まずは「社会保険診療報酬支払基金」の改革を進めていくこととし、支払基金の「システム刷新計画」を全面的に見直す。また、審査の効率化を図るために、審査基準を公開し、医療機関において診療報酬の請求前に院内で「事前審査」を行える仕組みを構築する―。
16日に開かれた「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」で、下部組織のワーキンググループからこういった内容の報告が行われました。
検討会では保険者の意見なども聴取し、年内に意見をまとめる予定です。
審査基準には組織間・地域間で大きなバラつきがあることが改めて浮き彫りに
診療報酬については、審査支払機関で被保険者資格や請求内容のチェックと支払いが行われます。一般に被用者保険(健保組合や協会けんぽ)の被保険者については社会保険診療報酬支払基金(支払基金)が、国民健康保険の加入者については国民健康保険連合会(国保連)が審査を行っています。しかし、以前から「支払基金内、国保連内、支払基金と国保連の間で、審査ルールに格差がある」と批判され、これを是正するために「審査情報の共有」などが図られていますが、「未だ不十分」と指摘されています(関連記事はこちらとこちら)。
こうした状況を重く見て、政府の規制改革会議では「審査の効率化と統一性の確保」を図る必要があるとし、ゼロベースで審査の在り方を見直すよう提言しています。
厚労省はこの提言を受けて検討会を設置。さらに検討会では「審査・支払効率化」と「ビッグデータ活用」の2点について、専門的な議論を行うためのワーキンググループを設置し、今般、それぞれ報告を受けたものです。
前者の審査・支払効率化WGでは、審査の現状について詳細な分析が行われました。そこからは、やはり審査基準などについて組織間・支部間(地域間)で大きな差異があることが分かりました。
例えば、国保では診療報酬点数表をベースにした審査ルール(Sランプ)や医学的な観点からの審査ルール(Vランプ)を国民健康保険中央会が設けていますが、都道府県の国保連によってその採用状況はまちまちです。
また支払基金と国保連で、診療行為別に審査ルールの一致状況を見ると、相当程度異なっていることも分かりました。
さらに、診療行為別に付箋(疑義)の貼り付け傾向を見ると、支払基金と国保連でやはり大きくことなっていることも明らかになりました。
国民皆保険制度の下では、こうした審査ルールのバラつきは解消していく必要があります。審査・支払効率化WGは、支払基金と国保連の改革を一体的に進めていくことが必要とした上で、まずはシステム刷新が迫っている支払基金について審査業務の効率化・審査基準の統一化を加速化させ、これを踏まえならが、国保連と支払基金の審査基準の統一化を行うべきとの考えを明確にしました。
さらに支払基金の審査業務・審査基準統一化に向けて、次のような具体的な考え方も示しています。
(1)支払基金の「システム刷新計画」の全面的な見直し
(2)コンピュータチェックを医療機関などにおいて行う仕組み
(3)コンピュータチェックに適したレセプト形式の見直し
また将来的な、国保連と支払基金の審査基準統一化に向けて、「コンピュータチェックルールや付箋貼付状況の差異に係る継続的な見える化」などを行うことも求めています。
このうち(2)は、現在、支払基金などが行っているオンライン請求システムのASPチェック・レセプト電算処理システムにおける受付事務点検のコンピュータチェックの内容について、請求前に医療機関などが事前のコンピュータチェックを行えるようにするものです。チェックでエラーが判明した場合には、これを訂正して請求することになります。また、この医療機関などでの事前チェックを可能とするために、現在、ベンダーが独自に開発しているコンピュータチェックルールについて、「審査支払機関が一元的に構築」することも必要としています。
こうした見直しがどのようなスケジュールで行われるのかが気になります。飯塚正史構成員(元明治大学大学院客員教授)も「医療機関での事前コンピュータチェックの実施時期などを工程表に落とし込むべき」と要望しました。この点について厚労省保険局保険課の宮本直樹課長は、「支払基金のシステム刷新は2021年(平成33年)1月に行われる予定で、刷新計画の全面見直しにあたっても、これを変更(後ろだ押し)しないようにする必要がある。これらを検討する中で、医療機関での事前コンピュータチェックについても考えていく」と述べるにとどめています。
医療・介護データを連結し、効果的な保健指導などを可能に
ビッグデータ活用WGでは、「データ収集が目的でなく、これをどう活用するかが重要」との基本認識を確認した上で、例えば「健康な時期(若い世代)のデータ、高齢になってからのデータ、介護が必要担ってからのデータなどを連結することで『何歳の時点で、どういう人に対して、どういう保健事業をすれば、将来の後期高齢の医療費や、介護費用が適正化できるか』といった分析をし、保険者にフィードバックしていく」ことなどを可能にすべきと提案。
具体的には、▼KDB(国民健康保険データベース)の活用拡大や、被用者保険におけるビッグデータの活用促進策▼医療・介護などのビッグデータ連結の有用性と技術的な課題の整理▼データ特性を踏まえた上でのレセプトデータなどの分析の有用性や、その結果の現場への還元▼データのプラットフォーム構築―などを行うよう提言しています。
検討会では、今後、両WGの意見・提言を踏まえて、さらに「ビッグデータ活用における保険者・審査支払機関の対応体制の在り方」「審査について支払基金以外の者を保険者が活用すること」「支払基金の支部の在り方」「今後の支払基金に必要なガバナンスの在り方」など、残された論点を議論し、年内に意見を取りまとめる予定です。この点について、林いつみ構成員(桜坂法律事務所弁護士)ら規制改革会議メンバーからは「詳細は別にして、明確な方針を年内に必ずまとめるべき」との強い要請が出されました。前述のように審査基準の統一については古くから議論されていますが、必ずしも十分な成果が出ていないことを牽制したものと言えるでしょう。
なお、今後の議論について森田朗座長代理(国立社会保障・人口問題研究所長)は、▼保険者機能の強化の意味など将来的な方向性▼コンピュータチェックを全面的に導入する▼支払基金の組織の在り方などの当面の課題―という3段階に分けて議論を整理してはどうか、と提案しています。
西村周三座長(医療経済研究機構所長)は、保険者の意見も聴取する必要があるとし、次回会合で健康保険組合連合会や全国健康保険協会を対象にヒアリングを行うことを決めています。
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