2024年度からの第9期介護保険計画に向けた議論開始、人材確保と持続可能性確保が重要論点―社保審・介護保険部会
2022.3.25.(金)
少子高齢化がますます進展する中で、介護保険制度においては「介護人材の確保」と「制度の持続可能性確保」が最重要論点となる。人材確保に関しては「処遇改善」の充実などのほか、「人に代わる介護ロボットやICTの利活用推進」にもさらに力を入れていく必要がある―。
制度の持続可能性確保に関しては、「利用者負担増」「ケアマネ自己負担の導入」「被保険者の範囲見直し」などをしっかり検討していく必要がある―。
3月24日の社会保障審議会・介護保険部会でこうした議論が始まりました。
介護人材の確保・定着と、介護ロボットやICT活用とを並行して進めなければならない
2000年度にスタートした介護保険制度は、「3年を1期」とする介護保険事業計画(市町村)・介護保険事業支援計画(都道府県)に沿ってサービス提供体制整備や保険料設定などが行われます。2024年度からは新たな第9期計画が始まるため、▼2022年に必要な制度改正内容を固める→▼2023年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ→▼改正法等を受け、2023年度に市町村・都道府県で第9期計画を作成する→▼2024年度から第9期計画を走らせる―というスケジュールを描くことができます。
介護保険部会で、本年末(2022年末)までに制度改正内容を固めることとなり、3月24日にはキックオフ論議が行われました。そこでは、厚生労働省老健局総務課の橋本敬史課長から、介護保険を取り巻く状況として、例えば▼地域包括ケアシステム構築の目標年度となる「2025年度」が第9期計画中に訪れる▼少子高齢化がさらに進展し、2025-40年度にかけて現役世代人口が急速に減少する▼要介護認定者・サービス受給者が増加し、介護費・保険料も上昇してきている―ことなどが説明されました。
併せて、政府の設置する「全世代型社会保障検討会議」において、介護分野に関して▼家族介護負担の軽減▼医療・介護・福祉サービスの連携▼介護従事者の処遇改善―などを進める方向が打ち出されており、今後の介護保険制度改革でもこうした点を考慮する必要がある点も橋本総務課長から報告されています。
こうした状況を受け、介護保険部会委員からは、(1)人材確保(2)制度の持続可能性確保―が最重要論点になるとの意見が相次ぎました。両者ともに「少子高齢化の進展」に伴って生じる大きな課題点です。
来年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。このため介護ニーズは今後急速に増大していきます。
その後2040年度にかけては、高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。
少なくなる一方の支え手(サービス提供者、費用負担者)で、増大する一方の高齢者(サービス利用者、受益者)を支えなければならず、(1)のサービス提供者をどう確保するか、(2)の保険財政の安定をどう確保するか―がこれまで以上に大きな問題となるのです。
このうち(1)については、これまでに「2040年度には約280万人の介護職員が必要となる。2019年度には約211万人に介護職員がおり、2023年度に22万人増、2025年度に32万増、2024年度に69万人増というペースで人材の育成・確保をはかっていかなければならない」との試算結果が出ています。
この点、委員からは「処遇改善により介護職員の確保・定着を促進すべき」との意見が出ています。2012年度からは【介護職員処遇改善加算】が、2019年度からは【特定処遇改善加算】がスタートしており、介護職員の給与改善効果が現れています(関連記事はこちら)。さらに今年(2022年)10月からは新たな【介護職員等ベースアップ等支援加算】も創設されます(関連記事はこちら)。
今後も給与を含めた処遇改善が重要なテーマになりますが、「処遇改善を介護報酬の中で行うべきか」という大きなテーマも残っており、今後の重要課題になるでしょう。なお「処遇改善」は介護報酬の問題と捉える向きもありますが、「処遇改善を介護報酬の中で行う」ことが決まってから「当該論点は介護給付費分科会マターとする」ことになる点に留意が必要です。
もっとも江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「介護従事者の離職防止に最も効果的なのは『やりがい』である。介護サービスの質を上げ、利用者の状態が改善し、家族等からも感謝されることが一番の『やりがい』である。ケアの質向上が離職防止につながるという点を正面から議論すべきである」と強調しています。非常に重要なテーマになるでしょう。
一方で、「現役世代人口が減少する中で280万人の介護人材確保は非現実的である(他産業でも人手不足となる)。介護ロボットやICT活用など、『人から機械への』代替サービスを積極的に検討していくべきである」との意見も出ています。このためには機器や技術開発の支援が重要となり、併せて「規制改革」も必要になります(佐藤主光委員:一橋大学経済学研究科・政策大学院教授)。
もっとも「介護ロボットやICTが、すぐさま『人のかわり』になる」わけではありません。このため「処遇改善等による人材の確保・定着」促進と、「ロボットやICTの利活用」とは並行して進める必要があるでしょう。両者の促進に向けた制度改正論議が進むことに期待が集まります。
介護保険制度の持続可能性確保のため、給付引き下げと財源確保は最重要論点の1つ
また(2)の財政安定のためには、(a)給付費を適正化する(b)財源を確保する―という両面からのアプローチが必要不可欠です。
このうち(a)の給付費適正化に関しては、例えば河本滋史委員(健康保険組合連合会理事)から「ケアマネジメントにおける利用者負担の導入(現在は利用者負担ゼロ)など、より踏み込んだ制度改革を検討すべき」と強く要請。
また(b)の財源確保に関しては、▼能力に応じた自己負担の強化(つまり経済力のある高齢者では利用者負担割合を引き上げるなど)(岡良廣委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員ら)▼被保険者の範囲拡大(現在は第1号が65歳以上、第2号が40-64歳)(桝田委員ら)―などを論点に掲げる委員も少なくありません。
「負担増・給付の引き下げ」に関しては反対意見も強く議論を先送りしがちですが、「決して逃げられない、逃げてはいけない」問題であることを介護保険部会委員もしっかりと認識する必要があります。
関連して大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)は「保険者の在り方を見直す時期に来ていないか。より広域な保険制度を検討すべき」との考えを示しています。介護保険制度創設論議の中では「介護サービスは、医療に比べて、より狭いエリアで提供される。サービス提供料と財政とを身近なレベルで『わが事』として考え、決められるように、最も身近な自治体である市町村を保険者とする」こととなりました。「私の地域では、より手厚いサービスを期待したい。そのために保険料は高くなってもかまわない」「私の地域では保険料が高すぎては困るので、サービス提供量もほどほどでよい」と住民自らが考え、議論し、決めていくことが重要と考えられたのです。
「自分たちの居住地のサービス提供量・保険料を自分たちで決められる」優れた仕組みですが、制度発足から20年以上が経過し、介護費が高騰してくる中では「財政を安定化させるために、広域の保険者とすべき」との要請が出てくることも理解できます。ただし、介護保険制度の根本に関係する事項であり、どこまで議論が行われるか今後の動きを注視する必要があるでしょう。
このほか、▼医療介護連携の重要性が新型コロナウイルス感染症対応の中でも再確認された。医療介護連携は、サービスの質向上・自立促進にもつながり、最終的には「家族の介護離職」防止につながる重要なテーマである(橋本康子委員:日本慢性期医療協会副会長)▼我が国では「廃用」に対応するマンパワー、費用が場拡大で、「廃用」に至るまえの重度化防止が極めて重要である。そこに力点を置くべき(江澤委員)―などの意見も出ています。
今後、「人材確保」や「持続可能性確保」などの論点ごとに議論が積み重ねられていきます。
【関連記事】
2021年9月、特定処遇改善加算の取得進む、勤続10年以上介護福祉士の給与が35万円台に乗る―介護事業経営調査委員会
介護療養は2024年度以降設置不可、強力に「介護医療院や医療療養などへの転換」促進を―社保審・介護給付費分科会
介護分野でも「データ収集・分析→フィードバックによる質向上」の文化醸成が必要―介護給付費分科会・研究委員会
2022年10月からの新たな【介護職員等ベースアップ等支援加算】の枠組み決定―社保審・介護給付費分科会
2024年度介護報酬改定に向け「介護療養からの移行予定」や「LIFE活用状況」など詳しく調査―社保審・介護給付費分科会(2)
新たな「介護職員の処遇改善加算」で審議報告、今後の「処遇改善の在り方」で問題提起多数—社保審・介護給付費分科会(1)
「2-9月の介護職員処遇改善」補助金の詳細を明示、3月からの賃金改善などでは要件を満たさず―厚労省
2024年度の次期介護報酬改定に向け、2020・21年度の介護事業所経営状況を調査―介護事業経営調査委員会
2022年10月からの介護職員の新処遇改善加算、「2-9月の補助金」を引き継ぐ形で設計―社保審・介護給付費分科会
2022年2-9月の介護職員処遇改善補助の概要固まる、「基本給等の引き上げ」軸に処遇改善―社保審・介護給付費分科会
2022年10月からの介護職員処遇改善、現場の事務負担・職種間バランス・負担増などに配慮を―社保審・介護給付費分科会
2022年2-9月、看護職等の賃金引上げの補助を実施、10月以降は診療報酬対応も視野に入れ検討—2021年度補正予算案
2022年2月からコロナ対応病院勤務の看護職員給与を1%、介護職員の給与を3%引き上げる策を打つ―政府経済対策
看護職員や介護職員の処遇改善に向けた「報酬改定」、2022年度診療報酬はネット0.94%のマイナスに―後藤厚労相
2021年度介護報酬改定の効果検証調査、「現場の声・回答」がなければ「改善」につなげられない―介護給付費分科会
介護医療院や療養の「退所者」調査を初めて実施、LIFE利活用推進に向け伴走型モデル調査も―介護給付費分科会・研究委員会
支給限度基準額の7割以上利用(うち訪問介護6割以上)のケアマネ事業所でケアプラン点検―社保審・介護給付費分科会
介護職員の処遇改善状況や処遇改善加算の取得状況など調査、コロナ感染症による給与減など生じているか?―介護事業経営調査委員会
科学的介護の推進に向けた「LIFEデータベース」の利活用状況調査に大きな期待―社保審・介護給付費分科会
2021年度介護報酬改定踏まえ「介護医療院の実態」「LIFEデータベース利活用状況」など調査―介護給付費分科会・研究委員会
特定処遇改善加算の財源配分ルール柔軟化、職場環境等要件の見直しなどで介護職員処遇改善進める—社保審・介護給付費分科会(7)
リハマネ加算など大きな見直し、リハ・口腔・栄養を一体的に推進—社保審・介護給付費分科会(6)
介護施設や通所サービス等、入所者等全員のデータ提出→サービス改善を評価する【科学的介護推進体制加算】—社保審・介護給付費分科会(5)
通所介護、感染症等による利用者減対応を制度化、ADL維持等加算の点数を10倍に引き上げ—社保審・介護給付費分科会(4)
ICT導入等するケアマネ事業所の逓減制見直し・新加算創設で「質の高いケアマネジメント」目指す—社保審・介護給付費分科会(3)
介護医療院の長期療養機能を新加算で評価、介護療養へはディスインセンティブ設定—社保審・介護給付費分科会(2)
2021年度介護報酬改定内容を了承、訪問看護では基本報酬の引き上げや、看護体制強化加算の見直しなど—社保審・介護給付費分科会(1)
2021年度介護報酬改定に向け「人員配置基準」改正を了承、サービスの質確保前提に基準緩和—社保審・介護給付費分科会
来年度(2021年度)介護報酬改定に向けた審議報告を了承、限られた人材での効率的なサービス提供目指す―社保審・介護給付費分科会
新型コロナ対策をとる医療機関を広範に支援する新臨時特例措置、介護報酬0.7%プラス改定、中間年度薬価改定など決定―厚労省
ICT活用する介護施設等で夜勤スタッフ配置緩和、感染症等で利用者急減した通所事業所の経営を下支え―社保審・介護給付費分科会(3)
グループホームの夜勤配置・個室ユニットの定員を緩和、サービスの質等担保に向け運用面で工夫―社保審・介護給付費分科会(2)
リハ職による訪問看護、【看護体制強化加算】要件で抑制するとともに、単位数等を適正化―社保審・介護給付費分科会(1)
介護サービスの人員配置緩和・感染症等対策・認知症対応など柱とする運営基準改正へ、訪問看護は戦術変更―社保審・介護給付費分科会
公正中立なケアマネジメント推進、通所サービスの大規模減算は維持するが「利用者減」に迅速に対応―社保審・介護給付費分科会(4)
ADL維持等加算を特養等にも拡大し、算定要件を改善(緩和+厳格化)―社保審・介護給付費分科会(3)
個別要介護者のみならず、事業所・施設全体での科学的介護推進を新加算で評価―社保審・介護給付費分科会(2)
介護医療院への「移行定着支援加算」、当初期限どおり2021年3月末で終了―社保審・介護給付費分科会(1)
小多機の基本報酬見直し・加算の細分化を行い、看多機で褥瘡マネ加算等の算定可能とする―社保審・介護給付費分科会(4)
すべての生活ショートに外部医療機関・訪問看護STとの連携を求め、老健施設の医療ショートの報酬適正化―社保審・介護給付費分科会(3)
通所リハを「月単位の包括基本報酬」に移行し、リハマネ加算等の体系を組み換え―社保審・介護給付費分科会(2)
訪問看護ST、「看護師6割以上」の人員要件設け、リハ専門職による頻回訪問抑制へ―社保審・介護給付費分科会(1)
見守りセンサー等活用による夜勤スタッフ配置要件の緩和、内容や対象サービスを拡大してはどうか―社保審・介護給付費分科会(2)
介護職員の【特定処遇改善加算】、算定ルールを柔軟化すべきか、経験・技能ある介護福祉士対応を重視すべきか―社保審・介護給付費分科会(1)
状態・栄養のCHASEデータベースを活用した取り組み、介護データ提出加算等として評価へ―社保審・介護給付費分科会(2)
【ADL維持等加算】を他サービスにも拡大し、重度者への効果的な取り組みをより手厚く評価してはどうか―社保審・介護給付費分科会(1)
老健施設「入所前」からのケアマネ事業所との連携を評価、在宅復帰機能さらに強化―社保審・介護給付費分科会(5)
介護報酬や予算活用して介護医療院への移行・転換を促進、介護療養の報酬は引き下げ―社保審・介護給付費分科会(4)
ケアマネ報酬の逓減制、事務職員配置やICT利活用など要件に緩和してはどうか―社保審・介護給付費分科会(3)
4割弱の介護事業所、【特定処遇改善加算】の算定ベース整っても賃金バランス考慮し取得せず―社保審・介護給付費分科会(2)
介護サービスの経営状況は給与費増等で悪化、2019年度収支差率は全体で2.4%に―社保審・介護給付費分科会(1)
訪問リハビリや居宅療養管理指導、実態を踏まえた精緻な評価体系を構築へ—社保審・介護給付費分科会(3)
訪問介護利用者の負担増を考慮し、「敢えて加算を取得しない」事業所が少なくない—社保審・介護給付費分科会(2)
訪問看護ステーション本来の趣旨に鑑み、「スタッフの6割以上が看護職員」などの要件設定へ—社保審・介護給付費分科会(1)
生活ショート全体の看護力を強化し、一部事業所の「看護常勤配置義務」を廃すべきか—社保審・介護給付費分科会(3)
通所リハの【社会参加支援加算】、クリームスキミング防止策も含めた見直しを—社保審・介護給付費分科会(2)
デイサービスとリハビリ事業所・医療機関との連携が進まない根本に、どのような課題があるのか―社保審・介護給付費分科会(1)
グループホームの「1ユニット1人夜勤」体制、安全確保のため「現状維持」求める声多数—社保審・介護給付費分科会(3)
小多機の基本報酬、要介護3・4・5を引き下げて、1・2を引き上げるべきか—社保審・介護給付費分科会(2)
介護療養の4分の1、設置根拠消滅後も介護療養を選択、利用者に不利益が生じないような移行促進が重要—社保審・介護給付費分科会(1)
介護人材の確保定着を2021年度介護報酬改定でも推進、ただし人材定着は介護事業所の経営を厳しくする―社保審・介護給付費分科会
寝たきり高齢者でもリハ等でADL改善、介護データ集積・解析し「アウトカム評価」につなげる—社保審・介護給付費分科会
介護保険施設等への外部訪問看護を認めるべきか、過疎地でのサービス確保と質の維持をどう両立するか—社保審・介護給付費分科会
特養老人ホームのユニット型をどう推進していくか、看取り・医療ニーズにどう対応すべきか―社保審・介護給付費分科会(3)
老健施設、「機能分化」や「適正な疾患治療」進めるために介護報酬をどう工夫すべきか―社保審・介護給付費分科会(2)
介護医療院の転換促進のために、【移行定着支援加算】を2021年度以降も「延長」すべきか―社保審・介護給付費分科会(1)
ケアマネジメントの質と事業所経営を両立するため「ケアマネ報酬の引き上げ」検討すべきでは―介護給付費分科会(2)
訪問看護ステーションに「看護職割合」要件など設け、事実上の訪問リハビリステーションを是正してはどうか―介護給付費分科会(1)
介護保険の訪問看護、医療保険の訪問看護と同様に「良質なサービス提供」を十分に評価せよ―介護給付費分科会
2021年度介護報酬改定、「ショートステイの長期利用是正」「医療機関による医療ショート実施推進」など検討―社保審・介護給付費分科会(2)
通所サービスの大規模減算を廃止すべきか、各通所サービスの機能・役割分担をどう進めるべきか—社保審・介護給付費分科会(1)
小多機や看多機、緊急ショートへの柔軟対応を可能とする方策を2021年度介護報酬改定で検討―社保審・介護給付費分科会(2)
定期巡回・随時対応サービス、依然「同一建物等居住者へのサービス提供が多い」事態をどう考えるか—社保審・介護給付費分科会(1)
2021年度介護報酬改定、介護サービスのアウトカム評価、人材確保・定着策の推進が重要—社保審・介護給付費分科会
2021年度介護報酬改定、「複数サービスを包括的・総合的に提供する」仕組みを―社保審・介護給付費分科会
2021年度介護報酬改定、「介護人材の確保定着」「アウトカム評価」などが最重要ポイントか―社保審・介護給付費分科会