高齢者向け住まい、介護保険者(市町村)が的確に関与し、サービスの質向上確保を目指す―社保審・介護保険部会(2)
2019.11.1.(金)
介護ニーズが高まる中で、特に都市部で重要となる「高齢者向け住まい」だが、運営の安定性やサービスの質などを確保するため、整備状況等について市町村が的確に情報把握し、一定の関与ができるような仕組みの構築を検討すべきではないか―。
10月28日に開催された社会保障審議会・介護保険部会では、こういった点も議論されています。
ボランティアなど「外部の目」も入れ、高齢者向け住まいの適正性を確保
介護保険部会では、2021-23年度を対象とする「第8期介護保険事業計画」に向けて制度改正論議を進めています。春から夏までに分野横断的な事項に関する第1ラウンド論議を済ませ、秋からは個別分野に関する第2ラウンド論議を始めました。
年内(2019年内)の意見取りまとめを目指した議論が行われており、10月28日には(1)介護サービス基盤と高齢者向け住まい(2)科学的介護の推進、介護関連データベースなどの更なる利活用等(3)制度の持続可能性の確保―の3分野を議題としました。すでに(3)の「制度の持続可能性確保」についてはお伝えしており、本稿では「高齢者向け住まい」や「科学的介護」についてお伝えしましょう。
ただし、介護保険者である市町村では、「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」の整備状況や質の確保等を把握することが難しいのが実際です(これらの整備状況等を都道府県から市町村へ情報提供する法的な仕組みは十分に整備されていない)。
そこで厚生労働省は(1)の「高齢者向け住まい」に関して、▼「高齢者向け住まい」も含めた地域における介護基盤を計画的に進めていくための方策をどう考えるか▼高齢者が住み慣れた地域での生活を続けるために、自宅から介護施設までの間に、どのような住まいの在り方が考えられる▼「高齢者向け住まい」の質の確保や、利用者による情報入手のために、市町村による現状把握と関与の強化を図る方策としてどのようなものが考えらえるか―などの論点を提示しました。
この点、介護保険者の代表として参画する大西秀人委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長、香川県高松市長)は、▼高齢者向け住まいなどは、介護保険施設ではなく、当然総量規制の外にあり、「全体としての介護基盤整備の将来見込み」を立てにくい。統一的に把握する仕組みが必要である▼利用者が安心できるよう、高齢者向け住まいの安定性確保・サービスの質確保が重要であるが、入所者サイドからは適正化を求めることが難しい。ボランティアなど「外部の目」を入れるため、法令で何らかの関与規定を設けてはどうか―旨の考えを示しました。
一方、佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)は「高齢者向け住まいの整備は、街づくりとセットで行うべきである。『交通の便』などを考慮する必要がある」と提案しています。高齢者向け住まいはもちろん、介護保険施設についても、地価の安い郊外に建てるケースが少なくありませんが、「入所時はもちろん、家族のアクセスが難しくなる」などのデメリットもあります。家族が通いにくくなれば、面会の頻度も少なくなり、高齢者の精神面の健康確保が難しくなってしまいます。このデメリットは長期的に見れば「経営」面にも悪影響を及ぼす点に留意しなければなりません。
また山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)から「介護保険施設や高齢者向け住まいについて、防火や耐震など必須の事項は別として、現代にマッチしていない古い構造設備基準などは適宜緩和していく必要がある」との、桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長)から「地方においては人口減で個別サービスのみの提供が困難(採算が取れない)なところもある。例えば1つの施設が多様なサービスを提供し、スタッフも兼務可能となるような仕組みを考えていく必要がある」などの意見が出ています。
桝田委員の意見に関連して、武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)も「介護保険施設の機能について、▼特別養護老人ホームは「終の棲家」▼老人保健施設は「在宅復帰」▼介護医療院は「医療提供」―といった機能定義がなされているが、地方では1つの介護保険施設がさまざまな機能を果たしている実態も考慮する必要がある」と強調しています。
このように、「高齢者向け住まい」の整備状況について市町村が把握し、サービスの質を確保する方向について、介護保険部会の意見は一致していると見ることができます。例えば「住宅型有料老人ホーム」などであれば、入所者への介護サービスは「介護保険の居宅サービス」として提供され、▼要介護認定の際▼ケアプラン作成の際▼サービス提供の際―などに、一定程度、市町村が関与できます(ケアプランも介護サービスも最終的に市町村にレセプト等の形で情報が提供される)。こうした様々な機会を通じて「状況を把握する」仕組み構築を検討していく考えを厚労省老健局総務課の黒田秀郎課長は示しています。
また前述のとおり、都市部においては地価が高く、介護保険施設の整備が困難です。このため「高齢者向け住まい」に「居宅・地域密着型の介護保険サービス」を組み合わせて、急増する要介護ニーズに対応していくことが考えられますが、低所得者では、この形態での対応が難しいでしょう。このため、介護保険施設整備と高齢者向け住まい整備とをバランスよく進める必要があります。前者の介護保険施設整備に関しては、例えば▼廃校など既存インフラの活用▼土地・建物「所有」原則の緩和―などのサポート方策をさらに推進していく必要があるでしょう。
介護DB・VISIT・CHASEとNDBとの連携解析し、「科学的介護」を目指す
また(2)の科学的介護は、「●●の状態にある要介護者に対して、◆◆の介護サービスを提供することで、ADLや栄養状態が改善した」などのエビデンスに基づく介護サービス提供を意味します。
エビデンス構築のためには、▼高齢者の状態▼提供されたサービス―に関する詳しいデータが必要となります。厚労省はすでに、▼介護保険総合データベース(介護DB、要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納)▼VISIT(通所・訪問リハビリ事業所におけるリハビリ提供データを格納)―を構築していますが、さらに新たなデータベース「CHASE」(高齢者の状態・ケアの内容に関するデータベース)の構築・運用に向けた取り組みを進めています(2020年度から稼働予定)。
厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、これらのデータを活用した科学的介護の実現に向けて、次のような法制度を整備してはどうかとの考えを示しました。
▽VISIT・CHASEで収集したデータについて、「介護DBやNDB(National Data Base、医療保険レセプトと特定健康診査データを格納)のデータと連結解析を可能とする」「公益目的での研究者等への第三者提供を行う」などの活用を進めるために、必要に応じ法制的な対応を含めた環境整備を進める
▽VISIT(2017年度から運用開始)・CHASE(2020年度から運用開始予定)について、当面は制度的な支援により協力事業所・施設を増やす(例えば介護報酬上の手当てなど)ことでデータの充実を図り、データ提出は任意とする
▽自治体において、VISITやCHASEのデータを、介護保険のレセプト等とあわせて活用できるような環境整備を進める(個人情報保護の観点から法整備等が必須となる)
▽介護予防に関する情報(要支援者において、地域支援事業のサービス提供の参考資料となる基本チェックリスト情報など)についても、国・自治体における活用の在り方を検討する
▽介護領域において、「介護DBやNDB等の連携解析」「介護DB内のデータ突合」などを行うために「医療保険の個人単位の被保険者番号」を活用する
各種データベースに散らばっているデータを、「個人が誰なのか」という特定を防いだうえで連結し、「誰であるか不明であるX氏の健診データ・医療データ・介護データ」を分析すれば、上述した「どういったサービスが自立支援に向けて効果的か」というエビデンス構築の可能性が高まります。眞鍋老人保健課長は、こうした分析を安全かつ効率的に行うための環境整備を進めたい考えです。鈴木隆雄委員(桜美林大学大学院自然科学系老年学研究科教授)らは「縦断的なデータに基づく分析で、サービスと状態改善との因果関係が見えるようになってくる」と述べ、こうした動きに大きな期待を寄せました。
一方、散らばったデータを連結することで、「個人が特定しやすくなる」リスクも高まります。このため山際委員らは「データの取り扱いや第三者提供は慎重に行ってほしい」と要請しています。
なお、 CHASEの初期収集データ項目は「データを提供する介護事業所・施設の負担」を考慮し、「既存データなどから抽出可能な30項目」に限定されています(2018年3月にまとめられた「265項目」から絞り込んだ)。この点、「『介護』に関連する項目を充実していくべきである」(山際委員)、「栄養に偏り過ぎていないか」(齋藤訓子委員:日本看護協会副会長)、「日中の過ごし方や、利用者・入所者の意向などの項目を検討していくべき」(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)といった注文が出ています。将来の重要な検討視点になるでしょう。
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