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介護サービスの経営状況は給与費増等で悪化、2019年度収支差率は全体で2.4%に―社保審・介護給付費分科会(1)

2020.11.2.(月)

2019度における介護サービス事業所・施設全体の収支差比率は2.4%で、前年度(2018年度)よりも0.7ポイント、前回改定前の前々年度(2017年度)よりも0.9ポイント低下(悪化)した。サービス種類別に見ると、▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):1.6%▼通所リハビリテーション:1.8%▼居宅介護支援:マイナス1.6%―などで収支比率がかなり低くなっている。

この背景には「人材確保難の中での給与費増、委託費増」などが大きく影響している—。

また、その後に生じた新型コロナウイルス感染症による経営への影響を見ると、過半数の事業所では「悪化した」と回答しており、とりわけ「通所介護」「通所リハビリテーション」「短期入所生活介護」などで収益の悪化が著しい—。

10月30日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会と、それに先立って開催された介護事業経営調査委員会に、こういった結果が報告されました。来年度(2021年度)介護報酬改定の改定率、各サービスの報酬改定内容を考える際の基礎資料となる重要なデータです。
【介護事業経営に関する資料】
2020年度の介護事業経営実態調査結果(概要)
2020年度の介護事業経営実態調査結果(詳細)
新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所の経営への影響に関する調査研究事業(速報)
新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所等の収入への影響

なお、10月30日の介護給付費分科会では、このほかに「処遇改善の状況に関する調査結果報告」「ケアマネジメントや施設サービスに関する改定論議」も行われており、これらは別稿で報じます。

介護人材確保難の中で給与費・委託費が増加し、介護事業所・施設の経営が悪化

3年に一度行われる介護報酬改定では、「介護現場の課題」解消を目指すとともに、「介護事業所・施設の経営安定を図る」ことも重要な視点となります。介護事業所・施設では、介護報酬が収益の大きな柱となるため、経営状況が厳しいようであれば介護報酬を引き下げる方向で、経営状況が非常に良好であれば報酬の据え置きや引き下げ(報酬は利用者負担にダイレクトに結びつく)方向が検討されます。もちろん国家の財政状況なども勘案されるため「経営が厳しい → 報酬の引き上げ」という単純な構造とはなっていない点にも留意が必要です。

来年度(2021年度)の介護報酬でも同様の検討が行われ、その素材として2020年度(調査対象は2019年度)の「介護事業経営実態調査」が行われたものです。なお、従前は「1か月」を対象に介護サービス事業所・施設の収支を調べていましたが、「季節変動などもあり、より実態に近い状況を調査すべき」との指摘を受け、2018年度の前回改定に向けた調査(2017年度調査)から「対象期間を1年分とする」「介護施設などの資金繰りを把握するために長期借入金返済支出」なども調べるといった見直しが行われています。



まず介護事業所サービス全体の収支差率を見ると、2019年度は2.4%で、前年度(2018年度の3.1%)よりも0.7ポイント低下(悪化)、前々年度(2017年度の3.3%)よりも0.9ポイント低下(悪化)しています。低下(悪化)の要因としては、人材の確保が過大となる中での人件費増、委託費の増などが考えられると厚生労働省はコメントしています。

介護サービス事業所・施設の経営は、2018年度から19年度にかけて悪化している(介護給付費分科会(1)1 201030)



少子高齢化が進行し、「介護提供体制を確保するための介護人材の確保・定着」が非常に大きな政策課題となっています。そこに「介護はいわゆる3K職場である(きつい、汚い、危険)」というイメージの悪化、アベノミクスによる景気回復(他産業による人材確保の強化)が加わり、「介護人材を確保するために、給与水準を引き上げなければらない」→「経営が厳しくなる」という状況に陥ってします。

この点、藤井賢一郎委員(上智大学准教授、介護事業経営調査委員会委員)は「2000年の介護保険スタートから、介護事業所・施設全体の収支差率は平時では8%程度であるが、2007年のリーマンショック時、また2016年以降は3%程度に落ち込んでいる。この要因は人材確保のための給与増にある。リーマンショック時はその後に回復したが、今回は非常に厳しく、介護業界全体に大きなダメージがある」と指摘。また、江澤和彦委員(日本医師会常任理事、介護給付費分科会委員)は「給与費が経営を圧迫しているというよりも、介護報酬が適切に設定されていないと考えるべきである」と指摘しており、「介護報酬プラス改定による手当て」を強く求めています。

一方、河本滋史委員(健康保険組合連合会理事、介護給付費分科会委員)は「悪化はしているが全体で黒字経営を維持できている。高齢化の進行で介護給付費は増加を続けており、一方で現役世代は減少し、負担が重くなる一方である。新型コロナウイルス感染症の影響で給与等の減少もある」と述べ、プラス改定を求める声を牽制しています。

ケアマネ事業所の赤字経営に拍車、2019年度は全体でも1.6%の赤字

個別サービスについて目立つところを拾うと、次のような状況が分かりました。

▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):収支差率は1.6%(前年度に比べて0.2ポイント減、前々年度に比べて0.1ポイント減)、給与費比率(収入に対する給与費の割合)は63.6%(前年度から増減なし)

▼介護老人保健施設:収支差率は2.4%(同1.2ポイント減、同1.5ポイント減)、給与費比率は61.7%(同1.2ポイント増)

▼介護療養型医療施設:収支差率は2.8%(同1.2ポイント減、同2.2ポイント減)、給与費比率は60.9%(同1.1ポイント増)

▼介護医療院:収支差率は5.2%、給与費比率は59.4%(なお、回答数が少なく参考数値という扱いである)

▼訪問介護(介護予防含む):収支差率は2.6%(同1.9ポイント減、同3.4ポイント減)、給与費比率は77.6%(同0.4ポイント増)

▼訪問看護(介護予防含む):収支差率は4.4%(同0.2ポイント増、同0.2ポイント減)、給与費比率は78.0%(同1.5ポイント増)

▼通所介護(介護予防含む):収支差率は3.2%(同0.1ポイント減、同2.3ポイント減)、給与費比率は63.8%(同0.5ポイント増)

▼通所リハビリ(介護予防含む):収支差率は1.8%(同1.3ポイント減、同3.9ポイント減)、給与費比率は66.7%(同0.5ポイント増)

▼居宅介護支援:収支差率はマイナス1.6%(同1.5ポイント減、同1.4ポイント減)、給与費比率は83.6%(同0.2ポイント増)

▼定期巡回随時対応型:収支差率は6.6%(同2.1ポイント減、同0.3ポイント増)、給与費比率は78.8%(同0.3ポイント増)

▼小規模多機能型居宅介護(介護予防含む):収支差率は3.1%(同1.6ポイント減、同0.3ポイント減)、給与費比率は67.9%(同0.6ポイント減)

サービスごとの経営状況(1)(介護給付費分科会(1)2 201030)

サービスごとの経営状況(2)(介護給付費分科会(1)3 201030)



サービスごとに見ても収支状況の悪化が目立ち、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)は赤字が進行してしまっています。

新型コロナウイルス感染症、とりわけ通所介護・リハ、短期入所の経営に甚大な影響

ところで、本年(2020年)初頭から新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、介護事業所・施設の経営にも少なからぬ影響が出ています。新型コロナウイルス感染を恐れ、訪問や通所を利用者や利用者家族が断るケースが少なくなく、事業所・施設の収益悪化につながっているのです。

今般の調査結果には、当然、こうした状況は反映されていません。このため厚労省は新型コロナウイルス感染症の影響の緊急調査も実施。そこからは▼収支状況が悪化したと回答する事業所の割合が5月時点(緊急事態宣言下)で47.5%、10月時点で32.7%にのぼっている▼過半数の事業所・施設で支出(費用)が増加している(衛生材料支出が増加し、研修費が減少、給与費は変わらず)▼事業所・施設の収益に該当する給与費の前年同期比を見ると、、全体では5月には0.5%増だが、8月に入ると3.4%増に回復している—ことなどが分かりました。

新型コロナウイルス感染症により、とりわけ通所介護・通所リハで経営状況が悪化している(介護給付費分科会(1)4 201030)



全体として「若干の悪化」が伺えますが、とりわけ「通所介護」「通所リハビリテーション」「短期入所生活介護」で悪化が著しいようです。5月の給付費を見ると、通所介護では前年同月比で7.7%減、短期入所生活介護では4.5%減、通所リハビリテーションでは15.4%減となっています。

新型コロナウイルス感染症により通所介護・通所リハ、短期入所生活介護事業所の収益が大きく減少している(介護給付費分科会(1)5 201030)



こうした新型コロナウイルス感染症の影響を、上記の実態調査結果にどう勘案していくのかも大きな論点となります。伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長、介護給付費分科会委員)や東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長、介護給付費分科会委員)、江澤委員らは「新型コロナウイルス感染症が介護事業所・施設に及ぼす影響も勘案して、改定率や報酬改定内容を検討していくべき」と主張しています。

一方で、河本委員や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事、介護給付費分科会)らは「新型コロナウイルス感染症への対応は極めて重要だが、それは公費(補助金)で行うべきであり、介護報酬とは切り離して考えるべきである」との考えを示しています。

なお、堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授、介護給付費分科会・介護事業経営調査委員会の双方の委員)は「今年(2020年)10月になっても経営状況が悪化している事業所、サービスについては、新型コロナウイルス感染症固有の影響であるのか、別の影響があるのかを慎重に見極める必要がある」と付言しています。



上述のとおり「経営が厳しい → 報酬の引き上げ」という単純な構造ではありませんが、介護事業所・施設の厳しい経営状況を、改定率や報酬改定内容にどう反映させるのか、今後の論議(年末の予算編成過程で改定率を決定し、介護給付費分科会で具体的な報酬改定内容を議論していく)に注目する必要があります。

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