訪問看護、2018年度同時改定でも事業規模拡大などが論点に―中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
2017.3.22.(水)
お伝えしているように、22日に中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会の委員による「医療と介護の連携に関する意見交換」が行われました。ここでは、訪問看護も議題に上っています。
厚生労働省保険局医療課の迫井正深課長は、▼訪問看護ステーションの事業規模拡大▼病院・診療所が行う在宅支援(訪問看護など)の拡大や人材育成▼訪問看護の24時間対応や急変時対応▼訪問看護と他のサービスを組み合わせた複合型サービスの推進―などの論点を掲げています。
目次
訪問看護担う人材育成や、複合型サービスの推進などを次期改定でも重視
訪問看護は、医療保険と介護保険のいずれからも給付されるサービスで、地域包括ケアシステムの要になると期待されており、訪問看護ステーション数は2016年には医療保険8619か所・介護保険8383か所、常勤換算の従事者数は2015年には5万人超、利用者数は2015年には医療保険17万823人・介護保険38万5300人にまで拡大しています。
しかし、訪問看護を巡っては次のような課題もあります。
▼病院・診療所が行う訪問看護は、医療保険では横ばい、介護保険では減少している
▼訪問看護ステーションの約半数は5人未満と小規模である。小規模な訪問看護ステーションでは、利用者の求める24時間対応や緊急時の対応などが必ずしも十分に行えていない
▼訪問看護ステーションに所属する看護師は、看護師全体の約2%にとどまる
▼看護小規模多機能型居宅介護(看多機)を併設する訪問看護ステーションは2015年には224施設で、14年から53施設減少
こうした課題は従前から続くもので、近時の診療報酬・介護報酬改定で機能強化型訪問看護ステーションの創設(常勤看護師5名以上で、看取りを一定以上行うなどの要件を満たせば、高い報酬が得られる)や、病院・診療所からの訪問看護の報酬引き上げ(人材育成も視野に入れている)などが行われていますが(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)、その効果はまだ十分に現れていないようです。
そこで迫井医療課長は、2018年度の次期同時改定に向けて▼訪問看護ステーションの事業規模拡大▼病院・診療所が行う在宅支援(訪問看護を含め)の拡大▼訪問看護に携わる人材の育成▼24時間対応や急変時対応▼訪問看護と他のサービスを組み合わせた複合型サービスの推進―などを論点として掲げています。
深夜や早朝の訪問看護のニーズは、実際どれだけあるのか
このうち24時間対応は利用者の多くが望む機能であるとの調査結果が出ていますが、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長、介護給付費分科会)は「誰でも24時間対応が好ましいと考えるが、本当に24時間の『ニーズ』があるのか、真夜中や早朝の訪問依頼があるのかなどを調べる必要がある」と指摘。また、松本純一委員(日本医師会常任理事、中医協)からも「在宅診療を行う経験からすると、夜中に患者から往診などの要請があることはあまりない」との意見が出ましたが、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事、介護給付費分科会)は「私の病院でも訪問看護を実施しているが、夜間の訪問要請は一定程度ある」との見解もあり、一度、実際のニーズを把握する必要がありそうです(2015年度介護報酬改定の効果検証で一部調査を実施している)。もっとも、24時間対応のニーズといっても、実際に看護師が訪問する必要があるものから、他職種の訪問で対応可能なもの、電話での説明・指示で間に合うもの、などさまざまなため、詳細な分析は困難でしょう。
この点について松本委員や東委員は、「24時間対応と告げると、看護師が辞めていってしまう。『呼ばれたら訪問します』との気概を持った看護師に訪問看護を担ってほしい」と期待を寄せています。
また、齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事、介護給付費分科会)は、「訪問看護ステーションは、言わば病院のナースステーションを街に設置するようなもので、24時間・365日の対応は当然と考える。そのためには大規模化が望まれ、次期改定に向けて対応を議論してほしい」と要望しました。
なお、小規模の訪問看護ステーション乱立を避けるためには、そもそもの開設基準などを厳しくする(例えば現在の常勤換算2.5人以上という基準値を引き上げる)ことも考えられます。この点について厚労省保険局医療課および老健局老人保健課の担当者は、「小規模の訪問看護ステーションのニーズもある。在宅医療の推進は途上であり、設置基準の厳格化は考えにくいのではないか」とメディ・ウォッチにコメントしています。
病院・診療所からの訪問看護、「入院対応も可能」な点の評価を求める声
病院・診療所からの訪問看護は、診療報酬・介護報酬ともに訪問看護ステーションからの訪問看護に比べて、低めの報酬が設定されています。しかし、「人材育成のためにも病院・診療所からの訪問看護を推進する必要がある」との観点から、2015年度の介護報酬改定、2016年度の診療報酬改定で報酬引き上げがなされましたが、効果は十分ではないようです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
この点について猪口雄二委員(全日本病院協会副会長、中医協)は「病院からの訪問看護であれば、何かあった場合に、即入院対応が可能である。そうした機能強化を図る必要もある」とし、次期同時改定でのさらなる報酬引き上げを求めています。
支払側委員からは「ICTを活用した訪問看護のミスマッチ解消」の提案も
医療保険の訪問看護と、介護保険の訪問看護を比べると、医療保険給付のほうが利用者数の伸びが大きく、給付費のシェアも高まってきています。この背景について鈴木委員は「医療保険の訪問看護は重症の患者が多い。介護保険では、より報酬水準の低い訪問介護に利用者が流れている」と分析。介護保険では、在宅サービスにおいて月当たりの給付上限(区分支給限度基準額)があるため、利用者は安価なサービスを好む傾向にあるのです。
この点に関連して幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事、中医協)は、「医師による訪問診療の内容を見ると、▽健康相談▽血圧・脈拍測定▽服薬援助・管理―のみという患者が半数近くを占めていた(関連記事はこちら)。これを医師が担うべきだろうか。訪問看護でもこうしたミスマッチ(看護師が対応する必要ない患者への訪問看護の提供)がないのか、調べる必要がある」と指摘。さらに「ICTが発達し、チーム医療構築の環境が整備されてきている」とも指摘し、ミスマッチの解消(通常は遠隔で患者の状態などを把握し、急性増悪時など必要な場合に訪問する仕組みの創設など)を行うべきと提案しています。
これには鈴木委員や齋藤委員から「定期的に訪問することで、悪化、重症化を防ぐことができ、在宅生活を継続できる。定期的な訪問看護、訪問診療を組み合わせることが重要だ」と反論。ただし、武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長、介護給付費分科会)は「訪問看護の中身を見ると、ケアマネジャーが実施可能なものもある。ケアマネジャーが医療分野の勉強・研修を行うなどし、さまざまな職種が訪問看護を提供できる仕組みを検討してもよいのではないか」とコメントしています。
なお、訪問看護を担う看護師の確保に向け、齋藤委員は「病棟の看護師が、比較的長期間、訪問看護ステーションに出向する事業の仕組み化を考えている」ことを紹介。モデル事業では、病棟の看護師が「より早期の退院支援の必要性」などを再認識することができたり、個人レベルでの密接な連携が可能になるなどの成果を上げています。
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