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少子高齢化が地域ごとにバラバラに進む「2040年」見据え、介護サービス提供や介護人材確保などの在り方を考える—厚労省検討会

2025.1.9.(木)

2025年から2040年にかけて少子高齢化がさらに進むが、その態様は地域ごとにバラバラである。そうした中で、65歳以上人口がピークを迎える「2040年」を見据え、介護サービス提供や介護人材確保などの在り方を考えていく—。

1月9日に開催された「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」(以下、単に検討会とする)で、こういった議論が始まりました。

先進的な取り組みを進める自治体や事業者・団体などの意見も聴取しながら議論を深め、今春(2025年春)の中間とりまとめを目指します(障害福祉や児童施策などを含めて今夏(2025年夏)に最終とりまとめ)。中間とりまとめは、社会保障審議会・介護保険部会に報告され、今後の介護保険制度改正や2027年度以降の介護報酬改定などの重要な検討要素となります。

1月9日に開催された「第1回 『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」

中山間地・大都市・一般市などに区分し「介護サービス提供の在り方」を検討

まもなく2025年度に入りますが、そこでは人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者に達し、今後、急速に医療・介護ニーズの増加・複雑化が生じます。

さらに2025年以降は、高齢者人口そのものは大きく増えない(高止まりしたまま)ものの、▼85歳以上の高齢者比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、医療・介護の複合ニーズを持つ高齢者、認知症高齢者などの比率が高まっていく)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で、多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療・介護提供体制」の構築がますます重要になってきます。

また、こうした人口構造の変化は、地域によって大きく異なります。ある地域では「高齢者も、若者も減少していく」、別の地域では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに別の地域では「高齢者が今後増加するが、そう遠くない将来に減少していく」など区々です。

ところで、社会保障審議会・介護保険部会で、「次期介護保険制度改革」「2027-29年度を対象とする第10期介護保険事業(支援)計画」論議が昨年末(2024年末)に始まっていますが、そこでは、こうした「2025年以降の状況」を踏まえた議論が必要不可欠となります。

そこで厚労省は、多くの地域で65歳以上人口がピークを迎える2040年をターゲットに据え、「高齢者・障害者・児童福祉サービスの在り方」をどう考えるかを議論するために検討会を設置しました(関連記事はこちら)。

検討会では、まず「高齢者向けサービス」(主に介護保険サービス)提供体制の在り方を議論することとし、1月9日の初回会合では、厚生労働省から次のような課題・論点案が提示されました。
(1)人口減少・サービス需要の変化に応じたサービスモデルの構築や支援体制をどう考えるか
(2)介護人材確保・定着、テクノロジー活用等による生産性向上をどう進めるか
(3)雇用管理・職場環境改善など経営支援をどう考えるか
(4)介護予防・健康づくり、地域包括ケアと医療介護連携、認知症ケアをどう進めるか



まず(1)については、地域を特性に応じて区分(例えば3区分)し、それぞれでサービス提供の在り方を考えていく方向が示されています
(a)中山間・人口減少地域の小規模自治体や中山間地(著しい介護ニーズの減少、介護人材不足により「サービス基盤の確保」そのものが難しくなっていく)
(b)大都市部(介護ニーズが2040年以降も急増するため、限られた介護人材での効率的なサービス提供を可能とする取り組みが必須となる)
(c)一般市(サービス需要が当面増えるが、その後、減少に転じるため、サービス提供量をどのようにコントロールしていくかが極めて重要な課題となる)

このうち、(a)の中山間地域等のサービス基盤確保に向け検討会委員の多くが「介護報酬算定のための人員基準等の思い切った柔軟化」が必要であると強く指摘しています。例えば▼大地震に見舞われた能登北部では、若者が戻らず急速に高齢化が進行し「2040年の姿」となっている。人員基準などを思い切って柔軟化する特例を設けており、その状況を見ながら検討していくべき(池端幸彦構成員:医療法人池慶会池端病院理事長)▼すでに中山間地域では介護事業者の撤退が始まっており、目の前の課題として捉えて、介護報酬や人員基準、さらには補助金等の特例を設けて柔軟に対応しなければ立ち行かなくなる(大山知子構成員:社会福祉法人蓬愛会理事長)—などの意見が目立ちます。



ほか、▼介護事業所・施設は若者が専門資格を持って働ける「雇用創出」の場である。そうした視点での検討が重要ではないか(松原由美座長代理:早稲田大学人間科学学術院教授、津下一代構成員:女子栄養大学特任教授)▼他分野でも大幅な規制の柔軟化・特例を図っており(バスなどの公共交通機関の運転手確保が困難な地域で、いわゆる「白タク」を認めるなど)、介護分野でも検討が必要である(大屋雄裕構成員:慶應義塾大学法学部教授)—などの意見も出されています。



他方、(c)の「ニーズが当面増加するが、その後、減少していく」地域では、非常に難しい対応が迫られます。将来の「減少」局面に注目すればサービス提供量を抑制していくことになりますが、これでは「当面のニーズ」に対応できません。また、「当面のニーズ」に対応するためにサービス提供量を増やしたとして、「減少」局面に入った際に、そうした地域で働いていた人の雇用をどう考えるのかという問題が生じます。

この点について現時点で明確な「解」を示す意見はまだ出ておらず、今後、検討会で知恵を絞っていくことになります。なお、斉藤正行構成員(日本介護ベンチャーコンサルティンググループ代表取締役)は「一般市にも様々な地域があり、介護サービスの増加状況、その後の減少状況は地域によって異なる点に留意する必要がある」と注文しています。



さらに、▼医療と介護を切り離すことはできない。医療・介護のレセプトなどを連携分析し、まず「地区診断・地域診断」を行う必要がある(松田晋哉構成員:産業医科大学教授)▼医療計画・介護保険事業(支援)計画との整合性がますます重要になる。例えば数年前の「計画時点」の予測と「現在」とを比較検証し、不整合が生じていないかなどを常に考えていく必要がある(江澤和彦構成員:医療法人和香会理事長)—などの意見にも注目が集まります。

介護人材確保のための「処遇改善」や「ICT等活用した生産性向上」をどう進めるか

また(2)では「介護人材の確保」、「外国人介護人材の活用」、「テクノロジー活用や介護助手活用等による生産性向上」をどう進めるかという論点が示されています。

厚労省の試算(介護保険事業計画の積み上げ等)によれば「介護ニーズに的確に応えるためには、2022年度から40年度にかけて57万人の介護人材純増が求められる」ことが分かっていますが、少子化が急速に進む中では、どのように人材確保・定着を図るのかが極めて重要かつ喫緊の課題となります。

介護職員の必要数1(第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数1 240712)



この点、検討会構成員の多くは「処遇改善」の強化を強く求めています。例えば▼退職理由として「職場の人間関係」などがあがるが、それは表向きであろう。他産業に介護スタッフが流出している点を考慮すれば「処遇改善」の拡充が必要と考えられる(大山構成員)▼介護人材不足の度合いは加速度的に悪化していく。全産業平均を超える賃金水準の確保が必要である(斉藤構成員)▼これまで処遇改善加算で介護職給与は上がってきているが、全産業平均との格差はむしろ拡大してしまっている。3年に1度の介護報酬での対応では間に合わず、補助金などによる毎年度の処遇改善に改めていくべきではないか(東憲太郎構成員:医療法人緑の風介護老人保健施設いこいの森理事長)▼賃金に公が介入していくことは難しく、現在の仕組み(介護報酬対応)の延長で支えていくことが重要ではないか。その際、中小・零細事業所にも配慮し、できるだけシンプルな仕組みを考えるべきであろう(笠木映里構成員:東京大学大学院法学政治学研究科教授)—といった意見が出されています。

介護職員と全産業平均との賃金比較(社保審・介護給付費分科会7 241223)



処遇改善を図るためには「財源」が必要となります。安定的な財源を確保するために「補助金ではなく、介護報酬の加算に組み込んだ」経緯もある点を考慮した議論が必要でしょう。

また、「財源」を確保するためには「お金を出す人の理解」が極めて重要となります。介護報酬(処遇改善加算)で対応する場合には、「保険料を負担する国民や企業」「公費を管理する財務省」などの理解が必要不可欠であり、そのための理論構築も検討会に求められていると考えられそうです。



ところで、少子化が急速に進む中では「目標(+57万人の純増)どおりに介護人材を確保することは困難」とも思われます。このため限られた人材でサービスを確保するために「ICT技術やAI(人工知能)などのテクノロジー」や「介護助手」などを活用した生産性向上も強く求められています。

この点については、▼ICTやAI(人工知能)など技術を活用すれば、「1拠点の規模拡大」と「利用者の満足度」との両立が可能となっている。既存の「紙を前提とした介護保険制度」(例えば申請等を「紙」で行うなど)から「ICTを前提とした介護保険制度」へと脱却すべき。ICT等の利用促進、共同プラットフォームの構築・運用についてのノウハウを提供していきたい(香取幹構成員:やさしい手代表取締役社長)▼現役世代を「75歳まで」と考えるなど、活力ある高齢者の活躍に期待すべき(江澤構成員)▼テクノロジーの活用と同時に、介護業務の切り分けと、元気な高齢者による「介護助手」活用を進めるべき(東構成員)—といった意見が出されました。

香取構成員の運営する「やさしい手」では、かねてより訪問介護員等がスマートフォンやモバイル端末を活用した情報連携等を進めて「介護サービスの質向上→利用者の満足度向上」を図っています。ICTやAI(人工知能)などを活用した「1拠点の規模拡大」と「利用者の満足度」との両立事例に注目が集まります。

介護事業所間の連携、介護事業所の大規模化進め、経営安定などを図る必要がある

また(3)の経営支援に関しては、▼介護事業者の連携推進▼事業所の大規模化推進▼職場環境改善支援—などが重要論点になります。3つの論点はいずれも連環しており、例えば「事業所の大規模が進むとスタッフの離職率が下がり(スタッフ数の確保による1人当たり負担軽減など職場環境改善が図れる)、アドミニストレーションコスト(各種の手続きや届け出、請求などのコスト)を軽減し、経営の安定化を図れる」→「いきなりの大規模化(統合など)は難しいため、まずは事業者間の連携を深める」などの流れが考えられます。

この点について厚労省は、例えば「経営情報をわかりやすく事業者にフィードバックしていく」「職場環境改善や連携推進に向けた公的な相談窓口の設置・拡充を図る」「事業者間連携を推進するためのインセンティブを検討する」などの考えを提示しています。

検討会構成員からは、▼まず「事務などを担うバックオフィスを地域共同で設立する」などし、直接介護以外の業務負担軽減を始めてはどうか(松田構成員)▼相談できる身近な公的機関の設置・拡充を期待したい(大山構成員)▼まずは共同化を進める必要がある。そのためには大規模化(統合・合併等)と同等のメリットを共同化にも認めるべきであろう(斉藤構成員)▼世の中にはデューデリジェンス(合併・統合の対象となる企業や投資先の価値、リスク等の調査)もせずにM&Aを進める仲介業者もある。法的な規制も検討すべきではないか(松原座長代理)▼事業者自らが大規模化に乗り出すことは難しい面もある。大規模化を進めやすい環境整備などの支援を十分に行うべき(笠木構成員)—などの様々な意見が出されています。

介護予防や医療・介護連携の推進などにより、サービスの質向上を図ることが重要

さらに(4)では、▼介護予防・自立支援の取り組みにより「要介護認定率が低下している」という効果が出ている点を踏まえて、こうした取り組みを強化していく▼医療・介護の複合ニーズを抱える要介護高齢者等が増加していくことを見据え、「中身のある医療・介護連携」を推進していく▼認知症高齢者の増加を踏まえ、認知症の人・家族が安心して暮らせる「本人や家族が参画した共生社会」の実現に向けて、例えば認知症カフェやピアサポート活動、本人ミーティングなど、認知症の人の幅広い居場所づくりを進めると同時に、医療・介護連携による「認知症の早期発見・早期対応・診断後支援までの体制構築」を図る—ことが求められています。介護サービスの「量」だけでなく、「質の向上」が重要なためです。

この点について検討会委員からは、▼例えば在宅要介護者に総合的に訪問対応(訪問看護、訪問介護、居宅療養管理指導など)する「地域包括ケアステーション」のようなものを設立することなどを検討してはどうか(松田構成員)▼医療・介護連携がある地域でうまく進んでも、「別の地域で、同じことをそのまましてもうまく進むとは限らない」「キーパーソンがいなくなるとうまく進んでいた地域でも立ち行かなくなってしまう」などの問題点もある点に留意すべきである(池端構成員)▼医療・介護連携が進むよう、地域の医療機関と介護施設等とをマッチングしてくれる公的組織を期待したい(大山構成員)▼どのような介護予防事業を受け、どのような効果が出たのかなどを科学的に分析し、エビデンスに基づいた介護予防を進めるべき(江澤構成員、斎藤構成員)▼介護予防の一環である「通いの場」には、フレイル状態の高齢者は参加が困難である(通えない)。フレイル者にどのように介入していくかを検討することが要介護認定率の低下に向けて重要である(東構成員)



このほか、▼介護分野の課題の多く(人材確保、職場環境改善、経営の効率化、ICT導入など)は、一般中小企業の課題と共通する。介護分野の特殊性も踏まえながら「中小企業対策」の視点で検討していくことが重要であろう。また「経営者を支援する専門家」の活躍も重要である。「日々の業務をしっかりこなす」だけでなく、「将来展望をもって事業所を運営する」ことが重要である(中村厚構成員:日本クレアス税理士法人富山本部長)▼現下の介護報酬の水準では「施設系では稼働率が9割超」でなければ赤字になってしまう。こうした状況を放置して良いのか、介護報酬の在り方の抜本的な見直しが必要である(江澤構成員)▼地域によって、時間によって高齢化の状況やサービスの担い手となる現役世代の状況が大きくことなってきており、全国一律の介護保険制度を抜本的に見直す時期に来ていると考える。また介護現場の改革だけではなく、社会全体を巻き込んだ理解が必要不可欠である(斉藤構成員)▼地域包括ケアシステム、地域共生社会のいずれにおいても「家族」の役割などを考えていく必要があろう。「家族」の役割を明確化することで、「単身高齢者」対策がより有効性を増していく(笠木構成員)—などの声も出ています。

検討会では、先進的な取り組みを進める自治体や事業者・団体などの意見も聴取しながら議論を深め、今春(2025年春)の中間とりまとめを目指します。中間とりまとめは、社会保障審議会・介護保険部会に報告され、今後の介護保険制度改正や2027年度以降の介護報酬改定などの重要な検討要素となります。



なお、検討会には「費用負担者代表」(保険者代表、被用者保険代表など)は参画していません。このため、例えば「思い切った処遇改善を行うべき」「人員基準の大幅緩和を行うべき」などの意見が検討会でまとまったとしても、最終決定は介護給付費分科会や介護保険部会で「費用負担者代表」なども混じえて行うことになる点に留意が必要です。



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