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介護保険制度改革案で意見まとめ、利用者負担や総報酬割は両論併記―社保審・介護保険部会

2016.12.12.(月)

 来年(2017年)の介護保険制度改革に向けて、社会保障審議会の介護保険部会が9日に意見とりまとめを行いました。地域包括ケアシステムの構築に向けて、▼保険者などによる地域分析と課題への対応▼認知症施策の推進▼介護人材の確保―などをさらに強化する方向を明確化する一方で、軽度者への生活支援サービスの総合事業への移行については「要支援者への訪問・通称サービスの移行状況」を分析・検証してから検討するといった方向が明確にされました(関連記事はこちら)。

 ただし、「利用者負担」や「総報酬割」について意見集約が叶わず、賛否両論があったことを併記するにとどめています。

 今後、2017年度予算編成過程の中で最終調整を行い、年明けに必要な改正法案提出などが行われます(意見書はこちら

12月9日に開催された、「第70回 社会保障審議会 介護保険部会」

12月9日に開催された、「第70回 社会保障審議会 介護保険部会」

地域包括ケアシステムの構築に向け、都道府県が市町村を支援

 部会の意見は、(1)地域包括ケアシステムの深化・推進(2)介護保険制度の持続可能性の確保(3)その他―の3部構成となっています。ポイントを絞って振り返りましょう。

2017年の介護保険制度改革に向けた、介護保険部会の意見(概要)その1

2017年の介護保険制度改革に向けた、介護保険部会の意見(概要)その1

2017年の介護保険制度改革に向けた、介護保険部会の意見(概要)その2

2017年の介護保険制度改革に向けた、介護保険部会の意見(概要)その2

 (1)の「地域包括ケアシステム」は、要介護度が高くなっても、住み慣れた地域での生活を継続できるよう、「住まい」をベースに、「医療」「介護」「生活支援」「介護予防」サービスを総合的・包括的に提供する仕組みのことです。いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、地域の実情に応じた地域包括ケアシステムを日本全国でそれぞれ構築することが求められます。

 介護保険部会では、この点について、まず「各保険者が地域の実態把握・課題分析を行う」→「実態把握・課題分析を踏まえ、地域の共通目標を設定し、関係者間で共有。達成に向けた具体的な計画を作成する」→「計画に基づき、自立支援・介護予防に向けた取り組みを推進する」→「取り組みの実績を評価した上で、計画について必要な見直しを行う」といったPDCAサイクルを回すことを求めています。市町村に義務付けられた在宅医療・介護連携推進事業の着実な推進などを目指すものです。

 ここで自治体の積極的な取り組みを促すために、「インセンティブ」を付与してはどうかとの考え方があります。部会では「追加財源を確保した上でのインセンティブ付与」や「財政中立の下でのインセンティブ付与」などさまざまな意見が出ています。9日の会合では市町村・都道府県を代表する委員から「財政中立(優れた取り組みを行っている市町村に対し財政的な手当を行い、そうでない市町村には財政面でのカットを行う)では、第2の調整交付金となる。新たな財源を確保し、優れた取り組みに対する財政的な手当を行うようなインセンティブ付与を行うべき」との意見が改めて出されました(関連記事はこちら)。

 このほか、▼土日祝日開所や電話相談支援体制など「地域包括支援センターの機能強化」▼アウトカム指標も組み合わせた「介護予防・自立支援の推進」と、都道府県による支援の強化▼認知症施策の推進▼ケアマネジメント手法の標準化など「適切なケアマネジメントの推進」▼通所リハ(デイケア)と通所介護(デイサービス)の役割分担と機能強化など「ニーズに応じたサービス内容の見直し」▼医療介護連携のさらなる推進▼介護人材の確保▼サービス供給への保険者の関与(都道府県指定サービスに対し、市町村が意見を述べる「市町村協議制」の拡大など)―などが提言されました。

 このうち介護人材の確保について、外国人介護者にも触れており、「技能実習制度に介護職種が追加された場合には、日本人と同等の処遇を確保すべき」としていますが、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)や伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)らは「外国人介護者も、必ず日本人と同等の処遇とし、違反した事業者は処罰すべき」と強く求めています。

高額所得世帯に「3割負担」を求めるべきか

 (2)の「介護保険制度の持続可能性」では、▼利用者負担▼給付の在り方▼費用負担―の3テーマに関して見直しの方向性を探っています。

 高齢化の進展とともに「給付費」が増大する一方で、経済成長の鈍化・ストップなどで「費用負担」者の負担を引き上げていくことにも限界があります。そこで「給付」をどう適正化していくのか、公平な「負担」をどう確保していくのかの2点が極めて重要で、社会保障制度全般に共通するものです。

 まず「利用者負担」について、原則となる「1割負担」のほかに、2014年の制度改正で一定以上所得者(単身の年金のみ所得者では年収280万円以上)には「2割負担」が導入されました(2015年8月から)。厚労省では「負担能力に応じた負担」の考え方を進め、現役並み所得相当の世帯(単身世帯では年収383万円以上、夫婦世帯では年収520万円以上)では「3割負担」を導入してはどうかと提案しています。

 また、1か月当たりの負担額が過大にならないための仕組みである「高額介護サービス費」について、厚労省は医療保険と整合性を図るために、一般区分(市町村民税課税世帯で、世帯収入合計が520万円未満)の月額負担上限額を現在の3万7200円から4万4400円に引き上げてはどうかという提案も行われています。

 これらの提案に対し、介護保険部会では意見は賛否が拮抗しており、意見集約は叶いませんでした。今後、法案作成に向けて政府内で最終調整が行われることになります。

厚労省は、次期介護保険制度改正で「現役並み所得相当世代の3割負担導入」「高額介護サービス費の一般区分の月額上限引き上げ」を提案

厚労省は、次期介護保険制度改正で「現役並み所得相当世代の3割負担導入」「高額介護サービス費の一般区分の月額上限引き上げ」を提案

軽度者の生活援助サービス、市町村事業への移管は時期尚早

 「給付の在り方」については、「軽度者に対する生活支援サービスを総合事業(市町村の行う介護予防・日常生活支援総合事業)に移管すべきか」という争点がありました。この点については、多くの委員から「すでに総合事業へ移管が始まっている『要支援者に対する訪問・通所サービス』の状況を把握・検証してからとすべき」との意見が出されました。

 なお、生活支援サービスそのものを意味するものではありませんが、「あれば便利程度のサービスは介護保険給付から除外すべき」といった指摘も決して少数派ではありません。栃本一三郎委員(上智大学総合人間科学部教授)は「負担を考慮しない給付設計はありえない。サービス提供側はこうした指摘をきちんと受け止めるべき」と厳しい指摘を行っています。

 あわせて福祉用具については▼国が製品ごとに貸与価格の全国平均価格を公表する▼福祉用具専門員が貸与書品の特徴・価格に加えて、全国平均価格や他の製品情報を提示することを義務づける▼貸与価格に一定の上限を設ける―といった見直しが、住宅改修については▼事前申請時に利用者が保険者に提出する見積もり書類の様式統一▼複数事業者からの見積もり取得▼建築の専門家や理学療法士などが住宅改修に適切に関与する事例などの情報提供―を行うよう提言しています(関連記事はこちら)。

 なお、利用者負担や、後述する費用負担など「負担増」を求める改革項目に比べて、給付の適正化への踏み込みが甘いという厳しい指摘が、費用負担者である佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)から出されています。

被用者保険の第2号介護保険料、負担能力に応じたものとすべきか

 さらに「費用負担」については、総報酬割の是非が大きな検討テーマとなりました。介護保険の費用は、▼公費(国・都道府県・市町村)5割▼保険料(65歳以上の第1号保険料、40-64歳の第2号保険料)―という構成になっています。

 第2号保険料のうち被用者保険(健康保険組合、協会けんぽ、共済組合)については、現在「各保険者の加入者数に応じた負担」(加入者割)となっていますが、厚労省は「加入者数だけではなく、負担能力(報酬水準)にも応じた負担」(総報酬割)としてはどうかとの提案を行いました。これも前述のように「負担能力に応じた適正な負担を求める」という考え方に基づくものです。

 この点、負担増となる側の代表と言える佐野委員や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)らは「国庫負担を健保組合などに肩代わりさせるもの」として改めて反対姿勢を明確にした上で、仮に導入するにしても相応の配慮(2017年度から医療保険で総報酬割が導入されるため、導入の延期や段階的導入など)を行うよう強く求めています。一方、学識者やサービス提供側の委員からは「負担能力に応じた負担」という改正の原則・理念に照らして、「総報酬割の導入が妥当」という意見も数多く出されており、意見集約には至っていません。

 なお介護保険への総報酬割を全面導入した場合、協会けんぽに投入されている国費が1600億円浮きます。協会けんぽと健保組合では、同規模であれば支出は同程度と考えられますが、協会けんぽのほうが加入者の所得水準が低いため、収支の均衡のために国から補助が行われているのです。ここで、所得水準に応じた負担が実現されれば「支出と収入のバランス」が確保でき、国からの補助が不要になります。この「浮いた国庫」の使途について、9日の部会では、清原慶子参考人(三鷹市長、大西秀人委員:全国市長会介護保険対策特別委員会委員長・香川県高松市町の代理出席)から「介護予防事業に充てるべき」との意見が出されています。

 

 このように「利用者3割負担」「総報酬割」の導入について、介護保険部会の意見は集約されていません。今後、政府内で最終調整を行い、年明けに改正法案が国会に提出される見込みです。改正法案には、別途議論されていた「介護療養病床などからの新たな転換先」についても盛り込まれるため、政府がどのような決断をするのか注目が集まります。

  
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