がんゲノム医療拠点病院を全都道府県に整備し、より身近にがんゲノム医療を受けられる体制構築へ—がんゲノム拠点病院指定要件WG
2026.3.16.(月)
がん患者の遺伝子情報・臨床情報をもとに「最適な抗がん剤」を選択・投与する【がんゲノム医療】を、より身近な医療機関で受けられるようにするために、「がんゲノム医療拠点病院を全都道府県に1か所以上整備する」「がんゲノム医療連携病院について、がん診療連携拠点病院以外でも指定を可能にする」ことなどを検討してはどうか―。
あわせて「海外で承認されている抗がん剤が、我が国で承認または開発されていない」ドラッグラグ・ドラッグロスの解消に向けて、がんゲノム医療中核拠点病院を「国際共同治験を推進し、我が国のがんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関」として再整理してはどうか―。
3月13日に開催された「がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした内容が概ね固められました。今後、学会等の意見も踏まえながら、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の指定要件の見直しを行い、2027年4月からの新たな「がんゲノム医療の提供体制」スタートを目指します。
全都道府県に1か所以上の「がんゲノム医療拠点病院」の整備を行ってはどうか
ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、▼Aという遺伝子変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である▼Bという遺伝子変異のある患者にはβ抗がん剤とγ抗がん剤との併用投与が効果的である―などの知見が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいて最適な治療法(抗がん剤)の選択が可能になれば、「個別のがん患者に最適な治療法を選択し、当該患者にとっては効果の低い治療法を排除する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。
我が国でも、多くの遺伝子変異を一括確認できる「遺伝子パネル検査」の保険適用が進み(関連記事はこちらとこちらとこちら)、次のような流れの【がんゲノム医療】が推進されています。
▼患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する
↓
▼C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する
↓
▼がんゲノム医療中核拠点病院等の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する


こうしたがんゲノム医療は、現在、次の3類型の病院で実施することが可能です。
▼がんゲノム医療中核拠点病院(2023年4月から13施設)
→がん遺伝子パネル検査の医学的解釈が自施設で完結し、がんゲノム医療を提供することに加えて、人材育成、診療支援、治験・先進医療主導、研究開発を担い、がんゲノム医療を牽引する(国が指定する)
▼がんゲノム医療拠点病院(2023年4月から32施設)
→がん遺伝子パネル検査の医学的解釈が自施設で完結し、がんゲノム医療を提供する
できる医療機関。 医療提供体制については中核拠点病院と同等。人材育成、治験・先進医療等については連携病院と同等(国が指定する)
▼がんゲノム医療連携病院(現在は250施設)
→中核拠点病院・拠点病院と連携してがん遺伝子パネル検査を実施し、がんゲノム医療提供する。一部の連携病院では「自前で(中核拠点・拠点と連携せずに)、がん遺伝子パネル検査の医学的解釈を行う」ことも可能(中核拠点病院、拠点病院が指定する)

がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の体制概観(がんゲノム拠点病院指定要件WG1 260313)

がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の指定状況(がんゲノム拠点病院指定要件WG2 260313)
また、がんゲノム医療は診療報酬でも評価され、▼D006-19【がんゲノムプロファイリング検査】で「検体を採取し、検査機関などに遺伝子パネル検査を依頼し、その結果をC-CAT(国立がん研究センターに設置される「がんゲノム情報管理センターに登録する」ところまでを評価▼B011-5【がんゲノムプロファイリング評価提供料】で「C-CATからの解析結果をエキスパートパネルで解釈し、最適な分子標的薬を選定したうえで、患者に説明を行う」プロセスを評価—しています(関連記事はこちら、2026年度診療報酬改定での見直し内容はこちら)。

がんゲノムプロファイリング検査の評価見直し(2022年度診療報酬改定)

がんゲノムプロファイリング検査等の2026年度診療報酬改定での見直し
昨年(2025年)末時点で、C-CATに登録された患者総数は12万例を超えるなど(関連記事はこちら)、ゲノム医療が普及・浸透していることが伺えます。

がん遺伝子パネル検査の実績は2025年末で12万件を超えている(がんゲノム拠点病院指定要件WG4 260313)
ただし、医学界からは次のような課題(まだ普及が十分ではない)も指摘されています。
▽本年(2026年)3月1日時点で、がんゲノム医療を提供できるがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院は合計295施設あるが、がん診療連携拠点病院等463施設の63.7%にすぎない
→がんゲノム医療が「標準治療」の中に組み込まれてきているが、「がんの標準治療を実施することが求められるがん診療連携拠点病院」の3分の1ではそうした治療を受けられない
▽がんゲノム医療を実施できないがん診療連携拠点病院等での主な課題は、▼遺伝カウンセリングを自施設で実施する体制▼C-CATへのデータ登録▼エキスパートパネルの実施—と考えられる
→連携する施設(がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院)で遺伝カウンセリングを実施可能であれば、患者に不利益はないのではないか
→C-CATへのデータ登録について、入力項目の精査・整理を行い、病院側のデータ登録負担軽減などを図る必要があるのではないか
▽がんゲノム医療拠点病院は32施設にとどまり、全都道府県をカバーできていない
▽造血器腫瘍または類縁疾患ゲノムプロファイリング検査が保険適用され、詳細なゲノム情報に基づく精密な治療選択(正確な抗がん剤選択、正確な骨髄移植の判定など)が可能になっているが、日本造血・免疫細胞療法学会の「移植認定施設」の19%ががんゲノム医療提供体制に加われていない(例えば群馬県では、がん診療連携拠点病院にしていされていない済生会前橋病院で診断された急性白血病の患者を、遺伝子パネル検査を受けるためだけに近隣の大学病院に転院させる、あるいは検査を受けずに寛解導入療法を自院で開始しているという課題がある)
→造血器腫瘍パネル検査の主対象である急性白血病では、緊急での入院と治療開始の必要があり、「入院治療を主に担当している病院での造血器腫瘍遺伝子パネル検査が支障なく 行える」ように、がんゲノム医療提供体制を構築することが望まれる

造血器腫瘍遺伝子パネル検査の保険適用により、より精緻な診断・治療法選択・移植選択が可能になっている(がんゲノム拠点病院指定要件WG5 260313)
こうした状況を踏まえて厚生労働省は、がんゲノム医療をより身近な医療機関で受けられるように、次のようにがんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院の指定要件を見直してはどうかとの提案を行いました。がん医療に関しては、地域ごと、手術・放射線・薬物の治療法ごと、技術の難易度ごとに各都道府県で「集約化すべき部分」と「均てん化すべき部分」を検討することになっていますが、がんゲノム医療を含めた薬物療法については「均てん化」が望ましいことが確認されており、こうした方向にも合致する提案と言えます。
【がんゲノム医療拠点病院】(現在の指定状況はこちら、32施設)
▽がんゲノム医療拠点病院を、「都道府県の拠点として、質の高いがんゲノム医療提供体制を確保(均てん化)し、その推進を担う医療機関」と位置づける
▽指定要件については、「診療実績」「関連人材の育成」「連携するがんゲノム医療連携病院における質確保」などを中心に定めてはどうか
▽各都道府県の推薦をもとに、国で「原則、各都道府県に1施設」を指定してはどうか(都道府県内の役割分担が明確であれば複数指定も可とする)
【がんゲノム医療連携病院】(現在、250施設)
▽がんゲノム医療連携病院を、「がんゲノム医療拠点病院等と連携しながら質の高いがんゲノム医療を提供する医療機関」と位置づける
▽指定要件については、「がん遺伝子パネル検査の結果を踏まえたゲノム医療を行い、急変時に対応できる体制、遺伝カウンセリングを実施できる体制の整備」「相談支援窓口や医療安全体制の確保」「院内がん登録の実施」などを中心に定めてはどうか
▽例えば「造血器腫瘍及びその類縁疾患における診療体制」の現状等を踏まえ、がん診療連携拠点病院等「以外」の病院であっても、質の高いゲノム医療を提供できることを条件として、指定してはどうか
上記の学会指摘の課題等を解決する見直し方向であり、ワーキング構成員から異論・反論は出ていませんが、▼がんゲノム医療を提供できていない(がんゲノム医療中核拠点・拠点・連携に指定されていない)がん診療連携拠点病院等について、具体的にどういった点を満たせていないのか、客観的なデータをもとに議論を進める必要がある(土原一哉構成員:国立がん研究センター先端医療開発センターセンター長)▼がんゲノム医療提供体制の拡充は好ましいが、各病院の体制・実績をきちんと把握し、がんゲノム医療の質を担保することが重要である。全都道府県に「拠点病院の要件をクリアできる病院」があるのかもデータを踏まえて事前に検討する必要がある(織田克利構成員:東京大学大学院統合ゲノム学教授)▼遺伝子パネル検査等を経て、最適な抗がん剤が見つかった場合に、その投与を受けるためには「通院」等が必要となる。医療機関へのアクセスも十分に考慮した連携体制が必要であろう。がんゲノム医療連携病院と中核拠点病院・拠点病院との紐づけにあたっては「地域性」も考慮する必要がある(坂田麻実子構成員:筑波大学医学医療系血液内科学教授、日本血液学会ゲノム医療委員会委員)—といった意見・注文が出ています。
こうした意見も踏まえながら、今後、ワーキングにおいてがんゲノム医療拠点病院・連携病院の指定要件見直しの内容を詰めていきます。
がんゲノム医療中核拠点病院、国際共同治験への参画や医療技術の開発なども要件に
ところで、我が国のがん対策のベースとなる「第4期がん対策推進基本計画」で、希少がん・小児がん等において「治療薬の候補が見つかっても保険診療下で使用できる薬が少ない、参加可能な治験が少ない等、薬剤アクセスの改善が課題となっている」とされるなど、いわゆる「ドラッグラグ・ドラッグロス」(海外で承認されているが、本邦では承認されていない、開発されていない薬剤)への対策が重要となっています。
遺伝子パネル検査で「最適な抗がん剤」候補が見つかったとしても、本邦で薬事承認・保険適用されていなければ、当該抗がん剤へのアクセスにはハードルが出てきます(患者申出療養の申請、治験への参加などが叶わなければ、全額自費(患者が薬剤以外も含めた治療の全額を自分で負担する)となり、経済的負担が極めて重くなる)。
この点に関連して、厚労省は「米国FDA・欧州EMA(以下、FDA等)承認に向けた国際共同試験への早期参画」「FDA等既承認で国内未承認薬の薬剤ごとの最適な国内開発方針の検討」「早期相開発のための国内ネットワーク構築」「海外・国内に向けた希少がん・小児がん等の薬剤開発の窓口の明確化」が必須であると考え、がんゲノム医療中核拠点病院の在り方を次のように見直してはどうかとの考えも示しています。
【がんゲノム医療中核拠点病院】(現在の指定状況はこちら、13施設)
▽がんゲノム医療中核拠点病院を、「全国のがんゲノム医療の拠点として、ドラッグラグ・ドラッグロスの解消に向けて国際共同治験の推進等を行い、我が国のがんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関」と位置づける
▽指定要件については、「優れた診療実績」「国際共同治験への参画や医療技術の開発」「ゲノム医療に関わる専門人材の育成」などを中心に定めてはどうか
この方向にも異論は出ておらず、「中核拠点病院の指定要件見直しで、間接的にドラッグラグ・ロスの解消につながると期待できる。その際、がんゲノム医療を提供できる施設が拡充し、症例が分散し、かえって「治験紹介等が減る」ようなことがあってはいけない。がんゲノム医療連携病院と中核拠点・拠点病院との連携では、そうした点も重視すべき」と中島貴子構成員(京都大学大学院医学研究科早期医療開発学教授)は進言しています。
今後、ワーキングにおいて「学会からの意見を踏まえて、指定要件の見直しの詳細論議」を進め、2027年4月から「新たながんゲノム医療提供体制」のスタートを目指します。

がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の見直しスケジュール(がんゲノム拠点病院指定要件WG6 260313)

がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院の見直し方向(がんゲノム拠点病院指定要件WG7 260313)
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