Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Post Type Selectors
0617ミニセミナーGemMed塾

中山間地等・大都市・一般市の特性を踏まえた介護サービス確保策が必要だが、各地域をどのような基準で区分けすべきか—社保審・介護保険部会

2025.5.21.(水)

地域によって人口動態が大きく異なる中、中山間地・人口減少地域、大都市、一般市のそれぞれの地域特性を踏まえた「サービスの確保策」が必要となる。ただし、その地域区分をどのような基準で行うか、慎重に見極める必要がある—。

また中山間地等では「介護事業所の人員配置基準緩和やインセンティブ付与」などによって介護サービス提供体制を維持・確保することが必要不可欠となるが、人員配置基準の緩和には「サービスの質低下」や「スタッフの負担増」につながる可能性もあり、モデル事業等を経て慎重に検討する必要がある—。

5月19日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、こうした議論が行われました。

5月19日に開催された「第120回 社会保障審議会 介護保険部会」

中山間地等・大都市・一般市の特性に応じたサービス確保が重要、地域区分をどう考えるか

今年度(2025年度)までに、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達します。その後2040年頃にかけて、高齢者人口そのものは大きく増えないものの(高止まりしたまま)、▼85歳以上高齢者の比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、医療・介護の複合ニーズを持つ高齢者、認知症高齢者などの比率が高まっていく)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。

また、このような人口構造の変化は地域によって大きく異なります。中山間地域などでは「高齢者も、若者も減少していく」、大都市では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに一般市では「高齢者が今後増加するが、そう遠くない将来に減少していく」など区々です。

こうした状況下でも高齢者向けサービス等を確保できる方策を「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」(以下、検討会)で議論し、▼中山間・人口減少地域でのサービス確保に向け、人員配置基準の緩和・インセンティブの付与・新たな包括評価などを検討する▼都市部でのサービス確保に向け、ICT・AI等を活用した新たな包括サービス創設などを検討する▼介護職員等の継続的処遇改善を進める▼雇用管理等による介護人材定着に向けた取り組み(介護事業者の適切な雇用管理、介護人材の多様なキャリアモデルの見える化・キャリアアップの仕組みなど)を進める▼他事業者との協働化、事業者間の連携、大規模化を進める▼介護予防・認知症対策などを総合的に進める—などの方向を提言しました。

●中間とりまとめはこちら(全体)こちら(概要)



介護保険部会では、この提言に沿って具体的な制度設計論議を行っており、4月21日の会合では「総論」について、5月19日の会合では(1)人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築(2)介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援—について議論を深めました。なお、次回以降に「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケア」論議が行われます。

まず(1)の人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築について、厚生労働省老健局総務課の江口満課長が、検討会中間とりまとめをベースに、次のように、より具体的な論点案を提示しました。

【中山間・人口減少地域】
▽一定の「サービスの質の維持」を前提として、柔軟な対応を講じていくことが必要であり、▼人員配置基準等の弾力化▼包括的な評価の仕組み▼訪問・通所などサービス間の連携・柔軟化▼市町村事業によるサービス提供—などをどう考えていくか

▽人員配置基準等の弾力化については、既存の居宅サービスにおける「基準該当サービス」(人員基準を満たさないが市町村の判断で介護保険サービス提供を認める仕組み)や「離島等相当サービス」の状況を十分に把握した上での活用や、一定の要件を満たす認知症対応型共同生活介護の夜勤体制緩和等の仕組みも参考とすることが考えられる

▽人員配置基準を弾力化する場合の「サービスの質の確保」、「職員の負担増と、それに伴う従事者確保の困難性」にも留意する必要があり、「モデル事業のような形の実証」「緩和後の質確保を把握する仕組み」なども検討する必要があるのではないか

▽とくに小規模な訪問介護事業者について、移動時間が長く、キャンセル負担の影響が大きい点を踏まえた「一定期間の中で移動時間をはじめとする様々な要素を考慮した包括評価の仕組み」を検討するにあたっては、介護報酬全体の報酬体系との整合性や自己負担の公平性、コスト負担のあり方等の観点も踏まえて考えていく必要がある

▽「市町村事業によるサービス提供」についてどのように考えるか

▽「地域の介護を支える法人」等への支援について、どのような要件をかすべきか、また社会福祉連携推進法人の一層の活用をどう考えるか

【大都市部】
▽重度の要介護者や独居高齢者等に対応可能な「ICT技術等を用いた24時間対応可能な効率的かつ包括的なサービス」について、既存の定期巡回・随時対応型訪問介護看護や夜間対応型訪問介護等の仕組みとの関係性をどう整理するか

【一般市等】
▽既存の介護資源等を有効活用しながら、需給の変化(当面増大するが、近く減少するなど)に応じて「サービスを過不足なく確保する」ことが必要であり、「近い将来、中山間・人口減少地域になる」ことを見越し、早い段階からの準備、必要に応じた柔軟対応をどうはかっていくか

【地域の区分】
▽「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般市等」の類型を、どのような基準で区分すべきか、既存の制度(離島等相当サービス、中山間地加算など)の考え方も参考としながら考えていく

【支援体制の構築】
▽どの地域の類型でも都道府県や市町村の役割が重要となり、地域の類型に応じた対応策(サービスの質の確保や適切なサービスのあり方の検討を含む)や、サービス提供体制を確保するための支援体制を構築していく必要がある

▽医療福祉、交通、生活サービス、行政など、介護以外の他の分野の施策とも組み合わせて支援体制を効果的・効率的に構築する必要がある



こうした論点について委員からは、さまざまな意見が出ています。

まず「3つの地域区分」については、「3区分の考え方は良いが、それぞれの境目は明確でない。1つの市町村の中にも各区分が混在している点をどう考えるか。現場(市町村)の判断を重視すべきではないか」との意見が佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)や江澤和彦委員(日本医師会常任理事)らから出されました。

3区分の基準設定の難しさに加え、「基準の境目」付近の自治体から「不公平である」との声が出ることが予想されます。また「同じ市町村の中で人員配置基準や報酬体系を変える」となれば、やはり「公平性をどう担保するのか」などの声も出てくると考えられ、非常に難しい検討が必要となってくるでしょう。



また、中山間地等における人員配置基準の緩和においては、上記にもあるように「サービスの質をどう確保するのか」、「スタッフの負担がさらに増してしまうのではないか」という重要論点があります。介護保険部会でも、染川朗委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)や和田誠委員(認知症の人と家族の会理事)、山本則子委員(日本看護協会副会長)、小林司委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)らから、改めてこの点を不安視する声が出ています。

このため、「サービスの質が確保されるのか」「現場スタッフの負担はどうなのか」といった点を検証する「モデル事業」実施が検討されます。この点については、「老人保健施設からの訪問看護提供などをモデル事業化してはどうか」(東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長)といった提案も出ており、こうした声も参考にモデル事業の内容を練っていくことになるでしょう。

さらに、より根本に遡って「ケアの質をどう評価するのかについても、改めての検討が必要である」との声が粟田主一委員(浴風会認知症介護研究・研修東京センターセンター長)や佐藤委員から出されました。「介護サービスの質」をどういった軸で評価していくのかという研究は従前から継続されており、この「中山間地等における人員配置基緩和」を契機に、研究がさらに進むことに期待が集まります。

関連して、▼医療・介護分野ではどうしても「人手」が必要であり、医療分野も含めて複数事業所間をスタッフが行き来できる仕組み(兼務・兼任の大幅緩和)などを検討すべきであり、そのためにも同一職種・同一賃金の確保が重要となる(橋本康子委員:日本慢性期医療協会会長)▼中山間地を言わばモデル事業として捉え、一般市や大都市にも波及させていく仕組みを考えるべき(佐藤委員)—といった提案もなされています。極めて重要な視点と言えるでしょう。

他方、「市町村事業によるサービス提供」に対しては、「介護保険スタート前の措置時代に戻ってしまい、サービスの質確保等が困難にならないか。事業者が参入を考える程度の報酬水準設定をまず考えるべきではないか」(染川委員)といった懸念が示されたほか、中島栄委員(全国町村会行政委員・茨城県美浦村長)をはじめ自治体サイドから「人員確保が難しく、市町村によるサービス提供に実現可能性はあるのだろうか」といった声も出ています。



このほか、▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの普及のネックがどこにあるのかなどを検討・検証すべき(山際淳委員:民間介護事業推進委員会代表委員)▼地方では、特別養護老人ホームに空床が出ており、「要介護2以下の受け入れ」を可能とするなどの対応を検討すべき(山田淳子委員:全国老人福祉施設協議会副会長)—といった意見も出されています。

介護人材の確保に向け、引き続き賃金改善、職場環境改善、生産性向上が重要

他方、(2)の介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援については、やはり検討会中間とりまとめをベースに、江口総務課長から、次のような具体的な論点案が提示されました。

【介護人材確保】
▽賃金の実態や経営実態のデータを踏まえつつ、近年の物価高や賃上げに対応し、全産業平均の動向も注視した上で、賃上げや処遇改善の取り組みを推進していくことが必要である。その際、介護人材の属性、地域差や地域固有の課題を分析し、関係者間で共有する場を設け、地域の実状に応じた対策を講じていくことが重要である

▽ハローワークと福祉人材センターで連携した取組を行うなど、それぞれの機関が事業者等のニーズに応じた必要な役 割を果たした上で、公的な機関等の連携の取組を強化する必要がある

▽情報共有・連携強化の推進、相談・研修体制の構築のために、都道府県単位でプラットフォーム機能を充実・活用させる方策の検討が必要となる

【介護人材の定着】
▽介護現場において中核的な役割を担う介護福祉士をはじめとする介護職員のキャリアアップを図っていくことが重要であり、研修内容の充実・強化等、働きやすい勤務環境づくり、ハラスメント対策等の取り組みを講じる必要がある

【職場環境改善・生産性向上】
▽テクノロジー導入や業務の見直し、介護助手等への業務のタスクシフト/シェアに早い段階から投資し、着実に実行することが必要である

▽訪問系サービ スや通所サービスにおいては、テクノロジーの実証、現場での取組事例の把握、新たなテクノロジー開発を進めるとともに、汎用性の高い介護記録ソフト等の普及を促進することをどう考えるか

▽事業所内でリーダーシップを発揮して生産性向上・職場環境改善を推進するデジタル中核人材の育成・配置の取り組みを進めていく必要があり、小規模事業所を支援するために「都道府県のワンストップ型の相談窓口による伴走支援」を手厚くすることなどをどう考えるか

▽科学的介護について、介護現場でのケアの質向上に向けた取り組みをどう考えていくか

【経営改善支援】
▽祉医療機構(WAM)等のノウハウを活用した情報の分析手法の提示、好事例の収集・周知、介護労働安定センターが事業者に対して行うアウトリーチ相談・研修等の支援の枠組みの活用などの「経営支援の枠組み」について、介護人材確保等のプラットフォーム充実とあわせてどのいったものが可能か検討すべきではないか(モデル事業実施も含めて)

【協働化、事業者間の連携、大規模化】
▽安定的な事業継続に向けて、まず「介護事業者間の協働化や連携を進める」こと、さらに「大規模化を進める」ことをどう考えるか



これらの論点に対しては、▼介護職の給与は引き上げられてきているが、全産業平均との格差は開く一方である。3年に一度ではなく、より頻回に賃上げ対応を行うべき(染川委員)▼看護職も含めた「全スタッフのさらなる処遇改善」を行うべき(山本委員)▼人材確保のためには、賃金改善だけでなく、職場環境改善や生産性向上などもセットで行うことが重要である(伊藤委員)▼必要な介護人材の人数などを地域ごと・サービスごとに精緻に分析し、それをベースに人材確保を進めるべき(小林広美委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼共同化、大規模化にあたっては「市町村のリーダーシップ」が重要になる(佐藤委員)▼ハローワークの機能強化が喫緊の課題と言える(江澤委員、東委員)▼人材紹介会社について適切な規制をかけるべき(山際委員)▼介護現場のリーダーとなる介護福祉士の計画的な養成を進めるべき(及川ゆりこ委員:日本介護福祉士会会長)—などの意見が出されています。



他方、「介護サービスの確保などは極めて重要な論点であることは述べるまでもないが、一方で、それを支える現役世代の保険料負担が限界にきている点も忘れてはならない」との声も伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)や鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)、幸本智彦委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)らから出されており、きわめて重要な視点です。今後「給付と負担のバランス確保」というテーマで正面から議論されることになるでしょう。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

【関連記事】

介護情報を共有し良質な介護サービス目指す【介護情報基盤】、市町村やケアマネジャーが利用者から「同意」を取得—社保審・介護保険部会(2)
中山間地等では「人員配置基準緩和」等による介護サービス確保が必要だが、「質の低下、スタッフの負担増」にも留意を—社保審・介護保険部会(1)
中山間地等では「介護人員の配置基準緩和」など、大都市では「AI・ICT活用」などにより介護サービス提供を維持せよ—厚労省検討会
介護業務を「専門性が必須な業務」と「そうでない業務」に切り分け、後者についてAI活用で短時間労働ニーズとマッチングを—厚労省検討会
介護分野でのICT導入等で「介護スタッフの確保・定着」に大きな効果、介護事業所の大規模化をどう考えるか—厚労省検討会
地域の医療・介護需給を把握し、地域の医療・介護関係者で対応策を議論していくことが極めて重要—厚労省検討会
少子高齢化が地域ごとにバラバラに進む「2040年」見据え、介護サービス提供や介護人材確保などの在り方を考える—厚労省検討会
2027-29年度を対象とする「第10期介護保険事業計画」論議スタート、2040年も見据えた制度改革議論を行う—社保審・介護保険部会

高齢者や家族が「自身のニーズにマッチした適切な高齢者住宅」を選択できるような環境整備などを検討—社保審・介護保険部会(2)
介護情報を共有し良質な介護サービス目指す【介護情報基盤】、2026年4月から準備の整った市町村・事業所等でスタート—社保審・介護保険部会(1)
介護情報を共有し良質な介護サービス目指す【介護情報基盤】、2026年4月導入目指すが、市町村のシステム改修に不安も—社保審・介護保険部会
介護情報を関係者間で共有し、質の高い効率的な介護サービスを実現する【介護情報基盤】を2026年4月から全国展開—社保審・介護保険部会

介護情報を利用者・ケアマネ・事業者・市町村・医療機関で共有し、より質の高い、効率的な介護・医療サービス実現—介護情報利活用ワーキング
介護情報を利用者・ケアマネ・介護事業者・市町村・医療機関で共有する【介護情報基盤】構築、共有情報などを整理—介護情報利活用ワーキング
介護側は「安全なケア提供のための医療情報」共有に期待、現場が「どのような情報を欲しているか」を聴取せよ—介護情報利活用ワーキング
介護DBのデータ利活用推進に向けて、「データの迅速提供」「格納データの拡充」などを進めてはどうか—介護情報利活用ワーキング
要介護高齢者の急性期入院が増えており、医療機関へ「要介護認定調査」や「ケアプラン」の情報共有を進めよ—介護情報利活用ワーキング
医療・介護情報の利活用、同意が大前提となっているが「利活用を阻んでいる」「同意は万能ではない」点に留意を—介護情報利活用ワーキング
介護情報は広く関係者間で共有すべきだが、主治医意見書やLIFE情報などを利用者に共有する際には配慮・工夫を—介護情報利活用ワーキング
介護事業者間で共有すべき介護情報、自立支援や重度化防止にとって有益で、標準化の進んだものに「限定」を—介護情報利活用ワーキング
介護情報の共有・利活用に向け、「共有すべき介護情報の選別」「介護情報記録の標準化」などを検討—介護情報利活用ワーキング

全市町村の要介護認定にかかる期間実績を公表、「認定調査の実施は依頼から7日以内」などの目安も提示—社保審・介護保険部会(2)
少子高齢化の進展により地域包括支援センターの相談支援業務の重要性増加、ケアマネ事業所との役割分担等進めよ—社保審・介護保険部会(1)