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介護保険制度の「給付と負担」論議スタート、被保険者年齢などにまで切り込むか―社保審・介護保険部会

2019.8.29.(木)

 2021年度からの「第8期介護保険事業(支援)計画」に向けた介護保険制度改正論議の第2ラウンドが、8月29日から社会保障審議会・介護保険部会で始まりました。

 第1ラウンドの「横断的事項」の中で「さらに議論を深めていく事項」とともに、介護保険制度の持続可能性を確保するための「給付と負担の見直し」についても、具体的な論点が厚生労働省から示されました。

年末(2019年末)の意見とりまとめを目指し、今後、ハイペースで議論が進められます。

8月29日に開催された、「第80回 社会保障審議会 介護保険部会」

8月29日に開催された、「第80回 社会保障審議会 介護保険部会」

 

第1ラウンドの総論論議踏まえ、秋以降の第2ラウンド検討テーマを絞り込み

 介護保険制度は「3年を1期」として、サービス提供体制の整備や、保険料の設定などが行われ、2021-23年度を対象とする「第8期介護保険事業(支援)計画」に向けた制度改正論議が進められています。今春から夏にかけての、言わば第1ラウンドでは、次の5つの「横断的な項目」について議論(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

【横断的検討事項】
(1)介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)
(2)保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化)
(3)地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)
(4)認知症「共生」・「予防」の推進
(5)持続可能な制度の再構築・介護現場の革新

 そこでは、例えば「地域包括支援センターの業務が過重になっており、業務の整理(一部業務を他機関に移管したり、委託を可能としたりする)や人員・財政支援の充実を検討する」「介護人材確保・定着に向けた方策は都市部と地方では異なり、地域特性を考えていく必要がある」など、具体的な検討方向が見いだされてきています。

 厚労省は、第1ラウンド論議を踏まえ、例えば次のような点について秋以降の第2ラウンドで議論を深めてはどうかとの考えを示しています。

▽「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の検討を踏まえながら、一般介護予防事業等に今後求められる機能、専門職の関与の方策等、PDCAサイクルに沿った推進方策、地域支援事業等との連携方策などを検討する

▽地域包括支援センターについて、高齢化の進展への対応等の課題を踏まえた機能強化、業務や体制の在り方等について検討する

▽ケアマネジメントについて、介護支援専門員がその役割を効果的に果たしながら、質の高いケアマネジメントを実現できる環境整備方策を検討する

▽保険者機能強化推進交付金(いわゆるインセンティブ交付金)について、評価指標の見直しやメリハリ付け、保険者インセンティブの強化方策などについて検討する

▽介護サービス基盤について、地域特性や高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅)の整備状況なども踏まえながら適切に整備するための方策を検討する

▽在宅医療・介護連携推進事業の在り方、介護医療院への円滑な転換等について検討する

▽認知症施策推進大綱等を踏まえた認知症施策の総合的な推進方策を検討する

▽介護人材の確保・介護現場の革新について、人材確保・定着促進の方策、生産性向上の取組の推進方策、介護現場革新の取組の横展開方策等を検討する

介護保険被保険者の年齢設定、介護保険給付の在り方とセットでの検討が必要

 
 あわせて厚労省は、介護保険制度の持続可能性を確保するための「給付と負担の見直し」について、▼被保険者・受給者範囲▼補足給付の在り方▼多床室の室料負担▼ケアマネジメントに関する給付の在り方(利用者負担を求めるか)▼軽度者への生活援助サービス等の在り方▼高額介護サービス費(医療保険の高額療養費に沿った見直しを行うべきか)▼「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準▼現金給付―という論点を掲げました。

 65歳以上の第1号被保険者の納める介護保険料(全国平均)の推移を見ると、介護保険創設時の2000年度(2000-2002年度)には2911円でしたが、2018年度(2018-20年度)には5869円と2.02倍になり、今後の少子高齢化の進展を踏まえれば、さらに「保険料水準が高騰していく」と思われますが、65歳以上高齢者の負担能力には限界があります。このため、「給付と負担の見直し」は毎回の介護保険制度改正において、決して避けては通れないテーマとなるのです。
一般介護予防事業等検討会中間まとめ1 190823
 
このうち「被保険者・受給者範囲」について、現在は▼65歳以上の第1号被保険者(保険料は年金からの徴収(天引き)が原則)は、理由を問わず要介護状態になった場合には保険給付(公的介護サービス)を受けられる▼40-64歳の第2号被保険者(保険料は医療保険に上乗せして徴収)は、特定疾病(末期がんなど)で要介護状態になった場合にのみ保険給付を受けられる―という形で、言わば「セット」となっています。
介護保険部会1 190829
 
このため、例えば「保険料を負担する裾野を広げるために、第2号被保険者を現在の40歳以上から、30歳以上、20歳以上にまで広げよう(引き下げよう)」と考えるにあたっては、「保険給付を受けられる事由を、特定疾病に限定すべきだろうか。より広範な事由で要介護状態になった場合にも広げる必要はないのか」という点を検討する必要が出てきます。

また、「65歳以上でもバリバリ会社勤めなどをしている人もおり、こうした方は第2号被保険者とすべきではないか」と考える際には、同時に「65歳を過ぎても保険給付を受けられる事由が限定されることになるが、それは妥当か」という点を検討しなければなりません。

こう考えると「被保険者・受給者範囲」を動かすことは非常に困難とも思われますが、一方で▼出産年齢の高齢化により、親が65歳以上となるときの第1子年齢が、2000年には40歳程度であったものが、2017年では32歳に下がった点を踏まえると、「30歳になると親の介護が身近」となり、30歳以上を第2号被保険者とする下地がある(介護保険制度創設時には「40歳になると親の介護が身近となる」点を踏まえて、第2号被保険者を40歳以上と設定した経緯がある)▼65-74歳の前期高齢者の介護保険給付受給率は5%程度にとどまり(2017年度介護給付費実態調査)、全体としてみれば65-74歳を第2号被保険者としても、極端な給付制限にはならない―という見方をすることも可能です。

介護保険部会で今後、具体的な議論をしていきますが、厚労省老健局総務課の黒田秀郎課長は、「被保険者当の年齢をどう設定するか、という議論の前に、『高齢者を支える介護保険制度』という現在の考え方を維持するのか、それとも『年齢の限定を狭めた制度』(言わば普遍的な制度)という新しい考え方をとるのかという制度の根本に遡った議論が必要ではないか」との考えを示しています。

このテーマについては、河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)や安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)、岡良廣委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)らから「現役世代は子育て負担なども重く、第2号被保険者の年齢を引き下げることへの理解は得られにくい。まず現行制度内での見直しを徹底すべき」「65歳以上も昔に比べ『若返り』しており、65歳以上を第1号被保険者とする仕組みでよいのかとい視点も重要である」などといった意見が出たほか、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)から「若年世代vs高齢者といった対立を煽るような形での議論は好ましくない」との考えが示されました。

この「被保険者・受給者範囲」という論点は、広い意味では制度構築時(1995年頃)から続いている議論ですが、上述した「世帯内の年齢構成の変化」「高齢者像の変化」なども踏まえて、さらに検討が進められます。

軽度者への生活援助サービス、介護保険給付から市町村の総合事業へ移管すべきか

 「軽度者への生活援助サービス」は、▼要支援者に続き、要介護1・2などの軽度者に対する介護サービスを「介護保険給付」から「市町村の総合事業」へ移管すべきか▼生活援助サービスの保険給付としての在り方をどう考えるか―という2つの論点を内包していると考えられます。

前者のテーマについては、「要支援者の訪問・通所サービスの総合事業への移管によっても、利用者のサービス利用日数に大きな変化はない」(つまりサービス利用が阻害されているとは考えにくい)一方で、「総合事業への移行の趣旨とされた多様なサービス提供は十分には行われていない」というデータが出ており、これらをどう解釈するのか、今後の介護保険部会論議に注目が集まります。
介護保険部会2 190829

介護保険部会3 190829
 
後者の生活援助については、一部に「極めて頻回な利用がある」ことが2018年度の介護報酬改定論議(社会保障審議会・介護給付費分科会)で問題視され、「生活援助が多数回になるケアプランは、事前に市町村に届け出る」仕組みが設けられています。「生活援助はそもそも介護保険給付としてふさわしいのか」という疑問を投げかける識者もおり、2018年度介護報酬改定の効果検証なども踏まえた検討が今後進められる見込みです。

この点、黒田総務課長は「要支援者へのサービスを総合事業に移管した時点(2014年の介護保険制度改正)に比べ、地域人口の高齢化が進み、地域の人と人とのつながりも変化していると考えられる。また、総合事業を実施する市町村の『総合事業への移管に向けた苦労』と『総合事業を充実しなければならないという思い』なども踏まえた検討が必要になる」との考えを強調しています。

 
「給付と負担の見直し」については、ともすれば「介護費(給付費)を減らす」という視点に立った検討が進められると思われがちですが(介護保険給付から総合事業へ移管すれば、介護保険給付費は減少する)、厚労省幹部は「そういった単純な構図での検討は進めない」考えであることを確認できます。

 

 

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