認知症デイサービスはIIIa以上、一般デイではIIb以下が主に利用—介護給付費分科会
2017.5.25.(木)
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)における医療ニーズ対応や福祉用具貸与についてどう考えるか、認知症対応型通所介護(認デイ)と地域密着型通所介護との役割分担をどう考えるか—。
24日に開かれた社会保障審議会の介護給付費分科会では、こういったテーマについて議論を行いました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。認デイについては、地域密着型通所介護に比べてより重度の認知症患者が利用している実態が示されており、「機能の明確化」を図るべきといった意見が出されています。
目次
グループホームに看護配置を義務化するか、外部からの訪問看護などを充実するか
高齢化の進展とともに認知症高齢者も増加し、介護保険制度でどのように対応していくかが重要な課題となっています。
現在、グループホームや認デイといった認知症高齢者に特化した介護保険サービスが整備されているほか、各種介護保険サービスで認知症高齢者を積極的に受け入れた場合の加算などが設定されています。
このうちグループホームは、「認知症(急性を除く)の高齢者に対して、共同生活住居で家庭的な環境と地域住民との交流の中で、▼入浴▼排せつ▼食事―などの日常生活上の世話と機能訓練を行い、能力に応じ自立した日常生活を営めるようにする」ことを目的とした地域密着型サービスの1類型です。
利用者の平均要介護度は上昇傾向にあり、これは「医療ニーズの高い利用者」の増加にもつながっています。グループホーム側もこれに対応するため、【医療連携体制加算】(日常的な健康管理を行うための看護師配置や、状態悪化時のための医療機関との連携などを評価)の算定は2015年11月には76.2%に達しています。しかし、グループホームからの退去理由としては「医療ニーズの増加」がもっとも多く(34.5%)、胃瘻・経管栄養やインスリン注射などに対応できないとするグループホームは6-7割にのぼるなど、「さらなる医療ニーズへの対応」をどう考えるかが今後の重要検討課題の1となっています。
この点については、2つのアプローチ方法が考えられます。1つは医療職(例えば看護職員)の配置義務化などで、内部で医療ニーズに対応する方法です。常に医療職がいれば適切な対応が可能となり瀬戸雅嗣委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は「検討すべき」との見解を示しました。もっとも、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、▼小規模の事業所である(家庭的な雰囲気が重視される)▼看護師が不足している—点などを考慮すれば「非現実的」と指摘しています。
もう1つの方法は、かかりつけ医や訪問看護など外部の医療サービス提供を積極的に認めるものです。鈴木委員はこの方法によって「老衰による看取りにも対応できるようになる」との考えを示したほか、「外部の医療サービスで対応できない場合には、医療機関への入院など、他のサービス利用を考えるべきであろう」とコメントしています。1つのサービス(ここではグループホーム)で、すべての機能を持たせるのではなく、各種サービスを組み合わせることで多様なニーズに対応すべきとの視点と考えられます。
後者の方法には齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)も後者の外付け医療サービス案に賛同しており、「医療ニーズが高いので生活場所が変わる(退所せざるを得ない)状況は避けるべく、必要な医療・看護が外部から入れる形が良いのではない」との見解を示しています。さらに齋藤委員は、現在の【医療連携体制加算】に上位区分を設けるなどし「医療ニーズのより高い利用者に対応できる」要すべきと提案しています。
なお、医療ニーズに関連して「認知症高齢者の口腔ケア」の重要性を厚生労働省は指摘しており、高野直久委員(日本歯科医師会常務理事)は「軽度のうちに歯科医師に情報連携がなされるような方策を検討してほしい」と要望。また武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「慢性期病棟に歯科衛生士を配置することで、口腔の清潔が保たれる。これにより誤嚥性肺炎などの発症率も低下すると期待される。歯科衛生士配置を考えてどうか」との提案も行っています。
この点、鷲見よしみ委員(日本介護支援専門員協会会長)も「入院により認知症症状が悪化する。口腔ケアに抵抗を示す認知症高齢者も少なくないが、口腔ケアによる入院予防の必要性は大きい」と強調しました。
グループホームでの福祉用具提供、加算化すれば利用者負担は上がる可能性
ところでグループホームにおいて「福祉用具提供をどう考えるか」という論点もあります。現在、グループホーム基本報酬の中で福祉用具提供は包括評価されていますが、「特区においては、福祉用具提供体制を整えた事業所に対して『加算を設ける』べき」との指摘も出ているのです。
この点について、「7割のグループホームでは、利用者に適切な福祉用具提供が行われている」との厚労省調査結果を踏まえて、本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)や鈴木委員は「現状維持」(つまり加算は設けず基本報酬で対応)との見解を示しましたが、及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会副会長)は、「利用者個々人に合った福祉用具のほうが良いに決まっている。すべての製品をグループホームで準備することはできず、充実した体制への対応を検討すべき」と指摘しています。
仮に福祉用具提供を加算化した場合について、厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は「基本報酬を引き下げることになる」「現在、広く薄く基本報酬の中で福祉用具貸与をみている(つまり福祉用具を利用する場合の個人負担は小さい)が、切り出した場合には、利用者個人の福祉用具貸与負担は重くなると考えられる」といった論点を紹介し、非常にセンシティブなテーマであると説明しています。
認デイでしかできないサービス内容や効果などを明確にすべき
認デイは、名称どおり「認知症患者に特化した通所介護(デイサービス)」で、2006年に創設されましたが、事業所数・利用者数ともに2014年度をピークに「横ばい」あるいは「若干の減少傾向」となっています。
この背景について田部井康夫委員(認知症の人と家族の会理事)や伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は、「報酬が高く設定され、利用者負担が高くなる。認知症の家族からすれば、『できるだけ回数を多く利用できる』一般のデイサービスを利用する傾向にあるのではないか」と分析。もっとも、利用者負担を下げる(つまり報酬を低く設定する)ことになれば、事業所経営が困難になってしまうため、「認デイの特性(一般の通所介護とは異なる『何』ができるのか)などをより明確化することが必要」と伊藤委員は指摘しています。
この点について厚労省は、認デイと地域密着型通所介護とで利用者の日常生活自立度を分析した資料を提示しました。認デイでは「IIIaより重い」利用者が多く、地域密着デイでは「IIbより軽い」利用者が多くなっており、機能分化が進んでいるようです。
IIbは「日常生活に支障を来す症状・行動や意思疎通の困難さが家庭内で見られるようになるが、誰かが注意していれば『自立できる』状態」と定義され、Ⅲaは「日常生活に支障を来す症状・行動や意思疎通の困難さが主に日中を中心に見られ、『介護を必要とする』状態」と定義されており、鈴木委員も「IIbとIIIaの差は大きい、『認デイにしかできないこと』や『効果』を明確にしていく必要がある」と強調しています。
もっとも利用者が減少傾向にあることは、サービスの存続を難しくすることを意味します。実際に東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)も事業廃止事例を紹介しています。この点について鈴木委員は「人口の少ない地域では、地域密着型サービスではあるが、近隣市町村からの利用者確保を可能とする」「認知症カフェの開催や家族介護を支援した場合、さらに社会的活動に利用者が参加した場合などを評価する加算を設置する」などの対応を検討すべきと提案しています。
認知症患者対応を評価する各種加算、集約化すべきか
また、認知症に関連する加算としては、▼介護保険施設や居住系サービスにおいてBPSDが現れた認知症患者の緊急受け入れを評価する【認知症行動・心理症状緊急対応加算】▼認知症短期集中リハビリテーション実施加算▼専門的な認知症ケア研修を修了した職員による介護サービス実施を評価する【認知症専門ケア加算】―など、数多くの項目が創設されています。
この状況について費用負担者代表である本多委員は「財源の有効活用を考慮し、加算を集約化する方向で検討すべき」との考えを示しました。加算が集約されれば、これまでに要件を満たしていた事業所でも要件を満たさなくなるケースが増え、結果として算定件数(費用)が減少していくと考えられます。
一方で、認知症高齢者への受け入れは国家的な重点事項であり、きめ細かな加算の整備が好ましいとの考え方もあり、今後の分科会議論に注目が集まります。
なお、鈴木委員や稲葉雅之委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は【認知症専門ケア加算】について、「専門的な研修がどこも満員である」と訴え、開催頻度などを高めるよう要望しています。
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