ケアマネの特定事業所集中減算、廃止含めた見直し要望が多数—介護給付費分科会(1)
2017.7.24.(月)
公正中立なケアマネジメントのために「特定事業所集中減算」などが設けられているが、少なくとも「地域で利用可能な事業所が少ないサービス」「主治医が指示する場合に利用可能な医療系サービス」を除外するなど、廃止を含めた見直しを検討すべきである—。
19日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、委員からこうした意見が多数出されました。また、シームレスな医療・介護提供を可能とするために、入院医療機関とケアマネ事業所との連携を進めていくための方策についても議論が行われています(関連記事はこちらとこちら)。
特定事業所集中減算、医療系サービスなどは少なくとも除外すべきとの指摘
19日の介護給付費分科会では、▼居宅介護支援(ケアマネジメント)▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)―の2点について、2018年度介護報酬改定に向けた総括的な議論が行われました(特定施設入居者生活介護は、時間切れで次回に持ち越し)。ここでは前者のケアマネジメントに焦点を合わせ、特養ホームに関する議論は別途、お伝えします。
介護保険制度では、居宅サービス利用に当たって、居宅介護支援事業所が▼利用者の心身の状況▼環境▼希望—などを勘案(アセスメント)して、訪問介護・看護、通所介護・リハビリなどを組み合わせた「ケアプラン」(居宅サービス計画)を作成し、このプランに基づいてサービスを利用することが原則となります。介護保険は「自立支援」を目的とした制度であり、利用者自身あるいはサービス提供事業者に選択を一任すれば、自立支援という目的とは異なるサービスに偏ってしまう可能性があるためです。
もっともケアマネジャーが、「A訪問介護事業所にお世話になっているので、私の担当する利用者ではA事業所からの訪問介護を多く組み入れよう」などと考えれば、自立支援という目的が達成できません。そこで厚労省は、(1)特定事業所集中減算(2)運営基準での公正中立性を求める(3)保険者(市町村)によるケアプラン点検―によって公正中立なケアマネジメントを確保することを目指しています。
このうち(1)の特定事業省集中減算は、正当な理由なく特定の事業所のサービス割合が80%を超えた場合に、ケアマネ事業所の基本報酬を200単位減額するものです。ケアマネジャーが一部事業所と癒着し、そこに利用者を誘導することを避けるための仕組みです。
しかしこの減算規定には多くの批判があります。例えば「質の高いサービスを行う事業所に利用者が集中するのは当然」「量の少ないサービスでは集中が生じるのは当然」「医療系サービスでは、医師の指示があり、ケアマネジャーによるコントロールは難しい」などの指摘です。会計検査院や参議院でも、減算規定の実効性を疑問視し、「抜本的見直しを含めた検討を行うべき」との見解を示しています(関連記事はこちらと )。
19日の分科会でも、やはり減算規定に対する批判が数多く出されています、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は「少なくとも▼地域で利用可能な事業所が少ないサービス(訪問入浴介護など)▼主治医が指示する場合に利用可能な医療系サービス—は除外すべき」と提案。本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)も同旨の見解を示しました。
また大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)は、特定事業所集中減算から除外される「正当な理由」に中に「都道府県知事などが認めた場合」とある点について、「より明確な基準を設定すべき」と要望しています。高松市では、減算の基準が従前の90%から80%に厳しくなり(2015年度の前回介護報酬改定)、数字上は対象となる事業所が10倍程度増加したものの、「正当な理由」との判断で実際の減算対象は従前と変わらず、「手間ばかりが増えた」と問題点を指摘しています。
一方、小原秀和委員(日本介護支援専門員協会副会長)や武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、より根本的に「経営的に独立ケアマネ事業所が運営できる状況の確保」が優先課題との見解を示しました。A事業所に併設したケアマネ事業所では、A事業所を優先的にプランに組み込まざるを得ず、そもそもの趣旨である「自立支援に向けた公正中立性を担保できない」との見解に基づく主張です。
関連して伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は、「独立型のケアマネ事業所には特定事業所集中減算は適用しない」「同一グループへのサービス集中も適用対象に含める」ような見直しを提案しています。
なお鈴木委員は「減算規定については2015年度の前回改定論議で十分に議論し、2018年度改定に向けては『どう見直すか』に集中した議論を行うべき」と強く求めています。
この論点に関連して込山振興課長は、「有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの高齢者向け住まいについて、特に適切なケアマネジメントを求める意見がある」ことを紹介しています。一部の集合住宅において、過度な訪問介護や通所介護などが行われていると指摘されており、今後、正面から議題として取り上げられる可能性があります。さらに集合住宅に併設されているケアマネ事業所において、移動コストを考慮した減算規定も検討テーマに上がっています。
末期がん患者のケアプラン、迅速な見直しを可能とするための見直し
冒頭で述べたように、介護保険の居宅サービスを受けるためには「ケアマネジャーのアセスメントに基づくケアプランの作成」が原則となります。しかし、▼入院患者が退院後に介護保険サービスを利用してもらおうとしても、医療機関とケアマネ事業所との連携が不十分で、円滑なサービス利用が阻害されている▼特にがん末期の患者では容態が急激に変化するが、ケアプラン変更が追いつかず、必要なサービスの迅速利用が阻害されている—といった問題点があると指摘されています。
前者については、連携促進のための加算として【入院時情報連携加算】(利用者が入院するに当たり、当該医療機関に利用者の心身の状況や生活環境などの情報を提供することを評価)、【退院・退所加加算】(入院患者などが退院し居宅サービスを利用する場合に、病院などの職員と面談し、必要な情報提供を受けてケアプランを作成し、サービスの利用調整を行うことを評価)があります。しかし、両加算ともに「医師とのコミュニケーションが難しい」「情報連携の機会確保が難しい」といった声が現場のケアマネジャーからは出されています。
医師・ケアマネジャーの双方ともに多忙であり、また地方であれば「ケアマネジャーが医療機関に出向く」だけでも相当の時間がかかり、加算算定の障壁になっていると予想されます。具体的な見直し方向はまだ見えてきませんが、以前にも指摘された「ICTを活用した情報連携」などが模索されることになりそうです(関連記事はこちら)。なお、【入院時情報連携加算】は、現行「入院から7日以内に情報提供する」ことが要件となっていますが、「2日以内の情報提供」が半数を超えている状況を受け、鈴木委員は「3日以内に要件を厳しくすべき」と提案しました。
また後者では、医学的な判断を適切に行うために「ケアマネジャーから看護師などに相談する仕組み」を求める意見(齋藤訓子委員:日本看護協会副会長)が出た一方で、ケアマネジャーの業務負担も考慮し「患者の同意があれば、医師の指示で迅速なサービス提供を可能とする仕組み」が必要との意見(鈴木委員)も出されています。末期がん患者が、より平穏に最期を迎えられるよう、柔軟かつ適切なサービス提供を可能とすることが求められます。
なお、ケアマネ事業所の管理者について「主任ケアマネジャー」要件を設けるべきかという論点も浮上しています。現在、44.9%の管理者は主任ケアマネジャーとなっており、こうした事業所では▼同行訪問による支援▼ケアマネジメントの相談時間確保—などを主任ケアマネジャーが引き受け、資質向上に向けた取り組みが進んでいるようです。多くの委員は「管理者には、主任ケアマネジャーを据えるべき」と述べ、要件化を是としていますが、齋藤訓子委員から「主任ケアマネジャー研修の内容が、管理者に求められる内容とマッチしているか、確認・検証する必要がある」、武久委員から「例えば病院の地域連携室でバリバリ退院調整・支援をしていた社会福祉士がケアマネジャー資格を得た場合、経験年数は短くとも有用な人材と考えられる。経験年数だけが1人歩きしてはいけない」といった慎重論も出されており、今後の議論に注目が集まります(関連記事はこちら)。
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