介護情報を利用者・ケアマネ・事業者・市町村・医療機関で共有し、より質の高い、効率的な介護・医療サービス実現—介護情報利活用ワーキング
2024.3.14.(木)
介護情報を利用者・ケアマネ・介護事業者・市町村・医療機関で共有する【介護情報基盤】を構築し、共有された情報をもとに「より質の高い、効率的な介護サービス提供」などにつなげていく—。
その仕組みの中で、どういった情報を、どういった関係者の間で、どういった手法を用いて共有するべきかを明確にする—。
こうした議論が2022年秋から進められ、3月14日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、中間とりまとめが行われました(文言の最終調整などを荒井秀典主査:国立長寿医療研究センター理事長と厚生労働省で行う)。
●中間とりまとめはこちら(概要)とこちら(全文)(今後、文言修正などの可能性あり)
今後、中間とりまとめに沿って【介護情報基盤】の構築などが進められるとともに、後述する検討事項(宿題事項)についても各所で検討が行われます。
介護情報の共有に当たっては「利用者の同意」が前提となり、各介護事業所で同意を取得
医療分野と同様に、介護分野についても「利用者の同意の下、過去の介護情報を介護事業者、市町村、ケアマネ、利用者、医療機関間で共有し、質の高い、効率的な介護サービスを提供する」ことが重視されます。例えば、要介護認定時に主治医から「●●の点に留意すべし」との意見が示されていた場合、その情報は市町村内にとどめず、ケアマネジャーにも共有することで、より安全・有効なケアプラン作成が実現できます(もちろん介護サービスにも活かされる)。また、要介護高齢者の多くは何らかの医療ニーズ(生活習慣病や整形外科疾患など)を抱えるケースが多く、ケアプラン(現在、どういった介護サービスをどの程度利用しているのか)やLIFE(利用者の状態やケア提供内容、効果などのデータ)情報を、かかりつけの医療機関に共有することでより適切な医療サービスにもつながると期待できます。
このため、政府は、新たに介護情報を多くの介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で共有する仕組み【介護情報基盤】を構築します(医療・介護・健康等の情報を一元的に管理する全国医療情報プラットフォームの1要素となる)。
ワーキングでは、この【介護情報基盤】において、「どういった情報を」「どういった関係者の間で」「どのように共有」するか、といった議論を2022年9月から重ねてきました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
3月14日の会合では、これまでの議論を踏まえて、次のような中間取りまとめを行っています。
【共有する情報】
▽まず(1)要介護認定情報(2)請求・給付情報(レセプト)(3)LIFEデータ(4)ケアプラン—の4情報から共有を進める
→他の情報も引き続き共有の可否などを検討していく
【情報共有の関係者・対象者】
(1)要介護認定情報
▽認定調査票:現在、市町村が作成・保有しているが、新たに「ケアマネジャー」にも共有する
▽主治医意見書:現在、主治医が作成し、市町村が保有しているが、新たに「ケアマネジャー」にも共有する
▽介護保険被保険者証(要介護度等を含む):現在、市町村が作成し、利用者、介護事業所、ケアマネジャーが共有しているが、新たに「医療機関」にも共有する
▽要介護認定申請書:現行(利用者が作成し、市町村が保有)どおり
(2)請求・給付情報(レセプト)
▽給付管理票、居宅介護支援介護給付費明細書:現行(ケアマネジャーが作成し、利用者、市町村が共有)どおり
▽介護給付費請求書、介護予防・日常生活支援総合事業費請求書、居宅サービス・地域密着型サービス給付費明細書、介護予防サービス・地域密着型介護予防サービス介護給付費明細書、介護予防・日常生活支援総合事業費明細書、施設サービス等介護給付費明細書:現行(介護事業者が作成し、利用者、市町村が共有)どおり
→当面、新たな「介護情報基盤」(新たに構築する介護情報共有の仕組み)では情報共有せず、現行どおりとする
(3)LIFEデータ
▽科学的介護推進体制加算、利用者フィードバック票:現在、介護事業者が作成し共有はなされていないが、新たに「利用者」「市町村」「他介護事業所」「ケアマネジャー」「医療機関」に共有する
(4)ケアプラン
▽現在、ケアマネジャーが作成し、利用者、介護事業者に共有しているが、新たに「市町村」「医療機関」にも共有する
【同意取得】
▽「利用者の介護情報を共有する」ことについて、原則として「利用者の同意」が必要となるが、そのタイミング等は次のとおりとする
・各介護事業所が「利用者の資格確認を行う契約時」に行う(「●●さんの介護情報を見て、うちの介護サービスに活かしたいのですが、良いですか?」と同意を得るイメージ)
・すべての情報について一括して同意を取得する
・原則として、当該介護事業所等を利用している期間は「同意を有効」なものとする
▽「同意の撤回」、「各情報のオプトアウト(ここでは個別に情報共有不許可)」等についても、他分野の状況も踏まえて検討する
▽同意に係る利用者への説明は各介護事業所等において実施する
▽説明にあたっては、「通常業務で用いる」こと、「介護情報の電子的な共有でメリットがある」ことも伝達する
▽本人からの同意の取得が困難な場合は、他分野での対応を踏まえつつ「同意の法的な位置づけ」などについて論点を整理した上で、引き続き検討する
▽「法定代理人が同意をする」場合を想定し、本人以外が情報共有の同意をする場合についても、なりすまし対 策等の観点からマイナンバーカードを用いる等の方法も含め対応する
【情報セキュリティ】
▽介護情報も医療情報と同様に、介護サービス利用者の要配慮個人情報を含む情報であることから、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガ イドラインを踏まえて取り扱う(関連記事はこちら)
(検討課題)
→介護情報基盤を活用する介護事業所において、情報セキュリティが担保できるような手引きの作成等を検討する
→介護事業所における導入負担を考慮し、介護事業所と介護情報基盤間の情報連携はインターネット回線を用いて行う方式についても検討する
→インターネット回線を用いる場合、「医療情報システムの安全管理に関するガ イドラインを考慮し、クラウド技術に適用できるようなネットワーク方式について、医療情報の共有に係るネットワークの検討を踏まえながら今後検討する
【その他】
▽介護情報基盤の構築にあたっては、PMH(自治体・医療機関間で医療費助成・母子保健・予防接種の情報を連携するシステム、Public Medical Hub)を活用し、自治体、医療機関と連携する
▽医療情報共有における検討も踏まえ、介護情報基盤に保存される介護情報の保存期間は「当面5年間」を目安に検討する
▽介護情報基盤を通じ、新たに収集されるケアプラン情報、主治医意見書、医療機関・介護事業所間で連携する介護情報については、他の二次利用される情報と同様に、データの処理や管理方法について「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」において整合性を確保する
【今後の検討課題】(上述の検討事項にも留意)
▽介護情報基盤により共有される情報に関し、利用者等が「よりメリットを感じられる」情報の活用の方法、利用方法について幅広い関係者に理解を得られるようにする
▽医療・介護間で連携する情報の内容について、医療機関、介護事業所、市町村等のニーズ の観点や、情報連携に必要な技術的な課題について整理を行う
時間をかけて議論されてきた内容であり、こうした方針案に対し異論・反論は出ていませんが、主に「同意」について多くの意見・注文が出されました。
例えば、中間まとめでは「同意に係る利用者への説明は各介護事業所等において実施し、その際『通常業務で用いる』こと、『介護情報の電子的な共有でメリットがある』ことも伝達する」旨が示されています(上述)が、多くの構成員から「事業所負担が増す」ことへの配慮を求める声が出されました。この点、厚労省は「介護情報基盤のシステムにおいて同意取得の画面を設け、その中で分かりやすい説明等を行う」考えを示しています。
また同意取得方法について中間まとめでは「一括して同意を得る」としています(上述)が、「情報共有の範囲や、その情報を共有することによるメリットなどを、曖昧にならないように丁寧に説明し、理解を得ることが重要である」(山本則子構成員:日本看護協会副会長)、「不利益情報の不告知が問題になるケースも出てくる。一括同意ではその点への配慮も十分にすべき」(久留善武構成員:シルバーサービス振興会事務局長)などの注文が付きました。
他方、利用者の家族について「本人の不同意が確認(不同意を本人が申し立てない限り、同意ありとみなす)されない限り、利用者自身と同様に取り扱う」との考えが示されていますが、正立斉構成員(全国老人クラブ連合会理事・事務局長)や松田晋哉構成員(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)では、非常にセンシティブなテーマゆえ、十分な配慮を求めています。介護サービスの利用者本人と、家族とで、例えば財産問題など利害対立があるケースもあれば、法律では「家族ではない」が、「家族とみなせる」ケースなどもあり、トラブルを未然に防げるようなルールをさらに検討していく必要がありそうです。
このほか、「介護ではICTに詳しくない人も多く、その点への配慮も必要である」(髙橋肇構成員:全国老人保健施設協会常務理事)、「医療情報システムガイドラン準拠について、介護の特性等を踏まえた対応も検討すべき」(江澤)などの注文もついており、上述の検討事項(宿題事項)と合わせて、対応策などを検討していきます。
なお、前述の「利用者へ、介護情報を共有することのメリットの説明」に関連して、島田裕之構成員(国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターセンター長)や江澤和彦構成員(日本医師会常任理事)らは「デメリットに関する説明も重要である」と、松田構成員は「十分にメリットが国民や介護現場に浸透しなければ、『情報共有に同意しない』とするケースが多数出てくることが懸念される」と付言。この点について厚労省は「先行研究で介護情報共有のメリットを明確にし、さまざまな機会をとらえてPRしていく」考えを強調しています。
今後、さまざまな検討事項(宿題事項)について検討を進めながら、中間とりまとめに沿って【介護情報基盤】の構築が行われます。
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