「1件当たり請求額が高額」な訪問看護ステーション等を個別指導対象として明示、悪質なステーションには抜き打ち監査を—厚労省
2025.4.16.(水)
一部に不適切な訪問看護を提供しているケースがあると考えられるため、厚生労働省本省・地方厚生(支)局・都道府県による【共同指導】の仕組みを新たに設ける—。
また、地方厚生(支)局・都道府県による【都道府県個別指導】について、「1件当たり請求額」(単価)が高いケースなどを対象とすることを明確化する—。
指導、さらに問題のある訪問看護ステーションに対する監査は、1週間から10日前に「事前の通知」を行ったうえで行うが、悪質なケースに対しては「抜き打ちの監査」を行う—。
厚生労働省は4月3日に通知▼「指定訪問看護事業者等の指導及び監査について」の一部改正について(保険局長通知)▼「指定訪問看護事業者等の指導及び監査の取扱いについて」の一部改正について(医療課長通知)—を発出し、こうした点を明確にしました)。
目次
広域展開する訪問看護ステーション等には国・県・厚生局による【共同指導】を実施
訪問看護は、▼医療・介護双方のニーズを有する要介護高齢者の自宅生活継続を可能とする▼がん末期患者などの「自宅で最期を過ごしたい」というニーズに対応する▼退院直後の不安定な状態の患者に対するサービスを提供することで、円滑な自宅復帰を支援する—などの極めて重要な役割を担っています。
このため診療報酬・介護報酬でも「重度者への対応」や「24時間365日対応」などに力を入れる訪問看護ステーションについて高い評価を行うなど、評価の充実が図られてきています(2024年度診療報酬改定に関する記事はこちら、24年度介護報酬改定に関する記事はこちら)。
評価の充実・利用者ニーズの増加を背景に、訪問看護ステーションの数や訪問看護の医療費は増えてきていますが、一部に「年間の請求額が極めて高い」「単価(1患者当たり請求額)が極めて高い」事業所があり、かつ急増している状況があります。「請求額が多い、単価が高い」=「悪い、不適切なサービス提供を行っている」わけではありません(大規模ステーションでは利用者が多く、請求額が大きくなる。重症者対応を積極的に行うステーションでは単価が高くなる)が、「不適切なサービスを行っている可能性」もあります。
そこで3月12日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で以下のような「訪問看護ステーションに対する指導・監督を強化する」方針を決定。今般、この決定を踏まえた通知改正が行われたものです。
(1)複数都道府県にわたって広域で運営されている訪問看護ステーションについて、より効果的な指導を実施するため、厚労省本省・地方厚生(支)局・都道府県による指導の仕組みを新設する
(2)例えば「高額な請求を行っている」など一定の基準に該当する指定訪問看護ステーションに対し「教育的な視点による指導機会」(選定基準)を設ける
この(1)(2)の方針に沿って、「個別指導」について次の2つに区分しています。
(a)地方厚生(支)局および都道府県が共同で行う【都道府県個別指導】
(b)厚生労働省ならびに地方厚生(支)局および都道府県が共同で、「特定の範囲の訪問看護ステーション」または「緊急性を要する場合など、共同で行う必要性が生じた訪問看護ステーション」について行う【共同指導】
この(b)の【共同指導】が(1)の新たな指導形態といえ、次のような考え方が示されました。
▽指導対象
・対象候補の中から厚働省・地方厚生(支)局・都道府県が協議のうえ選定を行う
▽選定基準
・同一指定訪問看護事業者に係る複数の都道府県に所在する訪問看護ステーション
・その他、特に共同指導が必要と認められる訪問看護ステーション
▽指導担当者
・地方厚生(支)局長が指名する事務官および非常勤の看護師、必要に応じて技官、非常勤の医師
・都道府県において適当と認める者
・厚労省保険局医療課の医療指導監査担当官
▽指導方法
・都道府県指導に準じる(指導通知を対象訪問看護ステーションに通知し、ステーションの管理者等に対して、「原則として指導月以前の連続した2か月分の訪問看護療養費請求書に基づき、関係書類等を閲覧し、面接懇談方式」で実施する)
県・厚生局による【個別指導】では、単価の高い訪問看護ステーション等も対象とする
また(2)では、(a)の【都道府県個別指導】について、対象事業所を「訪問看護療養費請求書の1件当たりの平均額が高い訪問看護ステーション(ただし、取扱件数の少ない訪問看護ステーションは除く)について、1件当たりの平均額が高い順に選定する」との規定が盛り込まれました。「単価の高い訪問看護ステーション」について、その背景、つまり「重度の利用者が多く単価が高くなっているのか?それとも、不適切に頻回な訪問を行い単価が高くなっているのか?」などをチェックするものと言えます。
この点について、医療課長通知では、次のような考え方も示しています。
▽指導対象となる「高額訪問看護ステーション」の選定は、「訪問看護療養費請求書の1件当たり平均額」(単価)に加えて、各都道府県で「当該都道府県の訪問看護ステーションの特性、療養費の実態」を勘案して行う
▽高額訪問看護ステーションの選定に用いる訪問看護療養費請求書1件当たり平均額の算出基礎となるデータは、「社会保険診療報酬支払基金および国民健康保険団体連合会からのデータ」による
また、【都道府県個別指導】の対象には、新たに「その他、特に都道府県個別指導が必要と認められる訪問看護ステーション」が追加され、医療課長通知では、具体例として次のようなケースを掲げました。
▽過去に取り消し処分を受け、その後に再指定を受けた訪問看護ステーション
▽検察・警察からの情報により指導の必要性が生じた訪問看護ステーション
▽保険医療機関・他の訪問看護ステーションの個別指導・監査に関連して、指導の必要性が生じた訪問看護ステーション
▽会計検査院の実地検査の結果、指導の必要性が生じた訪問看護ステーション
悪質な訪問看護ステーションに対しては、事前通知せず「抜き打ち監査」を実施
さらに、今般の改正通知では、次のような点も明示されました。
▽訪問看護療養費の返還
▼地方厚生(支)局・都道府県は、個別指導で訪問看護の内容・請求に関して不当な事項を確認したときは、訪問看護ステーションに対し事実確認を行ったうえで「自主点検」を求め、指摘事項と同様なものが確認された場合には、指摘分とあわせて「自主返還」を求める
▼「自主返還」の期間は、原則して「指導月前1年以上」とする
▼「自主返還」は、保険者に対して事業者名・返還金額などを通知し、保険者から審査支払機関に「当該訪問看護ステーションに支払う療養費等から変換金額を控除する」よう連絡させる方法で行う(これが難しい場合には直接返還させる)
▽指導・監査の実施通知
▼指導・監査の実施に当たっては、実施日の「概ね1週間から10日前」に通知する
▼特に悪質な訪問看護ステーションに対する監査にあたっては、必要に応じて「当日に通知を持参」する(つまり事前通知せず抜き打ちで監査を行う)
【関連記事】
訪問看護ステーション、「年間請求額が高額・1件当たり請求額が高額」等のケースではサービス内容確認等のため指導等実施へ—中医協総会(1)
訪問看護の日数・回数等は利用者や家族等の状況に即して個別検討せよ、一律に上限回数まで訪問することなどは認められない—厚労省
【2024年度診療報酬改定答申15】重症患者対応に積極的な訪問看護ステーションの評価アップ、逆に消極的な事業所は評価ダウン
【2024年度介護報酬改定1】訪問看護について「専門性の高い看護師による計画的な管理」や「歯科医療機関との連携」を新加算で評価