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介護保険、現役並み所得者での3割負担を厚労省が提案―社保審・介護保険部会(1)

2016.11.28.(月)

 「能力に応じた負担」の観点から、現役並み所得者については、介護保険でも「3割負担」を求めることとし、一般区分の高額介護サービス費における月額負担上限を4万4400円に引き上げてはどうか―。

 25日に開かれた社会保障審議会の介護保険部会では、厚生労働省からこういった提案が行われました。もちろん賛否両論が相次ぎ、今後、年末の意見とりまとめに向けてどう調整していくのか注目されます。

11月25日に開催された、「第69回 社会保障審議会 介護保険部会」

11月25日に開催された、「第69回 社会保障審議会 介護保険部会」

高額介護サービス費、一般区分の負担上限を4万4400円に引き上げ

 次期介護保険制度改正に向けて、介護保険部会では「軽度者への生活援助サービスをどう考えるのか」「介護費の地域差をどう縮小していくのか」など、さまざまな観点から議論が行われています。そこで重視されている視点として、「地域包括ケアシステムの構築」と「持続可能な介護保険制度の構築」の2点があります。

 いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、慢性期医療や介護のニーズが飛躍的に高まることが予想され、介護保険を支える保険料(第1号)は8000円を超える見込みです。このため介護保険部会では、「負担能力の高い人には、応分の負担を求めるべきである」といった方向が見出されています(関連記事はこちら)。

 25日の部会では、この方向に沿って、負担能力の高い、つまり所得の高い人にはより多くの負担を求めるため、次の2つの見直し案が厚労省から提示されました。

(1)現役並み所得相当の世帯では、利用者負担を3割に引き上げる

(2)一般区分の高額介護サービス費の負担上限額を4万4400円に引き上げる

厚労省は、次期介護保険制度改正で「現役並み所得相当世代の3割負担導入」「高額介護サービス費の一般区分の月額上限引き上げ」を提案

厚労省は、次期介護保険制度改正で「現役並み所得相当世代の3割負担導入」「高額介護サービス費の一般区分の月額上限引き上げ」を提案

 (1)の現役並み所得相当とは、概ね「単身世帯では年収383万円以上、夫婦世帯では年収520万円以上」を意味し、居宅介護サービスの利用者では13万人程度、特別養護老人ホームの入所者では1万人程度が3割負担になるものと予想されます。厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は、この見直しによって「満年度で100億円程度の介護費抑制効果がある」(2016年度の介護費はおよそ10兆4000億円)と見積もっています。

 (2)は、高額介護サービス費における月額負担上限額を、医療保険の高額療養費と揃える提案です。竹林介護保険計画課長は、こちらも満年度で100億円程度の介護費抑制効果があると見込んでいます。

 負担割合の3割への引き上げや、高額介護サービス費の上限見直しで、利用者個々人でどの程度の負担増が生じるのかが気になります。介護保険サービスの利用状況は人によってさまざまであり、どの程度の負担増になるかもケースバイケースです。この点について厚労省は、平均的な利用者負担額を下表のように試算しています。居宅サービス利用者を見てみると、軽度者では負担割合が1割から3割になった場合に実際の負担額そのものも3倍に増加しますが、重度者では高額介護サービス費によって実際の負担額は2倍程度にとどまります。また施設入所者では、1割から3割の引き上げでも1.07から2倍程度にとどまります。また現在2割負担となっている施設入所者では、すでに実際の負担が高額介護サービス費の上限に達しているため、実際の負担額増加はほとんどありません。ただし、3割負担となる現役並み所得相当か否かは世帯単位で判断されます。例えば妻の年金収入が280万円であれば、現在は1割負担ですが、夫が年金以外にも収入を持つなどして年収383万円以上である場合には、これに引っ張られて妻の利用者負担も3割に引き上げられるます。

要介護度別に平均的なサービス利用者の実際の負担額を見ると、在宅では軽度者で負担増が大きいが、重度者の負担増はやや抑えられる。施設入所者でも、高額介護サービス費によって負担増の幅は一定程度に抑えられる見込み

要介護度別に平均的なサービス利用者の実際の負担額を見ると、在宅では軽度者で負担増が大きいが、重度者の負担増はやや抑えられる。施設入所者でも、高額介護サービス費によって負担増の幅は一定程度に抑えられる見込み

 こうした厚労省案に対し、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)や陶山浩三委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン政策顧問)、桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)、花俣ふみ代委員(認知症の人と家族の会常任理事)らは、▼一定所得以上(年金収入のみの場合は280万円以上)の人では昨年(2015年)8月から2割負担が導入されたばかりである▼医療保険と異なり、介護保険は長期的な利用者負担が伴うので、同列には扱えない▼負担を課すわりには、財政効果が小さすぎる▼負担増で介護保険の利用控えが生じ、介護による若人の離職が増加することが懸念される―ことなどを上げ、「時期尚早である」と反対を表明しています。

 一方、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)、小林剛委員(全国健康保険協会理事長)、岩村正彦部会長代理(東京大学大学院法学政治学研究科教授)らは、介護保険の維持を考えたとき、能力に応じた負担を求めることは当然であるとし賛意を明らかにしました。小林委員らは「将来的には、2割負担の対象者拡大なども検討すべき」と指摘。さらに栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)は、「介護保険財政を見た時、時期尚早とは言っていられない。負担増に反対するのであれば、軽度者の一部給付をカットするなどの見直しも必要である」と述べています。

 利用者負担増については、このように賛否両論が出ており、議論を続けても意見の一致を見ることは難しいと考えられます。厚労省は、両者の意見を踏まえて、部会としての「介護保険制度の見直しに関する意見」(別途お伝えします)に盛り込む考えですが、最終的に負担増を行うべきか否かは政治決着になることも予想されます。

現役世代においても、負担(納付金)の公平性を段階的に確保へ

 25日の部会では、40-64歳の第2号被保険者の負担について公平性を確保するために「総報酬割」を段階的に導入してはどうかという提案も厚労省から行われました。

 介護費は、公費50%(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)と保険料50%(65歳以上の1号保険料22%、40-64歳の2号保険料28%)で賄っています。1号保険料と2号保険料は、両者の「1人あたり負担額」が同水準となるように按分されます。

 2号保険料のうち、被用者保険加入者(健康保険組合や協会けんぽ、共済組合などの公的医療保険)の負担額については、現在、各医療保険の加入者数に応じて設定されています【加入者割】。しかし、この仕組では「協会けんぽなど所得水準の低い被用者保険では、相対的に重い負担を課されている」ことになるのです。厚労省は、「同じ年収456万円の人でも、加入者数の少ない医療保険に加入する場合には介護保険料は月額2660円、一方、加入者数の多い医療保険に加入する場合には月額9880円という不公平がある」と説明しています。

現行の加入者割では、同じ456万円の所得であっても、A保険者の加入者では月額9880円、E保険者の加入者では月額2660円という具合に介護保険料に格差が生じてしまう

現行の加入者割では、同じ456万円の所得であっても、A保険者の加入者では月額9880円、E保険者の加入者では月額2660円という具合に介護保険料に格差が生じてしまう

 そこで厚労省は、各医療保険の加入者数だけでなく、負担能力(報酬)も勘案した仕組み【総報酬割】の導入を提案しているのです。ただし、医療保険によっては大きな負担増となるため、段階的な導入や一定の支援を行う必要もあると付言しています(関連記事はこちら)。

 この提案については、鈴木委員や小林委員、栃本委員、岩村部会長代理らは「若人世代内の負担の公平化を図る必要がある」とし、厚労省提案に賛成。

 一方、岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)や伊藤委員、松本展哉参考人(健康保険組合連合会企画部長、佐野雅宏委員の代理出席)らは、現役世代はほとんど介護保険を利用することはなく「(直接の)受益のない負担増」であるとして反対。また2017年度には後期高齢者医療における負担金についても全面総報酬割が導入されるなど、大きな負担増が控えているとして、時期尚早であるとも訴えました。

 

 なお介護保険への総報酬割を全面導入した場合、協会けんぽに投入されている国費が1600億円浮くことになります。協会けんぽでは、疾病などの構造や発症率は同程度と考えられますが(つまり同規模であれば支出は同程度)、健康保険組合と比べて加入者の所得水準が低いため(同規模であれば収入は協会けんぽで少ない)、国から補助が行われているのです。しかし、所得水準に応じた負担が実現されれば「支出と収入のバランス」が確保できることになり、国からの補助が不要になるためです。

 部会では、この浮いた国庫について「介護保険の中で使うべき」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)、「負担増となる健康保険組合の支援に一部を使うべき」(鈴木邦彦委員)といった提案がなされています。

 

 このテーマについても賛否両論があり、意見の一致を見ることは難しいようです。しかし、「負担能力に応じた負担」「世代間・世代内の公平性」を考えたとき、全面総報酬割の導入は進めるべきでしょう。前述のように後期高齢者の医療費負担においては、すでに段階的に総報酬割が導入され、2017年度からは全面総報酬割となります。介護保険への総報酬割についても、いつから、どのような段階を踏んで導入するのかという制度設計を考える時期に来ていると言えそうです。

  
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