スタッフの8割以上が理学療法士の訪問看護ステーション、健全な姿なのか―中医協総会
2019.7.18.(木)
訪問看護ステーションの中には、スタッフの8割以上が理学療法士というところがある。そうした訪問看護ステーションでは24時間対応に消極的なところも多く、健全な姿とは言えないのではないだろうか―。
こういった議論が7月17日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で行われました。
なお、今回でいわゆる「第1ラウンド」(総論)の論議は終了し、次回会合で「第1ラウンドの総括」を行った上で、個別改定項目に関する第2ラウンド論議につなげられます。
目次
スタッフの8割以上が理学療法士等の訪問看護ステーション、24時間対応に消極的
7月17日の中医協総会では、2020年度の次期診療報酬改定に向けた総論(第1ラウンド)の最後として、▼介護・障害福祉サービス等と医療との連携の在り方▼診療報酬に係る事務の効率化・合理化、診療報酬の情報の利活用等を見据えた対応―について議論を行いました。
前者の介護サービス等と医療との連携に関し、厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、(1)地域包括ケアシステムの構築に向けた介護サービスとの連携(2)精神疾患に係る施策・サービス等との連携(3)障害児・者に係る施策・サービス等との連携―の3点について検討を求めました。
このうち(1)では、「訪問看護」に注目が集まりました。訪問看護は、医療保険・介護保険の双方から給付が行われるサービスで、地域包括ケアシステムの中で「要」になると期待されています。このため、昨今の診療報酬改定では▼大規模化・機能強化(24時間対応の実現)▼人材の育成▼情報連携の充実―などに向けた対応が行われてきています。例えば、人材育成については、2018年度の診療報酬改定で、地域の医療機関の看護師を一定期間、訪問看護師として受け入れたり、地域の医療機関等を対象とした訪問看護に関する研修を行うなどの取り組みを行う「機能強化型3」の訪問看護ステーションが新設されるなどしています。
こうした取り組みにより、▼訪問看護ステーションの増加(2004年:4806事業所→2018年:9964事業所、14年間で5158事業所・107%増)▼大規模化(5人以上の事業所の割合は、2010年・32.4%から2017年・37.6%となり、5年間で5.2ポイント増)―などといった効果が出ています。
しかし、訪問看護に関しては次のような課題もあることが森光医療課長から報告されました。
▽管理者、スタッフの高齢化(管理者では5割以上、スタッフでは3割以上が50歳代以上)
▽機能強化型(24時間対応)の訪問看護ステーション設置に地域差がある(鳥取県・島根県・香川県では届け出ゼロ)
▽スタッフにおける理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーションが増加しており、理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーションでは24時間対応体制加算の届出割合が少ない(理学療法士等の割合が80%以上の訪問看護ステーションもわずかにあり、そこでは7割弱が24時間対応を行っていない)
管理者やスタッフの高齢化は訪問看護に限った話ではありませんが、「より働きやすい環境」の構築が重要となります(とりわけ長距離移動が多くなる訪問看護などでは重要)。この点について支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は、「ICTやオンライン診療などを組み合わせ、患者ニーズを満たしながら、医療従事者(ここでは訪問看護師)の負担軽減を図るべき」と強調しています。
また、スタッフ数5人以上の大規模訪問看護ステーションが増加してはいるものの、裏から見れば「6割超が5人未満の小規模ステーション」と言えます。この点、吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)は「大規模化に向けた報酬面での手当を、2020年度改定に向けても検討してほしい」と要望しています。
他方、「理学療法士等の割合が多い訪問看護ステーション」について、中医協委員からはさまざまな角度から「問題がないか、確認する必要がある」との指摘が出されています。理学療法士などリハビリ専門職による訪問看護は、当然、「訪問によるリハビリテーション」が主体となります。この点、理学療法士等の割合が80%以上の訪問看護ステーションは、事実上、設置が認められていない「訪問リハビリステーション」になってしまっているとも考えられます(介護保険の訪問リハビリは医療機関・介護老人保健施設でのみ提供可能)。
この点について診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「リハビリ専門職が、事実上の訪問リハビリステーションに流れ、病院でのリハビリ専門職確保が困難となっている。きちんと実態を調べて、適切な対処をすべき」と強調(関連記事はこちら)。また、同じく診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は「理学療法士等の割合が80%以上という訪問看護ステーションでは、重症度の低い患者を選び、24時間対応をしていない可能性がある。これは健全な姿とは言えないのではないだろうか。経営母体と理学療法士等との割合との関係なども見ていく必要がある」と指摘しています。
この問題は、2018年度の診療報酬改定・介護報酬改定でも焦点が合わせられ、例えば「効果的な訪問看護の提供を推進するために、理学療法士等による訪問看護については、看護職員と理学療法士等が連携して実施することの明確化」などの対応が行われました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。2020年度の次期改定に向けて、どういった対応が行われるのか注目する必要があります。
仮に、猪口委員や今村委員の指摘するような「24時間対応の必要はない(つまり急変しない)、訪問リハビリだけを希望する患者のための、スタッフのほとんどを理学療法士等とした、事実上の『訪問リハビリステーション』である訪問看護ステーション」の必要性があるのなら、正面からその存立を主張すべきで、制度の穴をつくような手法は好ましいとは言えないように思われます。
ギャンブル等依存症の治療、医療保険の給付対象とすべきか
また(2)の精神疾患に関連して「ギャンブル等依存症」対策が議題に上がりました。2018年にギャンブル等依存症対策基本法が成立し、そこでは「医療提供体制の整理」や「診療報酬での対応」などの規定も盛り込まれています。
この点、診療側の今村委員は「ギャンブル等依存症患者が70万人程度と推計されているが、医療機関受診者は2900人程度にとどまっている。この差は、専門医療機関の不足によるものなのか、患者が『自分は病気で治療が必要』と認識していないからなのか。そうした点の分析をまずすべき」と提案。
一方で、支払側の吉森委員や幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「アルコール依存症等は放置すれば心身を蝕むため、医療保険での対応の必要がある。しかし、ギャンブル等依存症の治療を医療保険で行うべきなのか。診療報酬での対応に関する議論は時期尚早ではないか」と指摘しています。医療保険財政が厳しさを増す中で、保険者サイドは「保険給付範囲の在り方」そのものの議論を開始すべきと提唱しており、この指摘もその延長線上にあると言えます(関連記事はこちら)。
なお、(3)では「発達障害」等へ、2020年度改定でどういった対応をすべきかが重要論点となります。
レセプトへの郵便番号記載、重要だが、実務上のハードルも高い
一方、後者のうち「診療報酬の情報の利活用」については、2018年度改定でも議題に上がった「レセプトへの郵便番号記載」が再び議論されました。医療提供体制の再構築等を考える上で、患者がどの地域から来院しているのか(2次医療圏内での来院なのか、圏外からの来院なのか、さらに、より遠方からの来院なのか)という情報は非常に重要です(すでにDPC制度では郵便番号を取得し、それをDPCデータとして国に提出することが求められている)。
この点、「住所地情報」(郵便番号)の重要性には中医協委員も疑問を示しませんが、実行可能性を問題視する意見が出ています。診療側の松本吉郎委員は「被保険者証(保険証)に住所・郵便番号が記載されれば、それを医療機関窓口で転記することは可能だが。記載がない場合、患者の申告をもとに記載しても不正確なデータとなるのではないか」と指摘。支払側の吉森委員は「いわゆるマイナンバーカードを被保険者証として活用すれば問題ないが、被保険者証への住所・郵便番号記載には大変な手間と費用がかかる」と述べており、実現に向けては、いくつものハードルがあるようです(関連記事はこちら)。
なお、「診療報酬事務の効率化」としては、▼届け出様式の重複解消▼算定ルールの明確化▼フリーテキスト入力事項の選択肢化―などを2020年度改定でも積極的に進めていく方向が確認されています(関連記事はこちら)。
DPCデータとNDB・介護DBの連結解析に向けた準備を進める
ところで、この5月(2019年5月)に成立した改正健康保険法等には、▼オンライン資格確認の導入▼NDB・介護DBの連結解析―などが盛り込まれています(関連記事はこちら)。
これに関連して7月17日の中医協総会では、次のような対応方針が固められました。
▽オンライン資格確認を実現するために「被保険者番号の個人単位化」(現在の被保険者番号に2桁の枝番を付して、世帯内の個人を識別する)が行われる。これに合わせて、レセプトについても所要の様式見直しを行う(枝番を記載する欄を設けるなど)
▽DPCデータについてもNDB・介護DBとの連結解析が可能となる。その際、▼カナ氏名▼生年月日▼性別―の3情報を鍵としたID(共通ID)によって、個々のデータの紐づけを行うことになる。DPC事務局から個々の病院に3情報による共通ID作成のためのソフトを提供し、それに基づいてDPCデータを作成する(個々の病院に大きな手間が生じるものではない)
NDB・介護DB・DPCデータの連結解析が可能となり、さらに現在、検討が進められている「新たな介護データCHASE」(介入や状態のデータベース)なども含めた解析が可能となれば、「より効果的な治療方法」「効果的な介護予防の取り組み」「効果のある介護手法」などが見つかる可能性が高まります。DPC制度は、それ自体で「診療行為の標準化」を進めるものですが、さらに出来高部分・介護部分にも「標準化」が徐々に広まっていくことが期待されます(関連記事はこちら)。
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