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処遇改善やICT活用等の諸施策が「介護人材の確保・定着」にどれだけ効果を生んでいるのか検証を—社保審・介護保険部会

2022.7.25.(月)

少子高齢化が進行する中で「介護人材の維持・確保」が最優先課題となり、例えば「処遇改善」や「ロボット・ICT導入による生産性向上」「介護助手活用によるタスク・シフティング」「事業所の大規模化・協働化」などが重要施策になる。その際、各施策の効果をデータとして把握し、それを踏まえて「どの施策が効果的であり、そこに力を入れていくべきか」などを考えていく必要がある—。

あわせて、介護現場の声(不満など)に真摯に耳を傾け、その声を施策に活かしていくことが重要である—。

ロボット・ICT導入は極めて重要であるが、人員配置基準の緩和を行う際には「ロボットやICTは人の代わりになるものではない」点を踏まえ「介護の質が低下しないか」「介護スタッフの負担が向上しないか」などを検証しながら、慎重に検討していく必要がある—。

介護助手の配置により「介護職員の負担軽減」が実現される点を踏まえ、制度化や介護報酬での対応などを検討する時期に来ているのではないか。また「やりがい」を持てるような名称の検討も進めてはどうか―。

7月25日開催された社会保障審議会・介護保険部会において、こういった議論が行われました。

介護人材の確保等に向けた諸施策、「人材確保の効果」がどの程度出ているのかの検証を

2000年度にスタートした介護保険制度は、「3年を1期」とする介護保険事業(支援)計画(市町村)に沿ってサービス提供体制整備や保険料設定などが行われます。2024年度からの新計画(第9期計画)に向けて、▼2022年に必要な制度改正内容を固める→▼2023年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ→▼改正法等を受け、2023年度に市町村・都道府県で第9期計画を作成する→▼2024年度から第9期計画を走らせる―というスケジュールで制度改正等論議が進められています(関連記事はこちらこちら こちら)。

次期制度改正に向けて、厚生労働省は▼地域包括ケアシステムの更なる深化・推進▼介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進▼給付と負担▼その他—という第1ラウンド論議(総論論議)の検討テーマを掲げており、7月25日の会合では「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進」が議題となりました。

ついに今年度(2022年度)から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。その後も高齢者割合は維持されるため、今後「介護ニーズが急増していく」ことは確実です。このニーズに対応するために、厚労省の試算では、2040年度には現在よりも69万人多い「280万人」の介護人材が必要とされています。

介護人材の必要性試算(介護保険部会2 220324)



一方、少子化が進展しており、2025年度から40年度にかけて「高齢者を支える現役世代人口」が激減していくことも分かっており、「どのように介護人材を確保し、定着を図っていくか」が極めて重要なテーマとなるのです。

もちろん厚労省もこの問題を放置しているわけではなく、例えば次のような施策により「介護人材の確保・定着」に総合的に取り組んでいます。

(1)介護職員の処遇改善
→▼介護職員処遇改善加算(2012年度改定で、介護職員処遇改善交付金を受けて創設され、その後、順次拡充)▼特定処遇改善加算(2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す)▼介護職員処遇改善に向けた補助(ベースアップを主軸とする、この2月から9月の補助金)▼介護職員等ベースアップ等支援加算—

介護職員等ベースアップ等支援加算の概要(介護給付費分科会(2) 220228)

介護職員等ベースアップ等支援加算を含めた、3つの処遇改善加算の全体像(介護給付費分科会(3) 220228)



(2)多様な人材の確保・育成
→▼介護福祉士修学資金貸付、再就職準備金貸付による支援▼中高年齢者等の介護未経験者に対する入門的研修の実施から研修受講後の体験支援、マッチングまでの一体的に支援—など

介護・所以外分野への就職支援パッケージ(介護保険部会1 220725)

介護分野就職支援金貸付事業の概要(介護保険部会2 220725)



(3)離職防止、定着促進、生産性向上
→▼介護ロボット・ICTなどの「テクノロジーの活用」推進▼介護職員のキャリアアップのための研修受講負担軽減や代替職員の確保支援▼生産性向上ガイドラインの普及▼介護職員に「悩み相談窓口」の設置、若手職員の交流推進—など

(4)タスク・シフティング、タスク・シェアリング
→▼介護助手の活用(前提として業務の明確化、業務の切り分けなど)—

(5)経営の大規模化・協働化
→▼社会福祉連携推進法人(地域の社会副腎法人などが個々の自主性を保ちながら連携し、スケールメリットを生かした法人経営(物品の共同購入など)を可能とする仕組み)の制度化(2022年度スタート)▼施設の管理者常駐要件の見直し—など

社会福祉連携推進法人の概要(介護保険部会5 220725)



(6)文書負担軽減
(7)介護職の魅力向上・情報発信
(8)財務状況の見える化
(介護サービス情報公表制度における各介護事業所の財務状況公表)



これらの取り組みは相互に連環しており、基本的に「積極的に推進していくべき」旨の声が多数出ていますが、いくつかの注文も出ています。

まず、立場を越えて多くの委員から強調されたのは「各施策の効果を検証せよ」との意見です。それも、例えば「処遇改善」に関しては、「●●円賃金が上がった」云々にとどまらず(この点の効果はすでに各種調査で見えている、関連記事はこちら)、最終目標である「人材の確保・定着にどれだけの効果が出ているのか」(=各事業所・施設でどれだけ介護人材が増えたのか)をしっかり検証し、「効果的な施策に資源を集中すべき」との指摘です。

例えば、上記(2)では「中高年齢層の人材確保」などの施策が目立ちますが、染川朗委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)は「介護職員の多くは高齢者(40歳代が2割、50歳代が3割、60歳代が2割)、女性である。今後を考えれば、対策は『若者の確保』であることは明らかであろう」と訴えています。

この点、岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「現場の介護スタッフの不満・不平に真摯に耳を傾けることが重要である」とも付言。さらに江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「これまでの調査で離職理由のトップ3は『人間関係』『結婚や子育て、介護など』『事業所・施設の理念が合わない』と分かっている。また勤続年数が長い介護スタッフの最大のモチベーションは『やりがい』であることも分かっている。こうした点を重視し、そこにフィットするような離職防止・人材確保定着策を考えていくべき」と指摘しています。両委員の指摘の背景には、「厚労省施策(上述)と介護現場との間にミスマッチがあるのではないか」との考えがあると思われます。膨大な予算と時間を費やして介護人材の確保・定着に取り組んだとして、それが「現場とのミスマッチがあり、十分な効果が出ていない」のであれば、悲しいことです。効果検証を行い、こうしたミスマッチを減らしていくことも重要な視点でしょう。

もっとも、施策によっては「効果が出るまでに時間がかかる」ものもあり、また、複数の施策が相乗効果を生むものもあり、「A施策によって介護人材がどの程度増え、B施策では介護人材がどの程度増えた」などの定量的評価を行うことは非常に難しいのも実際です。今後、「施策の効果検証」をどう進めていくべきかという具体的な議論・研究も重要になってくるでしょう。

処遇改善の各種加算の簡素化、ベースとなる処遇改善の取得促進など検討せよ

また、諸施策を推進していくうえでの注文・意見も数多く出ています。

例えば(1)の処遇改善については、従前と同様に「複雑化しており、簡素化を含めた制度見直しを検討すべき」との声が大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)や座小田孝安委員(民間介護事業推進委員会代表委員)らから出ました。2024年度の介護報酬改定に向けて介護給付費分科会を中心に議論が進められることになるでしょう。

また、介護職員処遇改善のベースとなる【介護職員処遇改善加算I・II・III】をいまだに取得していない(あるいはできない)事業所があることを踏まえ、取得促進(取得要件確保に向けた専門家派遣など)を強化していくべき旨の要望も出たほか、染川委員は「他の職種と比べて給与水準が低い、業務に比べて給与水準が低い、今の給与水準では生活ができないなどの現場の声を踏まえれば、今後も『介護職員の処遇改善が最優先検討テーマ』となる」と強調しています。

ICT等活用した場合の「夜間の人員配置基準緩和」、慎重な検討を求める声も少なくない

また、(3)のテクノロジー活用に関しては、2018年度・21年度の介護報酬改定で導入された「見守り機器などを活用する特別養護老人ホームでは、夜間の人材配置基準を一部緩和する」などの対応を、「他の施設等にも拡大できないか」という研究・検証を実施しています(関連記事はこちら)。具体的には、ロボットやICT技術を導入する前後で「介護・サービスの質が低下しないか」「介護スタッフの身体的・精神的負担が増大しないか」などを検証するものです。

介護ロボット等による生産性向上に関する効果測定を行う



この研究・検証結果も踏まえて、2024年度の次期介護報酬改定に向けて「ICTやロボットを活用する事業所・施設で、夜間の人員配置基準などを緩和できないか」を議論していくことになりますが、介護保険部会でも、早くも▼効率化の名目で、ヒトの手による介護・ケアが「作業化」してはならない。介護の質が維持されるのかきちんと検証する必要がある(江澤委員)▼ロボットやICTは「ヒトの代わり」にはならない、人員配置基準緩和は慎重に検討すべき(齋藤訓子委員:日本看護協会副会長)▼利用者目線にたって「介護の質が低下していないか」の検証が重要である(及川ゆりこ委員:日本介護福祉士会会長)▼介護現場がロボット・ICT等を利用しやすくなる環境整備の意味も込めて十分な検証を行ってほしい(大西委員)▼大規模な法人・事業所などではロボットやICT導入に比較的積極的だが、小規模な法人・事業所ではそこまで手が回らず、今後「大きな格差」につながると予想される。格差解消策も視野に入れた検証を行ってほしい(桝田和平委員:全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)—などの声が出ています。議論の中心となる「介護給付費分科会」(2023年度に議論が本格化する予定)に注目が集まります。

介護助手の制度化、介護助手配置の報酬上の評価など求める声も

さらに(4)の介護助手に関しては、上記(3)の検証対象にも入っていますが「制度的な位置付け」を検討すべきとの声も出ています。

この点に関連して、橋本康子委員(日本慢性期医療協会会長)は「直接介護は介護福祉士などが担い、間接業務を介護助手が担うという区分けを明確にするとともに、どのような業務が介護助手が担う間接業務に該当するのか、具体的に可能な限り列挙するなどの見える化を図るべき。またやりがいを持って働けるような名称も検討すべき。掃除などについては専門業者の良質なサービスが有用であり、介護助手としての活用も今後検討していくべき」と進言。また東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「介護助手の配置で、介護職員の直接介護負担が軽減するとの研究結果もあり、配置を促進すべき。ただし、人件費もその分かかることから、報酬上の位置付けを検討してはどうか」と提案しています。

介護助手導入の前提として、各介護事業所・施設において「業務の明確化」「業務の切り分け」が重要で、そうした旨は「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」に規定されています(ガイドラインに関する厚労省のサイトはこちら)。さらに一歩すすめて「介護助手の制度化」など(報酬設定の前提として、一定の制度化が必要になると考えられる)にどこまでの議論が進むのか、今後に注目が集まります。

介護分野生産性向上GLの概要(介護保険部会3 220725)

介護分野生産性向上GLより(介護保険部会4 220725)



このほか、▼(5)の大規模化・共同化がロボット・ICT活動にとっても重要であり、推進すべき(佐藤主光委員:一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)▼地方分権は重要だが、介護文書に関するローカルルール(国が求める以上の、あるいは国と異なる様式の書類提出を求めるなど)は大きなハードルとなっており、ローカルルールについては自治体に説明責任を求めるべき(佐藤委員)▼介護分野の電子申請(今年(2022年)10月スタート予定)について、自治体側の準備期間にも配慮をしてほしい(大西委員)▼介護分野の電子申請について、多くの自治体が参加するよう国から指導するともに、経過的なメール・郵送申請なども可能にすべき(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼医療必要度の高い要介護者増加などを踏まえ「特定行為研修を修了した看護師」配置なども進めるべき(橋本委員、齋藤委員)—してほしいなどの声が出ています。

介護分野における電子申請等のスケジュールイメージ(介護保険部会6 220725)



いずれも、秋以降の第2ラウンド論議(具体的な制度改正論議)の論点設定において重視されるべき重要な意見と言えます。



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