【速報】「2040年を見据えた介護保険制度改革」に向けて意見取りまとめ―社保審・介護保険部会
2019.12.27.(金)
社会保障審議会・介護保険部会が12月27日に、2021-23年度を対象とする第8期介護保険事業(支援)計画作成のための制度改正論議を終え、意見を取りまとめました。
詳細は別稿でお伝えしますが、本稿では速報として意見の概略を眺めてみます。
●介護保険部会の意見(介護保険部会の資料)●
●介護保険部会の意見概要(介護保険部会の資料)●
●介護保険部会の意見参考資料(介護保険部会の資料)●
目次
「2021-23年度」だけでなく、「2040年度」も見据えた介護保険制度改革
介護保険制度は、3年を1期とした介護保険事業(支援)計画に基づいて運営されます(市町村が介護保険事業計画を、都道府県が介護保険事業支援計画を作成)。地域におけるサービス整備量を計画に定め、それを賄うための保険料設定し、3年ごとに見直すイメージです。
2021年度から新たに「第8期計画」(2021-23年度計画)がスタートするために、▼2019年に制度改正等の内容を固める▼2020年の通常国会に介護保険法等改正案を提出し、成立を待つ▼改正法等を受け、2020年度に市町村等で計画を作成する―というスケジュールが立てられ、介護保険部会で介護保険制度改正論議が進められてきました。
その中では「第8期計画である2021-23年度への対応」と同時に、「2040年度への備えも重要である」ことが確認されました。2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年度にはすべてが後期高齢者となります。このため、今後、急速に介護ニーズが高まると想定されます。その後、2040年度にかけて高齢者の増加スピードそのものは鈍化するものの、支え手である現役世代人口が急速に減少していきます。ここから、▼介護保険の財政基盤をどう維持するか▼介護サービスをいかに少ない人材で効率的・効果的に提供するか―が非常に重要な課題となるのです。
さらに地域ごとに事情は異なり、▼すでに高齢化のピークを過ぎ、介護ニーズが減少モードに転じた地域もある▼高齢化のピークは迎えていないが、近くピークを迎え、その後介護ニーズが減少する地域もある▼高齢化が今後も進み、介護ニーズが増大を続ける地域もある―ことから、「地域特性」を踏まえた介護サービス提供体制の確保も極めて重要な検討テーマとなります。現下のニーズのみを踏まえて施設整備を行った場合、将来、その施設は「無駄な建物」となってしまう可能性があるためです。
一方、暮らしや地域の在り方が多様化する中では、一人ひとりが 尊重され、多様な経路で社会とつながり参画して生きる力や可能性を最大限に発揮する「地域共生社会」の実現が重視され、介護保険制度もこれを支えることが求められます。
こうした状況を踏まえて介護保険部会では、次の3施策を進めることを確認しました。3施策は互いに連関しています。
(1)介護予防・地域づくりの推進(健康寿命の延伸)/「共生」と「予防」を両輪とする認知症施策の総合的推進
(2)地域包括ケアシステムの推進(地域特性等に応じた介護基盤整備、質の高いケアマネジメント)
(3)介護現場の革新(人材確保、生産性の向上)
この3施策を進めるために▼保険者機能の強化▼データ利活用のためのICT基盤整備―を行い、さらに、これら全体を支えるために「制度の持続可能性確保のための見直しを不断に実施する」ことの重要性を介護保険部会は強調しています。
3施策の具体的な内容を眺めると、▼一般介護予防事業等の推進▼市町村の実施する総合事業の強化▼公正中立なケアマネジメントの推進▼地域の実情に応じた介護サービス基盤整備▼在宅医療・介護連携推進事業の体系見直し▼介護医療院への円滑な移行促進▼新規介護人材の確保と離職防止▼認知症施策推進大綱に沿った認知症施策の推進―などが地域包括支援センターの機能強化―などが目立ちます。
このうちケアマネジメントについては、「多分野の専門職の知見に基づくケアマネジメント(地域ケア会議の活用)」や「質の高いケアマネジャーの安定的な確保、ケアマネジャーが力を発揮できる環境の整備、求められる役割の明確化」などが打ち出されています。
この点、公正中立なケアマネジメントを実施するために、「ケアマネ事業所(居宅介護支援)の経営安定化」「ケアマネジャー(介護支援専門員)の処遇改善」などを求める声が多数出ています。なお、後述するように「ケアマネジメントにおける利用者負担の導入」は見送りとなっています。
また「地域の実情に応じた介護サービス基盤整備」とは、前述した高齢化などの地域特性を踏まえるもので、厚生労働省老健局総務課の黒田秀郎課長は、「保育分野では、『保育所(施設)の整備』一辺倒ではなく、『小規模保育所の設置認可』や『保育ママ制度』(自宅を保育園代わりのようにし、1人の保育ママで子供3人までを預かることを認める制度、言わば『極小保育所』)を組み合わせ、現在と将来とのマッチを考えている」ことを紹介しており、介護分野でも参考にしていくことになるでしょう。
介護DBとNDB等の連結に向けて、具体的な法整備を行う
一方、保険者機能強化等では「データ利活用の推進」に注目が集まります。科学的知見に裏打ちされた効果的かつ効率的な介護サービス提供に欠かせないもので、すでにNDB(National Data Base、医療レセプトと特定健康診査データを格納)と介護保険総合データベース(介護レセプトと要介護認定情報を格納)との連結解析が可能な規定は整備されていますが、具体的な連結を行うための法整備(個人単位の被保険者番号を用いて両データベースのデータを連携することなど)を行うことになります。
個人の保健・医療・介護データを連結して解析することで、例えば「若い頃に●●の生活習慣を持ち、健診で■■と判定された人は、近い将来、○○疾病に罹患する可能性が高いが、□□の治療法が有効である。こうした人は高齢になると▲▲が原因で要介護状態になる可能性が高く、その際には△△というケアが状態の維持・改善に有効である」といった知見が確立されるとすれば、極めて効果的かつ効率的に保健・医療・福祉(介護含む)サービスを提供することが可能になります(無駄なサービスを避け、効果的なサービスを集中提供できる)。もちろん、こうした知見が確立されるまでには相当の時間が必要と思われますが、将来に向けた極めて重要な第一歩となります。
さらに介護人材の確保は「喫緊中の喫緊」とも言えるテーマです。「処遇改善の充実」や「潜在介護福祉士の掘り起こし」「介護の仕事の魅力PR」「有償ボランティアや元気高齢者の『介護助手』としての活用」など様々な提案が委員からなされており、具体化に向けた検討に期待が集まります。
給付と負担の見直し、費用負担者サイドは「踏み込み不足」と批判するが・・・
一方、制度の持続可能性確保の中でも注目される「給付と負担の見直し」については、▼被保険者範囲・受給者範囲▼補足給付▼多床室の室料負担▼ケアマネジメントに関する給付▼軽度者への生活援助サービス等に関する給付▼高額介護サービス費▼「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準▼現金給付―の8項目について議論が続けられ、「補足給付の見直し」(低所得者の中でも比較的所得の高い層について自己負担を引き上げる)と「高額介護サービス費の見直し」(自己負担上限を医療保険の高額療養費に揃え、高所得者にはより多くの負担を求める)の2点の見直し方向が固められました。
この点、費用負担者サイドに立つ委員(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長、井上隆委員:日本経済団体連合会常務理事、河本滋史委員:健康保険組合連合会常務理事ら)から「踏み込みが甘い」「給付と負担の見直しを先送りにしたため、2024-26年度を対象とする第9期の見直しで相当大きな見直しをしなければならなくなる」旨の意見が相次ぎました。
この点について黒田総務課長は、介護保険部会終了後に記者団に対し「介護保険制度の持続可能性には、▼財政(給付と負担)▼人材▼利用者・家族の生活―の3項目があり、立場によって重み付けが変わり、3項目のバランスを取らなければならない。2点の見直し内容は、現時点での『介護保険部会の意見の一致点』であり、今後、不断に見直しを行っていく必要がある」との考えを示しました。
費用負担者サイドに立つ委員は「給付と負担」に重きを置き、「踏み込みが甘い」との考えを示すでしょう。しかし、「人材確保」や「利用者の生活確保」に重きを置く委員も少なくありません。こうした立場からは「利用者負担を引き上げ、生活の確保が難しくなっている。むしろ踏み込みすぎである」との考えを持っているかもしれません。様々な考えを披露し、議論を尽くして制度を構築する中では、「一方の意見のみを組み入れ、他方は顧みない」ことは許されません。
今後も、人口構成の変化、経済状況の変化を見て、議論を継続し、都度都度に意見の一致を見た項目について制度の見直しを行っていくことになります。
介護保険部会の意見取りまとめを受け、厚生労働省では必要な法令改正の準備を進めます。上述した「データ連結」については介護保険法の改正が必要であり、改正法案の準備を急ぐことになるでしょう。また法改正を必要としない事項であっても、第8期介護保険制度改正において重要な事項が目白押しであり、黒田総務課長は自治体に対し、機会(例えば全国厚生労働関係部局長会議や全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議など)をとらえて十分な情報提供を行っていく考えを示しています。
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