介護事業者間で共有すべき介護情報、自立支援や重度化防止にとって有益で、標準化の進んだものに「限定」を—介護情報利活用ワーキング
2022.11.8.(火)
より質の高い介護サービス提供を目指し、介護分野においても「介護情報の標準化を行い、介護サービス事業所・施設間で情報共有する仕組み」を検討していく—。
共有すべき情報の範囲については、要介護認定、レセプト、LIFE、ケアプラン情報の中から▼利用者の自立支援・重度化防止に向けて、本人や専門職等が共有することが有益である▼地域の実情に応じた介護保険事業運営に有益である▼記録方法や様式がすでに一定程度、標準化されている—ものを選別・限定していくべきではないか—。
こうした議論が、11月7日の健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で行われました。
介護現場の負担など考慮し、共有すべき情報は「可能な限り絞り込む」べき
医療分野と同様に、介護分野についても▼利用者の同意の下、過去の介護情報を介護事業者間で共有し、質の高い介護サービスを提供する▼利用者やその家族が、介護情報を確認して自立支援・重度化防止につながる取り組みを行う▼市町村が地域住民の介護情報を確認し、きめ細やかな介護保険運営・住民支援につなげる—仕組みの構築が求められています(関連記事はこちらとこちら)。
そこではワーキングでは、「どのような情報を確認・共有可能とすべきか」「情報の利活用に向けて、どのように情報の標準化を進めるか」「どのような手法で情報の共有を行うのか」という点についての議論をスタートさせました(関連記事はこちら)。
11月7日の会合では「当面のところ(2025年をに向けて)どのような情報を確認・共有可能とすべきか」を議題としました。ICT技術が進展し、介護現場に十分に普及すると見られる数十年後には「より多様な情報を共有し、利活用できる」環境が整うかもしれません。しかし、介護情報の利活用については「今年度・来年度(2022・23年度)に仕組みを検討し、24年度からシステム開発を行う」というスケジュールが設定されてることから(「新経済・財政再生計画改革工程表2021」)、「当面のところ、確認・共有すべき情報」に限定した議論を行うものです。
確認・共有すべき情報の範囲を検討するに当たっては、大きく2つの考え方があります。1つは「より多くの情報を収集・共有し、多様な情報を連結解析することで、優れた知見が得られ、介護サービスの質向上が得られる」という考え方です。もう1つは「情報提供にかかる現場の負担、情報の利活用に関する介護現場の能力に鑑みて、情報を絞り込むべき」という考え方です。
今般の情報の利活用に限らず、例えば、何らかの調査を行う場合にも、当初は「後者の考え方」から議論がスタートしますが、時間が経過すると、いつの間にか「前者の考え方」を述べる論者が増えていき、結果、当初目的を達成できないケースが数多く見られます。例えば、科学的介護のベースになると大きな期待を集めている「LIFE」データベースについても、当初は「情報を絞る」方向で議論されていましたが、「この情報も重要である」「この情報は是非入れてほしい」という個々の構成員の意見を汲んだ結果、現場から「情報提供の負担が大きい」と指摘されてしまう比較的大きなデータベースになりました。
また、介護報酬改定の効果を検証する調査や、介護職員の処遇改善状況を把握する調査でも、調査票を議論する中で、委員が1人1人「この点も調べてはどうか」「この項目も重要なので追加すべき」と提案することで、膨大な調査票ができあがり、結果「現場の負担が大きく、回答してくれない(=回収率が低い)」状況に陥ってしまっています。さらに驚くべきは、「この点も調べてはどうか」と発言した委員から、後の効果検証の際に「調査した結果、●●が判明した、このように制度を見直していくべき」との建設的な提案がなされないのです。「何のための調査だったのか」と感じるケースも少なくないでしょう。
島田裕之構成員(国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターセンター長)は海外事例も交えてこの点を指摘し、「介護現場の情報提供負担を可能な限り減らし、効率良くPDCAサイクルを循環させる」ことの重要性を強調しています(もちろん、研究の実を上げることとの両立が重要である点も指摘)。
また、介護情報の中には「紙ベースで記録されている」「コード化(標準化)が進んでいない」ために、共有が困難なものもあります。
こうした指摘・状況を踏まえ厚生労働省は、まず(1)要介護認定(2)レセプト(請求・給付)(3)LIFE(4)ケアプラン—情報の中から「共有を可能とすべき情報項目」を選別する方向を示しました。例えば、(1)の要介護認定情報の中には被保険者番号、保険者番号、要介護認定等に係る認定情報(1次判定結果、2次判定結果)、負担割合、住所地特例、認定調査項目などの、(4)のケアプラン情報の中には居宅サービス計画書、週間サービス計画表、サービス担当者会議サマリ、居宅介護支援経過、サービス利用票・別表などの多様な情報項目が含まれています。その中から▼利用者の自立支援・重度化防止に向けて、本人や専門職等が共有することが有益である▼地域の実情に応じた介護保険事業運営に有益である▼記録方法や様式がすでに一定程度、標準化されている—ものを選別していくことになります。
この点、LIFEデータベースには、「どのようなケアによりADLがどう改善したか」などを相当程度標準化された形式で集積することになっており、上記の要件(自立支援などに有益であるなど)を満たしていると言え、共有することが非常に魅力的です。ただし、LIFEデータを提供していない介護事業所等もあり、将来に向けて解決すべき課題の1つとなりそうです。
なお、11月7日のワーキングでも、すでに「この情報も入れるべき」との声が既に出始めています(例えば「主治医意見書情報を共有すべき」「ケママネジャーの保有する多様な情報を共有すべき」「口腔情報が重要である」などの指摘)。「重要でない情報」は存在しません。このため、様々な情報を共有することが、介護の質向上にとっては好ましいことは間違いありません。
しかし、上述のように「情報を提出する現場の負担」をまず考慮しなければなりません。また、多様な情報をうまく分析して活用するスキルを介護現場が身に着ける必要もあります。「多様な情報」は聞こえの良い言葉ですが、現実には「多すぎる情報があふれかえっている」状況であり、その中から、瞬時に「今必要な情報を救い上げる」ためには、十分な知識・スキルが必要となりますが、介護現場スタッフはそうした点に「不慣れである」のが実際のところです。
また、標準化されていない情報(例えば主治医意見書など)について、標準化・電子化するには時間もかかります。2024年度からのシステム開発に向けては「すでに相当程度標準化・電子化が進んでいる」情報にまず限定するのが現実的でしょう。
共有情報の範囲を議論するにあたっては、「この情報が重要である」という視点は捨てるべきでしょう。ワーキングには18名の構成員が参画しており、1人が1項目のみ「この情報が重要である、追加してほしい」と提案するだけでも「18項目が追加されてしまう」事態を招きます。島田構成員の指摘するように「現場の負担を可能な限り軽減するために(これが担保されなければ、制度は作ったが、運用されないという事態に陥ってしまう)、項目を可能な限り絞る」という点を全構成員が十分に認識することが重要です。
比較的、情報の標準化・電子化・利活用が進んでいる医療においても「電子カルテの中で共有すべき情報は、まずは3文書(▼診療情報提供書▼退院時サマリー▼健診結果報告書—)の6情報(▼傷病名▼アレルギー▼感染症▼薬剤禁忌▼検査(救急、生活習慣病)▼処方—)に限る」という強い限定がかけられています。情報の標準化・電子化・利活用が遅れている介護分野では「さらに情報の範囲を限定する」視点が必要です。
またワーキングでは「利用者の病名情報について、介護サイドからの情報と医療サイドからの情報のどちらを優先するのか」「利用者が認知症の場合、家族等が情報を確認することになるがその範囲をどう考えるのか」「利用者・家族が情報を理解できるような『情報の翻訳』が必要である」などの意見も出ています。いずれも「重要な意見」ですが、「共有すべき情報の範囲」を決めた後に検討すべき事項でしょう。議題が定まっている中で、議題から外れる意見が出されれば、議論の焦点がぼやけてしまいます。「議題に沿って議論する」という基本的な点にも留意が必要です。
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