通所サービスの大規模減算を廃止すべきか、各通所サービスの機能・役割分担をどう進めるべきか—社保審・介護給付費分科会(1)
2020.7.21.(火)
通所系サービスでは大規模事業所の報酬が減算されるが、これは「介護事業所・施設の大規模化・集約化推進」の方向に反するものであり、廃止を検討すべきではないか—。
通所介護・認知症対応型通所介護・通所リハビリなど、各種の通所系サービスの機能・役割分担が十分に進んでおらず、また各サービスの加算の中には極めて算定率の低いものものある。こうした点を2021年度の次期介護報酬改定で手当てする必要がある—。
7月20日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会でこういった議論が行われました。
目次
認デイ、「介護報酬を上げれば利用者が、下げれば事業者が離れる」状況をどう考えるか
2021年度に予定される次期介護報酬改定(3年に一度)に向けて、介護給付費分科会では個別サービスに関する議論に入っています。7月20日には、(1)通所介護、認知症対応型通所介護(2)療養通所介護(3)通所リハビリテーション(4)短期入所生活介護(5)短期入所療養介護(6)福祉用具・住宅改修介護―という6つのサービスについて課題等の整理を行いました。本稿では、(1)-(3)の通所系サービスに焦点を合わせ、(4)以降の短期入所系サービス等は別稿でお伝えします。
通所系サービスには「利用者の機能の維持・向上」「精神面の安定(他者とのつながりの確保)」などのほか、「家族介護者のレスパイト」という重要な機能があり、要介護者等の在宅生活維持に欠かせないサービスです。
通所介護(デイサービス)は「利用者(要介護者)を老人デイサービスセンター等に通わせ、入浴・排泄・食事等の介護、生活等に関する相談・助言、健康状態の確認、機能訓練等を行う」ものです。また、認知症対応型通所介護(認デイ)は「認知症(急性を除く)高齢者に対する日常生活上の世話や機能訓練等を行う」もの、療養通所介護(療養デイ・医療型デイ)は「主に、難病等の重度要介護者やがん末期の者に対し、日常生活上の世話等を行う」もの、通所リハビリ(デイケア)は「介護老人保健施設、医療機関等で、心身機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるためにリハビリ専門職が必要なリハビリを提供する」ものと定義できますが、サービスそれぞれに、また「各サービスの機能・役割分担が曖昧である」という課題があります。
まず後者の「各サービスの機能・役割分担が曖昧である」という点について見てみましょう。
例えば、認知症対応型通所介護は、事業所数は2015年をピークに、利用者数は2013年をピークに「減少傾向」にあります。認知症高齢者数が増加している中で、この事態は不可解です。この点について厚労省老健局振興課の尾崎守正課長は、これまでの研究から▼認知症対応型通所介護の趣旨等が専門職や地域住民に十分認識されていない▼認知症に対するマイナスイメージがある(利用者や家族が「認知症」デイを拒む)▼報酬が一般の通所介護に比べて高い(通所介護では、通常規模・要介護3・7時間以上8時間未満では887単位のところ、認知症対応型通所介護では単独型・要介護3・7時間以上8時間未満で1204単位)―などの原因が浮上していることを紹介しています。
とりわけ介護報酬の差は、区分支給限度基準額(1か月に利用可能な介護保険サービスの量)の中では「利用可能回数の差」(認知症対応型通所介護のほうが、通所介護に比べて利用可能回数が少なくなる)・「他サービスの併用の可否」に繋がります。このため「報酬を上げれば利用者が離れていき、報酬を下げれば事業所が離れていく」というジレンマに陥っており、「認知症高齢者に対し、どのように適切なサービスを提供していくべきか」が重要なテーマとなるのです。具体的な方策は今後の議論を待つ必要がありますが、厚労省では▼認知症に特化したサービスの趣旨・内容を十分に地域住民や専門職に理解してもらう▼介護保険サービス全般において認知症高齢者への対応力を強化してもらう—ことが重要との考えを示しています。
通所介護(デイサービス)と通所リハ(デイケア)などとの機能・役割分担をどう考えるか
また、通所リハと通所介護とでは、「機能の向上に向けたリハビリを一定期間(例えば6か月や1年間など)通所リハで行い、後に通所介護に移行し機能維持を図る」ことなどが考えられそうですが、厚労省の調査によれば「通所リハ開始から6か月が経過しても、8割超の利用者は『修了』(通所介護等への移行)の予定はない」ことが分かっています。また通所リハによりADL等が向上し、他の通所介護等に移行することを評価する【社会参加支援加算】も算定率は低調です。
一方で、通所介護サイドから「リハビリが必要な利用者を、どの程度、通所リハサービスに送り出したか」を見てみると、半数近くが「送り出したことはない」と回答しています。
両者の機能・役割分担が十分に進んでいないと思えますが、この点、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)らは「リハに修了・卒業はない」と強調しており、機能・役割分担の在り方そのものも含めて2021年度改定での重要テーマとなるでしょう。
また、石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会理事、名古屋学芸大学看護学部教授)は「通所介護に移行しても必要な機能訓練が確保されるよう、利用者の機能向上・維持の効果を評価する仕組みが重要ではないか」とコメントしています。通所介護においても十分な機能維持が図られることが、これまで以上に明確になれば、通所リハから通所介護への移行も円滑化する可能性があります。この点、2018年度の前回改定で新設された【ADL維持等加算】(利用者のADLの維持・向上度合いが高い通所介護等事業所を評価する加算)の拡充が期待され、秋以降の第2ラウンドで議論が本格化する見込みです。
通所介護の【生活機能向上連携加算】、極めて算定率が低く、どう見直すべきか
通所介護そのものについては、尾崎振興課長から次のような課題が提示されました。
▽通所介護事業所の職員と外部のリハ専門職が連携して、機能訓練のマネジメントをすることを評価する【生活機能向上連携加算】について、通所介護では「外部のリハ専門職が通所介護事業所を訪問する」ケースのみが評価され、訪問介護等で認められている「助言を受ける体制の整備を評価する」項目が存在しない。結果として加算算定率は通所介護回数ベースで0.4%と非常に低調である
▽通所介護と総合事業(市町村による自立支援・重度化防止に向けた独自の事業)とを一体的に実施する場合、総合事業の内容によって人員配置基準等に差がある
▽医療ニーズの高い利用者の増加に伴って、看護職員の配置・連携確保が重要となるが、看護職員確保が難しい
▽認知症対応型通所介護にのみ「中山間さん地域等に居住する者へのサービス提供加算」が存在しない
このうち【生活機能向上連携加算】については、上記のような「算定要件の厳しさ」のほかに、▼外部のリハ事業所等との連携が難しい(近隣にない、リハ事業所等も多忙であるなど)▼コスト・手間に比べて単位数が低い▼自事業所が人手不足で、利用者の生活維持への注力以外に余力がない—などの理由も浮上しています。このため「外部リハビリ事業所の連携で、具体的に何が難しいのかを深掘りするべき」(小泉立志委員:全国老人福祉施設協議会理事)、「より広範なリハ専門職との連携を評価してはどうか」(今井準幸委員:民間介護事業推進委員会代表委員)、「加算の算定しやすさよりも、外部リハスタッフとの連携が進む方策を考えるべき」(伊藤彰久委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)、「加算の算定率が1%に満たないのは、ADL維持等加算も含めて異常な事態だ。算定要件等を根本的に見直す必要がある」(東委員)など多数の意見が出ています。具体的な見直し内容については、秋以降の第2ラウンドで検討が行われます。
療養通所介護、緊急入院等によるキャンセルも多く、経営が不安定
療養通所介護に関しては、「医療ニーズの高い、極めて重度の要介護者へのサービス基盤」ですが、▼キャンセルが多い(もともと医療ニーズが高いため、急変等でサービスをキャンセルせざるを得ないケースが多々ある)▼看護職員・介護職員の確保が困難である▼安定経営が困難である—といった課題があり、事業所数も90か所程度から増加していません。
この点、岡島さおり委員(日本看護協会常任理事)は、「重度者(急変による入院等でキャンセルが多くなりがち)の増加を踏まえ、柔軟かつ使いやすく、経営が安定する報酬体系を構築すべき」と提案しました。例えば、「1か月当たりの包括報酬」を設定し、キャンセルがあっても事業者側が一定の収益を確保できる仕組みなどが思いつきます。
通所系サービスの大規模減算、介護事業所の集約化・大規模化に反しており「廃止」を
通所リハそのものに関しては、▼リハビリ計画のSPDCAサイクル(調査→計画→実行→評価→改善)を構築し、利用者の移行(ADL向上を目指すのか、料理ができるようになりたいのか、1人で買い物等へ行けるようになりたいのか、など)を踏まえたリハビリ提供を行うことを評価する【リハビリテーションマネジメント加算】など、極めて算定率が低調な加算がある▼リハビリの質をどう評価していくか検討する必要がある—といった課題が、厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長から紹介されました。
ところで委員からは、通所系サービス事業所の経営状況が「2018年度改定の前後で悪化している」ことを問題視する意見が多数出ています。
この点、通所介護や通所リハには「大規模事業所では経営効率が良い」ことを踏まえた減算(大規模事業所減算、例えば通所介護では、通常規模型(月の延べ利用者が300人超750人以下)では要介護3・7時間以上8時間未満で887単位だが、900人以内の大規模事業所(I)では848単位(39単位減)、900人以上の大規模事業所(II)では818単位(69単位減))があります。この点について「他サービスでは大規模化・集約化が推進されていることと逆行する。2021年度改定で廃止せよ」との声が東委員や井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)らから出されています。大規模減算が廃止されれば、経営効率等に鑑みて事業所の大規模化が進むと考えられます。これがサービス提供にどういった影響を及ぼすのかも踏まえて、今後「減算を維持するか、廃止するか、縮小するのか」などを検討していくことになるでしょう。
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